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地下ダンジョンは心の迷宮(後編)



 ナポリのダンジョンは、地上層から段々と地下層に降りていくものであった。

 入り口付近は最早観光地であり……顔はめパネルや、岩場に掘られた顔の口の窪みに手を突っ込んで度胸を試したり、3本の湧水を飲むと願いが叶うだとか、ダンジョンの歴史史料館とかモンスター体験コーナーなど……一般人の賑わう観光スポットであった。


 そこから下層に降りた先はダンジョンの魔物が現れたり罠が仕掛けられたりする為、一定以上のレベルの証明がある冒険者か、もしくは冒険者が同伴している者でないと立ち入る事は出来ないらしい。

 俺達の話はギルドから通っているらしく、捜索許可はすぐに下りた。



 1階部分の緊張感の無さとはうって変わり、ひんやりとした岩から冷たいダンジョン独特の雰囲気が漂う。


「1階から下は普通のダンジョンですね。さっきの雰囲気でずっと一緒だったらどうしようかと思いましたが……」


「観光スポットとは一線をちゃんと引いているのだろう。普通の冒険者が探索するようにはなっているみたいだ」


 1階部分は一般人ばかりで盛り上がっていたのと違って地下では普通の冒険者が探索していた。

 だが、おかしな事に一階から地下へ降りる時にはもっと沢山人が居たはずなのだが、その人々の半数は見当たらない。


「イエオンさんの息子とかあんなに沢山いた他の人達は一体どこに行ったんですかね?」


「ふむ。何だか皆、同じ方に歩いていないか?」


 次から降りてくる人達も、まるで行き先が分かっているかのように迷いもなく進んでいく。


「あの、すみません。皆さん何処に行かれるのですか?」


「えっ! いや、あの……僕たちは何回か来たことあるからもっと地下から探索始めるんだよ! なあ?」


「あ、ああ! そうだ」


 声をかけた冒険者は動揺してそそくさと何処かへ消えてしまった。


「……絶対怪しいですよね」


「ああ。とりあえず、明らかにどこかへ意思を持って向かっている者の後をつけてみよう」


 俺達は入り口から一直線に足早で何処かへ向かう怪しいグループにロックオンし、コッソリその後をつけた。


 行き着いたのは数階降りた先の行き止まり。壁にある隠し扉へ皆が入って行く。


「何ですかね? あれ」


「怪しい教団だとすると見過ごす訳にはいかないな。私達も入ろう」


 後に続いて行こうとしたら、入り口の男に止められた。


「合言葉を言え」


「合……言葉……?」


 困って陛下を見るが、陛下も困った顔をしていた。何故ならノーヒントだからである。情報が少ない。

 俺は正直に聞いてみた。


「無きゃダメですか?」


「ダメに決まっているだろ」


「えっと……せめてヒントを……」


 もう……このやりとりの時点で合言葉を知らないって分かるだろうが、入り口の男は何故かヒントをくれた。意外と優しい。


「はぁ……仕方ない。もえもえ〜?」


「……?」


「もえもえ〜????」


 ヤバイ。ヒントを貰ったはずが余計分からん。何その謎の擬音みたいなやつ。何か何処かで聞いたような気もしなくもないが……ダメだ、わからん。諦めよう。

 俺は無言で男に首トンをして気絶させた。陛下も納得しているようだから大丈夫だろう。やっぱ武力が最後には勝つのである。



 見張りの男を道はしに寄せて中に入ると、中は黒い布で壁が覆われた部屋だった。

 割と広いが、そこにはイエオンさんの息子含め沢山の男達がいた。


「やっぱ何かの怪しい術師か教団ですかね? ダンジョンだから精神を操る魔物か、はたまた幻術系かもしれませんが……」


「しっ、何か始まるみたいだ」


 一斉に部屋が暗転したかと思うと、幕の一部が上がり、舞台のような所に1人の女性が現れた。


「みんな、今日は集まって貰って悪いんだけど……私、本当はこんな事したくてここにいる訳じゃないの」


 現れた女性はスポットライトを浴びながらいきなり語り出した。

 その言葉を聞いた部屋中の男達が『えー?? 何で??』と答える。


「私、本当は処刑される運命を背負った魔族の女の子なの!」


『えーーー!!!』


「だからこのダンジョンに身を潜めて静かに暮らそうとしていたのに貴方達に見つかってしまったわ。だから……私……」


『何なにー?!!!』


「大人しく処刑されてやるぜー! いくよみんなーーー!!!」


『オーーー! タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!!!!』


 ……何か始まった。急な語りと男達の返答と共に何かが始まってしまったのである。

 男達の手には色とりどりの光る棒。アレには見覚えがある。魔王の大ファンとかいう悪役令嬢アリアが特注で作らせたのが世に広まったヤツである。

 あと何かハッピとかハチマキとかを着て、文字の書かれた団扇とかパネルとか色んなものを持っている。

 それにこの感じ……見覚えがありすぎた。アレだ、ライブや。アークのライブと同じや。

 いや、アークの時は大ホールだったが、こちらは小ぢんまりとしているホールで、女性が歌うのよりも観客のライトの振りが激しく合いの手もでかい。


「♪異世界に転生! ビックリしちゃった! 目が覚めたら私、悪役令嬢なの?」


『L、O、V、E! ラブリー、悪女!』


「♪処刑されるなんてゴメン、私地下に潜るわ」


『見つけてやるぜ! どこまでも!!』


「♪ダメよ、私の運命決まっているわ」


『諦めないで悪役令嬢!』


「♪その時私気付いたの変えてみせるわこの運命! 絶対! 処刑! させない!」


『オイオイオイオイオーイング!!』


 ……何これ???

 ヤバイ、陛下がこちらを見ている。いや、ゴメンなさい、俺にも流石に分からない。

 歌っている内容がもろ悪役令嬢だから、多分悪役令嬢なんだろうけど……サッパリ分からない。何これ???


 中があまりにも煩すぎるので陛下と2人、一旦外に出た。


「ジェド……これはああして歌っているからには何かその関連の人なんだろうな……」


「ですね。このライブ的なヤツが終わったら話を聞きに行きましょう」


 歌が終わったらしいので部屋の中を覗いたが、何故か長蛇の列が出来ていた。


「あの、この列何ですか??」


「アンタ達初めてかい? これは握手会だよ。彼女とお話したい人は握手券を買うのさ」


「握手会? ……ならばそれが終わるまで待とう」


 しばらく、その握手会とやらの様子を見ていた。

 ただ女性と握手をするだけだよなぁ……何が楽しいんだ?

 と、ボーっと見ていたが、一向に終わる気配が無かった。列が何故か減らないのである。


「陛下……俺、タイムリープしてます?」


「いや、握手が終わった者がまた並び直している。これでは終わらない……」


 そうなのだ。列の者達は何故か握手券を束で買っていた。一枚につき5秒位握手や会話をしていて、また並び直すのを皆繰り返しているのだ。プレゼントもその都度渡している。


「これって……もしや彼女と会話するにはアレを買わないとダメなのか?」


「その方が早いかもしれないな。ジェド……行ってきてくれ」


 陛下が金貨を渡してきた。え? 俺が行くの? まぁ……そうなりますか。

 俺はありったけの握手券を買い、列に並んだ。


「あの、俺達は洞窟で行方不明者が出ていると聞いて調査に来たのですが、貴女が――」


「はい5秒でーす」


 話の途中で引き剥がされてしまった。5秒で話するの難易度高すぎない??? これは簡潔に行かないとヤバイ。

 だが、悪役令嬢(仮)も凄いのが、皆ループする度に話を飛び飛びでしているにも拘らず、個々の話の内容をちゃんと覚えているのだ。何だそのスキルは。記憶力が凄い。

 ……俺はまた並び直し順番を待った。


「貴方は悪役令嬢なのですか? 良ければお話を聞かせてくれませんか?」


「?! 分かりました、私は――」


「はーい5秒でーす」


 これ、全部聞くのにどんだけかかるんだよ……

 また並び直そうとした時、陛下が握手券の束を係員に渡した。


「はぁ……すまないが、これ一枚で5秒ならばこの枚数全部を一気に使わせて貰えないだろうか?」


 陛下のナイスな提案でやっとまともに話せるようになった。



「私は前世である小説を見ました。その小説では人間を惑わし取り憑く悪い魔族の令嬢サキュラが悪役として処刑されていましたが、私は気がつくとその小説の魔族の女の子になっていたのです。私は処刑の運命が怖くてダンジョンの奥底に潜りました。私、転生前は地下アイドルだったので地下が何かこう落ち着くというか……」


「地下アイドルって何だ? 日陰で活動でもしているのか?」


「まぁ、本来はローカルアイドルとかインディーズアイドルとかそういう意味ですが、私はマジで人気の無い地下小劇場で常連のファン達に囲まれてひっそりライブ活動していました。この陰鬱な冷たい石の感じが打ちっぱなしのコンクリートのあの劇場そっくりで……ついつい隠れて歌っていたのです。そうしたらある日、冒険者に見つかってしまって。私、ダンジョンのモンスターとして殺されると思ったわ、もうダメだと……でも、冒険者の皆さんはもっと聞きたいって言ってくれたの。嬉しくって、ついつい調子に乗って昔のように歌って踊って……気が付いたらファンの知り合いがまたファンになりこんなに増えていたのだけど、まさかそんな行方不明騒ぎになっているなんて知らなくて……やっぱり私、人間を惑わす魔族としての運命は変えることは出来なかったのね!」


「違う! サキュらんは悪くない!! 悪いのは俺達だ!!」


「そうだ。ついつい楽しくて家に連絡も忘れてのめり込んで依存症のように毎日通ってしまった俺達が悪いんだ……サキュらんを罰しないでくれ!!!」


 泣き出すサキュらんをファン達が庇い始めた。本当にな、悪いのはお前らだ。はよ家に帰れ。


「はぁ……事情は分かりました。ですが、こんなコソコソすると皆心配するので、ちゃんと取り決めれば済む話です」


「取り決め?」


「ダンジョン内で構わないので、ちゃんとギルドに申請して、日時をちゃんと決めてコンサートすればいいのです。あと、無茶な人集めや商売はせず、魔石に録音して販売したりグッズ展開で真っ当な商売をして下さい。君達も、無茶なお金や時間の使い方はせず、長く応援出来るようにしてください。その方が双方の為にもいいでしょう? ギルドから帝国にちゃんと申請すれば、ダンジョン内の特殊スポットとして整備され、認可が下りるはずです」


「認可……つまり……メジャーデビュー!! 私、真っ当にもっと沢山のファンが出来るように頑張ります!!!」


「サキュらーん!!!」


 サキュらんはその後ダンジョンアイドルとして登録し、ナポリのダンジョンの新名物となった。

 ひと目見たいとファンが増えたのだが、行方不明騒ぎになる程の頻度でのコンサートは止め、その代わりに曲やパフォーマンスを増やして会場もちゃんと整備して実施するようにしたらしい。

 ファン達も心配をかけてはアイドル活動の邪魔になってしまうと気を付けるようになったとか。流石陛下……流石の采配である。さす帝。


 まぁ、それらは後日談だが、とにかくファン達はその日はちゃんと帰ると約束してくれた。アイドルとの約束は絶対なのだ。

 息子の無事が分かったビーク・イエオンさんも喜んでいた。


「やっと解決したね。これで聖国に進める……」


「そういや聖国に向かっていたんだった」


「ジェド、私はこの調子だと聖国に着く頃には疲れ果ててしまいそうだよ……頼むよ……」


 また俺のせいみたいに〜。……すみません、今回も多分俺のせいですね。

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