聖国最後の聖戦(5)とある令嬢の今世
――思えば、衝動的に生き、他責を重ね、当然の報いを受けたのかもしれない。
そう、エリオット様と出会ったあの頃。ジョルジュ家とウィンスペクト家の立場上の婚約……出会いはそうだったかもしれないけれど、幼かった私達には想いの外。
ただ、エリオット様の妻になり、次期当主として学びを尽くす貴方を、支える事こそ私の役目だと思っていた。
その為には他の何を犠牲にしていいと……それが間違いだと気付かずに。
彼に近付く者を邪魔と断じ、それが正義だと疑わなかった私は、エリオット様の心が離れて行く事を感じながらも決して自身の咎とは認めたくなかった。
それを認めてしまえば、私をこの様にしてしまったエリオット様のせいになるから。
などと、最期の最期まで愚かだった……
邪魔なゴミを見る様な彼の目。そう思うならば、何故こんなゴミに育つまでに止めなかったの……?
ゴミを出したのは貴方じゃない。
転がり落ちた世界は、最後まで私を認めはしなかった――
「――ハッ!」
斬首台に立ち、完全に終わったと思った私の世界は終わってはいなかった。
誰かが助けて? 奇跡が起きて? 死ぬ前の夢? と、思考を巡らせるも、あの時の感覚が蘇り息が荒くなる。
夢なんかじゃない、助けられるはずがない。確かに私の生はあの時終わったのだ。
ならば何故未だ生きているのか……魂の核が続く限り、生まれ変わる事が出来ると聞いた事もあったが、定かではなかった。
(本当に首は繋がっているの……?)
1番の心配事はそれだった。恐る恐る喉元に手を伸ばすも、確かに繋がっているであろうその感触はどうもおかしい。
やけに柔らかい。そもそも、目線が転げ落ちたあの時と変わらないのだ。自分の身に何が起きたのか――
「ヒ、ヒィ?!!!!」
両の手を見た時に、私は声をあげるほど慄いた。
手入れを欠かさず、白く美しい自慢の指先が、手が、乳白色の何かになっているのだ。
「な、な、何ですのこれは!?」
「何しているんだ? 行くぞ」
「へ?」
私の横を通り過ぎる声。それは手と思った物体と同じ材質の何かだった。何か得体の知れないものが……喋りかけた……?
いいえ、それは1人(?)ではない。次々と私の横を通り抜け、跳ね、進むそれら。何かしら……既視感があるわ。
そうね、アレだわ、思い出した。スイーツね。
白玉、とかタピオカ、とかいう得体の知れないスイーツが流行ったと聞いて、取り寄せてもらった事があるけれど……その白玉が、大量に飛び跳ねて1箇所に向かっていた。
ツルツルの表面に薄ら反射して写る自身の姿。
理解した……私も、その白玉なのだ。
「な、何ですのこの姿はーーー!」
微かに残る記憶。そう言えば世界情勢を勉強し、帝国や魔王領について調べた中で魔物の1種類として見たかもしれない。記憶が確かならばそう……これはホワイトスライム。
魔物の中、それもスライムの中でも生態が一際謎に包まれ、何なら建材にさえ使われているという。
帝国の改革以来、魔族や魔物の人権について厳しく定められたはずなのにその扱いはどうなのかと疑問に思ったから覚えている。ホワイトスライムは喜んで建材になっているのだというから恐ろしい。
生まれついての令嬢である私には到底理解が出来なかった……その、理解出来ない存在に今自分が成っているの。
「わた……私の美しい手が……髪が――ぶへっ!」
「ボーっとしてんじゃねえよ!」
「ふえっ?!」
体当たりしながら横をすり抜けていくスライム達。
「一体何処へ……――?!」
気が動転していて周りを見る余裕が無かったけれど、そこは一面の空。今まで1度も見たことの無い近さの雲。標高が高いなどというレベルではない。そもするとここは世界で1番に高い場所――世界樹の頂上・聖国なのかもしれない。
その空を埋めるほど沢山のスライム達が1箇所に向かって走り抜けたかと思えば、それらは白い花へと変化していくのよ。
「こ……これは……美しい……?」
そんな光景は初めて見るわ。幻想的――とさえ思えてしまうような、美しいもの。気がつけば私もその花に混ざっていた。
こんな美しいものがあるなんて……魔物と、白玉と、侮っていたスライム。それがこんなにも美しくなる……その事実に私は驚かされた。異国の言葉を借りるならば目から鱗。視野が広がった気持ち。
綺麗だと信じていたものは汚い、そして汚いと思っていたものが綺麗店……相反するものが共存する、世界はそうなのかと、悟り導かれる気持ちになった。
気付けて良かった。前世では気付かなかったから、エリオット様にも見限られたのだ。
叶う事ならこの美しい花のまま彼にもう1度逢って……ひと時でも愛されたかった。
「……まさか、これを装備して……いけ、と?」
傷心、色んな感情に浸っている私の気持ちを現実に戻したのは見知らぬ男の声だった。
声だけならばエリオット様をも凌ぐイケてるボイス。略してイケボ。振り向いたその先にいたのはぐおおお凄いイケメンだった。エリオット様とか誰、しらね。
「?!」
驚いて思わずスライムに戻りそうになった。イケメンが1人だけじゃないのもそうなのだけれど、そのイケメンも含めていく数人もの男性が……ま、ま、真っ裸じゃないの?!!!
「いやそんなまさか……」
「俺、聞いた事あるぞ……どこかの国では葉っぱ1枚あればいいと言われているとか」
「確かに……人々の祖は裸でいる事が恥ずかしいと気付いた瞬間に葉っぱで隠したとかなんとか……?」
私の動揺も空しく話はどんどん進んでいく。いえ、その話をよくよく聞いてみるとどうやら服が無くなってしまったみたいで、真っ裸は不可抗力だったみたい。それはお気の毒ね。昔の私ならば内容も聞かずに罵ったでしょうけれど、今の私にはどうしようもない事態に陥った人を許せる心の余裕があるわ。
でも――
「今はこれしか無いのなら、そうするしかないだろう。体裁なんて最低限で良い、私は……早くアークを追いかけたい」
と、私たちスライムの花を装備して行く流れが現実になっていくじゃないの。え? 冗談とかではなく?
そうこうしている間に次々と同胞のスライム花達は積まれ、男達にあてがわれて行く。ああ……せめて、せめてイケメンに……
私の祈りが通じたのか、躊躇うように積み、持ち上げたのは漆黒の黒髪、黒眼が美しい超イケメンでした。っしゃー!!!
バキバキに鍛え上げられた筋肉も素晴らしい。ああ……世の中にはこんなにも素敵な男性がいたのですね……エリオットとは?
その、男性の、ああ……私、男性と触れ合った事もないのにそんな、大事な部分に……
そうして、私は漆黒の黒髪イケメンの秘部を守るスライムと成ったのです。そう、スライムナイト。生まれ変わった私の、これが……使命だと言うの。
冷静になって考えるとどういう運命のイタズラなのかは分からないけれど。
前世では成し遂げられなかったエリオット(笑)への尽力、今世こそこの命をかけて――いいえ、無駄に命を落とす事無く守り抜いてみせるわ。
「ああもう。わかった、じゃあ君自身の花にやってみればいいよ」
「えっ」
(えっ)
走り出した男達。聞けば聖国の女王を巡る勝負中であり、鍵を求めて走り出すレースの初っ端で服を無くしてしまったのだとか。何だか分からないけれど災難ね。
何とか私達を下着代わりにして走り出したのも束の間、第一の難関である展望所の人手を前に、もう1人の太陽のように眩しいイケメン(そっちも良かった)がとんでもない事を言い出したのだ。
「……ねぇ君、さっきから何の話をしているの? 花だっつってんでしょ。何を刺す気でいたの……?」
「あ、花の方ですか」
(えっ)
股間に剣を刺す刺さないで揉めていたのは、どうやら花を剣で刺せと、そういう話みたいね。いずれにせよ死ィー!!
納得した黒髪イケメンは私に向かって剣を新調に近づけてくる。決意したばかりなのにもう死ぬの?!
前世の最期を思い出す。いやぁ!! 殺すならひと思いにやってー! 新調な方が怖いわ!!
鋭い剣の刃が私に刺さる。ずぶり、とめり込んだ鈍い感触、痛みは――あら? 無いわね。スライムって痛覚が無いのかしら。
と思っていたら、はわわ? 何、この感覚……痺れる、痺れるわ!!
その昔、美容の為にと魔法使いを読んで微弱な雷魔法を施術してもらった事があったけれども、それを思い出すような妙な心地よさ。ああ……これ、癖になる……ああ……
(?!)
何かがデトックスされたなような爽快感、瞬間、私の体が……増えていた。そう、増えていたの……何これどういう仕組み??
増えた分だけ力が満ち溢れ、何とも言えぬ万能感。凄い、この身体ならば誰にも負けない!
刃も効かない、無敵のホワイトスライム。美しい花の姿にも成れる……これが今世の私なのね。
黒髪の(裸だから分からなかったけれど、どうやら騎士みたいね)騎士様を抱きしめるが如く守り、人混みを駆け抜ける。ああそうそう、私、こういうのがやりたかったの。
走り抜けた人混みの先には関門所が見えた。その上には◯や×の文字。
ああ私、知ってますわ。そういう形式のクイズね。
「今から皆さんには◯×クイズを行って頂きます。正解者は難なく通過出来ますが、不正解者は特殊な溶液に浸かります。無敵と思われていたホワイトスライムですが独自の研究結果、ある物質には弱い事が判明しておりまして」
(えっ)
「それはホワイトスライムの人権的には問題無いのか?」
「溶けるだけですので死にはしません」
「何なんだよこいつら……」
今世のピンチかと思って驚いたけど、どうやら死にはしないみたいね。ホッ。
いやいや駄目よ、私、このお方の股間を守り抜くって決めたばかりなのだから!
何としても守り抜く! やり遂げてみせるわ!!
仕事の兼ね合いもあり中々更新が遅くてすみません( ̄▽ ̄;)気長にお待ち頂けると幸いです




