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魔剣の乙女は悪役令嬢で赤ちゃんで(後編)



 俺と魔王と魔剣は【聖剣の薔薇乙女戦記】の悪役令嬢ターナ・グラハムこと鈴木に言われるまま、とある屋敷に来ていた。


 正確には鈴木は赤ちゃんなので、言われるというよりは心を読んでが正しい。

 ちなみに俺が魔剣を装備して赤ちゃんの籠を持ち、魔王が赤ちゃんの考えを俺に送るのに肩に手を置いているのでみんなで密接しながら屋敷を見つめているのだが。何この状況。


「ばぶぅ」


(この時間で間違いない。丁度俺が森に捨てられた日、公爵家に【聖剣の薔薇乙女戦記】に登場する聖剣の主人候補であるまだ幼い女の子達が一同に集められるイベントがあったのです! ターナも出席するはずだったが……嫌がらせで森に捨てられ、来ることが叶わなかったけれど……)


「公爵家って……うちじゃねーか!!!」


 見覚えのある屋敷は見間違いでも何でもなくうちである。え?? 何で家でそんな変なイベント開いてるの??? 全然知らないんだけど???


「ばああ」


(クランバル公爵家は優秀な騎士で剣聖の家系としても知られています。そのクランバル家の家宝の剣の1つに心が宿る聖剣があり、クランバル公爵家令嬢ジュエリー・クランバルこそ聖剣・薔薇の乙女を持つ事が許された少女です。集められた他の家門も心の宿る聖剣を家宝として持つ事になるので、聖剣の乙女候補を把握しておこうという事なのでしょう)


『クランバルってどっかで聞いた事あると思ってたら【聖剣の薔薇乙女戦記】の主人公じゃない』


 ふーん、ジュエリー・クランバルね……

 I・MO・U・TO!!!!!!

 え???? ジュエリーちゃんって俺の3歳の妹ですが??? ジュエリーちゃんって喋る聖剣の主人なの?? やだよお兄ちゃん、そんな変なゲーム出ちゃだめです! めっ!!


「ばばばぁ」


(そうです、その主人公ジュエリーが初めて聖剣に触れ、聖剣の声を聞く事になるイベントが正に今日なのです!! まさか生で見る事が出来るなんて……感動です)


 まさかの展開である。

 正直兄としては妹を全力で止めたい。いや、止めよう。

 俺たちは足早で屋敷に入り、妹を探した。


「これはジェド様お帰りなさいませ。あの、そちらの方とその赤ん坊とその剣は一体……」


 魔王が肩に手を置き、赤ん坊の籠を持ち魔剣をぶら下げている俺の姿には、メイド達もドン引きである。分かる、俺だってこの状況に引いている。だが、今はそんな場合ではない。何としても妹を止めなければ。

 家宝の聖剣は……海に捨ててこよう。


「説明している暇は無い、急いでいる。ジュエリーを見なかったか?」


「ジュエリーお嬢様でしたらパーティーに飽きたのか、地下の倉庫の方へ遊びに行かれましたよ」


「分かった。ありがとう」


 ヤバイ、地下には剣が沢山ある! 急がないと!!

 俺達はダッシュで地下に向かった。


 地下室の扉は開いていて、隙間から光が漏れていた――まさか!!

 俺は超加速を使い扉に手をかけた。いつも思うが、超加速ってもっといい所で活用したい。


「ジュエリー!!」


 そこに見えたのは、薔薇色の剣を持ち光に包まれ、雷に打たれたかのように驚愕しているジュエリーちゃんであった。遅かった……


「はぁ、はぁ、ジェド、お前意外と早い――」


 遅れてきたアークが部屋に入るなり絶句した。え? 何?


「……話がややこしくなるから鈴木をそこに置け」


 え?? 何?? 何だか分からんが言われるがままに赤ん坊鈴木籠を近くのテーブルに置いた。アークが肩に触れると思考が頭に流れてきた……これは――


(い、今の聖剣に触った時のショックで全て思い出した。この世界は俺が前世でプレイした【聖剣の薔薇乙女戦記】のゲームの中であり……俺は、その主人公であるジュエリー・クランバルになってしまっていたんだ!!!)


 頭の中に流れてきた男の声の内容が酷すぎてアークの手を思わず払った。


「……嘘だと言ってくれ」


「ジェド、気持ちは分かるが現実を受け止めろ」


 アークが肩に手を置き、再び俺の頭に流れて来る男の声。


(あれ? そこで見てるのはジュエリーのお兄ちゃんジェド・クランバルだよなぁ。お兄ちゃんには言えないな……俺が田中という男だという事は。何とか隠し通そう)


 ジュエリーちゃん……いや、田中。申し訳ないがすでに知っちゃってます。嘘だ……かわいいジュエリーちゃんの中身が田中だなんて……異世界の男だなんて……嘘だと言ってくれ。


「ジェド……」


「ん?」


 アークが指差す方を見ると地下室の入り口には歳のまばらな女の子が何故か集まっていた。

 アークの力でその女の子の考えている事が全部流れてくる。


(おお……これが【聖剣の薔薇乙女戦記】の主人公が覚醒するシーン……感動すぎる)


(【聖剣の薔薇乙女戦記】の主人公ジュエリーちゃんだ……ハスハス)


(ああ……ジュエリーちゃんもかわいいけど他のキャラクター達もかわいいなぁ……俺だけ男で申し訳ないなぁ)


(言えないなぁ……俺だけが前世で【聖剣の薔薇乙女戦記】の記憶を持っているなんて……)



 そこで覗いてる幼女達全員から男の声が聞こえてきた。つまり、【聖剣の薔薇乙女戦記】に登場する聖剣の乙女候補は、全員異世界から転生してきた前世の記憶を持つ男だったのだ。そんな事……ある?


『何か混沌としてるわね。魔剣もビックリよ』


 魔剣さんもドン引きの混沌さである。俺もこの幼女達が全員心が男とか……もう嫌すぎてお家帰りたい。いや、ここがお家か。助けて。


 テーブルに置いた鈴木も含め、お互いに心の声は聞こえていないので、皆大好きなゲームの登場人物に会えて幸せそうである。不幸なのは声が聞こえている俺と魔王だけだった。


 すると、ジュエリーちゃんこと田中が持っている聖剣・薔薇の乙女が喋り出した。



『ここは……まさか俺は、あのゲームの世界に転生してしまったのか……しかも剣??』


 聖剣・薔薇の乙女、お前もかよ……

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