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記憶喪失の皇帝だけが困惑する(後編)



 陛下が記憶の蘇りと共に目を覚ますと、その膝で寝ていたノエルたんもゆっくりと目を覚ました。


「うーん……」


「起こしてしまったようだね、ノエル嬢」


「ルーカス陛下、記憶がお戻りになったのですね。もう少しお休みいただきたかったのに……」


 まだ眠そうにしているノエルたんの様子は、いつもの少し大人びた彼女より年相応な子供のようで愛らしかった。


「君に引き止められると私は動けないからね、もう少しこのまま休ませて貰うよ。あと、お茶会はいい休憩時間だから減らさないで貰えると助かるかな……」


 陛下が微笑むとノエルたんも同じように微笑んだ。


「ふふふ……所で陛下、そこに倒れている方は?」


 膝枕をされていたノエルたんの目線に誰かが見えたらしい。俺達もそちらを振り向くと、確かに草むらに何者かが倒れている。


 それは、陛下と同じ服装で同じ容姿。だが全体的に色合いが薄っすらしていて、後ろが透けて見える何か。


「にゃぁ」


 ソラがつんつんしているので、触れるようではある。


「……何、これ????」



 ―――――――――――――――――――



 とりあえず陛下の記憶が戻ったので、俺達は執務室に戻ってきた。薄い陛下も抱えられそうだったので背負って連れて来たのだが……

 薄いからその分軽いかと思ったが、そんな事は無かった。薄いのは見た目だけである。


「何なんですかねー? この薄い陛下?」


 暇暇な第1部隊もロック以外は執務室に戻っていた。ロイが興味津々でソファに寝かせた陛下(薄)をつんつんしている。お前、薄くても陛下なんだからつんつんするんじゃない。


「うーん……」


 ロイの突っつきで陛下(薄)が目を覚ます。生きてはいるのか?


「あれ……? 木の下で寝ていたはずなのにどうして……」


 喋ってる。何この陛下(薄)、益々分からない。


「あのー、貴方一体何者なんでしょうか?」


 流石は探究心の化身ロイ。皆がどうしようか考えてる間に、すかさず薄い陛下に聞いていた。俺なら怖くて聞けない。


「え? だから分からないってさっき言ったじゃないか。君達の方が知っているんだろう? 私がこの国の皇帝だって」


 ?????

 皆が顔を見合わせた。全く分からん。


「それってもしかしてだけど……ルーカス陛下が記憶を失う前と、記憶を取り戻す間の陛下なんじゃない……?」


 いつの間にか戻っていた聖女が考え込みながら言った。


「陛下が記憶を失ったのって、古い神聖魔法の禁呪らしいわよ。付加的に何が起こるかは解明されてないので分からないって言ってた。その、『何か』が原因なんじゃないの?」


「……お前、それ誰に聞いたんだ?」


「は? 何でアンタに言わなくちゃいけない訳?」


 聖女が俺に冷たい。なんで……


「なるほどー。解明されてない付加的な何かが原因だと、ふんわり仮定するならば答えは導き出されるかもしれないですねー」


 ロイまでよく分からない事を言いはじめた。頼むから頭の悪い俺にも分かるように話してくれ。


「とりあえず難しい理屈は抜きに考えろという事だねロイ。どうしてこうなったかは一先ず置いておいて……ここにいる薄い私は、聖女の言う通り私が記憶を失っていた間の空白の私という事だろう。確かに、私は記憶喪失とされていた時間の記憶もちゃんとあるからね」


 記憶喪失中、陛下は水晶の迷宮で自身の記憶を見ていたらしい。とすると、記憶が無い時の陛下の記憶が、記憶が戻ってきた陛下に追い出されたって事か……??


「恐らく、空白の私に何かのきっかけで自我が目覚めたんじゃないだろうか」


「え? 自我が目覚める程何かをした覚えはないですが。のんびり寝ていただけだし」


「騎士様が『記憶が無くても全然大丈夫、変わらず友人でいる』と、素敵な事を仰っていたので……それで嬉しくて自我が芽生えちゃったのですかね?」


 ノエルたんの言葉に皆がしんと静まり返る。


「……俺か?」


「団長っぽいな」


「どーすんですかこれ。責任持って団長が引き取った方がいいんじゃないですか? 友人だし」


 ええ……友人でいるとは言ったけど引き取るとは言ってない。


「薄い陛下、居場所が無いなら私がソラと一緒に育てます!」


「……薄くても私なんだから、皆そんな言い方はしないでくれ……」


 ルーカス陛下(濃)がこめかみを押さえ考えはじめた。


「……ん? 薄くても……私?」


 陛下が何か閃いたようである。


「君――」


「な、何でしょう?」


 陛下が薄い陛下に和かに詰め寄る。


「丁度良かった。実はここの所忙しくてね……私がもう1人居ればいいのにとつくづく思っていた所なんだよ」


 ルーカス陛下がとんでもない事を言い出した。

 どうやらこの陛下、使えるものは自分でも使うらしい。しかも自分なので残業しても大丈夫とか思っている。怖い。


「仕事させるのはいいですけど、薄いのはどうするんですか?」


「こうすれば良いんじゃね?」


 三つ子の1人が着ていた防具を脱いで着せた。ついでにフルフェイスの兜も被せて全身甲冑にすると、もう薄い陛下の面影は無くなった。甲冑陛下(薄)の完成である。


「ええ……でも、私……記憶とか無いけど」


「その辺りは安心して、一から仕事教えるから。大丈夫大丈夫、私だから潜在能力とかどこまで酷使しても大丈夫かとかはちゃんと把握しているから」


「……き、記憶のある私ってこんな感じなの?」



 甲冑陛下の誕生により、ルーカス陛下の仕事の負担は解決した。

 戻ってきた宰相のエースはビックリしていたが、仕事の役割分担を担う人が増えたのはありがたいとアッサリ甲冑陛下を受け入れてくれた。


 甲冑陛下(薄)と呼ぶのはとりあえず紛らわしいので、彼のことはシャドウと名付けた。影武者っぽいしね。

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