03話 『閃光VS潜口』
――生き物、とりわけ野生に巣食うそいつらは、追い詰められると、予想もつかないような手段を使ってくる。
必殺技とも呼べるそれで、捕まえたり、逃げたり、トドメを刺したり……。
眠たくなるようなドキュメンタリーで、いつか観たことがあった。
そんなことを、思い出していた。
「―――え。 …………あれ?」
気づけば、ワームが忽然と姿を消していた。
恐怖に気を取られた隙に綺麗さっぱり。 否、不気味に影と形が消失した。
パッと、急にいなくなったのではない……はずなのに。 もうそこにいない。
微かに残る砂の浅瀬の揺らぎだけが、奴らの行方を知っている。
残る三体のワーム全てが、飛び散った肉の一部と、既に乾き、すえた臭いを漂わす凝固した血塊を残して、体を完全に砂の中へと潜り込ませたのだ。
漣のように流れる砂の上澄もやがて凪、気配すらも掻き消える。
ついに逃げたか…………。 などと思えるわけがない。
連中……、今度はなにをするつもりだ……?
「―――っ!!」
バチン! とスイッチが切り替わったかのよう。
馬車から数十メートル離れた砂上に佇んでいたジュリアスが、弾けるように飛び退った。
それは、攻撃を叩き込むための前進、標的の追駆を目的とした跳躍、常に前へ先へと挑み続けた彼が初めて見せる、避けることのみに全力を注いだ緊急回避だった。
それとほぼ同時。
ぼぐん……!! と、底の抜けた轟音と共に、さっきまで彼が立っていた場所、地面が陥没した。
続けとばかり、ぽっかり空いた地の底からサンドワームの血みどろの頭部が突き出してくる。
イルカショーの垂直跳びのごとき鮮やかさ、獲物である少年を丸呑みにするため天高く飛び出したその高度は、地上四階分ほどはあろうか。
どれだけの敵意を純粋な力へと還元させた芸当なのだろう、これでも全身の露出には至らず、未だ地下に下半を残している。
飛び出してきたサンドワームが直立を保ちながら一瞬みじろぐ。
何もなかった真っさらな砂漠、そこに今、突如として血みどろの塔が聳え立っていた。
そいつは獲物を取り逃したことを確認したのかバックで穴の中へ引っ込んでいくと、空洞はすぐ流砂で埋まり、砂丘はなにもなかったかのように元へと戻っていく。
「――――――」
馬車内に沈黙や絶句を超えたなにかが立ち籠め、あまりのことに全てが静止する。
目の前に圧倒的な死があった。
汗を拭うような仕草をするジュリアス、そのはっきりとした両の眼が驚嘆に見開かれ――瞬時に駆け出した。
立ち止まる暇はないとばかりに。
ごぼんっ――ばごんっ――ずごんっ――
三体のサンドワームが立てる一糸乱れぬ激流により、茶色の辺り一帯がまるで水面の如く激しく、波打つように上下する。
地響きが馬車の内部まで叩き揺らし、ホーガンと俺、大の男二人が抵抗虚しく転げ回った。
馬は無事だろうか……、無理だろうな……。
何かの角に肋を打ちながら、それだけが気がかりだった。
ジュリアスは立ち止まらずに走り続けているが、ワーム達はまるで、正確な位置を座標レベルまで特定し、さらにその数歩先を予測でもしているかのような異質な一体感で少年を追い詰めていく。
やがてその領域が狭まっていき、地面の表裏を縫うその不規則な奔流に、遂にジュリアスが捉えられた。
正面に飛び出してきた巨大な顎を間一髪で回避する。 が、その避けざま、天地を構わず死角から迫り来た別の個体から繰り出される破壊的なぶちかましに、細い体が触れる。
直撃というには心許ないが、それでも確実な接触だった。
ジュリアスは寸隠、樋を当てがう。
命中をずらすことで衝撃を去なそうと試みたのだろう、だが、やはり威力を完全に殺すことはできず、彼は揺れる陽炎の向こうまで吹き飛んでいった。
二転、三転と柔らかい砂に受け身を任せ、がばっ、と立ち上がってみせる……が、端正で可愛らしい鼻からは一筋の血が流れていく。
俺に流れるものと同じ、赤い血が。
「まだまだ……、負けないぞ」
ぬぐい、闘志衰えず光の剣を構えるが。
その周りはすでに再び完成されたうねりに包囲されている。 まだ次が来る。
確実に命を刈り取るまで、何度も――何度も――何度も。
「あわわ…………」
なんて情けないのだろう。
抗えないほどの揺れから解放され、荒れた荷台で起き上がった俺の心に最初に浮かんだ感情だった。
つくづく思い知らされる、自分がなんにも持っていないということを。
もし何かの間違いか運命の悪戯で、自分の身に非日常が降りかかってきたのなら。
それがどんなに痛かろうが、辛かろうが、ばかばかしかろうが、曲がり角で女の子とぶつかってしまうトラブルだろうが。
そんな……、非日常が降りかかってきたのなら。
きっとその時は俺だって――あの主人公たちのように立ち向かっていけると、そう信じていた。
けれどどうだ……。
実際に生死の狭間に放り込まれたら、このザマ。
立ち向かうどころか震えて立ち上がれさえしない。
命の恩人が血を流しながも戦い続け、弱っていくのをただ眺めていることしかできない。
「あ、ああ……、う、ぐ、うう…………」
俺が一つ呻き声を上げる間に、ジュリアスの頬に浅い傷がつき、ワームの動きは協心戮力、加速度を増していく。
この轟音が止み砂漠に静寂が戻ること、それ即ち、なにを意味することになるのだろう。
怖い。
シンプルなたった一つの感情が鎖のように心と体を縛り上げている。
不快だ。
でもそれ以上に、このままなにもできないのは――嫌だ。
嫌なのに……、体が言うことを聞かない。
「なにか。 なにかないのか…………」
なんでもやろうと思えばできたはずなのに。
明日とか、いつかとか。 そんなのはもう言い飽きてるのに。
俺はどうすればいい。 ジュリアスの為になにを差し出せる。
涙を流している、ガタガタ震えている、立ち上がれないでいる、違う世界からやってきた。
そんな俺に――なにができる?
「おいおい……」
「――え」
「え。 じゃねえ、ばかやろう。
なんてツラしてやがんだ、しっかりしろ」
「あ……、は、はい。 そう……ですよね」
目の前にはホーガンがいた。
先ほど転げ回ったときになにかでザックリ切ってしまったのか、額からどくどくと血を流している。
ジュリアスや俺と同じ、赤い血を。
大量の汗に混じって流された鮮血が顔中に広がっていて、そのせいか、実際の傷の深さよりも遥かに痛々しく見えた。
「こうなっちまったら……、しょうがねぇやな。
なあジュリアス、それでいいんだったよな」
ホーガンが静かに言葉を吐いた。
割れた傷口からボタボタと迸る血飛沫が無造作に落下し、荷台の床板を染めていく。
「…………っ。
その傷……、す、すぐに血、血を止めないと……!」
「これぐれえどうだっていい、ほっときゃ治る。
それよりおれたちも早く―――」
ホーガンは口を噤むと、伏せ目がちに動きだす。
向かう先は…………え、御者台?
その手はのばされ、死の危機を空気から敏感に察してかずっと今まで大人しく佇んでいた馬の首に、ぽすりと触れる。
あ、よ、よかった、こいつらも無事だったんだな。
ところで、だ。
「ちょ、ちょちょ、待ってください! なにを?」
「…………逃げるぞ」
「あ……、わ、わかりました。 じゃあジュリアスも早く―――」
「あいつは置いていく」
狼狽える俺に、ホーガンは広い背中を向けたままそう言い放った。
続けざま、
「おれたちがすべきこと、それはジュリアスが少しでも時間を稼いでいる間に逃げ延びて、生き延びて、起こったことをありのまま伝える、それだ。
すぐにでもこの先の街の護りは固められ、被害の拡大は防がれる。
安全が確認できたあとは商隊や旅人のために駆除の依頼が出されるだろう。ここは王国と砂漠の向こうを繋ぐ数少ない道のひとつ、そこに手負の砂竜だ、放置はできないと判断されれば……そうなりゃ誰か、奴らを倒せる戦力が動いてくれるはず。
ことがことだ、ひょっとしたら国が動いてくれるかもしれん。
そいつらがきっと仇も討ってくれる。
…………急ぐぞ、ユウスケ」
背を向けたまま、御者であるホーガンはスラスラとそんな説明をした。
言ってる意味は……、理屈はわかった。
ただ、納得ができない。
「なんで。 本気ですか……? どうしてそんな―――」
非情なことが。
そう繋げようとして気づいた。
ホーガンが、唇を噛み締めている。
そのあまりの力強さに唇が裂け、新たに出血してしまうほどに、そして――
「―――うるせえなあ、そういう約束なんだよ!
最初にアイツが提案してきたことだ!
タダで護衛を引き受けてやる、その代わりできるだけ不安定なルートで進んでほしい、道中の面倒ごとは全部自分がかたずけてやるから……ってなあ!
腕試しがしたかったんだとよ!!
意味わかんねえだろ?! ふざけたこと抜かすガキだと思ったさ、何度も追い返してやった!!
だがさっきも見たろ? あんなんでしつこく来やがるんだ。
終いにゃ、てめぇを一番に守れと。 少しでもあぶねえって判断したなら自分を置いて逃げてくれて構わねえなんて言うもんだから……、なぜだか、嘘ついてるようにも見えなくってなあ。
なんかしようってんなら逆にとっちめてやろうって、最後はもう、騙されたと思ってのせることにしたんだ。
こんなおれにも嫁と小せえガキがいる、いざとなりゃあ、頭のおかしいアホ一人見殺しにするぐらい屁でもねえ」
「………………」
「……でもよ、結局できなかった。
ずっと見ていたくなっちまった。
強えんだよ、ジュリアスの野郎。
あんな楽しそうに戦いやがってよ。
なんだかんだで勝ちやがってよぉ……。
目が離せなくなって、気づけばおれまでこんなとこまで来ちまった」
「……ホーガンさん」
「だが、もう無理だ。 さすがにアレは手に負えねえ。
もう積み荷を放る程度じゃ奴らの気は引けねえ……、終わりだよ、打つ手なし。
なんの力もないおれらじゃできることはないんだよ。
だから、討伐隊でもなんでもいい、あの化け物どもがいるここ、ここに……、呼びつけてやるんだ。
ほら、いくぞ。 わかったらさっさとこの手をはなせ。
おまえだってせっかく拾った命なんだ、生きて家に帰りてえだろ。
そこまではおれも責任取るぜ、帰してやるよ。
それともなんだ? やっぱりいまここで死にてえか?
だったらもう、好きにしろ…………」
浮かぶ涙をごまかすこともせず、ホーガンは疲れ切った顔でこちらを睨めつける。
瞳はひどく色褪せていた、溢れすぎて、まるで感情の読み取れない、それは必死になにかを押し殺している人間の目だった。
うっ、と心臓のあたりが軋む。
……そうだ、本心なんかであるはずがない。
ほんの名乗りあって数分も経ってないそんな俺ですら、最大限の親しみを感じてしまうあの少年、彼とずっと旅を続けてきたこの人が。
ついさっきまで表情を輝かせ真摯に応援を送っていたこの人が、一番辛いに違いないのに。
それでも己のやるべきことを考え抜いた上での選択。
それがこの人なりの責任の取り方。
――戦場へ視線を向けた。
光の盾を背負いながらジュリアスが走っている。
予測できない地面の陥没が幾たびかはじまる。
そこでは、少年がたった一人で戦い続けていた。
自分が今立っている場所がいつ抜け落ち、呑み込まれ、切り刻まれるかわからない。
そんな恐怖に晒されながら、いったいどんな精神力があればそれでも他人のために戦い続けられるのだろう。
ここまでしてもらうほどのことを、俺は彼に何か返せたか?
いや、もらってばかりだ、この命すら。
ここまでしてもらえるほど、俺は前世で徳を積んだか?
いいや、親より先に死んだ世界一の不孝ものだ。
ほんとだったら、問答無用で地獄行きでもおかしくなかったのだ。
だというのに、なぜだ、俺はこの世界にいる。
座り込んだまま、なにもできぬまま、こうしてここに生きている。
「………………」
ジュリアスの強さ、優しさは、彼という人の純粋な魅力なのかもしれない。
できるできないは問題にせず、弱きを助け、強きを挫く。
まるで……、あんなに憧れた主人公そのものじゃないか。
そんな彼を今、ここで見捨てるのか?
自問自答が加速していく。
そして情けなくもフリーズし続けていた思考が、たった一つの答え、俺の願望を示す。
答えは――NOだ。
できない。
ごめんホーガンさん、できないよ。
例えそれで全てが丸く収まるのだとしても、少ない犠牲で済むのだとしても、俺はまだ、そこまで考えられるほど大人になれない。納得できない。
弱い俺のことだ、ジュリアスという犠牲をきっとこの先ずっと引きずるに違いない、何をしてても忘れられなくなる、そんなシリアスなファンタジーは丁寧に願い下げだ。
そうさ、これはただのエゴだ。
青臭い夢を、俺がまだ見ていたいんだ。
なので! 独りよがりを押し通させてもらおう。
せっかくこんなところに送ってもらって、やるだけやろうと決めたんだから。
――魔法があって。
――化け物がいて。
――超能力があって。
――憧れた存在、主人公がいる。
そんな世界に、出会えたのだから。
「……やってやろうじゃないのよさ」
「―――なに?」
……さて。
そうなれば、ホーガンの決意を否定するのなら、こっちも提示しなければならない、その覚悟を覆すほどの策を。
サンドワームというモンスターを、まとめてぶっ潰す方法を。
この頭で、自ら。
「俺に策があります」
戦場を一瞥しその機をうかがうホーガン、言葉は当然のように無視された。
手綱を握ろうとするその腕をさらに掴んで引き止める、厚く太い腕だ、この力強そうな筋肉でも、ワームを相手にしてしまえば悲しいかな、俺の生っ白いへなちょこな腕と均しいまでに無力になってしまう。
振り返ったホーガンの双眸、切羽詰まった心中が顕になる。
「ここで逃げたら、一生後悔することになりますよ」
まずはそんな話し方をした。
どんな言い方をすれば相手と上手く分かり合えるのか、俺はそういった術のようなものに明るくない。
そのせいで妹とは常に大小些細な小競り合いが絶えなかった。
かといって、原稿用紙に向かってセリフをじっくり考える暇もない。
とにかくこの人の気を変える、納得させる。
少しでも俺の方向へ、まずはそれだけを――
「……っ、おまえ―――」
「後悔どころじゃない! 取り返しのつかないことになるかも!!」
ぎりっ、と眼力鋭く口を開きかけたホーガンに、畳み掛けるように被せていく。
だめだ、口論をしている時間はない。
脳みそのフル稼働と同時に、舌を回転させる。
『ワーム打倒の計画』と『ホーガンさんを説得』、「両方」やらなくちゃがなんとやらだ!
「いいですか、ジュリアスは今戦ってる、今苦戦している、このまま何も手を打たなければほぼ確実に敗れる。
あなたはそう判断した、だから逃げようとしてるんでしょう?」
「ああ! そうだっつってんだろが!!」
「二人で決めたルールがあるから。
それがまるっきり間違ってるなんて言うつもりはありません!
そもそも口を挟む資格すら、俺には……っ。
でも…………!」
ホーガンが振り解こうと腕に力を込めるが、俺も離さない、離させはしない。
「でも、考えてみてください。
このあと数分か、数秒か……、ジュリアスがどれだけ時間を稼げたとして、彼が負けたあと、あの化け物共は次にどう動きますか……?
逃げていった俺たちをぼけっと見送りながら、呑気に食後の昼寝でもしてくれるでしょうか。
討伐隊とやらがここにやってくるまで?
いいや断言できます、それだけはない」
控えめな抵抗がおさまり、居場所をなくしたようなその褐色の腕が宙を彷徨う。
「見るからに経験豊富な運び屋であるあなたが見たこともないほど、奴らは凶暴化してしまっている、ジュリアスに、人間に嫌というほど傷をつけられたおかげで。
あの激しい攻撃が収まることは、まずない」
そこにはきっと、感情と呼べるものが介在する余地もない。
最大限に効率化された兵器のように、サンドワームの群れは人間を自動追尾し始めてしまうだろう。
ダラダラと溢れる汗を拭う時間すらも惜しい、俺は続ける。
「次の狙いを俺たちに定め真っ先に真っ直ぐに追ってくる可能性が高い、俺たちは抵抗できずに丸呑みにされ苦しみを感じることなく即死、それだけで済めばまだいい方です」
「…………なに?」
「その次、俺たちを丸呑みにした後、奴らはどう動きますか?
答えは――そのまま襲いに行く。 この先にあるっていう人間の街を……。
俺は行ったことないですから、わからないですけど、もう…………街は近いんでしょう?
そこまで辿り着いてしまったら。
そうなったら最後、もうおしまいなんじゃないですか?
あのブサイクなイモムシ野郎の怒りが収まるまで、蹂躙しつくされてしまう」
ほとんどなんの反応も示さなくなったホーガンだったが、なぜだか不思議と、しっかり言葉と気持ちをたしかに伝えられていると……、そんな感触が確かにあった。
「猛り狂ったサンドワームの群れ、さっき教えてくれましたよね、手負いの奴らはことだって。 そんな化け物を街の人たちが準備もできず、援軍も呼べずに迎え撃つことになれば、きっと山ほど犠牲が出ます。
奴らを止められる戦力が到着する頃にはもう、街は破壊され尽くしている。
その可能性は、考えられないでしょうか」
「だが……しかし―――」
これまで得た情報と、このひどい状況から導き出した、ただの仮説だった。
それでも、十分にあり得る事態だと判断したのだろう、ホーガンの真っ赤な顔から血の気が引いていく。
……もう一押し、もう一押しはしたい。
「そうはさせないために、ここで仕留めきる必要があると俺は思います!
幸運なことに俺たちには、ジュリアスにはその力がある。
散々見せつけられたんでしょう、俺よりもたくさん見てきたんでしょう? あの強さを。
勝てる見込みはあります、もちろん、このままじゃ無理でしょうが。
ただ一つ足りなていないのは彼への援護。
まずは奴らの連携を断つことです。
たった一人の標的であるジュリアスからその憎悪を少しでも逸らせる別の何か…………。
「…………」
「積み荷を放り投げる程度では、もう無理そうなんですよね?」
考え込むように視線を落としながらも、確信をもってホーガンは頷いた。
「…………あれだけ。
あんなに激しく動き回ってるジュリアスから意識を引っぺがすってんだろ?
なら当然、それ以上の衝撃がいるだろうな。
おれたちがここでこうしてひそひそ話してるぐらいじゃまったく相手にされねえところを見るに、それこそジュリアスみてえに戦うか、あるいは―――」
それを聞いて、俺の中で一つの答えに収束した。
上手くいくという確信もある。
問題も大アリではあるけれど。
「なら、だったら…………………………例えば―――」
ジュリアスは、命を懸けて守ってくれている。
だから――次は俺の番なのだ。
そう、砂竜をぶっ潰す方法とはつまり。
「俺が囮になって奴らの注意をひ、引いてみる……っ、とか⁈」
自分で言っていて、まるでわけがわからなかった。
単純明快。間隙の安全地帯であるこの馬車から飛び出して行って、馬鹿みたいに叫びながらダンスの一つでも踊り狂えば、確実に奴らの気をジュリアスから逸らすことができるだろう。
だがそれは、俺が今からあの地獄の渦中に足を踏み入れるということであって。
それとたぶん、いや確実に、死んでしまうということでもあって…………。
「へ、……ハハ」
そりゃ、笑えてもくるというものだった。
え、まじ、本気で言ってんのか?
どうかしてる――ではない、ちがうだろ。
やってやるんだ、そうだろう。
二秒ぐらいは稼げるだろうか。
いや、稼いでみせるよ。
なぁ……ジュリアス。
「そうか……。 なるほどな……」
そう、ホーガンが重い沈黙を破った直後だった。
ごごごごごごごごごおおおおおぉぉぉぉぉっっっ。と、深く重い地響きが伝わってくる。
サンドワームの旋流は未だ激しい。それは無尽蔵に近い体力の証明だった。
そんな化け物を相手に、もうもうと巻き上がる砂塵の奥で彼は今も戦っている。
……そうだ、自分を貫くためにはこれしかない、俺がたてた計画は、俺が遂行するしかない。
痛いのも嫌だ、死にたくもない。
でも、今自分が動けば確実に変えられるものが、目の前にある。
ならやろうじゃないか。
やってやろうじゃないのよさ!
この決意が、ツルツルの脳みそといっしょに茹で上がってしまう前に。
「……囮。 ―――っ、そうかそれだ!!」
覚悟が決まりかけたような直後に、ホーガンが力強い得心の声を張り上げた。
次いで、馬を置いて御者台から荷台へ引き返してくれたじゃないか。
「ホーガンさん……っ!」
思わず静かに歓喜する。
本気の説得だったからこそ、納得してもらえたのが本当に嬉しかった。
その喜びにもうひとつ、俺を後押しする事実。
それは言葉の節々に垣間見える存在。
ホーガンさんの家族のことだ。 奥さんに、幼いお子さん。
かけがえのない、俺にはもう無いもの。
失うことは怖い、当然だ。
なら、失うもののない俺に恐怖がないのもまた、当然!
やはり俺がやるしかない。
「―――っ、く、うおお!!」
足が重くなる前に、行くしかない。
荷台のヘリに足をかけ、ジュリアスのようにはいかない、不恰好な姿勢で飛び出す、着地でぐきりと足を挫かないことだけを祈って――
「んぎっ⁈」
ぐいいっ、と襟を掴まれ、陽の下に晒しかけた体が引き戻された。
カエルのように、またも荷台にひっくり返る。
いや、ふざけてないから、本当に。
張本人、見下ろしてくるホーガンの複雑そうな表情には、やけに迫力があった。
「早まるなよバカタレ、囮だろ……、いい作戦だ、乗ってやるよ」
「あ、はい、ありがとうございます……、なので俺が今から……」
「最後まで聞けい、おまえが、もしくはおれが、そうやって飛び出して行ったとして、足手纏いにしかならねえ。
あいつは今何のために戦ってる?
ユウスケ、おまえが聞いたんだろ? 守るためさ、こんなおれらをな。
派手にドンパチ暴れ回って、おまえが言ったように奴らの気を引いて、あいつはおれらを庇いながら戦ってるんだ。
それを無駄にして飛び出すのはよお、違えんじゃあねえのか?
おまえのそれは勇気なんかじゃねえ、捨て鉢になってるだけだ。
そうだろ? ユウスケ、落ち着けよ。
そういうのは逆に寿命を縮めるだけだぜ、全員のな」
「………………ぁい、すんません」
ぐぅの音もでない。
「……謝んなよ、そんなのが欲しいわけじゃねえ。
お前の気持ちは伝わった、わざわざあんな化け物なんぞに命をくれてやる必要はねえよ、……もったいねえ。
それに、むしろ感謝したいくらいなんだぜ、こっちはよ」
バツが悪いのと、どこか照れたような視線を隠しながら、決死の覚悟が中途半端に立ち消え、へたり込んでしまった俺にまた、教授するように語りだす。
その口調からは、先程までの悔恨に似た感傷は消え失せている。
「感謝って……なにがです? 結局俺はなにも……」
「策をくれたろ? 囮作戦っていう立派なのをよ!」
イマイチ要領を得られていない俺の肩を、ホーガンが控えめに小突いた。
それから砂埃の舞う彼方に一瞥だけくれると、再びその表情に緊張を走らせ言う、
「囮を使うっていうアイデア自体にはおれぁ大賛成だ――が、問題はあるな?
誰も犠牲になんてなっちゃいけねえんだ。
おれに、おまえに、そしてジュリアス、全員無事でなきゃあ意味がねえ」
「馬と馬車も、でしょ?」
「ああ! そうだ、そのとおりだ!」
なるほど……、ようやくホーガンが考えていることが理解できた。
「つまりその問題は――なにを囮にするか」
そう俺は呟いて……、口を噤む。
これは確かに、難しい。 わからない。
誰も、なにも犠牲にはせず、サンドワームの気を引く。
馬車の嘶きや、大立ち回りよりも大きな衝撃を、俺のダンス以外で発生させると?
そんなものが他にあるのか……?
「ま、もうその囮には当てがあるんだがな」
「―――へ?」
は⁈ あるの⁈
ちょ、そういうことは先に言ってよ!
こちとらだいぶ覚悟決まってたんですけど!!
と、驚嘆に見開かれた俺の双眸をみやり、くつくつと笑むホーガン。
「おいおい、男の覚悟を邪魔するんだ、それなりの理由があるに決まってんだろうがよお、ええ? おい」
「も、もっと早く言ってくださいよ……そういうのは」
「バカヤロぉ、おめえが勝手に先走ったんだろうが」
可笑しくて仕方がないとでも言いたげに口元を抑えながら、ホーガンは再び御者台の方向へ向かい、そしてなにかを――引きちぎった。
吊り下げられていたそれを宝物のように胸に抱き、すぐさま踵を返し俺の目の前へ。
ホーガンが持ってきた囮となるもの、
「これは……?」
「魔鉱灯だ、これでいけるぜ」
「まこう……とう」
それは先ほど……と言っても、遥か遠い昔に感じる、まだサンドワームがその姿を現す直前、馬車を停止させるためホーガンに迫るジュリアスが引っ張っていた――ランプにも似た道具。
「これを叩き壊せばかなりの音が―――」
ホーガンが不適な笑みと共に魔鉱灯を握りしめた時だった、
「ぐぅ……っ! そ――りぁあああ!!」
その気迫に満ちた雄叫びに、思わず俺たちは振り返る。
ジュリアスは二本の触手による同時攻撃に光の盾を粉砕されながら、ダメージ覚悟の斬撃でまさに迎え撃つところだった。
相手の手数が多い上に、俺たちというお荷物を背負いながらの攻防、穴だらけの戦場を掻い潜るように駆け一撃を見舞うスタイルから、カウンターを狙う戦法に切り替えたようだった……が。
その姿は、俺の目から見ても明らかに劣勢を強いられていた。
空間を埋め尽くし飛来してくるホーミングレーザーのような触手攻撃、その一つ一つに対応できておらず、返す刃に対し数え切れない鞭打を被弾している。
致命的な一撃を貰っていないのが奇跡と呼べる状態だ。
――時間がない!
「ホーガンさん!」
「わかってる! わかってんだが……っ」
魔鉱灯を握りしめたままたじろいでいるその姿に、俺は苛立ちを隠さず、
「なにやってんです! 早くそれで奴らの妨害を――っ!!」
と怒鳴りに近い催促をすると、一点してホーガンが弱々しく項垂れた。
「問題は……まだある、それはこの魔鉱灯をどうやってワームの気を引く場所まで持ってくかってことだ。
ぶん投げるのが一番いいんだろうが、この歳になると肩が上がらんでなあ…………」
「―――は?」
なんだ、そういうことか。
それだったらやはり、もう問題はない。
「任せてください、俺が投げます」
「―――なんだと?」
計らずしも意趣返しのような問答をして、俺はホーガンから魔鉱灯を受け取ろうとする、が――
「おいおい無理すんな、お前みたいな子供が無茶するもんじゃねえ、遠くに投げなきゃ意味ねえんだって、わかるだろ?」
「子供って……、俺十八歳ですよ? だいぶ大人な方だと思いますけど」
「十八⁈ おい冗談だろ! 下の毛も生えて無さそうなツラじゃねえか!」
「ちょっ、俺のこといくつに見えてます⁈」
「体だってこんな細っっっせぇじゃねえか、パチこいてんだろ⁈ 失敗できねえってわかってるか?
見栄張る必要ねえんだよお!」
「それはあんたの恰幅が良すぎるだけだろ! いいから任せてください!」
――と遂に魔鉱灯を引ったくって手中に収めた俺に、尚もホーガンは不安そうな瞳を向ける。
「わかってるな、遠くだ、遠くに投げるんだぞ」
「大丈夫です、心得はあります」
といっても、小さい頃にした親父とのキャッチボールだけどね。
ふと振り返っただけだった、なんてことない思い出、こんな時だというのに、思わず笑みが溢れた。
テレビゲームの方がやりたい。 なんて不貞腐れながら過ぎていたあの日も、意味はあったのだ。
力を込めて握りしめる。
手繰り寄せた蜘蛛の糸を、決して離さないように。
視界の先、立ち上る砂煙の中心にいる彼の存在を確かに感じる。
その光に群がる気色の悪い怪物の姿もまた、しっかりこの目で見えている。 馬車の左側前方、距離にして五十メートル程はあろうか。 いける。
もう、なにも迷いはない。
おおきく振りかぶって、投げた――
ジュリアスを呑み込もうと猛り狂うその冷酷なサークルのやや外れ、砂に着地した魔鉱灯は、その形を保ったまま埋もれはせず――
パリン! と派手な音をたてた。 割れたガラスの内より弾けたカラフルな鉱石の反応により、バチッとわかりやすく小さな爆発が発生する。
それはワームが織りなす地震に比べれば、まるで遠く及ばない、雀の涙ほどの振動にも見えた。
一瞬よぎる作戦の失敗、計画の破綻。
だが杞憂だった。
俺たちのこの決死の一撃は、投げた本人が一番びっくりするほど、絶大な効果を発揮する。
ピタリ、とうねりが止んだ。
呼吸を意識させるほどの静寂が訪れる――
次に起こることを、俺たちはもう知っていた。
砕け散ってからしばらく、バチバチと燃え滓のような残光を撒き散らしていた魔鉱灯の骸、それが四方の砂丘ごと消滅、大地がくり抜かれ、
そして――来た!
ボゴォンッ、と。 爆発的な地響きをまとい、上へ上へと躍りあがるサンドワーム。
呑まれたのは魔鉱灯の破片と砂のみ。
あらぬ地点に飛び出してきたワームの頭に目を見張ったジュリアス。 そのくりっとした瞳がこちらに向けられる。 興奮で過剰に分泌された脳内物質のせいだろうか、そんな彼とやけに長く見つめ合えた気がして、
――ニコリ。
俺たちの希望の口元にちょこざいな笑顔が帰ってきて――確信する、俺たちの作戦が通用した瞬間だった。
無防備に起立したワーム、訪れる一瞬の硬直、その隙だらけな有り様自体は、これまで幾度も晒してはいた。
しかしジュリアスは回避に全力を注いでしまって、尚且つ他二匹の追撃、奇襲も意識しなければいけない状況では、反撃に転じようもなかった――今までは。
瞬時にして意図を汲み取ったジュリアスの十二分の余力が込められた追躡、光の盾が背中から掌まで、肘を滑るように中継されるその間に、丸みを帯びたその形状が、細長ーく変質する、今度のそれは彼の背丈をゆうに超える長大な槍。
地を蹴り、天を仰いだまま硬直するワームの堅殻にずぶりと突き刺し、切り裂きながら体表を駆け上がっていく。
「おりゃああああ!」
腹か背かなどもはやどうでもいいことだった、見事なワームの開きができあがる。
てっぺんまでたどりつくと、唇を蹴ってジュリアスはさらに上昇、ふぉんっ、とお天道様の下へお披露目するように光槍をひと廻し。
溜めて、溜めて――穿つ!
直下を目掛け、開けっ放しの口からワームの胴体を串刺しにした。
ブモ〜、と空気が抜けたような音を立てて、悶えながら汚泥の倒立が崩れ落ちる。
難戦を耐え凌いで全ての作戦が結実し、ここにやっと三体目が崩れ去った。
「や、やった……」
成し遂げた手のひらが熱い。
心の奥、心臓の鼓動からくる歓喜の震えが全身を襲っていた。
俺たちも、やっと貢献できたのだ……。
なんだか堪らなくなってホーガンを見る、その頬辺にらわかりやすく血と汗を押し分けるような涙が走っていた。
連携を突き崩され、ペタペタと地表に這い出てくる残された二体のワームのその挙動は一体、どのような魂胆を示しているのだろう。
ただ一つだけ明確なのは、奴らはまだそこに存在しているということ。
逃げもせず、隠れもしない。
奴らはまだ、己の捕食者たる立場を疑っていないのだ。
その最たる証明として二体の砂竜は、もう幾度目かの潜航を開始する、単純に数が減ったというのに砂丘の胎動は弱まるどころか、さらに激しさを増していく。
ジュリアスはもう避け回ることそればかりか、身じろぐことすらやめていた。
言葉も合図もなくたって、その佇まいからは「タイミングは任せたよ」と、言わんばかりの信頼が伝わってくる。
ここまできたら、死ぬときは一緒だ。
それは逃走という選択を捨てた瞬間から決まっていたこと。
「ほれ、もう一発だ!」
「…………はいっ」
ホーガンがすかさず崩壊した積荷の中からもう一つの魔鉱灯を発掘して渡してきた。
スペアかなにかだろう。
目前では、対のワームの織りなすあまりにも激しすぎる狂濤により、視界一面に無数の渦巻きが発生していた。 その光景に畏怖と、どこか儚いような、相反する感服が押し寄せる。
なんの偶然が重なった訳でも天災が降りかかっているのでもない、ただの命が、肉体を根源としてこの圧巻の足掻きを紡いでいる。
――その時が近い。
「もうこんなことさっさと終わらせよう。
終わらせて……次を始めたいんだよ」
ドクドクと、激しい鼓動がこめかみやら首筋やら心臓やら、あらゆる場所から響いてくる。
緊張もあるが、それだけじゃない。
これは決意だ。 前世でついに知ることができなかった、本物の勇気だ。
血管を巡り全身へ伝播されている。
握っている次弾の魔鉱灯をこの場で潰してしまう勢いだった。
ズゴゴゴォォ……と、生きた地響きが足元を渦巻いているのを感じる。
次第に、限度を逸する砂の澎湃が決壊し、地平が隆起しはじめる。
絶好のタイミング、位置が迫ってきていた。
竜の名を冠する怪物を屠るための唯一にして最大の策、失敗は許されない。
「もっぱつかましたれユウスケ! おれのぶんまでなあ!」
「もちろん!」
猛り叫ぶホーガンへ――応えた。
魔鉱灯を軽く握りもう一度、最後の一回であってくれと願いながら俺は構える。
激しく移り変わる砂の起伏、その中に潜むワームの現在地を目測。 一番奴らの気を引けて、尚且つジュリアスの速攻の最大限を確実に活かせる地点へ叩き込む。
いろいろ計算しなければならず、答えを導き出した上で、寸分違わず投げ込まなければならない。
そんな、一発勝負の命懸けを前にして、俺の中に恐怖はもうなかった。
無くしたものを数えたからじゃない。
自分の足で歩いていきたい明日があるからだ。
必死に戦う少年がいる。
彼は今、何を思っているのだろう。
背けたくなるほどに、傷つきながら。
すぐそこに、今ここに在る、その姿から目が離せない。
どんなに伏せても、眩しすぎる光。
「――ありがとう」
口をついて出た言葉が答えだった。
昔も今も、俺は変わらない。
だからきっと、深い考えなんていらなかった。
生きるには、死ぬ前に、やり始めなければならなかった。
ただそれだけのことだった。
自分が嫌いだと思うことなんて、死ぬほどあった。
本当に死んでしまうほどにたくさん。
それでも――いつかこんな自分を、胸を張って大好きだと言えるようになりたかった。
こんなに醜く、脆くて、無駄な人生を、胸を張って愛せるようになりたかったから。
少しだけ、わかった気がする。
涼悠介。
あまったれなコイツが、この世界へやってきたことに、何か理由があるんだとすれば、それはきっと――
ただでさえ無為に終わった人生を捨て、やり直すためじゃない。
全てを背負い、引き継ぎ、次へと進むためにやってきたんだ。
「あと頼んだぞおおっ――!!
ジュリアスうううぅぅぅぅぅう――っっらああ!」
振りかぶる。
下半身の力を利用。
目標地点を一心に見つめ、腕を――振り抜いた!
万感の込められた、渾身の一投。
完璧な手応えがあった。
綺麗に飛んでいく。
些かドラマチックすぎる内心を反映したような、勢いのある一直線。
ぶちぶちとどっかの筋肉か神経かが切れる音が聞こえた。
計算なんて結局、あってないようなもん。
全力の投球、誠心誠意のお祈り。
中空に吹いた風のせいか、少し軌道が逸れたが――さくんっ。 と軽い音を立て、魔鉱灯は無事に着地した。
動く円の少し外側、逸れたのがむしろよく働いたかもしれない。
それから即座に、我らが囮の本領が発揮される。
ほんの一瞬、きゅうっ――、と周囲の酸素を飲み込んだようなゆらぎが生まれ、
ズウゥ…………ゴオッガアアアアン。
巨大なビルが倒壊するかのように空気が揺れ、大地が破裂した。
「ういぃっ……―――⁈」
荷馬車まで到達した爆風にあおられ、反射的にかがみ込む、あわせて飛んでくるかもしれない破片から頭を守りながらだ。
ま、まずいぞ、威力が想定の十倍はある……。
思わずやっちまった、と反省してしまうほどだった。
誘き出すどころか、逆に警戒させてしまったかもしれない。
撒き散らされた砂埃がパラパラと降り注いでいる。
「……ど、どうなった?」
俺はかぶりを振り、少し遅れて状況の確認に入った。
ジュリアスのために叫びたい衝動を必死に抑えて起き上がると――その時ちょうど。
爆散し、いびつに曲がりくねった砂の水面ごと、大地が崩潰している、ぽっかりと覗く空洞の出現。
――飛び出してくる!
ズルルルルゥゥゥ。 と迫り上がる、昇る――サンドワームが高く、空へ。
俺たちは彼を探す。
晴れた砂煙の奥、震える砂丘の先、大地に建つワームの塔立の影。 どこにもいない。
右往左往ではたらず縦横自在に視線を泳がせ、託した背中を求めるように。
そしてとうとう、控えめにギラつく太陽へ手のひらをすかしてみた先に。
――見つけた。
ジュリアス既に、そこにいた。




