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悪女の先祖は待っていた(後編)



 稀代の悪女とされた砂漠の王族唯一の女王ラーは、その死後に魂がこの地を離れる事を望まなかった為、墓所を守るスピンクス像に乗り移り、砂漠を見守ってきた。

 だが、前回の催事から20数年……あまりに人が来なかったので女王は拗ねてしまい、その怒りを解く為に俺達は何故かスピンクス女王の出す謎を解かなければならなくなってしまった。


「何で20数年何もなかったんだ?」


「前王は祭り好きだったらしいからな。定期的に小さな祭りは開いていたらしいが、今のジャスティアが王になったのも急だったからバタバタしていてそれどころじゃないまま忘れられていたのだろう」


『言い訳はいいのよ』


 ヤバイ、また機嫌が悪くなり始めた。まぁ、その辺りの今後の予定は帰ってからジャスティアに何とかしてもらうとして、今は目の前のラーの機嫌を直さなければならない。


「それで、クイズというのはどんな……」


『気が早いのよ。ここからは妾より先に喋らないでくれる?』


 あかん。俺はラー様に全然お気に召されて無いらしい。当然だ、俺は女心が帝国一分からないんじゃないかと自負している男。今までも厄介な悪役令嬢達の気持ちが全然サッパリ分からなかったからな。助けてシャドウ。


『では第1問』


 ちょっと待て、何問あるつもりだよ。


『ある所にリンゴが2つありました。それを付き合って間もない恋人が食べました。さて、リンゴは何個残った?』


 え??? 何これ、子供のクイズか? 俺達は舐められているのだろうか。いや、先祖って位だから昔の人は数字に弱かったとか? いや、そんな……いくら何でも……


「……普通に恋人2人で食べたから0……じゃないのか?」


 俺が普通に答えた瞬間スピンクスが俺の頭を齧って怒り出した。え????


『不正解に決まってんでしょ!!!! もっとちゃんと考えろ!!!!! ガブガブガブ』


 いや、食わない言いましたやん。めちゃくちゃ痛い。食べられる程じゃないが石の口が普通に痛い。


「タンマタンマ!!! ホントに痛いからやめて!!」


「あのっ、ラー様! 答えは、答えは何でしょう?!」


 シャドウが引っ張ってスピンクスの口から救出してくれた。シャドウだけが俺に優しい。


『ふぅ……本当、男ってすぐ答えを簡単に聞きたがるからダメね。まぁ、いいわ。最初から期待してないし。答えは1よ』


 この女王……地味に腹が立つ。


「何で恋人同士で食べて1なのでしょうか?」


『付き合って間もない恋人よ? 女が男の前で大口開けてリンゴなんか食べると思う???!! 彼女は彼の前じゃ食べなかったから1よ』


「そんなのアリかよ……」


「……なるほどな」


 アークが急に納得し始めた。心が読めないはずなのに何か分かったの?? 俺には全然分からんが。


「ジェド、ラーが出してるのは女心を読むクイズなのだろう。だから答えはそれで正解だ」


「そうなのですか……女心……私にはまだちょっと難しい話ですね」


「魔王の俺にだって人間の女心など何1つ分からないがな」


 シャドウにもアークにも分からないらしいが、生憎普通に生きてる人間の俺にも女心なんてものは分からない。


『妾の言わんとしている事が伝わって良かったわ。次間違えたらただじゃ置かないわよ。第2問。女が5㎞離れた駅に向かって出発した。その8分後に家を出発して女性を追いかける男がいた。女の歩く速さは分速50m、男の歩く速さは分速70mでした。このとき、女が男に追い付いたのはいつ?』


 おお……ちょっと待て、何か急に難しくなったぞ…? 普通の問題としてもわからん。


「ジェド、これは女心を考える問題だからそういう方向で答えるものだろう。ならば、女が男を待ってあげたので答えはすぐ追い付いたじゃないか?」


『ふっ……中々いい線ついて来たけど、答えは違うわ。この話の重要な所は何故男は女から8分も遅れて追いかけたか、という事よ。2人は恋人同士だったけど、別れ話の末に彼女は出て行ったわ。彼は思い悩んだ末に追いかけたけど、彼女は出て行く前に止めて欲しかったの。今更追いかけたって彼女の心は永遠に彼には戻る事はなかった。つまり「追い付けない」が正解よ』


「わかるかーーーーい!!!」


 何それ、問題からそこまで想像しなくちゃいけないって事??? 難しすぎない???

 間違えたら承知しないと言っていたスピンクスパンチが何故か俺の方に飛んできて、墓所の壁にめり込んだ。何で俺だけ??

 俺は漆黒の騎士団長だからめり込んでも平気だが、普通の奴らなら大怪我だぞ……?


「これは、中々の難問ですね……」


 シャドウは真剣に悩んでいた。俺は半分諦めていたが、壁から這い出て次の問題を待った。


『第3問。1人の男Pに2人の女AとBがいた。あるとき男が自宅を出発しAの家に向かったが、自宅からAの家までの距離の1/3進んだところで、思いなおしてBの家へ向かった。そして方向を変えた地点からBの家までの距離の2/3行ったところで、 また気が変わりAの家へ向かった。そこから1/3進んでまたBの家へ向かった。さて、この迷える男Pの行く末は?』


「最早問題の意図がよく分からん」


『これは異世界人から聞いた話なのよね。Pが何したかったのか分からないってこっちの世界に来てもずっと悩んでいたわ』


 異世界の難問なら余計分からんわ……


「騎士団長、これはPの気持ちを考えるのではなく女心を考える問題です。つまり……一向に来ない男に愛想を尽かし、AもBも男を待たずに別の恋人を作った。なので『どちらの家にも入れなかった』です。いかがでしょう」


『正解よ。やはり貴方は見所があるわ』


 シャドウすげえ。記憶も情緒も無いはずなのにこの中で1番女心が分かるってどういうことなの?


『次が最後の問題よ。ずっと1人で寂しく待っていた女がいました。女が本当に欲しかったものは……何?』


 ラーは最早シャドウしか見てなかった。俺達は戦力外なのだろう。シャドウは考えた末にスピンクスの足に手を触れて言った。


「貴女が欲しかったのは、必ずすぐに来るという約束ですね? 安心して下さい、私は必ず貴女の事をジャスティア王に伝え……年に1度は必ずここを賑やかにする事を彼に約束して頂きましょう」


 その言葉を聞いたラーはのそのそと歩き出し、元の場所に戻った。


『……正解よ。女はいつだって男の約束に弱いのよ。必ず伝えて頂戴』


「はい」


 甲冑の下のシャドウの表情は分からないが、ラーの女心が少し分かった事が嬉しかったのか笑っているようだった。



 ★★★



 それから王宮に戻り、ジャスティア王にその事を伝えるとすぐにお祭りの準備に入った。

 スピンクスに塞がれていた墓所の中はラーが好きだった花で埋め尽くされ、スピンクスの周りにも沢山の花飾りが作られた。

 周りの広場には屋台が開かれ、灯籠飾りも沢山作られている事から夜も祭りは続くのだろう。


「うわぁ……綺麗。今度人魚の国でも国交を祝ってお祭りをするから皆も来て欲しいわ」


 はしゃいでるアクアの隣にはアビスと子供がいた。仲良くなったのだろう。良かった良かった。


「それにしてもまさかスピンクスに女王ラーの魂が宿っていたとは。先祖は静かな方が好きなのかと思っていたが、これからは貴殿達の言う様に年に1度は必ず賑やかに祭りを行う事にしよう」


「そう言って頂けて良かったです。これでラー様も寂しい思いをしなくて済むでしょう」


 何か色々解決したみたいだし、良かったが……もう色々疲れたから早く帰りたい。やっぱ帝国が1番だわ。


「騎士団長、私はこの旅で色んな事を学べて良かったです。女性の心は難しくて全て理解するのはまだ先になりそうですが……」


「……女心を完全に理解してる男なんてほぼいないから安心しろ」

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