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ゲート都市は再びすんなり通れない(中編)

 


「で、要するに君は乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまい、その破滅の未来を変える為に録画魔術具に手を出した、と」


「はい。騎士様、こんな私の話を聞いてくださるのですね」


「ああ、そういう系の話は聞き飽きたを通り越して慣れすぎてしまったからな。それにもう、こうなってしまっては聞く以外の選択肢は無いだろう……」


「ありがとうございます! 実は――」


「なぁジェドよ、ちょっといいか」


 話し始めようとした令嬢を遮り、フェイが手を上げた。


「ん? どうした?」


「……何で我らまで地下牢に入れられているのだ……?」


「何でって言われてもな……」


 実際に地下牢に入れられたのは違反した令嬢だけなのだが、話の流れで一緒に行く感じになってしまった俺達3人は、やはり流れで同じ地下牢に入れられていた。


「お主……貴族だよな? そうでなくとも何の罪も無い者まで当たり前のように投獄されるのはどうかと思うのだが……」


 俺がずっと突っ込まなかった事をおずおずと聞いてくるフェイくん。こうやって定期的に忘れかける常識を教えてくれるのは非常にたすかる。


「ま、ここ地下牢ではありますけど、ゲート都市では凶悪犯罪もそう起きないのでほぼしょうもない犯罪で拘束された人とか、金が無かったり宿がいっぱいだったりした人に一晩貸してあげたりとか、あとしょうもない事件に巻き込まれるジェドさん用に使われたりとか、そんな感じですよ。この部屋だって、ほぼジェドさん専用というか……結構私物とか忘れていかれますし」


 そう言いながら茶菓子を持って牢屋に入ってきたゲート職員。人数分のお茶の中にちゃっかり自分の分を入れているあたり、こいつもサボって長居する気満々である。

 あ、本当だ……前にここで寛いだ時に外した手袋とか着替えた靴下とかが干してある。


「ううむ……それだけ平和、という事なのだな。それで、話の腰を折って済まなんだが、そこなご令嬢はその、おとめげーむとやらの悪役の、その……なんだ、破滅の運命……? をなんとかとか……」


「はい、私が前世でプレイしていた乙女ゲーム『胸がキュンキュン恋愛学園~薔薇色イケメン天国の誘惑に負けないで』の世界に登場する主人公のライバルにして当て馬かつ最後に断罪されてザマァされる悪役令嬢バーバラそのものなのです。このままでは後に私が通う学園に現れる主人公が私の婚約者や周りの男たちと恋愛する事に巻き込まれ……断罪される未来が来るのをただ待つだけ……そんな運命は、自ら変えるしかないとこうして――」


「ちょっと一旦いいか。ジェド、どこから突っ込めば良いのか分からぬのだが……」


 情報過多で飲み込めなくなったのか、フェイが困った顔をこちらに向ける。


「フェイも最初はノエル嬢の悪役令嬢の力を目当てに帝国に来ていただろう? 悪役の運命を背負わされそうになったノエル嬢と似たような運命をお持ちのご令嬢だ」


「いや、そ、それはまぁ……そうだったかもしれないが……異世界、というのもまぁ分からなくもないが……そのふざけた名前のおとめげーむとやらは一体何なん――」


 フェイが乙女ゲームに疑問を上げた瞬間に、バーバラ令嬢が興奮気味にまくし立てた


「よくぞそれを掘り下げて聞いて下さいました! 乙女ゲームについてを話しても異世界の方にはあまり理解してもらえないと思っておりましたが。『胸がキュンキュン恋愛学園~薔薇色イケメン天国の誘惑に負けないで』は通称『キュンバラ天』と呼ばれる乙女ゲームでして、ゲーム性はまぁ、学園に現れるイケメンを攻略していくというゲームなのでそんなに特出するところも無いのですが、とにかくスチルが良い! イラストレーターの満点もろ出し丸先生の美麗イラストから生まれるイケメンはシュッとした線の中に冷たい目がたまらず、それに声優が豪華で、更にシナリオライターがうんたらかんたらでそれがあれで――ぎゃわっ!!!」


「はいはい、分かりましたから。いや、半分以上分からんわ。フェイ、こういう人の話は掘り下げたら際限無く喋っているから真面目に全部聞かなくていいぞ」


「そ……そうなのか」


 真剣に話を聞いて全部理解しようとしていたフェイが可哀想になったので途中でバーバラ令嬢をラリアットで止めた。

 異世界人の話は半分以上意味不明なので、得にこういう早口系は話半分くらいで聞いてないとおかしくなるぞマジ。というか誰だよ満点もろ出し丸先生……妙に残る名前だな、クソ。


「それで、その『キュンバラ天』とかいうゲームがその録画魔術具で儲けたり有名になってアイドルを目指したりするとか、そういういうやつなのか」


「……? いいえ。特にそういう事はありませんが。普通に恋愛するだけです」


「え……? 変な洞窟で岩を避けるミニゲームをひたすらやらされたり、スライムを掛け合わせたり、香水を作ったりとか、そういう事も無いのか……???」


「え……ないですけど。ああ、あの変なゲームを制作する事でお馴染みの会社が出している乙女ゲームですか? あんなの乙女ゲームじゃありませんよ、邪道邪道。こちらは正統派乙女ゲームです。ジェド様、変なゲームばかり知っておられるのですね。ですけど、そんなゲームばかりを乙女ゲームだと思っているようでしたら大間違いです。頭がおかしくなりますよ。乙女ゲームにはそういう変な要素は要りませんって」


 と、可哀想な人を見るような目で見てくるバーバラ。そうか……俺が関わって来た乙女ゲームの殆どは邪道だったのか……正統派、とは?


「そうか……それで、その正統派の乙女ゲームとやらの悪役令嬢の君が、録画の魔術具で一体何をしようとしているんだ?」


「よくぞ、よくぞ聞いてくれました! 現状、私は突出したカリスマも無ければ悪役令嬢に徹しれる程のきつい性格を持ち合わせてもおらず……ヒロインと戦う事も出来なければ婚約者に婚約破棄されてしまっては生きていけない位に家での立場も弱く……悪役令嬢どころかこの世界でやっていけるかどうかも心配な位には結構弱い人間なのですが」


「あー、まぁ、そうだよね。俺も急に商家の跡継ぎとかにされたり、ましてやその異世界みたいに知らん世界でバリバリがんばれって言われても無理な自信あるわ……」


「分かっていただけて嬉しいです。そこでこちらです、最近領内でもこちらの録画の魔術具で録られた各地の名物を面白おかしく紹介されているものが大人気でして。これは、私の前世でも流行っておりました動画配信サイトの人気コンテンツと似ている、という事に気付いたのです。幸いにもこれ系に関しては重度のSNS廃人だったので似たようなノウハウは詳しい、はず! これでバズってひと山あてて大儲けして、1人で生きていこうと、そういう魂胆です」


「なるほど……」


「それはだいぶ……その、アレだな」


 フェイくんも苦笑いで俺を見る。俺が言うのもなんだが、だいぶ……考えが浅はかというか何と言うか。

 まぁ、今までのこういう系のご令嬢も結構浅はかだったからな……


「それで、いい映像は撮れたのですか?」


 魔術具の映像の撮れ高が気になったのか、シアンが少し期待しながらバーバラに尋ねる。

 バーバラは無言で魔術具をシアンに手渡した。

 そんなこんなで地下牢でお菓子を食べながらバーバラの魔術具録画上映会になったのだが……


「これは……まぁ、なんというか」


 仕事をサボって一緒に見ているゲート職員も苦笑いの出来。そう、バーバラの映像が壊滅的につまらないのだ。

 映し出された映像はゲート都市に来るまでの道のりを映したものなのだが……


『はーいど、どうもー、バーバリャです、今回は帝国のゲート都市へのみ、道順を映して回りたいと、お、思いますー』


 と自分の名前から噛み噛みで始まった映像だが、何を映しているのか分からないくらいに映像がとにかくぶれていて何処を通っているのかも不明。そもそも、何も起こらないゲート都市への道のりを見たいやつ、いるか? 今端っこに映っていた湖、ちょっと前に通れば湖の女神の痴話喧嘩による謎の事件が起きていただろうし、ゲート都市だってちょっと前に巻き込まれた謎の都市伝説があっていろいろと……まぁ、俺の巻き込まれ体質を改めて思い出すと悲しくなるけど、こちらはこちらで悲しくなるくらい何も無い。あと、話が下手すぎて何も楽しくない……

 バーバラも見ていられなくなったのか、自分でダメージを受けてうずくまっていた。見せられている俺達も共感性羞恥心で辛いんだが。


「つまり……そういう事です」


 もう限界に達したバーバラがそっと魔術具を閉じる。俺達も頷いた。


「……これでひと儲けは、厳しいな……」


「そうなんです! 何が悪いのか分からず……いえ、分かっています。先ほども言ったように私は正統派乙女ゲームばかりやっているような凝り固まった人間……発想力に乏しいのです」


「そうか……?」


「どうすれば、どうすればバズるような動画が撮れるか、一緒に考えて頂けないでしょうか?!」


「ええ……」


 諦めて他の方法を探したほうが早いのでは、とも思ったが……


「ジェド……我は、ご令嬢がここまで向いてなさそうな現状を直視しても逃げずに挑もうとしている心意気は評価しても良いとおもうのだ。力になってやってはどうか」


 フェイも気の毒そうに言う。いや、その気概があるならばまず実家に戻って令嬢教育の方を頑張った方が早いのでは……


「何か、あんな恥ずかしい映像を見せてまで頑張るなんて、本気なんですかね。分かりました、この地下牢でしたら他の観光客も居ませんし、特別に今日だけ撮影許可を出してもいいですよ。ただし、あくまで練習用に、ですからね。ここで撮ったものを売りに出すのは無しですよ」


 と、職員まで協力的になっていた。


「騎士団長、ここまで言われたら、協力するしかないんじゃないですかね」


 そうシアンに言われ、俺はため息混じりに頷くしかなかった。



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