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やっと帰ってきた皇城で……

 


「い……今、なんて……」


「ですから、皇帝陛下と魔王様と、ついでに騎士団長によって聖国は攻め滅ぼされて、オペラ様とロスト様が連れ去られたみたいです」


 シアンの説明と、両側からガッチリと捕まり項垂れるオペラを見た宰相のエースは、そのままぶっ倒れた。

 気が遠くなるのも無理はない。何せ、オペラに結婚を申し込むと城を出たのがつい先日。何がどうなって聖国を滅ぼす流れになったのか……

 というか、俺をついでに数に入れないで欲しいし助力したのはどちらかというとお前だろ。


「あの……何があったのでしょうか」


「何がと言われてしまうと色々あり過ぎたので説明が難しいのだが、何でこうなったかというと結論としては聖国人の誰一人からもオペラを貰う許しは出なかった、という事だな」


「ええ……」


 そう、()1()()の許しも得られなかったのだ。ロストも、オペラも……

 最後の戦いと称して開かれたオペラ杯も、結局はあのまま陛下が勝って終わった所で遺恨が残るだけなのだ。

 ならばいっそと、泥をかぶる事で無理矢理踏ん切りをつけさせたのだろう。そうでもしなければ誰しもがずっとうじうじ悩んで終わらない。

 まぁ、これは俺の憶測だし、ロストに至っては本気で聖国なんて無くなれば良いと思っていそう。帰り道でもせいせいしたと晴れやかだったし。

 見方を変えればロストが唯一、後腐れなくオペラの結婚を許したと言えなくもないが、ちゃっかりついて来ている辺り、このままオペラハーレムの一員になる気でいるのかもしれない。

 ワンダーの小説風に言わせるならばさしずめ『悪役女王に生まれて破滅の道を進むはずがなんやかんやでハーレム結成しちゃいました〜わたくしは皇帝だけで良かったのに、あなた達なんなんですの?!〜』と言った所か。

 そんな事を考えていたらアークに睨まれた。ハイハイ、わたくしは皇帝と魔王だけで良かったのに、な。


「聖国をめちゃくちゃにして、属国にって…あんな遠くにぽつんと国土を広げてどうするんですか……」


「安心しろ、ポツンとじゃない。匠国と狩国も一部になりたいらしい。帝国の」


「そうなんだよね……」


 困ったように頬をかく陛下を見て、復活しかけたエースは今度こそ本当に気を失った。



 ★★★



 あの天の回廊壊滅騒ぎを聞きつけたエルフやドワーフ達は、流石に心配になったのか聖国(だった所)に集まってきた。

 オペラ杯をやるとは聞いていたものの、麓から遥か高くに見えていた聖国がパラパラと落ちて行くのに気がついたエルフ達はドワーフの精鋭達を引き連れて上がって来たのだ。

 だがその目に見たのは聖国の壊滅的な惨状だった。

 以前はほぼ関わりのなかった聖国だが、最近は違う。同じ世界樹で暮らす仲間達が危機か、これが聞いていた聖魔大戦の予言かと話を聞けば

 確かに聖魔大戦に違いはないのだが、計画的な壊滅であり、聖国は帝国の一部になるのだと聞かされた。

 何を言っているんだコイツらはと一瞬頭を捻るも、ここまで幾度となく行われていた聖国の女王と帝国の皇帝の痴話喧嘩だかなんだか分からないものがやっと解決するのだと知り、素直に祝福すると共に、顔を見合わせたドワーフとエルフは


「あのー、何なら自分達も帝国の一部にして貰えませんかね」


 と申し出たので陛下は嫌そうに固まった。


「……いや、必要ある?」


「まぁ、必要かどうかはさておき、我々ドワーフは単純に世界樹のリフォームとか工芸とかそういうのが好きで集まっている職人でして、いつの間にか国みたいに言われておりましたが国運営とかサッパリで」


「我々も、世界樹の麓がエルフの国と言われておりましたがそういう利権関係とかあんまり考えた事がない為に度々周辺地域とトラブルになるというか。ほら、我らエルフって面倒くさい事嫌いじゃないですか。近年は聖国のせいで観光客も増えに増えて……そろそろ限界だったので誰かいい感じに管理してくれないかなーと思っていた所でして」


「なる……ほど」


 どさくさに紛れて面倒な事を押し付けようとしているのが見て取れた。だが、陛下は


「でも、我々も心配しておりまして。聖国の女王の生い立ちや聖国の度重なる惨状は聞いておりましたし、聖国人が女王の結婚に反対しております事も」


「どうやって上手く行くか賭け――いやいや、案じていたのだけど、まさかぶち壊してまでくっつくとは雨降って地固まるという言葉があります通り結束は硬いでしょう」


「ドワーフ、エルフの皆総意で祝福致しますよ、へ・い・か♡」


 などと持ち上げるものだから気をよくしたのか、仕方ないとため息を吐いて


「分かった分かった。けれど、私達は君達の面倒を全て見れる訳じゃないからね。ちゃんと自分達の領分は自分達で管理するんだよ」


「「へいかー♡」」


 と、そんなこんなでファーゼストの世界樹一帯が帝国の一部になる事が決まってしまったのだ。

 このままでは他の国も帝国の一部になりたいと言いかねない……何もしてないのに世界を陛下が手中に収めそうである。



 ★★★



「てな事があって、そうなった訳で」


「なるほど……ですね」


 卒倒したエースをソファに寝かせ、代わりにシャドウや騎士団員が事のあらましを聞いてくれていた。


「纏まったんだか纏まってないんだか……」


「こりゃあ、結婚式は当分先だろうなぁ」


 結婚を申し込むと意気込んで城を出たのだから、てっきりOKを貰って直ぐに祝言を挙げるのかと思っていた城の皆は、山積みの問題をオペラの嫁入り道具よろしく抱えて持ってくるとは思ってもみなくて落胆していた。


「まぁ、確かに当分は壊れた元聖国やら世界樹周りをどうするかなど色々あるとは思うのだけど、それはそれとして、結婚式は盛大に執り行う。いいね、オペラ」


「え、ええ?!」


 急に話を振られたオペラは動揺し言葉を出せずにいるが、答えを待たずに


「嫌とは言わせないよ。私は十分に待ったし、耐え忍んだし、全てが上手く行くまで更に待つことはできない。私の、妻になってほしい」


「……っ」


「私の、じゃなくて俺もな」


 こほんと咳払いして陛下の横に立ち、共にオペラの手を取るアーク。もう、陛下にしてもアークにしても、そして俺達も待ち疲れていた。これ以上引き伸ばせば、たぶんまた事件が起きてさらわれたり新たな恋敵が現れたり、果てはオペラの記憶がまた消える可能性だってある。もうこりごりだよ~

 皆がオペラの返事を待っていた。ロストが目でオペラを急かす。はよちゃんと言えと。


「は……はい……」


 皆がわっ、と盛り上がる。部屋を覗いていたメイドや他の騎士や魔法士、従者達も喜んでいるのが廊下の奥から聞こえていた。みんな、待っていたんだ、その言葉を。長かった……


「陛下」


 わーーと盛り上がる中、俺は陛下に跪いた。


「騎士団長として、そして長年の友人として、貴方の幸せを祝福します」


「……いや、君が真面目だと怖いよ」


 心外な事を言われて顔を上げれば、他の騎士団員達も頷いていた。おいこら、しばくぞ。


「でも、ありがとうジェド。君が居てくれたから、私はこれだけの幸せを手に入れる事が出来たんだよ。君に祝われて、嬉しいよ」


「いや、陛下がそう素直に褒めるのも怖いんですけど」


 こうして、今回の俺の役目は終わった。まだ暫く先になるであろう祝言の日を、楽しみにするばかりだ。

 あれ……そう言えば――


「そう言えばシアン、色々優先すべき事にかまけていて忘れていたんだけど、俺に何か用事があったんじゃなかったっけ?」


「ああ、騎士団長に用事というか実は――」


「いやー、何かめでたい感じで良かった良かったねー」


「ん?」


 騒めく室内で話す俺とシアンの間に手を叩きながら割って入ってきたのは、半分だけ赤い髪に剃り込み、サングラスから覗く瞳……


「ナスカ、お前、いつから居たんだよ」


「いやー、ジェドっちのことずっと待っていたんだけど、帰ってくるなりまた取り込み中というか出るタイミングが無くってずっと大人しく聞いてたんだけど。いい感じに纏まったみたいだから、そろそろ俺の話、聞いてもらってもいい?」


 シアンと顔を見合わせれば、先にどうぞと手を差し出す。えー、帰ってきたばかりなのにまた何かあるのー……?

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