02話 素晴らしき哉、異世界
―――ん……眩しい。
全身を焦がすような熱と、閉じた瞼の向こうからでも激しく瞳を叩くその光に、躊躇いながらも少しづつ目を開ける。
するとそこは。
「え? なんだいったい……、どこここ」
急な光にふらりとよろけながらも、あたりを見渡す。
砂、もっと砂、……………………さらに砂。
そして青空。
右も左も前も後ろも、ひとつ飛ばさずとも視界に入る限り、地平線の果てまでのその全部が、砂で埋め尽くされている。
唯一見上げる空の色のみがまっさらの快晴で、お天道様がギラギラと照りつけていて―――
急にそんな場所にポツンと、一人寂しく俺は突っ立っていた。
「は? なんだこれ……」
砂漠? かな……ここは。
なんだ? なにこれ、ここどこ?
混乱する頭を落ち着かせるために、状況を整理しようか。
一歩を踏み出すどころか少しの身じろぎもできないまま、再び目を閉じる。
閉じてなお明るすぎるから、両手でもってさらに塞ぎきって。
全力で……………………頭を抱えた。
俺の名前は? 涼悠介
歳は? 十八歳
ここはどこ? わかんね。 砂漠?
なにしてたんだっけ? …………?
それから五十音を、あ〜んまで順番に頭の中で唱え…………おわった。
一つ一つ噛みしめるように、濁音、半濁音、拗音まで、余すところなく。
「マジか、どうしよう……………………」
うん……、意識は大丈夫っぽいけど。
大丈夫だからこそますます理解できない、なんだか……すごく嫌な予感がする。
度し難い女神、もといフワフワに、半ば無理矢理な手段で異世界転生をさせられた……はず。
覚えてるぞ、はっきりと。
で? どうしたことだ、この状況は。
ここがあいつの言ってた別の世界とやらなのか?
正直、異世界らしさはまるで感じない。
いや、テレビで見るような世界の砂漠は愚か、鳥取の砂丘にすら訪れたことがない俺にとって、この景色は確かに新鮮だし、ある意味、別の世界に来たような驚きのようなものはある……ような気がしているけれど。
これで。
さあ、異世界に転生いたしましたよ!
とか言われても、ちょっとうーん。
ここには見た目で判断できるものがない。
街並みや、もちろん人影もない。
生き物の気配すら……。
砂漠だ。
イッツ ア 砂漠。
第一村人どころの話じゃない、青と茶だけにサンドウィッチされた空間で、俺は未だ動き出せずに立ち尽くしていた。
ここが異世界なのだという実感が、いまいち湧いてこないんだが。
「あいっかわらずわけのわからない状況が続いていますが……。
こういうの、もっとでてくるんだろうなあ。
…………よ、よしっ。 まあとりあえず動いてみるか」
日差しは強いけれど、風はまあ気持ちいいし。
行動しないことには、なにも始まらないだろう。
何気に生まれて初めてやってきた砂漠なのだ、不思議とテンションは上がっている。
ことにします。
俺の頭がどうかしてしまったんじゃないことだけを、切に祈ろう。
異世界に転生してしまった――という状況が果たしてまともだと言えるのか、それはいいっこなしよ。
「装備はこれ、滑って落ちたあの時のそのままなのね。 なんだか縁起がわりいよなあ」
なんの変哲もない部屋着に、裸足だ。
どう考えても外を出歩いていい格好とは呼べない、近所のコンビニに行くのでもちょっと……いやだいぶ躊躇うレベル。
だが、それでも俺は歩き出す。
異世界? での記念すべき一歩目だ。
「異世界は青と茶色だった。 はは、名言だねこりゃ」
〜一時間後〜
「はあ……、ああ、いつまで歩き続ければいいんだ」
意気揚々と進み出したはいいものの、景色の果てには未だになにも見えてこない、相も変わらず砂と青空だけ。
流石にちょっと不安になってきた。
結構な距離を進んでいるはずなのに、地平線の向こうにすら変化がない。
かの有名な蜃気楼すら確認できない。
長く変化がないというのは、思っているより精神にくるものだ。
少し息もあがってきた。
ほとんど外に出ることがなかったとはいえ、まだ並程度の体力はあるはず……と思い込んでいた。
まさかここまで落ちてるとは。
模擬ニート生活の弊害か、それとも砂漠の過酷さゆえか。
きっとどっちもだ。
雲一つない空で、太陽はギラギラと照り続けている―――。
〜さらに一時間後〜
「はあっ……はあっ……」
暑い、暑すぎる。
足を動かすたびに顎の先から雫が溢れていく。
汗が止まらない。
日差し、気温、そして運動、発汗がおさまるワケがないにしても、それでも怖いぐらいに服が濡れる。
少し前から、体の疲労も顕著にあらわれ出してきた。
異世界とか、女神とか、あれはなんだったんだ……?
なんで俺こんなことしてるんだ?
現在俺の装備は着ている服のみ。
転落時に着用していた、部屋着のポリエステル100%Tシャツと、母さんにだいぶ前に買ってもらった長ズボンだ、素材はラベルが剥げていてわからなかった。
どちらも汗と砂で汚れてきている。
肌身離さず身につけていたはずの端末やらなにやらはいつの間にかなくなっていた、ここには持ってこれなかったようだ、時刻とか気温とか諸々の確認ができない。
まあ、ここが本当に異世界なのだとしたら、持っていたところで役には立たなかっただろうけど……。
電源があっても回線がないなら意味がない。
「あ、暑い……、そして熱い、足がっ、ぐぅぅ。
なあ、これ絶対いろいろと間違ってるよ、おかしいもんこんなんどう考えても……!」
微かに吹く風に流されさざ波のような模様を描く砂の上は、波というイメージとは真逆の灼熱で、足の裏でホットプレートの表面をなぞっていくみたいな……、控えめに言っても地獄であり。
五体満足で進みだしたちょっと前と比べても、もはや無事ではなかった。
太陽が雲に隠れる様子はない、というか雲がない。
一面砂だらけのこの大地には障害物が何一つとしてない、なので当然日陰もない。
どうしよう、かなりしんどくなってきたぞ。
〜それから一時間後ぐらい〜
「……ふっ……ふっ……」
呼吸が、苦しくなってきた。
気を抜いたら今にでも倒れそうだ。
ちょっとほんと、真面目に、なんなのこれ?
あの白い空間での出来事…………実は俺の妄想か走馬灯かなんかで、実際は地獄にでもきてしまったんだろうか……?
親不孝、マヌケな死に様、しょうもない人生……。
思い当たる節は多い。
でもあの空間、妄想にしては鮮明だったんだけどな。
フワフワのあの顔だってしっかり思い出せる、今思い返してみても美人だった、女神様だから当然だよ、と言われたらそうなんだろうが。
そんなこと言いそうだなあいつ、と想像がつくくらいには関係性が生まれていたはず。
もしかして妄想…………あれ全部?
いいや、まだわからない。
引き返そうかと思い何度か振り向いてみるが、足跡は風にのった砂粒のせいで消えていた。
引き返したところで景色は変わらないとわかっていても、気を紛らわす手段がこれしかなかったから、しょうがなかった。
もう空を見上げる気力も……ない。
〜???時間後〜
「………………………………」
もう……むりしぬ……さむい……………さみしい……………………。
かろうじて足踏みをするので精一杯といった有様で、体力も気力もとうにすっからかんになった、絶望と孤独に押しつぶされるのも時間の問題でしょう、そんな状況です。
体を動かすのを一瞬でも止めたら、そのまま帰ってこれなくなりそう。
漠然とした不安と着実に限界に近づく己の体、それらと俺は戦っていた。
「おお、ゆうすけ! しんでしまうとはなにごとだ!」
「女神様は言っている、ここで死ぬ運命ではないと……」
「ざぁこざぁこ♪ ざこ転生者♪ そんな程度で恥ずかしくないの?」
さっきから耳元でごちゃごちゃと……、うるさいぞフワフワぁ…………。 大体、誰のせいでこんなことになってんだよ…………俺か?
俺が全部悪いのか?
俺が不甲斐ないばっかりに。
どさっ。
不意に、何かが砂の上に落ちる音がした。
音からしてそれなりの重さがあることがわかる。
微かに残っていた思考で、なんだろう? と思い、音のした方を見……ようとしたが、体が動かない。
どうやらそれは、俺の体が砂の上に倒れ伏した音らしかった。
もう動くことも考えることもままならない。
「い、いやだ……俺はまだ何も……こんなところで……もうやだこんなの、うぅ」
またもや、ではない、今度はゆっくり気絶するように、俺の意識はなくなっていった。
風にのって砂の粒は舞い、つもる。
涼悠介がいるといないに関わらず……。
――
俺の意識はその瞬間、唐突に復活を果たした。
瞼の裏は暗く冷たい。
わずかに世界が揺れている。
その振動が体に伝わるたびに、全身の骨、筋肉、関節が微かに悲鳴をあげた。
「い、いた……うぐ…………うぎぎ」
脳みそがくぐもった呻き声とともに覚醒していく。
光を得ようと両の瞼に意識を集中させるが、うまく力が込められず完全には開くことができなかった。
目を開けることすらままならないのかよ。
よく生きてるな、俺。
いやどうだろう……、生きてるのか? 俺。
薄目の状態で唸ることしかできない、思考もうまく働かない。
も、もうだめぽ。
ゆら、と。
ぼやけた視界の奥で影が震えた。
ジリジリとにじり寄ってきて、ふらふらと左右に揺れた後。
「――――――! ――――――――、―――?」
なんだか大きな音がした。
とても騒がしい。
しかし直後に、
ぶちん
と、耳を劈くようなノイズが一瞬はしったことを契機に、だんだんと周りのその音を正確に聞き取れるようになってきた。
「……ん? あ⁈ 目が覚めた? 覚めてるよね⁈ よかった! 本当によかった! おじさん! 彼、起きたよ!」
―――言葉だ。
体を起こせないまま視線だけを動かすと、すぐそこで一人の少年が叫んでいた。
「やった!」だの「安心したー!」だのと、ずっと。
その声を聞いていると、少しずつ元気が湧いてくるような気がした、何故だかとても安心できる、不思議だ。
どうやら俺は今、古びた深い焦茶色の木目に囲まれた場所に居るらしい。
四角く切り抜かれた窓、少年の奥に見える景色、もう見たくもない二色のそれは、かなりの速さで動いていて、ガタガタと揺れている。
座席みたいなものはなく、雑多に積まれた荷物の隙間に、俺の体は寝かされていた。
ここは何かの乗り物の上だろうか?
瞳を閉じて耳に感覚を集中させてみると、少年の声に混じって、なにかの動物の荒い吐息と、砂を踏みしめるような複数の音を聞くことができた。
動物……乗り物……、馬車か?
安直な発想だが、それしか思いつかなかった。
砂漠同様、実際に馬車に乗ったことなんてないから、正確には判断しかねるが。
どうやら目の前の少年は、さっきから御者に向かって叫んでいるらしかった。
「お兄さん大丈夫? あんなところで倒れててさ、びっくりしちゃったよ!」
しばらく外に向かって叫び終えると、少年は再度心配そうな面持ちでこちらに声をかけてきた。
人懐っこそうな瞳に、あの、空に輝いている太陽のように鮮やかな金髪。
もう見たくも感じたくもない、憎いとさえ思っていたあの黄金に、紺碧の眼と、幼くもたくましい面構え、そしてハキハキとした優しい声音が伴うだけで、ここまで愛らしい存在になるのだろうか。
もう俺の体内に水分なんて残ってないはずだったのに、なぜだか涙が溢れた。
おそらく年下だと思う……、幼さを残しながらもどこか頼もしいような、柔和な表情で俺を見つめている。
彼は、俺に負けず劣らずのラフな格好をしていた。
いやー、あっついねー。
そう、今もにこやかに呟きながら、がっつり鳩尾あたりまでやや弛み気味に開いているランニングシャツみたいな服の襟をつまみ、パタパタと熱風をくぐらせていた。
その首筋には汗の滴が浮き、流れる。
ただ、たったそれだけのことなのに、俺はなんだか急な話だが、すごく……生きているような感覚が湧いてきた。
―――なんかちょっと変態みたいだなこれじゃ。
こんなことを考える余裕まで、不思議と出てきている。
そうだよ、生きてる、生きてるんだ。
「ぐ……うぐ、うぅぅぎぎぎ……がぁっ」
「おっと……と。無理しちゃダメだよ、お兄さん!」
労わるように少年が差し伸べる手に支えられ、ゆっくりと痛む四肢をなんとか動かし、背中をもたれさせる形で起き上がった俺はやっと、彼に目線を合わせて腰を据えた。
「大丈夫? いったい何があったの?」
互いに名前も知らないのに、この少年の口調はまるで、旧知の友人にでも話しかけるように率直だった。
つられて俺も、自然に言葉が出てしまう。
「いや……なんか、俺もよく分かってなくて」
「うーん。道に迷ったとか、身ぐるみ剥がされて捨てられたとか、あとは……、なんだろう?」
小首をかしげる少年に、なんと言っていいかわからず見つめ返すことしかできなかった。
俺が一番何が起こってるのか知りたいんだよなあ。
「む、まさかひょっとして、自殺でもしようとしたとか? 荷物もなにも持ってないみたいだし、クツすら履いてないなんて。身包み剥がされたんじゃないんなら、ほかに……うーん……。
何にせよ、あんまり良くないと思うなあそういうのはなー」
「……あ。い、いやいや、ちょっと待ってくれ、自殺しようとはしてない、むしろ生き直すためにここにきたはずなんだけど、そこのところ俺にもよくわからなくて」
自身、なぜ砂漠を彷徨っていたのか全くわからない。
間抜けにも足を滑らせた後のあの白い空間での出来事、あやふやで良くわからないが、それでもここにいるというのは確かな事実だ、目の前にいる少年が現実だ。
夢でも妄想でもない。
頬をつねるなんてベタなことをせずとも、それだけは実感できる。
「ほんとにぃ〜?」
少年がジトーッと見つめてくる。
まあ怪しいよね、普通に考えて。
なんと説明したものか。
小刻みに揺れる馬車の振動に踏ん張りきれず、背中がズルズルとずり落ちていく。
ゴヅッ、と。
姿勢を戻そうとして、頭をぶつけた。
「ああっ、大丈夫? ダメだよ、まだ油断はできないからね、ただの光だからって太陽さんの力を侮っちゃいけないよ、まだ熱だって引いてないんだから!
ほら、ここおいでよ、風が当たって気持ちがいいよ」
「あ、うん……、ありがとう。
おかげさまで元気ですよ、ほら、へーきへーき」
「……そっか、そっかぁ」
小さくサムズアップを披露すると少年はくだけたようにはにかみ、それから、ほんの少し外の景色に視線を向けた。
なにか吹っ切れたような表情をしている。
「うーん……まあいいや! こうして助かったんだ、砂に還ろうとしたにしては、陰鬱な気配も感じないし、うん、信じるよ!
ところで喉乾いてない? ほかにどこか具合の悪いところは?」
そう言い切って、弱り果ててうつらうつらしている俺に、少年はにぱっと笑顔をみせる。
話題を切り替えながら、爽やかに俺の身を案じるあたり、どうやら気を使ってくれたみたいだ。
「どれだけ砂漠にいたのか知らないけど、症状としては軽い日射病と脱水症状ってところかなあ、あはは、今日天気良かったしねえ」
少年はガサゴソと荷物を探り、はいどうぞ、と生き物の皮で作られたようなタプタプした袋を渡してくれた。
これは……水筒か? 小学生の時教科書かなんかで見たことがある気がする。
随分と古めかしい、使われ倒したような状態だ。
その独特な感触に少し躊躇いつつも、俺はその水筒を口に運ぶ。
「そう、そのまま、少しずつだよ、喉も傷ついてるかもしれないから、ね? それにこの水は逃げたりしないから、うん」
見慣れないものへの抵抗感は、少年からひしひしと伝わる思いやりと、限界まできた疲労と喉の渇きの前に、一瞬で消えた。
「んっ……く、うむ」
水が、液体が舌先に触れる。
そして唐突な、細胞の一つ一つが、末端からはじけたような痛み……⁈
じゃない! なんだこれ!!
なにもかもを忘れたかのように、一心不乱に喉を鳴らす。
冷えた快感が食道を通り胃に渡り、力が全身に行き届くような、そんな爆発にも似た衝撃が内臓を駆け巡る感覚!!
ぐ……っ。
くそ、泣くなよ、涙でんなよぉ。
貴重な水分だぞ。
「うっうっうっ…………」
嗚咽が止まらなかった、同時に、がむしゃらな嚥下も止められなかった。
少年の表情は……、見えない。
けど、きっと優しい顔をしてるんだと思う。
「ぐずっ、うっ、あの……本当にありがとう、助かったよ……。
まあ、なんでこんなことになってるかは本気で、その、自分でもよくわからないんだけどさ」
「あはは。
死にかけてたんだし、記憶も曖昧なのは仕方がないよ、今元気ならそれで充分! ごめんね、なんか変なこと疑っちゃって」
「ありがどう……」
「うんうん、よかったよかった」
ハッハッハッ、と少年が笑う。
つられて笑おうとしたが、一際大きく揺れる荷台に体のバランスを崩され、ぐしゃぐしゃとにやけることしかできなかった。
――
―――どれくらい経ったろうか。
しばらくの間立ち止まることもなく俺たちが乗る馬車は走り続けているが、それでも砂漠は変わらない。
この世界に降り立った時、死ぬほど歩き……倒れ伏したとき、そして救われ今に至るまで、砂漠の様子は不変を貫き通している。
だが、目の前の景色だけは、だいぶ変わってくれた。
金髪の少年は馬車の荷台、進行方向側に開いている御者台へのぞく小窓のようなところから、手綱を引くおっちゃんと相談と勤しんでいた。
聞こえはするが、ところどころの単語の意味がわからず、内容は俺の耳を通過していく。
それでもいい、折れかけた心はもう充分回復したのだから。
会話は続けながらも、目線だけで振り返りこちらに小さく手を振る少年に笑顔で返し、俺は意識を再び砂漠へ、外の世界へと向ける。
―――俺のことについて。
特にその出自、フワフワのこと、ことの経緯についてとかそれら諸々、状況がはっきりしてくるまではあまり口にしない方がいいかもしれない。
第一に、頭のおかしいやつだとか思われたくない。
あれが。
あの空間での出来事全て―――俺の妄想でも夢でもないのなら、ここは魔法もあってモンスターもいる異世界ということになる。俺が本当の意味でのスカンピン、現状なんの力も皆無の肉の塊である以上、変な奴って思われるだけでも不利に働きかねない。
最悪死ぬ、抵抗もできずに。
いや、わからない。
俺が知らないだけで、死ぬより辛いことがある……かも?
なら、まず身につけるべきは知識だ。
それがなければ、話を誤魔化すこともできやしない。
何を誤魔化せばいいのかも判断ができない。
となれば、これからの行動すべてには、細心の注意と警戒を払はなくちゃいけない。
「ん? どうかした? もしかしてまだ具合悪い?」
御者との談義を終えたらしい少年が、風にあたる俺の対面に、んしょ、と腰をかける。
―――だが、そうだ。
どのような形であれ、この少年をただ利用するだけだなんてこと、してはいけない。
「ううん。大丈夫だよ、寒気は感じてるけど、これはたぶん体調不良とかじゃなくて気分的に少しゾッとしてるだけだから、先行きが不安で」
第一村人ならぬ第一異世界人である少年との会話で理性を取り戻してきたのはいいが、悩みの種は大きくなるばかりだ。
なんだか、改めて現状を把握してみるとそこはかとなく憂鬱な気分になってきたぞ……。
いっぺん死んだら女神様とやらに異世界に送られ、今は訳もわからず砂漠でもっぺん死にかけてたんだもんな。
考えてもしょうがないことなんだろうけど、本当に、どうしたものか。
状況はわからないし不安ではある、だが、これから何をするにしても、まず一番最初にやらなくてはならないとはっきりしていることがあった。
溢れ出る疑問に、尽きない緊張、それらを一旦綯い交ぜにして―――。
これだけはちゃんと済ませたい、伝えなければいけないことが、俺にはあるのだ。
痛む関節に力をこめて精一杯姿勢を正し、目の前の少年に深々と頭を下げる。
「改めて、命を助けてくれてありがとう。
あなたと、それと御者のお方、二人は命の恩人だ、心から感謝しています。
俺の名前はユウスケ、スズミ・ユウスケ。
良かったら、君の名前を聞かせてほしい。
覚えておきたい、君のことを忘れたくないんだ」
その時、ずっと俺の体調を気にしてか、終始明るく振る舞いながらもどこか少し心配そうに影を落としていた少年の眼に、光が溢れたような気がした。
そして、
「ボクの名前はジュリアス。
ジュリアス・ゴールドラッシュ。
君を助けられて本当によかった、ユウスケ!」
見ているだけで誰もを幸せにしてしまいそうな満面で、ジュリアスは、よろしく!と快活に笑った。
「ふっふっふっ。
そっかあ、『ユウスケ』ね、覚えた! おっちゃーん、彼、ユウスケって名前なんだって!」
「お〜、そうかぁ。 ちゃんと水分を摂らせてやれよ、勿体ぶらんでもそろそろ砂漠は抜けられるぞ」
「もう飲んだ! 大丈夫だって!」
ジュリアスがまたも荷台の窓から身を乗り出して叫ぶと、外から気の良さそうな男の返事が返ってきた。
この馬車の御者を勤めているおじさんだろう。
あなたも命の恩人だ、ジュリアスに向けたものと寸分違わない感謝を伝えたい。
ちゃんとお礼を言っておこう。
「……よっ…………こら」
水を口にしてからというもの、嘘みたいに軽くなった体を起こして、俺は自ら、ジュリアスとは反対側の窓際へと寄っていく。
前世の死亡の要因の一つでもある窓際だ、なんの変哲もない。
おずおず触れると、ただの木だ。
……よかった。
トラウマにでもなっていて、窓という窓に近づいただけでパニックに⁈
なんてことにはならずに済んだらしい。
何度かジュリアスがやっていたように俺も御者台に向け声を張り上げようとするが、その矢先、一段と大きな揺れがきた、砂の起伏にでも車輪がつまづいたのだろう。
「おっ……とっとっ――――
あ、あぶねー……、ありがとう、ジュリアス」
「ふふん、端っこは揺れが強いよ、気をつけて。
慣れるとこれも楽しめるんだけど、ユウスケにはまだちょ~っと早いかなー」
ニヤリとほくそ笑むジュリアス。
よろけることを見越していたのか、反対側からいつのまにかすぐ隣に来ていた彼が、スマートに俺の背中を支えてくれた。
俺もニチャリと口元を歪ませ、
「なにぃ?みくびるなよ、このくらいの揺れどうってこと……おっ、ちょっわっ……、ふう」
なんとか縁にしがみついた。
心地よいとはあまり言えない熱い風と、地平線の果てまで吹き抜けるまっさらな砂丘の景色。
圧倒されるとは、こういうことを言うのだろう。
なんだかこの景色も好きになってきたかも…………なんて、調子のいいことである。
そして俺はもう一段階、腰の辺りまで身を乗り出し、
「おっちゃーん!ありがぁっ、どお……っ、あ痛!」
―――ふいに、何かが頸筋を撫でていくような感触があった。
直後に肩のあたりをどつかれたような衝撃がはしり。
俺は力無く、赤子のように荷台の床に引き倒された。
突き飛ばしたのは……ジュリアスだった。
瞬時にして俺は自分の行いを悔いる。調子に乗りすぎてしまったと。
「ごごごっ、ごめん!注意はしてたつもりだったんだけど……! 危なかったよな、マジでもうやんない、ちゃんと気をつけ―――」
「伏せて―――っ!」
腰抜けた謝罪を遮るようにジュリアスが声を張り上げた。
切迫した様子に、その場が一瞬にして言いようのない緊張感に支配される。
中途半端な言い訳を残し、ポカンと間抜けに口を開けたままその表情を恐る恐る窺う―――と、彼の意識は、こちらになど向いていなかった。
体は硬直し、荷台に倒れたままジュリアスの視線を辿る、その先に……俺も見てしまった。
未だ走り続けている馬車と荷台、そんな窓のすぐ外に、なにかがいた。
例えるなら、ムチだ。
黒鉄のような独特の光沢を放つムチみたいな物体が、うねうねと蠢いていた。
時速にしたらどれ程だろうか、それは、馬車のスピードにピッタリとくっついてきている。
「……っ⁈」
俺が絶句するとそいつは、しゅるん、と車窓の背後に消えていった。
先ほどまで俺たちが触れていたあたりの木の窓枠に、無理やり削り抉ったような、痛々しい破壊痕を残して―――。
「っ⁈ な、ななな……っ、なん、なに? なんだ今の⁈」
なんだ、今の。
ムチ、確かに見ためはそうだった……けど、今の動きはあまりにも生々しい。
そうだ、生だ。
生きているみたいだった。
状況の処理が追いつかない。
壊れたロボットのように、体の芯から震えが止まらなかった。
足に力が入らない。
「あー……、振り切れなかったかー。
まいったなあ、もう砂漠の終わりも近いのになあ。
まさかここまで執念深いとはね……、たはは、ちょっと甘くみてたかも」
ジュリアスはくすりと笑うと、間延びしたようにそう言った。
あまり緊張感が感じられなかった。
「っと、ごめんユウスケ」
驚愕の表情で未だ転がったまま起き上がれずにいる俺に、にひひと笑顔をみせると彼は、
「一安心のところ申し訳ないけど、一難去ってまた一難、ってことみたい!」
呆気に取られる俺を置き去りに、ジュリアスは荷台前方の小窓に駆けていき、叫ぶ。
「おっちゃん止めて!」
「―――ああ? 止めろって?! おいおい冗談ポイだぜ、このまま全速で走れば逃げ切れる!!」
外から、俺に負けず劣らず焦った様子の御者の声が聞こえた。
だ、だよな? これ今そういう場面だよね?
なのに……、なのになぜ、この子は。
「いいや、それじゃダメだよ!
奴ら数が多すぎる、このまま放置したら、次にこのルートを通る人たちに被害が出るかもしれない。 ちがう?
あとたぶんだけどさアイツら……、ボクたちが行きしな散々煽ったのと同じ群れだと思うんだよ。
ねえ、そうでしょ? 絶対そうだよ!
だからカンカンになってこんなところまで追ってきたんだよ、それってさ、この危機を招いたのはボクたちの責任ってことにならない?
誰かになんて任せちゃいけないよ、でしょ?」
「そりゃあ、まあ、一理あるかもなあ。
たしかに、そうだがよ。
そうかもしれねえがよお!!」
「……それにさ、ほら。
ちょうどいい相手だと思わない?
集大成を発揮するにはさ、凄くうってつけだとおもうんだよねぇ…………」
「……だ、おめえ! やっぱりそっちが本命かよ!
その悪癖いい加減治さねえと巻き込まれるこっちが――あっ、おいこら! 乗り出してくんな! やめろ! それ引っ張んなって――」
「大丈夫! 信じてよ、必ず守りぬくから!
これまでだってそうしてきたでしょ!
ボクが一度でもウソついたことあった? ねえ?
戦都でも散々露払いしたでしょ? おんなじだよ!今回もおんなじ!!
砂漠越えの護衛代が浮いたのは誰のおかげ?
ね? おねがい!! ボクに戦わせて!」
「露払い……? おかしいなあ。
おれの記憶じゃあ、おまえが来るもの拒まず勝手にドンパチやってくれたおかげで余計なケンカに巻き込まれまくった思い出になってるんだがなあ…………」
「ルールはいつも通りでいいよ! 絶対迷惑かけない!
だからおねがい! おねがい!! おねがい!!!」
「ぐむ…………。
…………………………はあ。 はいはい。
わかった、わかったよ、おれの命、オメーに預けりゃいいんだろ?
ったく、好きにしろ。 今回もよろしく頼むぜ、用心棒さんよ」
「うん! 任された!」
そんな、ほんのり熱苦しくも物騒な会話が終わる。
俺の知らない話を目の前で繰り広げる二人に若干のジェラシーを感じながらも、そんな場合ではないと瞬時に己を諫める。
そうした逡巡の後だ。
ジュリアスの注文通り馬車はゆっくりと速度を落とし、ついには完全に停止した。
当惑したような馬たちの嘶きが響き渡り、程なく。
ざわ……、と。
空気が変わる、そんな気配がした。
「おでましだね」
ジュリアスが呟いた直後、少しの間もあけずして周囲の砂丘が不自然に形を変えていく。
まるでなにかが地中を這っているみたいだ。
砂場のミミズなんかで見たことがあるような動き、大抵の人間なら一度は目にし抱いたことがあるだろう生理的嫌悪。
でも今は―――
「うぁ…………」
それら感情の起伏が消え失せてしまうほど、俺は言葉をなくしていた。
シンプルに、規模が桁違いすぎる。
半径数十メートルは、ぞぞぞと気色の悪く、脈を打つようなうねりがたっていた。
それに多分だが……、動きの源は一つじゃない。
大量の目に品定めされているような狙う気配を、あちこちからビリビリと感じる。
ほぼ機能停止した頭で『殺気を感じるってこれのこと言うのかな』とか、俺はぼんやり考えていた。
訳がわからなかった。
腰はまだ抜けていて、立てない。
少年はなぜか、こんな時でもずっと笑顔を絶やしていない。
ガタガタと震える俺とはまるで正反対。楽しげですらある。
その姿勢がとても頼もしく見えた、次第に体の強張りが薄れていく。
ゆっくり緊張が解けると同時に、唐突、首のあたりに痛みが走った。
今発生したのではなく、忘れていたものが帰ってきたような不気味な違和感。
触れて確認する―――その手には、薄く掠れたような血がついていた。
すぐに、突き飛ばされたのはこれの為だったと理解する。
ひょっとして俺さっき…………死にかけてた?
殺されかけてた。
………………っ。
行き倒れを拾ってくれたことに続き、これ。
ジュリアスは、またしても命を助けてくれていたのだ。
「じゅ、ジュリアスぅ……」
くちゃ……と、泣き出しそうな俺に振り返り、
「大丈夫だよユウスケ、必ず守るから」
それだけ言い残すと彼は、窓枠から逆上がりのような動きでひらりと荷馬車の天井へ乗り移った。
とす、とす、ジュリアスの踏みしめる音が荷台にこだまする。
す、すごい身体能力だ……。
なんて驚いていると、それとすぐ入れ替わるようにこそこそと、御者のおっちゃんが荷台へと移動してきた。
「おう、無事かユウスケ」
おっさんだ、普通のおっさんだった。
俺やジュリアスと同様、滝のように汗を流し、その表情は心なしか強張っていた。
薄皮一枚血の滲んだ俺の首筋を見て、目を丸くする。
「おまえさん……、やっぱりなんかもってるんじゃねえかい、こんだけ立て続けで散々な目にあって五体満足だなんてよ」
「いえ……そんな、全部ジュリアスのおかげです。
咄嗟に押し倒してくれなかったら……今頃もう。
―――と、ところで、彼は!
いったいなにをするつもりなんですか?」
おいっちに、おいっちに、と。
のびのび準備運動に勤しんでいるジュリアスを見上げながら、おっちゃんに問うた。
「そりゃおまえさん、戦う準備だろ。
おれらと、そして、この先にある街の住人、全部を守るためによ」
「守るために、戦う……?」
こくりと、重々しく頷くおっちゃん。
―――その時だった。
馬車と、荷台に身を隠す俺たち、そして屋根のジュリアス。
それらを中心に取り囲むように地中を旋回していたうねりが、激しさを増した。
吹けば飛ぶような軽い砂粒がたてるものとは到底思えない、鈍重な地響き。
大地が隆起し、躍動し、追跡者たちのその姿が遂に露わになった。
重い砂塵を纏ってまず飛び出してきたのは、口だ。
おそらく頭部なのだろう。
それ自体が、巨大な筒状の口そのもの。
ただしその内部には、数えきれないほどの鋭利な研ぎたての刃物のような鈍色の歯、それが、螺旋を描きびっしりと敷き詰められている。
直径二〜三メートルはあるかもしれない、人間はおろか、馬一頭でさえも余裕で丸呑みにしてしまえるであろう、獲物を貪る為だけに特化したようなその惨虐な口腔内からは、ちろちろとドス黒い触手のようなものが複数本伸びていた。
ああ、あれはさっき見た覚えがある……。
咄嗟にムチに例えた、俺の首をすっ飛ばそうとしてきたアレに違いなかった。
ずきんと疼く首の痕を通り過ぎ、無意識に自分の口へと両手を運ぶ。
叫んでしまいそうだった。
込み上げる吐き気を、少しでも抑えたかった。
ずるずる―――と徐々に地表に姿を現したそいつは、ヘビのような、しなやかで細長い全身を持っていた。
体長はまだ地中に隠れている部分を除いても十メートル以上はある、まだ伸びている、これほど巨大な己の体躯を軽々持ち上げているのだ、その内につまった筋力もきっと相当なものなのだろうことは、容易に想像できた。
体表は黒鉄に形容したような仄暗く強固そうな外殻と、蔓植物のトゲを彷彿とさせる奇妙な突起、それらで不規則に覆われている。
そんな化け物が、合計五体。
目も、鼻も、耳も、最初から備わっていない。
ただぽっかりと空いた絶望が、静かに俺たちの方へと向いていた。
鎌首をもたげ今にも襲い掛からんと、その端からとめどなく唾液を垂らしている。
あ―――、これダメなやつだ。
現実であってくれと、そう願ってやってきた世界。
これが夢であって欲しいと俺は今、切実に願っていた。
「やつら、『砂竜』だ」
声の方へ振り返る、そこには俺に比べればほんの少し、ちょっとだけ冷静なおっちゃんが、身じろぎもせずにいた。
「す、すなりゅう……?」
恐怖を振り払うように、俺も囁く。
「ああそうだ、『砂竜』だ。王国内ではそう呼んでるってだけで、獣王領から向こう側じゃあ『サンドワーム』なんて呼び名もある……」
ごくり、と唾を飲み込んでおっちゃんは続ける。
「とても執着心が強いヤツらでな、それにあの図体、大陸を覆ってるこの大砂漠、この地における過酷な環境の捕食者の一角さ……。
だがああ見えて、直線の移動はたいして速くねえ、それに奴らの感覚はおれらが思うよりも鈍い!
だからいつもなら……っ、普通なら、馬なら十分逃げ切れんだ、よっぽどのことがなければな。
被害が出たなんて話も、ほんとに稀にしか聞かねえ。
最悪荷物の何個か外に投げ捨てりゃ、それで済んでたんだ、今までは…………」
言い聞かせるかの如くまくしたてるおっちゃんの語気が、尻すぼみに弱くなっていく。
まるで、生きる気力そのものを少しずつ食いつぶされていくように。
「……じゃあ戦うなんてのは?」
「はっ……、見えるだろ、あのクロビカリしてる気色の悪い鎧をよ、並の金属の硬度は軽く凌駕するらしいぜ、まともにやっても傷ひとつつけられやしねえ。
報酬のたんまり積まれたお偉いさんかなんかの依頼だってんならまだしも、そん時の気分で相手しようなんて、論外だ!
イカれてやがる!!!
…………と言いたいところだが」
くいっ、と真上を指差し。
「こいつはヤル気らしい」
乾いた笑いを浮かべる。
そんなおっちゃんのどこか楽しげなその表情の理由が、俺には全くわからなかった。
「うんうん。
それじゃ、ちょーっとヤル気、出しちゃおうかな。
ボクの力、修行の成果を試すにはちょうどいい相手だよね」
「はは、だとよ、調子のいいこったぜ、なあ?」
「も、もうダメだ……、おしまいだぁ……」
極限まで恐怖すると頭が勝手にふざけだすということを、俺は今日初めて知った。
きっとジュリアスもおっちゃんも、どうかしてしまったんだ。
そうに違いない。
ぎぎぎ、ぎぎぎぎ、ぎぎぎ…………。
歯軋りのような不快な音が場を満たす。
自分たちの存在、脅威が軽んじられているということを、砂竜、もといサンドワームどもも本能で感じ取っているのだろう、緊張が膨らんでいく。
「おっちゃん! そしてユウスケも。
――――――応援よろしく!」
何が始まるのかと窓からジュリアスを直に見上げようとした俺の裾が、強引に引っ張られる。
おっちゃんだ。
言葉はもはや無かったが、大人しくしていろという意は伝わった。
指示に従うその意思表示を、俺は腰を低くするというアクションに変える。
地を揺るがす鳴動が、空を燃す灼熱の風が、あまねく天の金輪が、彼を想い、喜びにわななく―――
少年は深く息を吸って、吐き、言祝ぐ。
「いこう……、《ライト・イン・ユア・ハート》」
ジュリアスは、彼は。
願いか、祈りか、はたまた俺にはわからない、なにか……。
そうだ、『詠唱』。
そう呼称するに相応しい、言葉を紡いだ。
俺とおっちゃんは息を呑み。
醜悪なワームどもはぎちぎちと奇怪に、その肢体を蠢かす。
戦闘態勢――――。
ジュリアスは笑っていた。
ワクワクと、楽しむように笑っていた。
燦然と彼もまた、自分の力を振おうとしている。
俺はきっと、今日という日を一生忘れないだろう。
天上から大地を照らす、あの太陽よりも。
荷馬車の屋根にて、ずっと激しく、まばゆい閃光がはじける。
その輝きはまるで、この世界で進むべき道を、未来を照らす。
俺たちの、希望の光に見えた。