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悪女の先祖は待っていた(前編)



「これが王族の墓所……」


 砂漠で夜を明かし、更に歩いた先にその建造物はあった。

 石をひたすら積み上げた三角錐の巨大な建物で、この中では代々の砂漠の王達が棺に眠るらしい。


「美しくて不思議な建物ですね」


「この建物は砂漠に降り注ぐ太陽光を表してるとされる。砂漠の民が最初の王への恩と愛を偲び1つ1つ大切に積み上げ、長い年月をかけて完成したらしい。砂漠の王の墓でありながら、砂漠の心の結晶でもあり、嬉しい時、悲しい時――常にここで催事を行ったそうだ」


 確かにアークの言う通り、墓所の周りは催事が行えるような広場が沢山あった。が、草木が生えていたり荒れていて、暫く使われてない様子が伺えた。


「一体いつ頃から入れなかったのですかね?」


「最後に催事が開かれたのは、先王が崩御しジャスティアが即位した時だそうだ。だが、先王は若くして亡くなられたらしく、ジャスティアが王となったのはまだ幼い赤ん坊の頃だったからかなり久しぶりの祭りだろう。この様子から見ても分かる」


 墓所を整備するは人いないのかよ……と思ったが、基本的に墓所には催事以外で近付かないらしい。それは砂漠で静かに眠らせるという意味もあるそうだが、何かある度に急に騒がれても先祖がビックリするのでは。


「今回は久々という事もあり、盛大に祭りを行う為に整備に人を送ったものの、誰もが全く墓所に入る事が出来ずに帰って来たらしいな……」


「まぁ、あれじゃ入れないよなぁ……」


 墓所の入り口らしき所に巨大な像が座っていて扉を塞いでいる。


「これ、何ですか?」


「コレはスピンクスという、神殿や墓所を守る古代の幻獣の像だ。頭は人、身体はライオンの合成獣とされる。だが、この像がここで塞いで入れないとは聞いてないが……」


「あの辺りにあったような形跡がありますね」


 シャドウの指差す先には確かに何かが置いてあった跡があり、スピンクス像の所へ移動した跡が残っていた。


「誰が何の為にこの像を移動させたのでしょう……」


「いや、そもそもこんなでかい物、人の力じゃ移動させられないだろ」


 俺が像の足をコンコンと叩くと、その足は僅かに動いた。――え?


『……あんた達、遅いのよ』


 え? この像……喋るぞ???



 ―――――――――――――――――――



 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと魔王アーク、甲冑騎士シャドウの3人は王族の墓所の前でこちらを睨んで見下ろすスピンクス像を見て呆然としていた。


「何でコイツ喋ってるんだ……?」


『人を散々待たせておいてコイツ呼ばわりとかアンタ何様なの?』


 怖い。何かこのスピンクスさん、すでに超切れてる。まだ俺、何もしてないんだけど……


「アーク、お前ライオン仲間だろ、それにアレが何考えてるか分かるなら話してくれない?」


「ライオンは関係ないだろ。あと、俺は基本的に無機物の考えは読めんぞ? 前の魔剣も読めなかったが、この像からも何も感じない」


 そうなの? まぁ、そもそも無機物が意思を持つのがおかしいのか。


「あの、私は帝国から来たシャドウと申します。この国の王にこちらの墓所の調査を依頼され参りました。あなたはどういった方で、何の為にこちらに座っているのかお聞かせ頂いても宜しいでしょうか?」


 俺と魔王がまごまごしてる間に、シャドウがスピンクスに丁寧に尋ねた。凄いな、勇気あるなお前。


『ふん、貴方はまだマシな方ね。妾の名はラー。太陽のように美しい、この砂漠唯一の女王。今の王から遥か昔、妾の美貌に男共は惑わされたわ。それを利用して統治していた所から人々は稀代の悪女とも呼ぶわね』


 そういえばジャスティアがこの墓所に入れないのは女王の呪いかもみたいな噂が流れてるって言っていたな。噂通りコイツが墓所に入るのを邪魔しているんだよな……何で?


「女王は何代も前の御方と聞きましたが、一体何故そんな御姿でいるのですか?」


 スピンクス女王は遠い目をして話し始めた。いや、石造だから遠い目とかわからんけど。


『妾は亡くなる時、美しいまま男達に囲まれてその生涯を閉じたわ。その人生は波乱に満ちていたけど、砂漠に愛され……沢山の男達に愛されて死ぬならば本望だったから、死後もこの地を離れて別の来世を歩むなんて考えられなかったの。そうして、気が付いたらこの姿になって墓所に座り砂漠を見つめていたわ。砂漠の愛が、妾をこの地に繋ぎ止めたのよ』


 なるほど。女王ラーの魂がスピンクスに乗り移り、この地を守っていたのか……なら何で尚更、墓所に入れないようにしてるんだ?


『この墓所は定期的に催事で人が賑わったの。妾はそんな人々を見るのが楽しかった。それなのに……前回のお祭りから何年経ったと思ってんの……? 生前だってこんなに男に放っておかれた事なんか無いから、妾、とっくに堪忍袋の尾が切れていたのだけど?』


 女王はカンカンだった。以前はそれでも数年毎にお祭りがあったらしいが、ここの所タイミングが悪くもうかれこれ20数年誰も来なかったとか。いや、砂漠の民だって先祖が寂しくて拗ねてるとか知らんやろ。静かに寝かせてあげようとか言ってる位だし。


「じゃあ今年はジャスティアの世継ぎが生まれたから盛大に祭が開かれるし、別にいいだろ」


『別にいいって何よ……あんた舐めてんの?』


 えっ、何で? 良くない?? ダメ?


『そんだけ女を放っておいて会いに来ただけで許されるとか、甘い事考えてるから男はダメなのよ!! 妾、何年待ったと思ってるの???』


 うわぁ、何かよく分からない事で怒り出した。

 何だろう。この感じ、デジャヴが……ああ! そうだ、喋る魔剣に似てる。これ面倒くさいヤツだ。


「ラー様は何かして欲しい事があるのですか? 我々も墓所に入れないと困るのですが……」


『クイズよ』


「え?」


『そんな貴方達愚かな男共にクイズよ! 妾の出す質問にちゃんと答えられるまでここは退かないわ!』


 ええ……何で急に……


「なるほど。古い言い伝えだとスピンクスは謎かけをして、答えられない物を食べていたとされるからそれに則っているんじゃないのか?」


『妾はそんな物騒な事しないけど、正しく答えられない限りテコでも退かないわ』


 つまり、クイズに答えないという選択肢は無い訳である。

 わざわざここまで来たからにはスピンクスに付き合わなくてはいけないのだ……まぁ、食べないって言ってるんだから良いか。……はぁ。

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