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悪役令嬢は魔王様しか勝たん(後編)

 


「いやー……さすが谷山ボイスは破壊力が違うなぁ。ハードロックな歌声がヤバいんですよね」


 タニヤマって誰ですか……? あとハードロックがどんな歌なのか分からないけど、ハードな岩って位なんだから固いんだろうなぁ……



  ―――――――――――――――――――



 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは悪役令嬢に巻き込まれて魔王領に来ていた。


 悪役令嬢アリア・レアリティが前世でプレイし、自らが断罪される悪役令嬢として登場する『ファンタジー世界でアイドル育成☆革命スターコズミック〜歌って踊って戦って……そして愛して』のラスボス、魔王アーク様に会いにいく為に。


「早く生アーク様を拝みたい……自力で魔王領に行く事も考えたのですが、やっぱ侯爵令嬢1人がで行ける程安全な所じゃないって家から許可が出なかったのですよね。あっ、でもその代わりに推しを応援する為のグッズは沢山作ったんですよ! この世界ではアーク様の絵姿は全然出回ってなかったのですが、前世で立ち絵は穴が開く程見ていたので、脳裏に焼き付いた記憶を頼りに作らせました! 姿絵入りの団扇に抱き枕、このぬいも可愛くないですか?? あとアーク様のカラーは濃い紫なので、紫も含めて七色に光る、アーク様の名前入りのペンライトも!! 流石に電池が無いからそんなものは作れないかなーと思いましたが、流石ファンタジー世界! 多少お金がかかりましたが、魔石とか魔道具とかで何とか作れるもんなんですね!」


「分かったから魔獣のウヨウヨしている森でペンライトとやらを光らすのはやめてくれ」


 どうもこの手の方は興奮すると早口でテンションが上がったまま止まらなくなるのか、ペンライトをまた光らせようとしたので慌てて止めた。

 さっき鞄の中でスイッチが誤作動してめちゃくちゃ光り、光に群がる魔獣の群れに追いかけられたばかりである。

 魔獣の声に反応して色が変わってて怖かった……鞄に入れてる時は魔石抜いておいてくれ。


「あー、早く生アーク様を拝みたいな! どんな声なのかしら……私としては速水ボイスかなぁと思ってるんだけど、何せ魔王戦もアイドルの歌がメインの音ゲーだから、クリアしても『あまりの歌と愛の力に魔王は消滅し、平和が訪れた』とかいうテキストが流れて終わるだけで全然アーク様の性格とか過去とかは描かれてないんですよね。まぁ、情報供給が少ないからこそファンの想像力が暴走するといいますか……」


 何そのゲーム……もう開発者の人、魔王の扱い面倒くさくなってるだろ絶対。てか、だから誰ですかハヤミ。


「おい、お前ら。さっきから同じところをグルグル回っててイライラする……こっちに来い」


 声が聞こえて振り向くと、そこに居たのは1匹の黒い獅子であった。

 あー、なんか見覚えのある木がよく出てくるなーと思ったら、やっぱり同じ所回ってたのか。まぁ、魔王の森だもんね、惑わす魔法とか結界とか張られてますよねー……


「そんなものは張ってない。お前らが勝手に迷っただけだ。ったく……」


 えっ……なんか普通に心読まれてません??? あと普通に会話してるけど魔獣って喋れるんだっけ??


「お前の心が常人の倍くらいダダ漏れで煩さすぎるんだよ……ほら着いたぞ。あと、俺は普通の魔獣じゃないからな」


 城に着いた途端、黒い獅子は人の姿に変わった。

 あれ? この人最近見たような……? もうちょっとこう、斜め45度位から……

 あ、そうそう。抱き枕の絵に似てるわ。


「ぎゃああああああああああああああああ!!! まままままま魔王アーク様あああああ!!!!!」


 悪役令嬢アリアが急に叫び始めたのでめちゃくちゃビビった。アーク様もドン引きしている。

 大興奮で叫んだそのまま倒れたので受け止めたが、アリアは天に召されたかのような穏やかな顔をしていた。


「まさかの……グリリ……バ……」



 魔王に案内されて着いた魔王城は想像してたより遥かに綺麗だった。さっきの魔獣の森を抜けた空もめっちゃ青空で、お城の外壁は真っ黒だったが、青空と入道雲のコントラストが美しくめちゃくちゃ絵になる。


「丁度雨季が明けたばかりでな。もう少し早く来てくれれば雷雨で魔王城っぽい雰囲気があったのだが……」


 城の窓から見える裏側は海だった。白浜では魔獣たちが砂遊びや海に入り楽しんでいる。ああ、海開きの時期なのね。


「それで、魔王様に相談が……」


「その乙女ゲームとやらの話はルーカスから聞いている。俺も歌とか愛とか程度で倒されるとは正直思えないのだが、消滅させられるのはちょっと勘弁してほしい」


 ですよねー。てか陛下、手伝わなくていいって言ってきたのに! 子供が1人でやるって言ってるのについつい手伝ってしまうお母さんか何かですかね?


「ハァ……ハァ……すー……すー……これが……夢にまで見たアーク様の臭い……生アーク様破壊力半端ないっス」


 こっちはこっちで悪役令嬢アリアが変態化していた。めっ、令嬢がそんなすーすーハァハァしちゃいけません。

 令嬢要素が薄れつつあるアリアは最早悪役どころかただの変態だった。魔王様もドン引きである。


「じゃあ、魔王様にも会えたという事で……あんまり長居してもご迷惑になっちゃうから帰りましょう」


「待ってください!!」


 帰ろうと踵を返した瞬間、止めるように叫ぶアリア。えっ、何?


「一生のお願いです!!! 死ぬ前に、私の最後の願いを聞いてください……アーク様のライブを……ライブを! 死ぬ前に冥土の土産とさせて下さい!!!」


 と、アリアは土下座しながら懇願した。悪役令嬢土下座である。自分が土下座する事は多々あったが、悪役令嬢からされるのは初めてだ。

 ……てか、何言ってるの? 相手魔王ですけど????

 あと一生のお願いって、行けたら行く並に信憑性低いヤツだよね?? すでに君のお願い大分聞いてますが……? 悪役令嬢はこれだからなー。調子に乗るんじゃないよ! ねー魔王様も困惑してるでしょ。


「別に構わんが」


「ですよねー……えっ?」


「それしきの事で帰ってくれるならば別に構わんと言っている。変に断ってしつこく来られても困るから。こちらとて、ルーカスの関係者といざこざを起こすのは避けたい。歌と愛よりも前に、ヤツを怒らすと物理的に消滅する」


 えっ、あの割と優しい陛下を怒らせるって……何したの?


「魔王領が結構治安悪かった時に1回めちゃくちゃ怒られた……それ以来、魔獣とかの管理もちゃんとしてるし、猛獣はちゃんと爪切ったり噛み癖つかないようしつけている」


「猫か」


「ふわふわでかわいい魔獣と触れ合えるカフェとかもあるから良かったら今度遊びに来てくれ」


 何それ行きたい。



 魔王の快諾により、俺達は広間に移動した。魔王城の中に適切な大広間があったので、そこでアイドルライブを行う事にするらしい。

 さっきそこの壇上から片付けていたのって玉座的なヤツだよなぁ……そんな所でアイドルライブとか行っていいのだろうか?


 魔王は吸血鬼っぽい魔物と打ち合わせをしていた。


「魔王様、ではこちらの段取りで宜しいですね? 問題無ければ15分後に始めます」


「ああ」


「おーいテクニカル準備ー! オンタイムで始めるぞー! 各チーム問題あれば声くださーい」


「すみませーん、照明チーム直しが追いついてないのでもう5分くださーい!」


「5分押しで20分後開始ー! 準備お願いしまーす」


 この短時間ながらテキパキとよく分からん準備が進められていく。

 ……何か裏方の方々、謎に手慣れてない? もしかして勇者が魔王の所に辿り着いた時の雰囲気とか音とか演出って、裏方の皆さんがやってるのだろうか。


「最近はこういった舞台装置の開発が充実していてな。何でも異世界から現れた聖女が吟遊詩人などの歌う場所の設備充実に力を入れているらしく、こういった煙や花火や炭酸ガスなどの演出装置が流行ってるのだとか」


 いや、それ……絶対ファスコの主人公じゃろがい。


 もうすぐ始まるらしいので、我々は座席に移動した。1番前である。

 他の席にも続々と魔物の皆さんが座っていく。

 各々ペンライトを手や口で咥えたり10本くらい羽に刺してるヤツもいた。何でみんな持ってるの?


「ああ、これですか? 何でもさる人間のご令嬢が個人で職人に作らせたものが発端で広まったらしいのですが、現在は君主に忠誠を誓うアイテムとして魔王領でめちゃめちゃ流行ってます」


 アリアの作ったやつ広まっとるやないか。

 もしかして森で群がってきた魔獣もペンライトが欲しくて来たのだろうか。


「ああ……ついに……夢が……もう、死んでもいい」


 アリアは感無量のあまりすでに泣いていた。

 これはもう実質、武道館……と、ずっと呟いている。武道をする館って何かそういうのの聖地なの?


「おい、始まるみたいだぞ」


 ブーーーと音が聴こえて明かりが全て落ちる。落ちる瞬間にブーーー音の聞こえる方を見たらスタッフと書かれた鳥だった。お前が鳴いとるんかい。

 眩い光が蠢く中に白い煙が立ち、その後ろが光に照らされ魔王のシルエットが見えた。いや登場カッコイイなおい。

 その瞬間、キャアアアアア!!! という悲鳴にも轟音にも似た歓声が会場を埋め尽くし、持っている色とりどりのペンライトが一斉に紫になった。何これ。

 よく見たら一段低い所に楽器を持った魔物がいて、登場と共に壮大なBGMを奏で始める。


「今日は、人間の願いを叶えるべく……不本意ながら我が歌声を披露する事とした。短い時間ではあるが……楽しんで貰えると幸いだ…………行くぞアリーーーナーー!!! 2階席ーー!! 1階席ーーー!!! 声が小さいぞーーーー!!」


 呼ばれた観客はめちゃくちゃ盛り上がってる。全然不本意じゃない。めちゃくちゃノリノリじゃねえか。


「行くぜ……聞いてください『デッドオアアライブ〜生死を問わず突き進め』!!!」


 魔王城は俺を取り残して熱気に包まれていた。

 魔王がコールする、会場がレスポンスする。

 ヘイ! ヘイ! ヘイ! と振りあがる拳とペンライト。

 生死を問わず突き進んでいた。俺1人がスタート地点である。

 曲の終わりと共に会場が光に包まれ、何か銀色のテープが発射されて空から降り注ぐ。

 ああ……めちゃくちゃ綺麗だなー。これがスターコズミックか?


 ファスコの聖女さん、もうファンタジー世界の魔王城は仕上がってますので革命は起こさなくて大丈夫です。



 充実して満足したアリアは、命の続く限り推し続けるので、簡単には死ねないからゲームの件は自力で何とかする、むしろ聖女に魔王推しを布教すると意気込んでいた。


 生きる希望が出来て良かったね。頼むからもう2度と巻き込まないで下さい……

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