夢とイケメンと変な男と
漆黒の騎士団長ジェド・クランバルが再び眠りにつくと、そこはファンシーな世界だった。
1度目は深い闇に落ちるような、夢を見ない眠りだった気がする。余程疲れていたのだろう。
シャドウに起こされた時は眠りを邪魔された事に腹が立ちすぎて誰かに八つ当たりしたような気もする。後で謝っておこう……自分は皇帝に仕える皇室騎士団長、公爵家子息ジェド・クランバル。眠すぎて八つ当たりなんてするような人間ではないのだ。多分しないと思う。ま、ちょっと覚悟はしてね。
夢かわ色のファンシーな世界には何となく見覚えがあったのだが、ふわふわの綿飴みたいな綿毛に包まれていたのが心地良いので気にせずそのまま寝る事にした。夢の中でも寝られるなんて最高すぎない?
しかもこの綿飴、妙に体にフィットする。真実の眠りが見つかりそうな身体に優しいマットレスだ……
――ふと、横になっていたその目の前に手が降りてきた。え? 何?
見上げると何か夢かわ色の髪、全体的にファンシーな色合いの男が覆い被さっている。
????????
「夢の中に来てくれてありがとう。さぁ……恋を始めよう?」
と、夢かわイケメンが迫ってきた。
「ウワアアアア!!!!!」
俺は夢かわイケメンを全力を込めて投げ飛ばした。これは異国の武術家が教えてくれた技で巴投げというらしい。異国の武術家サンキュー!
投げ飛ばした夢かわイケメンには赤字の数字が現れて、そのままイケメンごと消えた。数字がダメージか何か? え? 本当何??
「あら? 貴方もしかして、漆黒の騎士ジェド・クランバル様?」
声の方を振り返ると見覚えのある令嬢が居た。確か、『夢の中の騎士様と200回のプロポーズ』とかいう乙女ゲー(?)の夢の中に出てきた悪役令嬢……
「君は……確かルビーとかいう悪役令嬢。何故君がここに?」
「それはこちらのセリフです。ここは、私が前世でプレイした『夢の国は恋するイケメン達の罠』というゲームの世界ですし」
愕然とした……何故だ、俺はただ静かに眠りたかっただけなのに、何故か乙女ゲームに巻き込まれていたのだ。寝ぼけて誰かに八つ当たりした罰だろうか……?
「それで、このゲームでも君は悪役令嬢なのか?」
「まぁ……そうと言えばそうなのですが……」
ルビーは何故か歯切れの悪い返答だった。そんなルビーを訝し気に見ていると後ろから男の手が伸びて抱きしめられた。
「捕まえた……もう離さないよ?」
「ギャアアアアア!!!!」
俺は一気に脱力して相手の重心が崩れた所で足を踏みつけ頭突きし、怯んだ相手を思いっきり前に投げ飛ばした。
先程と違う夢かわイケメンだったが、またしても赤字の数字と共に消えて行った。身体中鳥肌が酷い。
「ゲームの説明をしろ」
「乙女ゲームです」
「そんな訳ないだろ」
「やっぱそう思いますよね」
見くびらないでほしい。これでも数々の悪役令嬢事件に巻き込まれて乙女ゲームの事位知っている。こんな強制的に男が寄ってたかるような様子のおかしい乙女ゲームがあってたまるか。いつだって選ぶ権利は女性側にあるのだ。
「この『夢の国は恋するイケメン達の罠』というゲームは主人公が夢の中でありとあらゆるイケメンに迫られるものです。主人公はイケメン達の甘い言葉から逃れる為に迫り来るイケメン達を倒すという乙女ゲームですが」
「ちょっと待て、それの何処を乙女ゲームと呼ぶんだ?」
ルビーはため息混じりに言った。
「当初は夢の中でイケメンに迫られるだけのちゃんとした乙女ゲームの予定だったのです。しかし途中から、なんかよく広告に出てくるようなゾンビゲームに感化された制作陣の悪ノリで……蓋を開けるとこんな事になっていました」
なるほど……これは斬新な物を作ろうとした結果失敗したパターンだな。
「で、君はやっぱ悪役令嬢なのか? そのゲーム性で何の悪事を働くのか疑問だが」
「はい。主人公とイケメン達の恋を邪魔する為に妨害工作をしたり、主人公に武器を渡したりします」
それもう仲間じゃねえか。
「で、どうやったらこのゲームは終わるんだよ」
「このゲームのエンディングは3種類あります。イケメン達に捕まり夢の中で一生幸せに暮らすか、夢の中のイケメン1人と真実の愛を見つけて2人で現実に戻るか、全てのイケメンを倒して1人で現実に戻るか……です」
「実質3つ目しか無いんだが」
「まぁそうなりますね。ジェド様は男性ですし。さ、これをお使い下さい」
と、ルビーから渡されたのはピコピコ鳴るハンマーだった。
「……おい。どう考えても殺傷能力が無いが?」
「R15の付いてないこの世界で殺傷能力のある武器渡す訳無いでしょう? 大丈夫です、イケメン達はメンタルが弱めなのでちょっと殴られた位で消えます」
ならば素手で殴った方がダメージ大きいのでは……? ピコピコするハンマーによって攻撃力が半減した気がする。
「あ、来ますよ」
ルビーに言われて振り向くと、そこにはイケメンの大群が薔薇や指輪などのプレゼントを持って押し寄せてきた。怖い、怖すぎる。誰だよこんなゲーム考えたの……
「はあああああ!!!!!」
俺はありったけの剣気をピコピコするハンマーに宿し、思いっきり地面を叩いた。
叩かれた地面に青い光のヒビが入り、イケメン達の足元を崩壊させる。これは広範囲の敵を攻撃する技なんだが、まさかピコピコするハンマーで夢の中に現れたイケメン達相手に使うとは思わなかった。
イケメンの大群は赤い数字と共に消えて行く。
「わぁ〜……繊細な雑魚イケメン達だから平手打ちする位でも良かったのですが」
「あの大群1人1人に平手打ちしてたら日が暮れるわ」
その後もありとあらゆるイケメン達を倒しまくって、ついにイケメンの愛の砦までやってきた。
「何だよイケメンの愛の砦って」
「捕まったらここが愛の巣になります」
よし、全力で破壊しよう。完膚無きまでに。
ピコピコするハンマーを大きく振りかぶった時、後ろから声が聞こえた。
「そんな事しなくても、もうあの城には誰もいませんよ」
後ろから現れたのはキツネのように細い目をした男だった。ニコニコと笑う姿はイケメンと言えなくも無いが、今までのイケメン達は夢かわ色をしていたのに、この男は色合いが違うようだった。
ルビーを見たが、警戒して首を振る。どうやら登場人物では無さそうだ。
「いやぁ、ビックリしましたよねー。何か急にイケメン達が襲って来るものだから……昨今の乙女ゲームは恐ろしい」
相手はどうやらこれが乙女ゲームという事を知っているようだった。
「見たところ、この世界にはもうイケメンは居ないみたいです。安心してください」
「そうか……ならば」
俺はピコピコするハンマーを男めがけて振り下ろした。
「うわぁ!! な、何でですか!!」
「他にイケメンが居ないなら最後のイケメンはお前だろ?」
この時、悪役令嬢と俺は恐ろしい形相をしていたに違いない。何千と襲い掛かるイケメン達をピコピコしていたせいで、もうイケメンを見ると条件反射でピコピコしてしまう身体になってしまっていたのだ。
「いや、ちょっと、話を――」
「問答無用!!!!」
ピコピコするハンマーが男の頭に当たった瞬間、白い光に包まれた。やっぱお前が最後のイケメンで合ってんじゃねえか。
光の中、その男の声が微かに聞こえた。
「はぁ……少しは話が出来ると思ったのに。また何処かでお会いしましょうね」
残念ながら、俺は2度と夢でイケメンには会いたくないです。
長かった夢はそこで終わり、俺は現実へと戻る事が出来た。




