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聖国の危機(1)



 地に走る回廊、空に走る空中回廊


 聖国への関門所を抜けると一面の木の葉の上に回廊が走り、その所々に建物があった。

 聖国の地の回廊は主に他国との取引や、礼拝者の祈る場所や休憩場所があるだけの簡素な所。

 ここまでは他国人も立ち入る事が出来るのだが、頭上はるか上に走る空中回廊へは聖国人か選ばれた一部の人しか入る事は出来なかった。

 聖女や勇者など、聖国が認める者達や聖気の強い者である。


 地の回廊の中心には大きな鏡のようなゲートがあった。一般人が触っても何も起きないが、聖気を送ると空中回廊へのゲートが開かれる。ここから空中回廊内にある各場所へと行く事が出来るらしい。

 有翼人である聖国の民は皆、空中回廊で暮らしているとか。長く天に続く空中回廊の1番頂上が目指す場所だと思われる。

 ゲートの辺りは人がほとんどおらず、静かだった。


「陛下、どうします?」


「うーん……頑張って聖気を送れば通れない事も無いけど、それだとバレてしまうからね。こっそり行くならば自力で登るしかないかもね」


「自力ですか……」


 俺達は空中回廊を見上げた。まぁ、自分騎士団長ですから、余裕でジャンプで届く気がする。暴虐の闇の龍と戦った時も空中戦だったなぁ……しみじみ。

 陛下も余裕で届くだろう。何たって帝国最強の男だから。


 意を決し、陛下と顔を見合わせてジャンプしようとしたその時――

 突然ゲートが光り出した。


「え……」

「ジェド!」


 ゲートから白い手が無数に伸びてきた。何これキモ……と、思う間もなく手足を掴まれ凄いスピードで引き摺り込まれる。陛下を見るとそちらも無数の手に捕まっていた。


「これは……普通のゲートの発動ではない!」


 こんなゲートの発動が普通の発動であって欲しくない。更に願わくば……悪役令嬢が発動したとかじゃないといいのだが……もしや俺達の存在が聖国の者達にバレたのだろうか?

 ……そう思っているうちに陛下の姿が見えなくなってしまった。本当に、敵陣に乗り込むのに油断しまくりである。だってジャンプする瞬間に襲って来るとか酷すぎない?

 ゲートに飲み込まれた瞬間、景色が幾重にも反転して上下がわからなくなった。手足に絡まる白い手がペイッと俺を投げ飛ばす。

 床で3回転位転がって何かにぶつかったが、見上げた先には人影が見える。

 薄暗くて目が慣れないので、目を細めてそちらを見た。

 俺の目線の先には――

 驚きのあまり固まっていた聖国の女王、オペラ・ヴァルキュリアがいた。


 ……え??????? どゆこと??????


 茶色の旅人ジェド・クランバルと聖国のオペラ・ヴァルキュリアは無言で固まった。



 ―――――――――――――――――――



 時はジェド達がエレベーターゲートで謎のデスゲームに足止めを食らっていた頃、数刻前に遡る。


 聖国の関門所を木の外側から駆け抜けて破った前代未聞の聖女と間者は、案の定頂上近くの大きな枝の上で囲まれていた。

 有翼人の警備兵達は敵意を剥き出しにしている。


「世界樹の外側を走ってくる人間は初めてだ、何の為に堂々と聖国へ不正入国しようとした?!」


「まさか魔の国の者か?!」


 警備兵達は武器を突きつけてにじり寄ってきた。

 その様子にため息を1つ吐いた聖女は、次の瞬間警備兵にドロップキックを喰らわせて墜落させた。

 それを目の当たりにした、間者を含めた一同が静かになる。


「面倒くさいから全員黙らせていいよね?」


 間者は自分に聞かれたとは分からず、辺りを見回した。どう考えても自分に聞いてるようにしか思えないが、答えはNOだった。願わくば普通に入国してほしかった。聖女ならばゲートも通れるのだから。


「いや、今俺に聞いてる……? 何ですぐ武力に訴えてしまうのか全然分からないんだが、普通に入国――」


「おい、お前、どこかで見た事あるな……」


 聖国の警備兵の何人かが間者をまじまじと見始めた。


(――マズイ)


「なるべく記憶を曖昧にするような黙らせ方、あります?」


「あるわよ」


 そう言うなり聖女は警備兵の1人の後ろに周って飛びつき、組技で大きな木の枝にその身体を叩きつけた。

 真っ逆さまに枝に埋まる警備兵。


「これは、パイルドライバーというプロレス技よ。頭を狙うにはやっぱコレが1番ね」


 間者には聖女が何を言ってるのかよく分からなかった、記憶以前に技にかけられた人は大丈夫なのか心配になった。そして良い子は真似をしないでほしいと願った。

 次々とパイルドライバーにかけられる有翼人の警備兵達。皆辛うじて生きているようであるので間者はホッとした。聖女が言うのだから記憶の方も大丈夫なのだろうと。


 後に「有翼人も木からパイルドライバー」という言葉が生まれた事件である。

 木にめり込んでしまった同胞達を見て、自分は最早後戻り出来ないのでは、と間者は思い始めていた。

 警備兵達の襲撃から更に上へと登ると、世界樹の頂上にあたる地の回廊にたどり着いた。

 一般観光客からは「どこから登ってきたんだ……」と不審な目でみられたが、間者は気にしないようにした。


「で、オペラとやらはどこにいるのよ?」


「ちょ! 呼び捨てにすんな! どこで聖国人が聞いているか分からないだろ!!! この国の女王であり聖国の象徴だぞ?」


「一々煩いわね……また黙らせればいいでしょう?」


 間者は震えた。聞いていた魔族よりも誰よりも今は1番聖女が武闘派で危険であった。

 女王からは聖女や勇者を見つけたら聖国に知らせるよう言われていたが、とてもじゃないが聖国に好意的な行動をしてくれるようには見えなかった。自分はとんでもないヤツを連れてきたのではないかと間者は今更後悔した。


「で、どこに行けば会えるわけ?」


 間者は震える指で空中回廊を指差した。


「オペラ様はあっちだ。あの空中回廊には有翼の聖国人か選ばれた者しか入れない」


「そう」


 また物理で侵入しようと構えた聖女を必死で止めた。


「待て待て待て待て! その方法で行くとオペラ様の元へは永遠に辿り着けない! あの回廊は下から見るよりもずっと上に延びているんだ……オペラ様のいる場所はあの回廊の最上だ。その間にいる聖国人全員倒して行く気かよ! それよりももっと簡単な方法があるんだよ!!」


「何で早く言わないのよ」


 言う前に聖女が強行したからである。なんなら普通に聖国に来た方が良いと何回も提案したのだ。

 間者はこれ以上聖女が暴走する前に、と早足で空中回廊へのゲートへと案内した。


「このゲートは聖気で動く扉で、ワープが出来る魔術具だ。聖気を持っている聖国人や聖女や勇者しか入れない様な仕組みだが、お前なら大丈夫だろう。物理的には……」


 精神的にはあまり立ち入らないでほしかった。


「聖気で動くって、どうやってやるの?」


「ここに聖石があるだろ? これに聖気を送ればゲートが発動する」


「フゥン……」


 そう伝えると聖女は聖石に手を当て、思いっきり聖気を流し始めた。


「はあああ!!!」


「え、ちょっと待て! 少しでいいんだが――」


 その瞬間、聖石が変な色に輝き、ゲートが激しく光り出す。

 ゲートから放たれる光が無数の手となり延びてきて、周りにいた人を次々と掴みゲートへと引き摺り込む。聖女は間者の襟首を掴み、延びてくる手を避けた。


「何これ、こんなキモい感じなの?」


「いやいやいや! 違うから! 何これ初めて見たわ! 聖気かけすぎるとこんなんなるの????」


 必死に避けるも、手の方が多すぎて聖女と間者はグルグル巻きになりゲートに飲み込まれた。


 手が全て一旦ゲートに収まった頃、男が2人その場所に現れる。


「あったあった、これが空中に繋がるゲートだ。陛下、どうします?」


「うーん……頑張って聖気を送れば通れない事も無いけどそれだとバレてしまうからね。こっそり行くならば自力で登るしかないかもね」

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