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閑話・三つ子の騎士



 ショコラティエ伯爵家子息、三つ子の騎士ガトー・ザッハ・トルテは一卵性であり、親すら見分けのつかない子供であった。


 名前がちゃんとそれぞれ付いているものの、物心が付くまで誰がその名前だか自分たちでも分からない。

 名前をぶら下げたりもしたが、一度混ざってしまうと分からないのでそれもやめになった。

 物心が付いた時に、相談し合ってそれぞれ誰がガトーでザッハでトルテか決めた。そこから自己申告制になる。

 流石に鑑定のスキルならば見分けが付くだろうと鑑定を使った結果は『三つ子のガトー、ザッハ、トルテのいずれか』と出るだけであった。

 そんな事があるのかと誰しもが不思議に思ったが、あるものはあるのだ。どんな強い魔法士に鑑定して貰っても結果は同じなので、神すら見分けが付かない奇跡の三つ子なのだろうと無理やり納得した。

 そうは言っても三つ子達もそれぞれ1人の人間である。各々「個性が欲しい!」と、それぞれ髪型を変えたりしたが、何故か髪型を変えるたびに被ってしまうのだ。

 そもそもなまじ少し髪型を変えた位で見分けが付くようなレベルではなかった。髪型が違おうが誰が誰かなんて分からない。

 恐らく、そう言った類の呪いなのだろう、と誰かが言った。

 本当に呪いなのかもしれないと彼らがハッキリ思ったのが、帝国で再開した時だ。

 それぞれ違う環境に離れて勉強しようと相談して分かれたのが2年前……なのだが最終的に今、こうして何故か同じ騎士団を同じタイミングで受けていて皇帝の前に3人並んでいたから。


(何でお前らここにいるんだよ……違う環境で違う人生を歩もうって言ったよな?)


(何でと言われても……騎士団は小さい頃からの憧れなんだよ)


(偶然だな、俺も小さい頃から憧れていたんだ)


(……俺もだ)


 呪いかどうかはともかく、この三つ子は考える事が一緒なので、違う環境にいようがいまいが結局同じ人生を歩んでしまうのだ。

 3人の目の前に居る皇帝が太陽のように笑う。


「君達似てると思ったら三つ子だったんだね。違う所から受けていたから分からなかったけど。ま、別にこちらとしては優秀な騎士ならば採用で構わないよ。ただ、試験は私が直接するので」


 皇帝はニコニコと笑いながら木剣を持った。

 皇室の訓練所、騎士団への採用試験は陛下自ら剣を持って試す、という……他の国ではあまり、いや全く聞かない話である。


「ああ、皇帝に剣を向けるなんて……とか思う奴は採用しない事としているんでね。この国で1番大事なのは民であり、私ではないんだよ。皇帝であろうと国に害がある存在は止められてこそ私の騎士団だからね」


 三つ子とて、はなからそんなつもりはない。だが、この国最強と言われる皇帝ルーカス陛下はまだ本気にすらなってないのに剣を持っただけでこの威圧感である。正直ひと太刀だって届く気がしなかった。


「私は3人同時でも構わないよ?」


 3人がお互いを見合う。2年間も離れていたが、お互いの心が手に取るように分かった。何故ならこの三つ子は考えている事が一緒だという自信がそれぞれにあったから。2年ぶりに会うというのに体格も一緒なら髪型も服装もどん被りだった。

 3人は頷くと三方に分かれて同時に攻撃を仕掛けた。



 ――全く敵わなかった。

 皇帝の周りに寝そべる三つ子達。これ程までに強かったのか、と思い知った。帝国最強の名は伊達ではない。


「ふふ、私は負ける訳にはいかないからね。でも君達いい線行ってるよ? やっぱ三人の連携が素晴らしいからね。同時に仕掛けられて互いの心内が分かるっていうのは武器だから大事にするといいよ?」


 その言葉に3人は目から鱗が落ちた。今まで自分も周りも含めて、何とか見分ける事に躍起になっていたのだが……3人一緒だからこそ出来る事もあるのだと気付いた。無理して人生を分ける必要はない……我々は3人一緒にいていいのだ、と。

 何だか今まで考えていた事がバカバカしくなり、3人は笑った。


「じゃ、3人纏めて採用って事で騎士の誓いを立てて貰うけどいいかな?」


 3人は起き上がり、皇帝の前に並んだ。

 皇帝ルーカスはあまり神を信じないと聞いていた通り、誓いは国と己に対して行われる。

 皇帝が1人目の前に来たので、自らの剣を抜き捧げた。彼はその剣を取り、その肩に刃を添える。


「ガトー・ショコラティエ、君は私の剣となり盾となり、その身を我が帝国の平和の為に捧げる事を誓うか?」


 ガトーは一瞬何を言われたのか分からず、目を丸くして皇帝を見た。ザッハとトルテも目を丸くしている。


「な、何故俺がガトーだと……分かったのですか?」


 皇帝はしばらく考えて困ったように言葉を発する。


「え? 分かんない。えーと……何となく」


 何故見分けが付いたのかは皇帝自身にも分からなかったが、最初から見分けが付いていたらしい。後に騎士団長から「ルーカス陛下は何でも出来るしジャンケンとか運ゲーも強いからそう言う事だと思う」と聞いたが結局誰にも分からなかった。


「わ……私、ガトー・ショコラティエは陛下と国を永久に裏切る事の無く、命の続く限りこの身と剣を捧げる事を誓います!」


 ザッハとトルテも同じように捧げた。


 自分達はこの方に見つけて貰う為に生まれて来たのかもしれない……と。



「ま、剣とか盾とか捧げる事もあんまり無く雑用ばかりなんだけどな」


 漆黒の騎士団長、ジェド・クランバル団長が三つ子達の思い出話に笑う。


「ま、見分け付かなくても俺はお前らみたいな騎士が仲間で良かったぞ? 皆同じ事考えてるから分かりやすいし、みんな性格もノリもいいし」


 ルーカス陛下もいい皇帝だが、その友人である騎士団長もいい意味で能天気なので力が抜ける。団長は変な事件に巻き込まれがちなので、そのエピソードも面白くて……3人一緒に皇室騎士団の第1部隊で皇帝に仕える事が出来て三つ子は幸せだった。

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