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展望所へ至る世界樹の途中で(後編)



『今回、無作為に選んだ中から集まって頂いた皆さんには、生き残りをかけたゲーム……デスゲームを行って頂きます』


 アナウンスの声の主はそう言った。


 デスゲーム……デスなゲームって事だよな? デスなゲームって全年齢でやる話題だっただろうか?


 突然の状況と理不尽な要求に室内がザワザワしている。


「おい! ふざけんな! そんなんやってられるか! 早くここから出せ!!」


 急に1人の男が叫び出した。アナウンスの鳴る機械がついた方の壁をバンバンと叩く。

 急に説明途中で怒り出すモブ顔の男……もうアレじゃん。こいつから死ぬやつじゃん。


『聞き分けの無い方はこまりますね。ふぅ……いいでしょう、まずは貴方から見せしめです』


 アナウンスがそう言うと突然男の立っていた床が開き、真下へと落ちて行った。


「うわああああああああ!!!!」


 落下する男を見て皆がしんと静まる。


『話を聞かないとこうなります。あなた方には……デスゲームをするか、いますぐ消えるかの2択しか選択肢は無いのです』


 皆が穴の方をじっと見た。一般人や魔法使いには見えないようだが、遠目がきくエルフの狩人や俺達みたいに目が異様にいい人には見えていたのだ……落ちていく男の背中から途中で傘みたいなものが開いてゆっくり落ちて行ったのを。


「あいつ、多分死んで無いな」

「そうだな」

「えっ、何、あいつ死んでないの?」

「背中から何が出て開いてゆっくり落ちてったぞ」


 確かに変なリュック背負ってるなぁとは思っていた。だが、モブ顔の男の様子を見た限りではヤラセや演技のようには思えなかった。……何だ? まぁ、無事そうで何よりではある。

 とは言え、他の人達はそんな装備は無いので次に落とされたらそれこそ命が危ないのは事実なのだが。


 大人しく言う事を聞いておくべきか考えあぐねていると陛下が答えた。


「……とりあえず、要求が何なのか教えてくれないか。話はそれからだ」


『聞き分けのいい人は大好きよ。今から皆さんに行って頂くのは【指名制ゲーム】よ。好きな人や好感を持っている人を指名し、1番指名が少なかった人が1人ずつ脱落していく、恋愛デスゲームよ!』


「なっ、恋愛デスゲーム?!」


『ふふ、せいぜい他の人の好感度を上げて、1番モテて生き残る事ね』


 何て事だ……恋愛デスゲームなんて、恋愛経験の無い俺には不利に決まっているじゃないか。言っちゃあ悪いがこちとら、イケメンはハリボテですから。

 しかし、こういうゲームならば女の子の方が有利に決まっている。脱落者にならない為には早めに女の子のご機嫌を取らねば……女の子…………女の子どこ?

 見渡してみたが、よく見るとこの部屋……女の子が1人もいなかった。男子は何故かイケメン揃いだが。


「……なぁ、恋愛デスゲームなんだよな?」


『そうね?』


「男しかいないんだが……?」


『そうね? 何か問題でも?』


「……」


 その返答に一同顔を見合わせた。

 間違いない、コイツ……腐の国の者だ。


 腐の国とは……べつにそんな国が実在している訳ではなく、男同士でそういう妄想をするのが好きな輩をそう呼ぶ。俺も過去、何人かそういう女子に出会っているのだが、ろくな事がなかった。性別や恋愛は自由かもしれないが、腐の国の者達はそういうベクトルじゃないのだ。燃料があれば無限にそういう妄想が捗ってしまう人達である。妄想するのは構わないが人を巻き込んじゃダメだろう。

 室内の一同は集まり小声で相談し始めた。


(なぁ……どうする?)


(これ、本当にデスゲームかも怪しいよな。さっきのヤツも死んでなさそうだし……)


(単純にあの声の女の趣味じゃね? 男同士の恋愛の駆け引きが見たいだけな気がする)


(俺……実は1つ気になっている事があるんだ。確かめて来ていいかな)


 そう言うと魔法使いの男はアナウンスが聞こえる壁の方に向かった。


「あんた……受付のドワーフの女の子じゃないのか? 俺達を案内しただろ?」


『!!?』


「何で分かるんだ?」


「俺、実は魔塔で音の魔法の研究をしている研究員だから耳がいいんだよ。何か特徴ある声だなって思って覚えていたんだ。それに、最初に無作為に選んだとか言ってたけど、どう考えても作為的に選んだだろ。この状況を作っているのが案内したヤツだと思うと全部納得がいくし」


 確かに。言われてみれば確かにそうか。それに、ボディーチェックをしていたのもドワーフの女だった。さっきの落ちて行ったヤツが背負っていた変なリュックもその時必要だからと背負わせたに違いない。

 ……いや、言われたままに背負うなよ。


『ど、ど、何処にそんな証拠が!!』


「明らかに動揺してんじゃねーか!!」


「証拠を出せとか言ってるやつが大体犯人なんだよ!!」


『……そうよ。いかにも、私は受付のドワーフよ』


 最早正体がバレてしまい、観念したのかドワーフの女子は諦めたような口調になった。


「何でこんな事したんだ?!」


『うるさいわね!! あんた達に異世界とか転生とか悪役令嬢とか言ってもどうせ理解してくれないでしょう!!』


 ……いや、全部分かりますが?


「いやー……その、転生とかしてくるヤツ意外と多いぞ? なぁ」


「ああ。この間も俺、森で野生の聖女を見かけたし。危うく狩るかと思った……」


「何か困ってるんなら別にみんな力になるぞ? 人という字は支え合って出来ているとか異国のヤツも言ってたし」


 苦笑いしながら数人が口々に言った。他の乗客も苦笑いである。異世界人は全然知らないだろうが、この世界、マジでそういう話が多いのだ。皆の様子から察するに少なからず他の人も異世界人に会っているのだろう。ところで野生の聖女って何だ……?


『……私は、異世界から転生してきたの。転生したらこんなドワーフになっていて、ドワーフの悪役令嬢とかいうマニアックな物語の人物になってしまったのだけど……』


「それで、悪役令嬢が嫌で自分の運命を変えようと?」


 うーむ……状況はよく聞くものだが話が全く繋がらない。何か繋がる理由があるのだろうか


『いえ、悪役令嬢なのは全然いいのよ』


「いいんかい。じゃあ何が不満なんだよ」


『この私の物語は……ドワーフの中のかわいい女の子が、同じドワーフの意地悪なライバルの悪役令嬢に虐められて、それでもめげずに恋をするってお話なの。でも私……私……そういう悪役令嬢がやりたいんじゃないのよ!!!』


 悪役令嬢ドワーフが叫ぶと天井からモニターが現れ、カッコいい女幹部みたいなピチピチの黒レザーなスーツに黒いマスカレイドを半分着けたドワーフが映っていた。何これ?


『私がやりたい悪役はこっちなの!! 恋のライバル?? 虐め?? そういうのじゃないのよ!! もっとこうさぁ、デスゲームを始めようか! みたいな弄んで楽しむヤツがいいの!! 願わくばイケメンが苦しむ姿が沢山見たいの!!!』


 ……なるほど?

 面倒なタイプの悪役令嬢だという事は分かりました。

 つまり悪役令嬢ドワーフは、どちらかというと悪の秘密結社とか、悪い女幹部とかに憧れちゃう系女子ですね。ハイハイ。


 皆が言葉を失っていると、悪役令嬢ドワーフ改め悪い女幹部ドワーフの後ろの扉が勢いよく開いた。


『おいコラー! 何勝手にエレベーターゲート止めてるのー! しかも操作室改造して!!』


『キャー!! いやーー! 私は女幹部になるの!!』


『だから女幹部はダメだって言ったでしょう!! めっ!! 女幹部めっ!! ああ……お客さんすみませんねー。何かうちの子、結構独特な趣味があって……今すぐ動かしますからねー、すみませーん』


 そう言われてからすぐ、エレベーターゲートはまた浮上し始め、展望所に到着するとコッテリ絞られた女幹部ドワーフが土下座していた。


 かくして、急に始まったデスゲームは急に終わりを迎えた。



 尚、これは後日談なんだが、女幹部ドワーフの趣向は意外と一部でウケが良かったらしく、腐的な部分は改良され【脱出ゲームエレベーターゲート】としてアトラクションエレベーターが稼働する事になり、そこで念願の女幹部になる事が出来たとか。

 陛下も何か土下座する女幹部ドワーフが気の毒になったらしく、上司に何とか上手く活用出来る方法を提案してくれたというのもあったらしい。



 光の屈折で果てしなく空が青く見え、遠く自分達の大陸まで見えそうな位高い場所にある展望所。


 ここにある入国関門を抜ければ……やっと……やっと聖国だ。長かった。

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