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閑話・シャドウの眠れぬ夜話



 ――砂漠の夜は寒いと聞いていたのだが、思っていたよりも寒くはなかった。

 砂の中には沢山の魔獣がいるらしいからそのせいだろうか。魔獣達にも愛があるとは思わなかった……やはり世界は自分の知らない事で溢れている。



 ★★★



 王族の墓所はまだ遠いので、3人は野宿をすることになった。

 砂地の中に大きな岩場を見つけ、その陰を利用して休む事にした。こういう場合普通は寝ずの番をするものなのだが、砂漠は話に聞いていた通り安全だったので皆普通に寝始めた。


 そんな中、シャドウは眠れずにいた。実は皇城でも時折眠れない日があった。


 最初の頃は自分が何の為に生まれて来たのかを何度も考えた。考え始めると、底無し沼にハマったかのように答えが出なくて辛かった。だが、騎士団長が「誰しも皆、自分が何の為に生まれたかなんて知らないし、俺も分からないから深く考えても無駄だぞ」と教えてくれたのでシャドウも少しは寝られるようになった。考える事も人であり、考えないのもまた人なのだろう、と。


「眠れないのか? お前はやっぱルーカスに似てるな。アイツも寝る前に難しい事を考えるヤツだ」


「……」


 魔王が起き上がり、シャドウを見て笑った。シャドウの心は魔王に分かっても、魔王が何を考えているかなどシャドウには何も分からない。


「気になるんだろ? 俺の事」


 魔王には心の声が聞こえているので、隠しても無駄なのは分かっていた。他の雑多な声に紛れてるならばともかく、今は砂漠の中に3人だけ。


「……心が聞こえてしまうというのは、どういう感覚なのでしょうか? 聞きたくない事も聞こえてしまうのでは……?」


 観念したかのようなシャドウの問いに、アークは懐かしく感じてクスリと笑う。


「お前はやはりルーカスに似てるな」



 ★★★



「君は……心の声が聞こえるのか……?」


 アークがルーカスに最初に会った後すぐ、今後の魔王領のあり方について話をしている時に、突然それに気付かれた。

 人間は繊細な生き物であり、トラブルにもなりかねないとその事は黙っているつもりだったのだが、顔に出てしまったのか隠し切る事は出来なかった。勘がいいのか洞察力が鋭いのか、ルーカスには早々とバレてしまったのだ。


「悪いな。生まれつきなんだよ。なるべく読まないようにしてはいるんだがな……聞こえてしまうんだ……」


 アークには、生まれつき他人の心の声が聞こえるという能力があった。聞かないようにする事も出来なくはないのだが、あまりに大きい想いは防ぐことは出来ない。それに、1人1人の声を聞かないようにするのは無理なので諦めていた。言わなければバレないかと思っていたのだが、こうも簡単にボロが出てしまうとは、とアークは困ったように眉を寄せた。


「私は別に君に対して不誠実な事は考えてないから、いくら心を読まれても構わない。正直に言ってくれて感謝する。だが……」


(常に相手の心が聞こえてしまうとは……怖くないのだろうか。聞きたくない事も聞こえてしまうのではないだろうか……)


 ルーカスが考えていたものが、自分への心配だという事はアークには分かった。だが――


「生憎、魔族には聞きたくないような事を考えてる奴はいない。……今の所そういう人間にも会った事はないから安心しろ。あと、正直に聞こえるという事はバカ発見機にもなるからな。楽っちゃ楽だぞ」


「そうか……」


「お前は魔王に対して変な事を心配するな」


「……」


 この若き皇帝も苦労をしてるのだろうと思った。だが、意外なことに彼が一瞬頭に過ぎらせたのは厄介な人間ではなく、彼の大切な友人の姿だった。


「……俺は、心が読めない方が怖いね。どうでもいいヤツの声なんて雑音だが、大切なヤツが自分の事をどう思っているのか聞こえないんだからな。見えないものを信用するしか無いんだろ?」


「……」


「怖いって事は疑うって事だ。人間はそういう傾向があるよな。だが、心なんて見えないものはただの付随物でしかない、実際は目で見ているものが全てだ。お前程の洞察力があるなら、そいつが嘘で友人やっているのか、本心で友人やってくれてるのか位分かるだろ?」


 アークの言葉にはっとし、ルーカスは落ち込んだ様子で俯いた。


「すまない……愚問だった。忘れてくれ」


 皇帝としては完璧な男のように振舞っていて周りも認めていたのだが、こと精神的な話になるとまだまだ年相応で、そんな姿にアークは少し安心した。その辺りは自分の方が少しだけ大人なのだろうと、嬉しくなった。


「まぁ、そいつに会う事があって、変な事を考えていて信用出来ないようなヤツだったら教えてやるよ」


 ルーカスは友人の顔を思い出し、落ち込んだ様子から苦笑いに変わった。


「ああ……うん、もしかしたら逆に呆れる位しょーもない事を考えているかも……」


 そうルーカスに言われた通り、その友人であるジェドは本当にしょーもない事しか考えてないような男であった。



 ★★★



「ま、心が聞こえようが聞こえまいが、あんま変わらないぞ。話が早くなるだけだ。ジェドなんてこっちが聞こえているものだと踏んで喋るのを端折ったりするからな」


「そうなのですか?」


「大体、魔王がそんな事を気にすると思うか? 魔王を倒しに来る勇者だって『やったー! 早く倒して帰りたい!!』位の事しか考えていなかったし。世の中、お前が思っているよりもはるかにしょーもない事しか考えてないヤツの方が多いぞ」


「そういう……ものですか」


 シャドウはまた考え始めた。考え始めると止まらなくなるのもやはりルーカスによく似ているのだ。そして、そうやって心を育てていくのもまた必要な事なのかもしれないと、アークは微笑ましくなった。


 そんな会話をしていると、ジェドが寝ぼけ眼でむくりと起きて来た。


「シャドウ……お前また何か悩んで寝れないのか? 世の中の殆どの奴らは大した事考えないで夜も早く寝るんだから……お前もはよ寝ろ……」


 そう言ってジェドは毛布に包まって寝てしまった。


「な?」


「……なるほど」


 シャドウの分からなかった事は1つ解決した。

 が、なぜ騎士団長は時折……真理にたどり着くような事を簡単に言うのだろうか? とジェドに対する疑問はより深まった。


「……いや、単純に何も考えてないだけだぞ」



 砂漠の夜は心地よい風が吹いていて、シャドウが思っていたよりも寝やすかった。

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