ゲート都市で顔を見せ始めた闇ギルドの暗躍……結局いつもの(前編)
「――と、いう事があってな」
「へー、相変わらず巻き込まれてますねー。ただ花を取りに行っただけですよね?」
「そうだな、ただ花を取りに行っただけなんだけどな……」
再び戻ってきたゲート都市。漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと皇室魔法士シアン、東国の王弟フェイ・ロンはもう見慣れてしまった地下牢で寛ぎながらゲートを越える申請書を提出していた。
フェイやシアンも慣れてしまったのだろう、流れるままに地下牢に入れられる事も、不釣合いなくらいに柔らかくてすわり心地の良いソファに座りながら茶菓子を頂く事にももう何の疑問も抱いていない。慣れとはこういう事である。
ま、時として少しの疑問に目を瞑る方が過ごし易いパターンもある事を知ってもらったのだろう。ここに居れば何時間も待たされる事も無く、快適にゆっくりのんびりとゲートを通ることが出来るし旅の疲れを一休みして癒すことも出来る訳だ。VIP待遇ってやつよ。
「聖国に行った時もそうだったが、本当にお主と旅に出たら余分に事件に巻き込まれてきりがないな。我はもう一々気にすることを諦めたぞ」
「そうそう、それが1番不満を溜めずに長生き出来るいい生き方ですよー。こういう所で働いていると特になんですけど、色んな人と会うし良いこともあれば悪いこともある訳じゃないですかー。そういう細かな1つ1つを一々気にしていたら心が持たないでしょ? こうやって理由をつけてはサボる……もとい適度に休憩する余裕を作ったり、昨日あったことは明日に残さない、気にせずにすぐ忘れるっていうのも世の中を上手く生きていく秘訣なんですよ」
「なるほど……適度に休める環境を作るというのも大事な事なのだな」
「それが大人ですよー。子供は際限無く遊んで、急に疲れて寝たりとかしますからねー」
フェイもシアンも適度にサボっているゲート職員の話をふんふんと聞いていた。サボる為に毎回俺が投獄されて汚名を着せられている件はさておき。
だが、確かに人間バランスを保って生きていく事は大切だと思う。某国の皇帝陛下なんて自分を犠牲にしてまで働いては肝心な時にぶっ倒れたり、悩みぬいた末に極端な決断をしてはぶっ倒れたりして、今も絶賛ぶっ倒れ中だからね。まぁ、ぶっ倒れたのはほぼ俺のせいだけど……
茶菓子を食べながら話を聞いているフェイ。以前ならばそんな話は理解出来なかったかもしれないが、今は興味深げに頷いている。
ここまでに色々あったからね……この短期間で色々経験して成長した証だと思う。大変だったもんね……花を摘みに行くだけの旅が何故か、ね。
――バタン!!!
話に花を咲かせていると、地下牢の扉が勢い良く開いて警備兵が何者かを連れて来た。
拘束され、喚き続ける者を無理やり牢に入れる。
「……あれも、適度にサボっているのか?」
「んな訳無いじゃないですか。あれは悪いことをして普通に捕まった人です」
良く見れば、周りの牢もいつもはガラガラなのに今日は満員御礼。神妙に俯いている者、出せと喚いている者と様々である。
そんな中でのんびりとお茶をしているのが忍びない……というか、俺達まで悪いことをしたように見えないですかね、これ。
「今日はいつもと雰囲気が違うな……」
「あー、そうなんですよね。最近増えているんですよー、あれ。全部今話題のやつで『闇ギルド』の依頼を受けてしまった人達です」
「闇ギルド……?」
『闇』というワードに一瞬ドキッとする。闇の竜ナーガはつい先日葬ったはずだが……また現れたの……?
「それは、呪いとか闇の竜が関わっているような物騒なものですか?」
「あ、いや、そういう物理的な闇じゃなくて、最近実態の見えない危険な依頼を出す怪しいギルドからの依頼が横行していましてね。治安のいい帝国では軒並み潰されているはずなのですが……」
ゲート都市で最近、違法な取引などに簡単に手を貸してしまう旅人が増えているらしい。
それも、捕まる者達は安易にギルドから依頼を受けて行ってしまったとかでそのギルド自体の正体は掴めていない。
ここの所そんな者たちばかりで、そろそろ帝国に本格的に調査を依頼しようと届け出ていた所だとか。
「うーん、どこの国でしょうね、そんな事をしでかすのは」
「帝国にまで侵食するとは、怖いもの知らずだな」
「まぁ、依頼自体はまだ軽いものばかりで出輸入禁止の物の輸送や人気のものを大量に仕入れて各地に運んだりが主なんですけど、このままだと大きな犯罪になりかねないですからね……」
「それはまずいな」
「ま、ちゅーて、こんなものに引っかかる人も限られているんですけどね」
ゲート職員がごそごそとポケットから取り出したのは1枚のチラシだった。ギルドの依頼文のようなそれに書かれているのは――
「……簡単な作業をこなすだけで1日金貨100枚……どう考えても怪しいだろう」
そう簡単に金が手に入るならば今頃皆金持ちである。というか、それだけの金が動くのは明らかに犯罪だろう……
「我だってこんなもの信じないぞ」
「それが、信じて受けちゃう人が居るんですよね……現に」
「どんな層が信じるんだよ……」
職員がため息を吐きながらチラリと見た隣の牢屋。そこには……見事な縦ロールが顔の横に揺れ、服装は貴族のもの。とても金に困っているようには見えないご令嬢が居て……
「私をここから出してくださいまし!! この破滅の運命を打破する為にはどうしても……どうしても纏まった金が必要なのです!!」
と喚いているので俺は見なかった事にして明後日の方向に振り返った。
だが、俺が振り返った反対側も職員は指差し首を振る。
「処刑するならばやってごらんなさい! どうせこのまま死ぬだけの身……最後に大金を手に入れて好き勝手に生きたかった……」
俺はまたしても目を逸らした。
「……何か、似たような令嬢が、多いな」
「あー、なるほど。そういう方々がよく引っかかるのですか」
「はい……あー、丁度いい所に丁度良いタイミングで皇室騎士団長のジェド様が来てくれて助かりましたー。どの道帝国には届け出て何とかして貰う予定でしたので、投獄ついでに彼女たちの話を聞いていってくれませんかね」
と、俺に丸投げしてくる職員。いや、投獄じゃなくて君がサボる為に地下牢に連れて行っただけで俺何も悪い事してませんよね……
適度な休息って話はどうした。俺は休めてないんだけど……?




