VR悪役令嬢の正体(後編)
「ジェドっちー!」
ハオを捕獲した丁度のタイミングでナスカやシアンも俺たちの所へ戻ってきた。
だがその傍らには先程から何度も見ている悪役令嬢キャスカの姿がある。
「ん? お前らも悪役令嬢キャスカを捕まえてきたのか? だが残念ながら闇ギルド関連はこのバカみたいだ。何処に逃げたかと思ったらまさか闇ギルドにいたとはなぁ」
「え、ハオさん? あ、騎士団長、その人は違くて……」
ハオを見てギョッとするシアンだったが、何かを言いかける前に違う者を見て言葉を止めた。その目線の先にはクリスティアのおっさん。え? おっさんがどうしたの?
「ジェドっち、ジェドっちが見たのは仮想視野の中の悪役令嬢キャスカ軍団なんじゃない? こっちは正真正銘のキャスカの方だよ。今魔術具着けてないでしょ」
「あ、そっか」
見覚えがあるとは言ってもさっきまで見ていたキャスカは仮想視野内の話だ。なるほど、じゃあこちらが本物の……黒幕ってコト? え?
「ど、どういう事だ? 黒幕はハオじゃなくてそちらの悪役令嬢なのか??」
「あ、いや、ハオさんについてはややこしいので一旦置いておきましょう。それよりも騎士団長、仮想視野の魔術具をもう一度着けてみて頂けませんか?」
「は? 何でだ?」
俺は言われるがままに魔術具を着けた。すると俺の隣のおっさんはダイナマイトボディの美女になり、そして先程悪役令嬢クリスティアだった女性は隣にいたはずのおっさんになっていたのだ。……え? え?
「え?? お、おっさんじゃん」
俺は何度も魔術具を着けたり外したりした。おっさんが美女で悪役令嬢がおっさんで、何コレ??
「や……やっと見つけた。【クリスティア】……」
「え……? も、もしや……君は、【腹筋大好き侍】……いや、美咲、か?」
ミサキと呼ばれた彼女はこくりと頷いた。どうやら2人は知り合いらしい。いやその前の呼び名なに。
「何故、君がここに……というかこの事態はもしや君が引き起こしたのか?」
「……」
「どうして、廃課金トップランカーでありながら優良プレイヤーでもあり、DGOの平和を守る守護神として害悪プレイヤーを改心させていったはずの君が、どうしてこんな事を」
信じられない物を見るように、自分の心を整理するかのようにまくし立てるおっさんに、腹筋大好き侍は苦しそうに言葉を詰まらせている。
「この世界で……やっと、やっと作り上げたのに……」
「……ずっと探していたの」
「え?」
ぽつりと口を開いた腹筋大好き侍……ああ、もう名前が気になるからミサキでいいや。ミサキはおっさんを前にぽろぽろと涙を落としながら話し始めた。
「急にいなくなってしまった貴方を、ずっと探していた。現実世界を突然ログアウトした貴方……でも、DGOのログイン状態は保持したままで、ずっと動き続けていた。最初は私を捨ててどこかへ行ってしまったのだと、悲しみに暮れていたけれど……でも、貴方がそんな事をするはずがないと信じて探した。やっとの思いでIPアドレスやホスト、ドメインを確認出来たけどそこは、この世界に存在しなかった」
「……そう、そうだ。私は知らないうちにこの世界に転移していた。でも、どうやって君はここに……」
「ここにはもう居ないと絶望した私はゲーム内の貴方をずっと見守っていた。すると、貴方は突然ゲーム内にもう1つのDGOをクラフトし始めたの。それは精巧に作動するゲームで、もうイベント終了したはずの敵や強制排除されたアイテムがあった。そこには、あの悪役令嬢キャスカもアバターとして存在していたの。私はそのゲームをプレイした、ゲームの中だけでも、貴方と繋がっていたかったから……でも、貴方は私に気付いてくれなかった。そう思った時、そのゲームだけじゃなくDGO自体を全て壊してしまいたいと強く思ってしまった時、私はこの世界に来てしまったの。やっと、来られたの。でも、私の姿はこの通りキャスカで、頼れるのは既に所属していた闇ギルドしかない感じで……」
「それは、何か詰んでるな」
「破滅の悪役令嬢って感じですね」
どうやら2人はゲームを通じて恋人を超える関係だったらしいのだが、おっさんを追って異世界に来てしまったミサキは初手悪役令嬢かつ闇ギルド所属だったようで。闇ギルドを抜ければどうなるか分からないから、人様のご迷惑にならないように何とか暗躍しながらも彼を探していたのだという。
「闇ギルドの目的までは分からないけれど、とにかく各地に潜り込み闇を広めたいという事だったので、私は志願してこのDGOによく似たアトラクションを持つシュパースへと来たわ。ここに絶対、貴方がいると思ったから。この姿を見れば、絶対に気付いてくれると思ったから」
「それで、何でミサキはおっさんになっているんだよ」
「全員キャスカだったら分からないでしょう……この姿は、あの人なの。元の姿を保って転移しているか分からなかったから、でもこの格好を見れば絶対に分かると思って」
「なるほど……」
展開を収めるようなとんでもなく丁寧な説明によりミサキの目的は分かった。おっさんはどうするのかと見守っていると、ゆっくりとミサキの方に歩き出し、手を握った。
「……本当はもう二度と、出会えないかと思っていた。だから、せめて君に似たアバターにして過ごしていた」
「私はそんなボンキュッボンじゃないけど」
「ま、まぁ、少しばかり盛っていたかもしれないけれども。とにかく、私はこの世界に迷い込んだとき、正直異世界に転移して、漫画のような世界に喜んだ。けれども、大好きだったゲームも君も居なくて……もしかしたら、このゲームを再現すれば君にもう一度出会えるんじゃないかと……そんな夢物語を……ああ……本当に、君なのかい」
「はい……はい……」
という感じで涙の再開を果たしたふたりはひしりと抱き合った。世界を巻き込んだとんだお騒がせカップルである。解決したならまぁ良いか、何でも。俺は心の広い男。
「で、結局その人はなんなん?」
ナスカが幸せそうに伸びてるハオを指差しシアンに問いかけた。
ああ、と思い出したように手を叩きシアンが説明する。
「そうでした、騎士団長、ハオさんは僕と取引をして闇ギルドに送っただけのただのスパイなんですよ」
「……スパイ? 取引?」
「ええ。魔王領で騒ぎを起こしたあの日――」
シアンが説明しかけたその時、ハオががばりと起き上がった。
「はっ!! かわいいロリは?!」
辺りをきょろきょろと探すも、お目当ての物はあるわけも無い。
「おい、お前が探しているロリは俺だ。いや、幻想だ。仮想視野内の幻だ」
「え……」
俺の言葉にふるふると震えたハオはばっと仮想視野の兜を被り、手にしていた武器を掲げた。
「つまり、つまりこの視野内では醜くくてむさ苦しい男共も可愛い男の子女の子に変わり、このアイテムがあれば視野内に居る人は全て思いのままってコトですね?!!!」
「何もかも間違っているがどした??」
暴走しようとするハオを避けるも、一度暴走し始めた欲望の塊は止まりそうに無かった。とりあえず他の一般人やおっさんたちを避難させる。
「おい……あれ、本当にスパイか? すっかり闇ギルドの一員どころか、ただの欲望の塊になっているんだが?」
「あれー? おかしいな……」
シアンが汗を拭い困った顔で頭をかく。お前……ハオという奴を舐めすぎだろ、初見か?
「あの人、すっかり欲望に染まっちゃってる感じだねー」
「あいつは最初から欲望の塊というか、可愛いものが好きなだけの不審者だからな……たぶん取引しても普通に裏切るぞ」
「でも、仮想視野内なんでしょ?」
「ああ、俺達にはあいつが仮想視野内でなんかしているようにしか見えないが、あいつからは俺達が盛れなく全員ロリショタに見えて、一生愛し続け追いかける……そんな世界が広がってしまうけどいいか」
「……意味不明ですけど、すごく嫌ですね」
想像しただけで鳥肌が止まらない。これ以上ハオの好きにさせていては大変な事になってしまうと思い、俺はハオの兜に向かって剣を叩き付けた。大丈夫だ、嶺打ちだ。
ビキビキと音を立てて兜が割れそうになるも、その兜からは光が漏れ始めた。……ん?
「え……」
音を立てて割れた兜の中身はハオの顔だけかと思ったが、そこからは仮想視野内で見たありとあらゆるアイテムが作り出した悪夢があふれ出てきた。え? え? ナニコレ?????
「ちょ、ジェドっち、何してんの?」
「いや、俺は兜を割っただけだけど、こっちが聞きたいわ」
展開が急すぎて頭が追いつかない。悪役令嬢とおっさんの急展開でおなかいっぱいなのに、こっちも急展開でこれ頭がおいつかないけどみんなついてこれてる???
兜が完全に割れ、膨大な量の悪夢が仮想視野ではなく現実となって噴出しそうになったその時
【プーーーーーーーーーーーー】
という音が鳴り響いた。
「え……?」
一瞬、目を伏せた俺が再び世界を見た時、それは不気味な音と共に全てが、止まっていたのだ。おっさんも、ミサキも、ハオも、ナスカもシアンも、いや、全ての人だけではなくて町や零れ落ちる水の全てに至るまで、不気味な静止を見せていた。
「な、なんだこれ……ちょ、どういう……?」
『ああーーー!!! ついにフリーズしたーーーーー!!!』
「え?」
何も無い所を裂くように現れたのは、光に体が包まれて輪郭のぼやけたあの、神だ。
この奇妙な静止世界で唯一動いている人物は、俺とその神だけだった。ちょっと、どういう展開これ……




