聖国最後の聖戦(10)終焉の聖国
「ちょ、おわーーーーーー」
天の回廊の崩壊。部屋の床が抜けたと思ったら次に見えてきたのは粉々になって徐々に浮力が負けていく回廊だった大量の破片。
いや、ここ以外はもう既に崩壊していたのだろうか? あれだけ大きな国を街作っていたものは大半が遥か下にあった。
「オペラ!」
羽が無く落ち行くオペラは獅子に変わったアークがキャッチしていた。
服を完璧に来た陛下と、そして俺はシアンが空中に作った床に着地する。居て良かった、魔法使い。
「空の回廊を支える魔術具も全て粉々になってる。ロストさんが魔術具の場所を熱心に聞いてくるのと下に居る人達の数を聞かれたのでまさかと思っていたら本当に全部ぶっ壊すなんて……」
「いやもうそれほぼぶっ壊す前提で聞いてるだろ、止めろよ」
「下の人!!」
オペラが青い顔で真下を覗くと、遥か下の地の回廊は瓦礫の山に埋もれていた。
「あっ、こら、降りるな!」
「だって――」
「落ち着きなさいよバカ、下の奴らなら大丈夫よ。前の聖国の老害達ならともかく意味無く危険に晒すわけないでしょ」
確かに、よく見ると地の回路自体はじょうから降り注ぐ瓦礫によって破壊された様子はない。少し手前で全て止まっているようだ。
アークもそれが読めていたからか焦る様子無くオペラを止めていた。
「だったら――」
「ロスト、危険に晒す訳じゃないなら、何故こんな事をするんだ。私達はアークみたいに心がわかる訳ではないし、ちゃんと話さないとオペラも私もまた昔のように君がただ聖国に対する恨みのためにやっているとしか思えないよ」
陛下の問いかけに、はぁとため息を吐くロスト。
「恨みでやってるに決まってんでしょ」
「あ、あなた、なんで……聖国人はみんな、あなたの事……」
「……おい、最後までちゃんと聞いてやれ」
「え……」
オペラを制するアーク。その様子をまたため息混じりに見て頭をかいたロストは言い捨てるように続けた」
「だから、今の聖国人にもあんたにも何も関係ないって言ってんでしょ。そうじゃないのよ、アタシがぶっ壊したいのはアンタや聖国人達が後生大事に守ってるこの国よ、要らないのよ、こんな国」
「あなた、いくら聖国に恨みがあるからってこんな国だなんて」
「こんな国はこんな国よ! この国があるからいつまで経ってもアンタは何処にも行けないし、この国の奴らもアンタに依存するのよ。確かに、この国の奴らを守ったアンタは立派よ。残った奴らを育てて復興したのも立派立派。でもアンタ勘違いしてんじゃないわよ、この国の奴らだってアンタが居なくても十分やっていけるし、この国のやつらが止めたからってあんたが止まる義理も無いの。それが女王だからって理由でやってるならアタシは世界樹ごと丸焼きにするわよ。そんだけ、アタシは聖国って国が大嫌いだから無くなってばん万歳なの」
「なっ――」
今まで相当鬱憤が溜まっていたのだろうか、聖国に関する悪口を次から次へと吐き出した。果ては先代女王の側近のオッサンが態度が悪く口が臭いまで文句を垂れた。そのオッサンはもう居ないんだから許してあげて。
文句が多すぎて本当に言いたい事が霞みそうだが、つまりは
「……ロストがこういう行動に出たのは、お前の為だ。オペラ」
「そんな……の、分かるわよ……」
「分かってんならとっととこんな国捨てなさいよ」
「そんな事、出来る訳……」
出来る訳は無いのだ。オペラは女王だから。陛下だってアークだって、捨てろと言われても出来るはずはないだろう。……いや、陛下はもしかしたら恋のためならやるかも。そんな勢いはある。
「あんたらはどうなのよ」
そう俺たちの方を向くロスト。いや、俺に聞かれても関係ないし分かんないよ……
と、思ったらロストが見ていたのは俺では無くシアンが魔術具で映し出す闘技場の人達だった。そういやさっきからずっと中継してお見せしてたんだっけ。
そこに見える聖国人達は固唾を飲んでこちらを見ていた。最初のようにヤジを飛ばす者はいない。
「散々オペラに助けられて、いざオペラが幸せになろうとすると捨てないでって邪魔するんだものね。……ま、それは言い過ぎだし気持ちは分からなくも無いしアタシが言えた事じゃないけど。けど、もういい加減、解放してやりなさいよ。代々歴史を作ってきた聖国は、あの時死んだのよ。アタシが、終わらせた。アンタらは野良の生き残り。無くなった元聖国人が寄り集まって生き延びた、それでいいでしょ」
あの時、聖国は滅んだ。それなら、オペラはただのオペラだ。
女王じゃないただのオペラなら自由にしていい。好きに結婚するなり何処に行ってもいい。
そういう歴史だった事にすれば良いと、ロストは回廊を、聖国をなかったものにしようとしているのだ。
俯く聖国人達、彼らもわかっていた。だから最後にしようと全力で抵抗した。
ロストも……ふらふらとしていた。そりゃ、聖国人の王族とは言え天の回廊全体をぶっ壊すくらいだ、相当な力を使ったに違いない。
シアンによって映し出された闘技場の者、地の回廊にいた者、全ての聖国人達が何も答えずに跪いた。それは、オペラとの別れを受け入れた事。
聖国という国の終わりを受け入れた事を示していた。
「ちょ、ちょ、ちょっと勝手に話を進めないで! わたくしは……」
「ロスト、君が全てを負う必要は無い」
前に出たのは陛下だった。
「あんた……」
「責任を負うべきは私だ。そう……そうだな、善政を敷いた最高の人格者と謳われた皇帝ルーカスは、その噂とは全くの別人だった。10数年前に魔王を殺めて魔の国を手中に収めたのに飽き足らず、今度は見目麗しい聖国の女王を見初め、力ずくで聖国を制圧し女王諸共手に入れた。聖国の王子と共に抵抗した聖国人であったが、その力及ばず、国は帝国に吸収されて女王は奪われてしまった、と」
「なっ、ルーカス様?!」
「魔王と手を組んで、な」
ザワザワと騒ぎ始める聖国人達。まぁ、間違いでは無いけど、それって
「つまり、帝国の領土ですかここは」
「……女王も不在だし、仕事が増えますね」
「それは、まぁ何とかなる。私だからね」
仕事、という言葉に一瞬動揺する陛下だったが、今まで何とかなったのだから、なんやかんやで何とかなるだろう……
「そ、そ、そんなのダメに――」
「オペラ、君の異論は認めない。何せ、君は無理矢理攫われて結婚させられた立場だからね」
「ああ。最後まで聖国人と聖国を捨てられてず、守ろうとしたみたいだが残念だったな」
無理矢理押し込められたオペラ。その様子を見た聖国人達からヤジが飛び始めた。
『くそーー!! 憎き皇帝や魔王め!!!』
『オペラ様が奪われるなんて!!!』
『このまま聖国領として大人しくしていると思うなよ!!! 必ずオペラ様を奪い返してやるーー!!!』
ヤジとは裏腹に、陛下の申し出を受け入れる返答。
異論を唱える者はいない。
「ぶっ……あはははは!! だってよオペラ。おめでとう、いや、ご愁傷様ね。アンタは皇帝と魔王に連れ去られて晴れて結婚させられた可哀想な子よ」
「な……な……」
「安心しなさい。アタシもその美しい容貌を認められて一緒に捕虜になった可哀想な兄よ」
「いやお前も来るのかよ」
「か、か、勝手に話を進めないでーーー!!! わたくしは認めてないわーーー!!!」
そう叫ぶも虚しく、王室のある天の回廊は無惨に散り、壊滅状態。
がっちり離してくれそうもなくホールドされて連れて行かれるオペラには抵抗する力もなかった。
聖国人約1名以外の承諾を以って、聖国という国は終わりを告げた。
聖国は、帝国と魔族に攻め滅ぼされたらしい。これが後に聖魔対戦と本当に歴史に刻まれてしまうのだった。




