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帝国一怪しい男(前編)



 漆黒の騎士団長ジェド・クランバル改め茶色の旅人ジェドと、帝国最強の皇帝ルーカス改め存在感の薄い旅人ルーカスは、ダンジョン都市ナポリを出て再び馬車で出発した。


 イエオンさんが多めに謝礼金を出してくれた為、馬車は貸し切りである。最初からこうすれば良かった。

 いくつかの街を越えると、ゲート都市へと辿り着いた。ここは我が帝国の国境になっていると共に、各大陸や国へのワープゲートがいくつも存在する。

 陸地の続く大陸はかなり広く、国と国とは森や険しい谷山で離れている。

 砂漠の国サハリのように船や海底トンネルが整備されているのは稀で、国や大陸間の大自然にはほとんど道が整備されておらず、余程のアホでない限りゲートを無視して他の地へ行こうなんて思わない。

 一般の人はこの都市で許可を得てゲートを通り、各大陸や国へ行くようになっている。これは国間のトラブルの防止にもなるのだ。


「いやぁ、ここまで色々ありましたが……これでやっと聖国に行けますね」


「本当に、こんなに時間がかかるとは予想外だったよ。君を甘く見ていたようだ……」


「俺は何も一切してないんですがね」


 まるで俺が何かしたような言い草だけど、俺は本当に何もしていないのだ。あちらが勝手にやってくるだけなのですが……



 ゲート都市はかなりの人でごった返していた。ここには大量にゲートがあり、それに準じて多くの人が集まるからだ。

 ゲートはそれぞれ受付をする場所が違う。この多くの国に繋がるゲートは魔法都市で研究されて作られたもので、簡単にワープが出来る様になっている為1人1人入国審査が厳しく行われるよう受付が設けられている。国によって持ち込み不可なもの、申請が必要なもの、滞在目的等……

 持ち込み不可な物としては、禁止されている薬品や危険な魔術具などやその国の生態系に害を及ぼす食品である。

 ちなみに聖国は帝国とは友好国ではないのもあり、かなり審査が厳しいだろう。が、皇帝が書面を作成しているので多分大丈夫なはず。例え殴り込みに行くとしても皇帝が許可証を発行しているのだから入国許可が下りない訳が無い。

 まぁ、今は普通の旅人だからちゃんと手順を踏んでますがね。

 表向きは聖国への巡礼の旅人という事になっている。神を信じないタイプの巡礼の旅人2人である。

 他の国と違って聖国はそういう人が多い。まぁそうだよね、そういう用事が無ければ行かないよなぁ。


 受付の列に並んでいると、後ろの方からザワザワと声がした。


「おい! あいつを捕まえてくれーー!!」


「危険魔術具の所持だー! その女を捕まえてくれー!」


 人混みをかき分けて走ってくるフードの女と追いかける警備隊。フードの女は何故かこちらに向かっているようだった。ヤバイ、避けよう。いや、捕まえるべき?


「へい、パス!」


「ん?」


 どうしたものか悩んでいると、女が何かを投げて渡してきたのでついつい受け取ってしまった。何これ?


「仲間か?!」

「捕まえろ!」


 一斉に向けられる警備槍、すり抜けて逃げてしまうフードの女。

 ええ……君達さぁ……

 俺は抵抗せずに警備隊に囚われた。まぁ、話せば分かってくれるだろう。



 鎖で雁字搦めにされ拘束具で魔法や力も封印され弱体化されて取調室に運ばれた。あかん、全然話聞いてくれそうな雰囲気無い。

 てか何なのこれ、何したらここまでされるのか教えてほしい。


「さぁ、お前達の目的は何か洗いざらい吐いてもらおう。何処の国だ? 何かの組織か? はたまた教団か??」


 取調室に並ぶ屈強なオッサン達は机をバァンと叩きながら詰め寄った。が、知らんものは全く知らんので答えようが無い。


「いや、俺は普通に歩いていただけで、あの女に魔術具を渡されたんだ。濡れ衣だ」


「そんな訳無いだろ! ただ歩いていた一般人がこんなに拘束されて取り調べされていて、そんな余裕の表情してる訳無いだろ!!」


 確かに。今から怯えても遅いかなぁ……遅いだろうな。先日も盗賊相手にそれやって火に油注いじゃいましたもんね。止めておこう。


「こいつ、この胸に付けている物……変装の魔法がかかった石が嵌め込まれてるぞ。それに、鑑定しても妨害されてしまう」


「十分怪しい根拠は沢山あるのだが、何か言い訳あるかね?」


 あー……うん、レベルだけは無駄に高いから妨害しちゃうんですよ。俺の意思じゃないんで許してほしい。

 あと、変装してるのも全く俺の意思じゃないんだが、変装勝手に解いたり身分明かしたりするのもいいのか悪いのか陛下が居ないから判断出来ない。陛下どこ行ったの??

 まぁ、今更皇室騎士団長ですとか言っても「そんな御方がここにいる訳無いだろ!」って言われて終わりだ。……詰んだなコレ。


「どうしても吐く気は無いようだな」


「だから全く身に覚えが無いんです……」


「おい、アレ持って来い!」


 オッサンがそう言うと、オッサンの1人が変な水晶を持って来た。


「これは心を見破る水晶だ。俺が今から質問する事に、動揺したりやましさがあったりすればこれが光る。質問に答えず黙っていてもこれで分かるという訳だ」


「……俺は別にやましい事は一切無いのでそんな物は無駄です」


 変な水晶を出してきたところ悪いが俺は無実だ。質問でも何でもするがいい、そして早く帰らせてくれ。


「お前は、何かの組織の一員でどこかの国へやましい気持ちを持って秘密裏に入国しようとしたな?」


 ピッカアアアア


「やっぱそうじゃねえか」


「いやちょっと待ってくれ、今のは質問が悪いぞ」


「今の質問の何処が悪いんだよ」


 確かに……悪いのは完全に俺達だ。


「お前は何か黒い事を隠しているな?」


 ピッカアアアア


「やっぱそうじゃねえか」


「いや、今のは本当に質問が悪いぞ?」


「黒い事を隠してる潔白なヤツがこの世界の何処にいるんだよ」


 ここにいます。潔白の漆黒の騎士がここにいるんです。


「まぁ、これでお前が怪しいヤツだという事は十分に分かった。よし、拷問して吐かせるぞ」


 急に物騒になってない? 国境とは言え帝国で拷問なんて、しかもこんな役人がマズイだろう。陛下に報告せねば……そういや陛下は何処なの……?



 ――数分後


「くぅ……これは……いや、俺は何も……やってない……」


「おうおう、いい加減吐いたらどうだ? もう心は限界だろ?」


 俺の周りにはふわふわで可愛い動物達、机にはスイーツや食欲そそるご飯の数々。肩や足や手は凄腕のマッサージ師に揉み解され目にはアイマスク、BGMはリラックス出来るヒーリングソングだった。


「帝国じゃ拷問の類は禁止だ。ビビッただろ? そもそも普通の拷問なんてした所で痛みに耐えかねて嘘でも罪を認めちゃったりして冤罪事件になるからな。そこで俺たちが考えたのは『幸せすぎて口が勝手に吐いちゃう式拷問』だ。この幸せな状況を前にすると、どんな極悪人も素直になっちまうのさ? ほら、口開けな」


「?! くっ……これは……もぐもぐ……あまぁい……」


 ありとあらゆる幸せな物が押し寄せてくる。いや、これはこれで罪が無くても吐いちゃうよ……ああ……何でも言っちゃいそう。助けて陛下……



 ★★★



 フードの女は裏路地に逃げ込んだ。途中で目立ちそうな男に荷物を渡したから今頃捕まっているだろう。

 彼には申し訳ない事をしたと多少心が痛んだのだが、目的を果たすためには多少の犠牲は仕方ないのだ。

 後はあの魔術具をタイミング良く発動させるだけだった。

 歩き出そうとした瞬間、後ろから声をかけられた。人の気配は全く感じなかったのに。


「何を企んでいるのか知らないが、捕まったのは私の友人なんでね」


 認識阻害の魔法がかかっているのか、存在がハッキリと認識出来ない男に退路を塞がれた。


「まずは、君の話を聞かせてくれないかい?」


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