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迷えしフェイは竜族と出会う(前編)

 



「それで、お前達に協力したんだから目的の花の群生地まで案内してもらおうか」


 ようやく悪役のお役御免となり黒い仮面を取りマリア達に尋ねると、マリアは俺達の後ろを指差した。


『花でしたら、ジェド様方のすぐ後ろにございます』


 と言われて振り返ると、ナーガの瞳を思い出すような青く綺麗な花が俺達の座っていたすぐ後ろに咲いていた。なんならフェイくんの髪飾りにもなっている。そうか、ここってボス部屋だったんだもんね……


「ダンジョンを攻略するより無駄に苦労した気もするが……これで帝国に帰れるな」


「そうですね」


 とりあえずダンジョンの悪役はマルヤマくんが引き続き請け負い、マリアとマロンもバイトくんが安定するまでは面倒を見るらしい。

 魔術具はシアンがマルヤマくんからの要望を聞き入れて使いやすいように改良したようだ。何か、盛り上がりによってはお金を支払って支援をする事が出来るようにするとかなんとか……

 バイトを雇うのにラヴィーンからもちゃんと金は出ているはずなのに、何故そんなに金が必要なんだろうと思ったのだが「世の中には盛り上がりの為に金を出したい人もいる」とマルヤマくんが言えばマリア達も頷いていた。その辺りの文化はよく分からない……

 まぁ、前に地下で歌っていたアイドルのサキュらんのファンだって握手だお話にだと金を出していたからその辺りは価値観と文化の違いなのだろう。

 いずれにせよこれで俺達のやるべき事は終わりやっと手を放す事が出来る。

 シアンも十分に引き継いだ事を確認して頷く。やっと帰れる……


 はーっと長旅の疲れを口から吐き出すようにため息をひとつ漏らし出口へと進もうとした時、フェイくんがおずおずと尋ねて来た。


「ジェド、その……ラヴィーンには寄らぬのか?」


「え?」


 目的も達成したので有耶無耶のまま山を下ろうと思っていたのだが、フェイくんはしっかりと覚えていたらしい。チッ……


「我も、樽を延々と転がし自分自身と向き合い……少しは成長したと思う。いや完全に完璧な人間になったとはとても言えない……しかし、折角ここまで来たのならば、ひと目だけでも我が青龍領の祖、青龍様にお会いしたく! 国に帰れば次いつこんな機会があるかどうかも分からぬ……この通りだ」


 頭を下げるフェイ。俺はその素振りを制止した。


「気を使うなと言われたが、東国の王族に頭を下げさせるのは駄目だろう」


「……お主、今更そんな事を気にするのか」


 まるで俺が今までそんな事を気にしていなかったかのように言う。それは……まぁ、否定出来ない。思い出した頃に体裁を取り繕う男、ジェド・クランバル。


「そこまで望むなら俺に止める権利は無いさ。行こう、ラヴィーンへ」


「ジェド……!」


「ただし、俺も出来る限り守るつもりだが……守りきれなかったら、その時は自分で何とかするんだぞ」


「そ、そんなに危険なのか……?」


 主に君の尊厳や貞操がね……



 ―――――――――――――――――――――



 そんなこんなで我、東国の王弟フェイ・ロンは漆黒の騎士団長ジェド・クランバル、皇室魔法士のシアンと共にラヴィーンの主都へと辿り着いた。


 思えば長き道のりだった。初めて東国以外に赴いたのは極悪な令嬢、邪竜の力を宿すというノエル殿の話を聞きつけ帝国に行った時だ。

 まさかあれがあんな事になろうとは……大変な思いをしながらも東国を導いてくれたジェドには感謝をしておる。沢山迷惑をかけてしまったが、それでも尚、我を見捨てずにまた我儘を聞いてくれるあやつには頭が上がらぬ。

 大人にならねば、立派で強き人にならねばと思いながらも、ジェドには何処か甘えてしまう節がある。

 弱き姿を見せても根気良く付き合ってくれて、変わらず接して貰えるからという安心感があるからかもしれぬ……


「こ、ここが……竜の住まわれる……」


 ダンジョンのある場所から飛竜便に乗ってたどり着いた先には竜が飛び交う都市があった。

 正直、飛竜に乗ることすら初めてだったので恐れ戦いたが、主都に着くと更にその畏怖の念が増す。

 樽を押した山の麓にも竜族の者は幾人か居たが、町全体を行き交う竜族は半竜半人の姿の者から忙しなく働く巨大な竜までとおり、更にその種類も多種に渡る。


「凄いな、竜と1つに語れぬほどこんなに多種多様なのだな」


「それは他の種族だって一緒でしょう。人にだって色んな見た目、色んな文化がありますし。住んでいる土地も違えば考えや趣味趣向も変わります。ここは古い時代に各地に散らばっていた竜が寄り集まって出来た国だそうです。今でこそ竜族から安全に供給されている竜の素材も乱獲されたり、それこそ竜を倒す事を強さの証とするような文化の地もあったみたいですからね。ひと所に集まって静かに暮らそうと興したのがラヴィーンの始まりだとか」


「そ、そんな事があるのか?! 我が東国では4神獣は神聖なものとして誰もが崇め感謝し敬っておるのに……」


「いや、それが良いって訳でも無いみたいだぞ」


「え……」


「何か、前にチラッと聞いたのだが余りにも畏怖されすぎて重いとか怖いとか、そういう意見の竜も居たみたいだから」


「そ、そんな……そうなのか?」


「ああ、いや、青竜がそうという訳じゃないけど、人もそれぞれ思いがあるように竜もそれぞれ何がいいとか何が落ち着くとか、違うんじゃないか


「そうか……」


 ジェドが思い出すように語った言葉に、我はガンと頭を打たれた気分だった。今まで我らの青龍一族の始祖である竜殿には一族の誰しもが他の何よりも尊い存在として感謝と尊敬を示していたのだが……それがまさか重荷になる可能性があるなどとは……

 だが、そう言われて否定したい気持ちと、すんなりと飲み込む気持ちとが自分の中に存在するのを感じた。

 我も、そして姉上も。本当に自身の気持ちと周囲の気持ちをすり合わせていただろうか。我は自身がどうしたいかを、伝えていただろうか。どう思われたいかを、姉上にちゃんと話をした事があったのだろうか……

 どうしても、悩み国に戻る事を先延ばしにした自身と、すぐこじつけてしまう。ジェドにもそんな事は一旦忘れて色々と見て回れと言われたのに……


 心なしか足取りが重くとぼとぼと歩いてしまう。いや、そんな心でどうするのだ、ジェドに我儘を言ってまで来た憧れのラヴィーンなのだ。


「じぇ、ジェド、ここは珍しい本が沢山売っているな――」


 話題を変えようと近くの本屋から適当に手にした妙に厚みの無い本を掴んでジェドやシアンに向き直るも、居ると思っていた場所に2人の姿は無かった。


「え――あれ?」


 ほんの一瞬目を離しただけかと思っていたのだが、気がついて周りを見渡せば先ほどとはかなり様相が違った町並み。歩く人の多さもジェド達と話をしていた時よりかなり多くてその姿を探す事すら困難。

 そもそもここがラヴィーンの主都の何処に当たるのかさえ分からず、つまり……これは……


「まっ迷――いや」


 大人になると決心したばかりなのにこの体たらく。いや、落ち込んでいる場合ではない。

 我は学習したのだ、大人ならばここは自らの力で何とかしようと足掻くよりも矜持を捨てて人に頭を下げて頼るものだ。大事なのは迷惑を重ねぬこと。

 誰かに助けを求めようと顔を上げた直後――我の触れいてた本を指す女性が現れた。


「あの、その持っている本、貴方買われるのかしら?」


「え……」


 声をかけて来たのはフードを深く被った女性だった。竜族の女性だろうか……フードのせいかその表情は分からぬが、妙に安心感を覚えるその声色。我は、咄嗟にその女性に懇願していた。


「あ、あの、不躾な申し出で済まない、その、ち、力になってはくれぬか」


「……」


 我の掴んだ本と我の顔を交互に見ながら、その女性はニコリと微笑んだ。

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