ダンジョンの悪役にはなりたくない(前編)
「ここが竜の隠しダンジョン『究極無限の竜の鼓動』です」
マリアとマロンが案内した先には竜が口を開くような形の禍々しい洞窟があった。うーん名前。
「こ、これが……帝国の皇族が求婚の際に花を取りに行ったという言い伝えが残る場所なのか……。東国も国を統治する王となる為には他領の猛者と戦わねばならぬ程苦難の上であるが、帝国は婚約するだけでもこのような試練が必要とは……恐れ入ったな」
洞窟をまじまじと見つめながらフェイ君が息を呑む。
俺は軽く首を傾げた。
「いや、確かにルーカス陛下はこの位の試練を乗り越えて普通位の屈強最強無双系男子だけど……先代やその前はそんなに強くなかった気がする」
俺が鍛え過ぎと思う位ガチ中のガチな陛下であるが、実は両親である先代皇帝や皇后は自ら戦うような方ではなかった。何ならちょっと身体が弱かったくらいだ。
先が短いと悟った先代は幼い頃から陛下に若くして後を紡ぐ覚悟を持つよう言い聞かせていたみたいだが、一体いつから、どうしてああなってしまったのか……
そんな感じなので、恐らくこんな竜と死闘の末にボロボロの身体で求婚するなんてあり得ないだろうけど一体何故そをな話が語り継がれているのか。
「ああ、ここは元々ただの花が群生していた洞窟でしたが、私達がダンジョンっぽくしました」
「……お前達が作ったのか?」
「はい。入り口の竜の口の形とか、それっぽいでしょう? 名前も私達が思いっきり恥ずかしい感じにつけました」
「やはり、中途半端にカッコイイより恥ずかしいくらいじゃないと厨二心をくすぐれませんからね」
満足気に頷き合うマリアとマロン。竜の隠しダンジョン(人工)は樽押しの苦行を持ってしても振いきれぬほど人で賑わっていた。
2人がここを作ったのにはそれなりに訳があるらしい。
というのも、魔王領と同じく竜の国にも竜に勘違いと夢を見る他国の冒険者が後を絶たず、それが最近爆発的に増えたのだとか。
以前までのナーガが統治していたラヴィーンは認めた者のみ裏道のゲートを使用して入ることが出来、それ以外にラヴィーンへ行くにはウィルダーネス側からの険しく長い竜の修行道を通らねばいけなかった。
ところが、ここ最近になってセリオンからの道のりやゲートが整備され、誰でも気軽に竜の国に来られるようになってしまった事による観光客の増加。更に追い討ちをかけたのが録画魔術具の流行による間違った拡散である。
誰が何処にどう広めたのかは分からないが、露店の竜族の人も困っていた通り竜を倒すぞと息巻く自称勇者や竜の秘宝を求めて来る勘違い者が続出したのだとか。
今のラヴィーンをよく知る俺達にしてみれば竜の秘宝なんて薄い本か何かかな? と訝しむところだが、情弱な他国民や異世界から来た旅人なんかはイメージと幻想とノリと勢いで来てしまうらしい。例え本当に秘宝があったとしても、奪いに来ちゃダメでしょ。それ強盗よ。
「それで、見せかけだけでもダンジョンを作ってそちらに人を流入させようとした、という訳か」
「はい、この見た目に騙されて押し寄せる冒険者達は私達のゲーム知識をフルに生かしたトラップの数々に苦戦する事でしょう」
「難易度を絶妙に調整するのがミソでして、簡単過ぎてもダメだし、かと言って難し過ぎても駄目……やり甲斐と時間の浪費、これのバランスが肝心なのですよね」
流石、前世でクソも神もゲームをやり尽くした2人。その人心掌握と神から与えられたスキルで人々の目を巧みにこのダンジョンに向かせていた。
「攻略途中で離脱し、一旦国に帰って出直してくる方も沢山おります。ここがあればラヴィーンの首都の竜達に目が行く事はしばらく無いでしょう」
「なるほど、それは中々素晴らしい試みですね。ですが、騎士団長に話を聞いて欲しい、という事は何かお困りなのですか?」
シアンが感心しながら余計な事を聞いた。いやお前……
「そうなのです……」
と、令嬢2人は神妙な顔で紙を取り出した。
フェイくんがそれをまじまじと見て読み上げる。
「ダンジョンの……悪役、募集……?」
「はい。ラヴィーンに出している求人、バイト募集のチラシです」
「……これがどうしたんだ?」
「それが……求人を出してからだいぶ経つのですが、1人もエントリーしては来ませんでした」
「でしょうね」
ダンジョンがアトラクションならば当然敵役も必要と思い、2人はラヴィーンに求人を出してみたが、当然の如く今まで1人も働きたいという人は来ていないという。
当たり前の話だが、誰しも好き好んで悪役なんてやりたく無いだろう。子供の遊びだってみんなヒーローがやりたいだろうし、俺の経験からも悪役の運命から逃れたい令嬢ばかりだ。いやまぁ1人だけど居たけど、そんな人は稀だろう。
「魔王領の方にも打診しましたが、魔族をそんな危ない目に遭わせられないと断られました。辛うじて頑丈でほぼ死ななくて話の分かるホワイトスライムだけは貸し出してくれたので今は何とかスライムだけで凌いでますが……流石に竜のダンジョンでスライムだけっていうのはちょっと厳しいというか」
「いや、魔族側の主張が全てだろ、誰が好き好んでそんな危ない事をしたがるんだよ! 相手はガチで竜退治を夢見てきてる勇者だ冒険者なんだろ?! というか悪役なんて絶対嫌だろ」
「そんな事ありません! みんな知らないだけで、ダンジョンのボスや敵役って結構楽しいんですよ!」
「危険って言ってもポーションの類は沢山準備していますし、危険手当や労災も付きますし! あとこちらには神がついていますので最悪死んでもまだ魂がその辺に残っていれば蘇生出来ますし!」
「ちょっとリアルで余計やりたくなくなるわ!!!」
「お、お主ら、ちょっと落ち着いて考えてみては……」
白熱する口論。オロオロと俺達を止めようとするフェイくんにまで火の粉が飛び火する。
「あら、小さな少年の悪役も大歓迎だけどあなたもどう? あなたなら雄ガキ風サキュバスコスプレとかで誘惑する位でしたら安全に十分冒険者を惑わし――」
「こらー!! 何処が安全だ!! というかフェイくんに変な事を吹き込むな、風紀が乱れるわ!!!!」
「さきゅばす……?」
違う意味で危険だわ!!! いい加減にしろ!!
すると、話を聞いていたシアンがポン、と手を叩いて話に割って入った。
「なるほど、分かりました。ご令嬢達はダンジョンの悪役も危険では無くむしろ楽しいと知って欲しい。ですが、騎士団長は危険だからそんなのは無理だと説得したいと」
「何だ……改まって」
「ですが騎士団長、それっておかしく無いですか? 机上の空論といいますか、やっていないのにつっぱねるのは。ご令嬢達も、やっていないのに楽しいですとか、死んでも大丈夫とか、そんな補償はありませんよね?」
「ま、まぁ……そうね」
「ですからして、解決する方法はコレではないですかね」
シアンが収納魔法から取り出したのは最近よく見る魔術具だった。録画魔術具……それに、その隣には鏡のような魔術具もあり、シアンが魔術具を起動すると録画魔術具で記録しているであろう映像が鏡にも同じように映し出された。
「やってみれば良いのですよ、ね? 漆黒の悪役騎士団長」
シアンが俺に録画魔術具を向けると、鏡には俺の顔が映し出された。わー、イケメンの困り顔。




