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旅は道連れ世は悪女(後編)



 公爵家子息、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと、帝国最強の皇帝ルーカス陛下……改め、茶色の旅人ジェドと認識阻害のメガネで存在感薄い旅人になっているルーカスは、盗賊のアジトでふん縛られていた。


 隣町のリトから聖国へ向かっていた街道、割とすぐの所で盗賊に囲まれたのである。

 そのまま馬車に乗っていた全員……御者も含めてロープに縛られ、街道から外れた森の中の洞窟へと連れて行かれた。馬車は無傷だったので、売れるから馬の入れる近くまでは連れてきているのだろう。多分。


「ジェド……君と旅に出ると思った時点で、何かしらのトラブルに巻き込まれる事は覚悟していたけど……まさかこんなにすぐに止められるとは思わなかったよ」


「何かその言い方だと俺のせいみたいに聞こえますが、こんな奴ら簡単に倒せるけどアジトまで特定する為に大人しく捕まろうと言ったのはへい……貴方ですからね」


 そう、折角盗賊がわざわざ来てくれたのだ。ついででも壊滅させておく事に越した事はない。スピード解決である。


「にしてもこの帝国で悪事を働くやつがまだいたんですね」


「この国に住んでいればそんな事しでかす輩は居ないだろうから、外部から流れてきたんじゃないかな?」


「はぁ……自国で管理しといてほしい」


「おい、お前らうるせえぞ! 誰が無駄話していいと言った?!」


 そうだった。捕まったものの、緊張感が無さすぎてついつい駄弁ってしまった。ただの捕まった旅人はこんな余裕ある訳ないのだ……今からでも怯えておけば間に合うだろうか?


「ひっ! ヒエエエエ!! ごめんなさい!! 恐怖のあまり逆に緊張感が無くなって何て事を!!! 怖い、怖すぎる!! さすが盗賊様だ! めちゃくちゃ怖い!! 私めはどうなってしまうのでしょうかあああ!!!」


「……てめえ、俺達を舐めてんのか?」


 あれ? おかしい。何か怒ってる。


「何か俺おかしかったですかね?」


「君さぁ、それはさすがに煽ってるでしょう。本気でやってるとしたら君の感性疑うけど。言われた方の気持ち考えてみた事ある?」


「お前ら……へっ、だがそんな余裕をかましていられるのも今のうちだ。もうすぐお嬢がお見えになる」


 見張りが入り口を見ると、ガラの悪い男達を引き連れてフローラとかいう目つきの悪い女が現れた。

 しかしこいつら……とにかくビジュアルがやばい。

 取り巻き達はハゲ(剃ってるのかな……?)か、真ん中だけモップみたいに髪を生やしてるかのどちらかで、防具の肩当ては無駄にトゲトゲ刃物が生えている。いや、肩にトゲが生えてる必要ある? 肩で攻撃でもするの??

 いや、よく見るとみんな爪先やスネや腕など何処かしらトゲトゲしていた。日常生活に支障は無いのだろうか?

 帝国では絶対流行らない。一体どこの国のファッションセンスなんだろう。魔族だってもっとオシャレだぞ?


「あんた、アタシ達をじろじろ見て、そんなに盗賊が珍しいかい?」


 あかん。ツッコミ所が多すぎてつい見すぎてしまい目をつけられた。コイツらの全貌を明らかにするまでは大人しくしているはずだったのに……俺ってやつは。


「ふぅん、生意気な顔してるね。アタシはねぇ、生意気なイケメンが大好物なのさ」


 生意気なイケメンとは? 俺は一体どんな顔をしていたのだろうか。確かにこの中じゃイケメンですね。陛下は完全にモブと同化してるし。溢れ出るオーラをよくぞそこまで隠したものだ。魔術具のメガネの力凄ない?

 しかし、フローラが俺に何か拷問でもしようものならば好都合である。それをきっかけに乱闘騒ぎだ。で、アレだろ? 「控えい〜控えい〜」みたいな感じで陛下の紹介すれば良いんだろ? 時代歌劇でそういうヤツ見たぞ。


 するとフローラは何故か長いコートを脱ぎ始めた。え? 何?? この話全年齢なんですが??

 ――と、思ったらコートの下には黒い皮の露出度高めなスーツを着ていた。もちろん肩や足はトゲトゲしている。確かにやたらコートの肩幅広くない? とは思っていたのだが、そんな物を着込んでいたのか。

 フローラがおもむろに壁の紐を引いた。何故か取り巻き達が大盛り上がりである。

 紐を引くと布で遮られていた奥が見える。中にあったのは壁にかけられた手枷に鞭に何か他にも色々用途の分からない物が置かれていた。拷問にしては何かちょっと様子がおかしい。


「アレは何に使うんですか?」


「うふふ、知りたい? アタシらはねえ、捕まえた男達を奴隷商に売り飛ばすのだけど……ここである程度従順にする為に軽く痛めつけていくのさ。最近じゃあそこら辺にいるようなオッサン達も変に人気があってねえ。でも、アタシはアンタみたいな生意気なイケメンがタイプねぇ」


 ああ……盗賊に奴隷商かぁ。しかも痛めつけるとか、帝国的にだいぶNGです。

 どこの国がそんな事を許しているんだよ……ほらもう皇帝カンカンよ? 君達にはモブにしか見えてないかもしれないけど、怒りがね……俺には伝わってきますのよ。

 盗賊が何をしてるかも大体分かったし、もうそろそろいい頃合いだな。よし、ロープを引きちぎって暴れよう。


 ――と、思った瞬間に鞭を持ったフローラの動きが雷に打たれたかのように止まり、目つきの悪い顔が一瞬にして豹変した。

 フローラは何だかわからない顔で辺りを見回し、部屋にあった鏡で自分の顔を見て驚愕し叫んだ。


「こ、これは……私が見ていた『非業の悪女・女盗賊フローラ』という小説で悪事を散々働いて処刑されてしまう、あのフローラじゃない! も、もしかして私……小説の世界に来てしまったの??!!」


 フローラの言うとち狂った内容にアジト内が静まり返った。


「お、お嬢……?」


「きゃあああ! 何、この世紀末のモブみたいなやつ!! それにこの格好!! いやああ!! 恥ずかしっ、痛っ、トゲトゲが刺さっ! 痛っ!」


 女盗賊頭の豹変っぷりに盗賊達が動揺し始める。

 俺はこの状況に見覚えがあり過ぎて思わず手をポンと打った。


「……ジェド、君1人だけ納得してるけど、アレは何なの?」


 他の捕まっているおじさん達も盗賊の子分達も一斉にこちらを見た。よろしい、ならばお教えしよう。


「こほん、アレはいわゆる『憑依型』ですね。異世界人が物語やゲームの登場キャラクターの世界に憑依してしまうものです。今、フローラの体の中には恐らく女盗賊フローラの人生や結末を知っている異世界の女性が入っているのでしょう。悪役令嬢ものでは良くある話です」


 悲しいかな、数々の悪役令嬢事件に巻き込まれすぎて詳しくなってしまった。そんな知識全然いらない。


「君、そんなに詳しくなって悲しくないの……?」


「嬉しいように見えますか?」


 子分達は女盗賊フローラを見限ったのか、怖い顔でプルプルと震え出した。


「何を言ってんのか知らねえが……もうお嬢は頭じゃねえ! お嬢の趣味で男の奴隷売買なんてものに手を染めてたが、こうなったら好きに暴れてやるぜ!!!」


「おー!!! エルフ奴隷売買だー!!」

「いや、ロリ巨乳獣人だー!!!」

「いや、女戦士だー!!!」


 何だか好みが一致してないが、盗賊達が暴れ始めたので今こそ成敗時だろう。俺はロープを引きちぎって高らかに言った。


「静まれーい! この御方をどなたと――」


「ジェド、私達どういう趣旨で旅してるか分かってる?」


「……ただの旅人だ!!! 悪党共は許さないぞ!!」



 そうして、ただの旅人によって盗賊団は壊滅した。親切な旅人がお縄にしたのである。

 リトの警備隊に連絡し、全員帝国に送ってもらうように手配してもらった。


 女盗賊フローラは異世界人という事もあり、考慮して貰えるだろう。安心してくれ、帝国に処刑なんてシステムは無いから。

 かくして、リトを出発してすぐに発生した盗賊事件は解決した。……早く聖国に行こう。



 ★★★



 洞窟が見える高台、アジトから検挙される盗賊達を見る男が1人。

 残念そうに見つめるその男は目を細めながら本を読んでいた。本の表紙には『非業の悪女・女盗賊フローラ』と書かれていた。

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