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夢と悪女と白い霧(前編)



 砂漠のお祭りは数日間続くみたいだが、俺達は足早に帝国へと戻った。騎士団長があまり長く陛下の元を離れる訳にもいかないし、シャドウが居なければ陛下も困るだろう。

 人魚の地下洞窟は帝国側の陸地に近い島まで延びているらしくアークは喜んでいた。船に乗らなくて済むしね。魔王なんだから移動魔法でワープ位出来そうなのでは?


「勝手にほいほい他国にワープするヤツなんざ戦争を起こしたいヤツなんじゃないのか? そもそもあんな距離を多人数で移動できる魔法なんて使える訳ないだろ」


 なるほど、言われてみれば確かに。


 今回のお土産はサンドワーム茶である。パッケージにはサンドワームの恐ろしいビジュアルがあり、購買意欲が失せる逸品だ。


「このパッケージだとサンドワームをお茶にしたように見えますね。まさかサンドワームが育てていた花がお茶として特産になっているとは思いませんでしたが」


 そう、あの庭園に咲いていた花はサンドワームにしか育てられない花で、砂漠の商人が定期的にサンドワームから買っているそうだ。普通に人と仲良く暮らしてるのである……流石砂漠の民。


「ま、とりあえず反応を見るために黙って渡してみよう。……ん?」


 皇城の下に広がる帝国の首都、その入り口の門の付近で異変に気付いた。門番が誰も出ていない。

 それに、門の辺りから中に入るにつれ濃くなっていく真っ白な霧……おかしい、今はもう昼だ。さっきまでの道中も雲ひとつ無い晴れで、到底霧の出るような天候には思えなかった。


「な、何だ?」


 門の内側、街の中に人が倒れている姿が見えて駆け寄ろうとした時、白い霧に捕まる様に包まれ身体中から力が抜け落ちた。


「騎士団長!!」


「おい!! ――っ!」


 アークとシャドウも同じように駆け寄ろうとして、力が抜けて倒れていくのが視界の端に見えた。そのまま、目の前が真っ暗になる。


 首都全体を覆う白い霧は……まるで母のように倒れている人達を包み込んでいた。



 ―――――――――――――――――――



 アークが目を開けると、仄暗い靄のかかった場所にいた。見覚えはある、アークはその光景を何度もフラッシュバックしたから。

 魔王城の一室、その扉にかけたのは今の自分より小さな手。

 開けてはいけないと警告する。だが、止める事なんて出来ないのだ。

 扉を開けた先にはアークの愛おしい母が倒れていた。

 魔族の魂を消滅させる方法はいくつかあるが、アークの母は小さな聖石の収まった短剣で魂の核をひと突きにされた。彼女は手足の先からアメジスト色の魔気となり空気に溶けていった。


 これはアークが見た母の最期の記憶。そして、そのすぐ後ろからアークの父が入って来るのだ。

 アークが後ろを振り返ろうとした時、その手を掴む者がいた。


 ――そんなはずはない。その部屋には母しか居なかったから……ならばその手は……


 掴む手を見ると、その指に納まるのは母が大事にしていた指輪だった。そこから顔に目を移すと、微笑む顔は間違いなく母だった。


「な……んで……」


 胸の短剣は聖石から割れ、粉々に砕けていた。傷も治っている


「心配かけてごめんなさい、アーク。幸い急所は外れていたから。私は無事よ」


 アークの母は微笑みながら幼き彼を抱きしめた。そんなはずは絶対に無いのに、アークは母を抱きしめ返す事しか出来なかった。


 ――ああ……母は生きていたのだ。これで……父も……


 父の事を想った瞬間にアークは腕を引かれ、母親から引き剥がされた。驚いて見るとそれはアークの父であり、胸元には先程見た指輪がチェーンにかかっていた。


『見誤るな。悲しくても、真実である現実は今のお前を作り出した大切なものだ。お前は……魔王なのだから』



 その瞬間目が覚め、アークは現実へと戻された。


 目の前には必死で呼びかけるシャドウがいた。

 白い霧はアークの全身に纏わりついていたが、何故か胸のチェーンにかかる指輪だけは避けているようだった。指輪からは霧を押し返すように絶えず魔気が溢れていた。


「魔王様、良かった……」


「ちっとも良かねえよ。どこのどいつか知らないが胸糞悪いもの見せやがって……」


「えっ……」


 アークが怒りに満ちた目で魔気を放つと、街中にかかっていた白い霧がそれに飲み込まれて消えていく。

 シャドウが数日間一緒に過ごした魔王はずっと温厚だった。内側にこんなにも激しい怒りを持っているとは思わずシャドウは戸惑った。


 白い霧が全て消えた頃、アークはシャドウの方を向いたがそこには先程の怒りは無かった。多少ぷりぷりと怒ってはいるようだった。


「霧が消えたから新たな被害者が出る事はないだろ。だが、街の奴らはすでに取り込まれてしまったみたいだな……」


 霧が晴れても街の人やジェドは目を覚さなかった。


「あの霧は一体……」


「さぁな。多分だが、記憶の底にある悪夢を操作して夢に繋ぎ止めてんじゃないのか?」


 アークが見たのは悪夢を、こうだったら良かったといういい夢に変えて引き止めるような夢だった。

 母の引き止める手は振り払うのが辛く重かった。


「なるほど……それはあるかもしれません。私は記憶が極端に少ないので、悪夢と言っても軽いものでしたから。すぐに目が覚めたと思うと納得がいきます」


「……ちなみにどんな悪夢だったんだ?」


 シャドウは首を傾げて思い出した。


「騎士団長がミニミニビキニパンツに宝石を散りばめて扇で仰ぐ姿でした。特に何とも思って無かったはずなのですが……潜在意識では忘れたい記憶だったのですかね? すぐに消えて目が覚めました」


 シャドウの唯一の忘れたい記憶はジェドのミニミニビキニパンツ姿であった。


「何にしても、ルーカスがいればこんな事態を許さないだろ。……て事は、ルーカスに何かあったと考えていい」


「……前にも陛下が狙われた事がありました。急ぎましょう」



 アークとシャドウは皇城へ急いだ。ジェドは全然目覚めないのでシャドウが背負って走ったのだが、心なしか背負う時にシャドウに戸惑いの色が見えた。

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