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聖国からの帰路……大人ってなんだっけ?

 


「じゃ、じゃぁ……これを陛下に届ければいいんスね」


 ちょっと引いているガトーが抱えているケースの中には世界樹の花があった。見た目は綺麗だがちょっともぞもぞ動いている。動くのでケースに収めている訳で……


「本当にコレ、陛下が欲しがってんスかね? 俺は要らない……」


「まぁ、そういう名目で動いているからな。要るか要らないかはともかく、持ち帰らなくてはならんだろう、頼むぞ」


「はーい」


「ガトー様、行ってしまわれるのですね……」


 旅支度を終えたガトーを見送る聖国人達は涙目で引き止めていた。俺の居ない間に何でそんなに馴染んでるの……


「いやー、そろそろ帰らないと心配すると思うので。それに俺、一応皇室騎士団ですし、団長みたいに勝手に出歩けないというか……」


「俺が好き勝手に出歩いているような風評被害はやめろ」


「間違っちゃいないと思いますが……ハハハ。あ、そうだ、人手が足りないのでしたらエースさんと相談して何人か人を派遣しますので。あ、俺、三つ子なんスけど、俺と大体一緒なんで、まぁ俺じゃなくても……」


 とガトーが時折見せる三つ子自虐を漏らしそうになったのを止めたのは聖国人達だった。


「いえ、確かに人手は必要ですが、誰でも良いって話じゃあないんですよ。我々が困っているからと帰らなくちゃいけないのに残って、しかも聖国の為に色々親身になって提案して研究に付き合って下さったのは、他のどなたでもなくガトー様なのですから」


 ニコニコと感謝を述べる聖国人に、ぐっと詰まらせたように赤くなるガトー。


「教えて頂いた数々の品、絶対に完成させますので!」

「また、いつでもいらして下さいね!」


 他の聖国人達も別れを惜しむようにガトーと握手を交わしていくのに対し、少し困ったような照れたような笑みを浮かべていた。


「他人との……関わり、かぁ」


 とボソリと呟やくガトー。こいつはこいつで何かあるんだろうな……あの能天気の塊のロイでさえ読書時間が少ないから騎士団やめようかなとか悩んでいたし。いや、それは悩みじゃなくてただの我侭か……俺に憧れていたとかいう話はどうした。


「ハイハイ、アタシは何の未練も無いのでとっとと帰ってくれる」


 しっしと手を払い追い出すように促すロスト。お前はお前であんなに一緒に居たのにその言い草……


「たはー、相変わらず冷たいッスね。あ、でも今度は兄弟を紹介しますよ、きっと見分けがつかないんでビビリますよ」


「同じ顔ったって、アンタしかアタシを知らないんだから、アンタがガトーでしょ」


「まぁ……そうッスね……」


 興味無さ気にそっぽを向くロストに会釈をして帰路につくガトー。心なしか足取りは軽そうであった。長らくつれ回してごめんね……帰ったらゆっくり休んで。

 他の聖国人達もガトーを展望所まで見送りに退出した。度々聖国には来ているが、そんな神対応された事、1回も無い……

 執務室には無心で仕事をするオペラと、窓際で暢気にそれを見守るロスト、そして俺達3人だけが残った。


「それで、貴方達はルーカスの為に各地へまた花を探しに行くの?」


「ああ、陛下が望んでいる花だとするとほら、聖国だけじゃなくて魔王領にも行かないといけないし、厄介な事に帝国で定番の求婚用の花は竜の国にあるみたいで――」


「ブッ!!!」


 俺の言葉を聞いたオペラがお茶を噴出した。女王がお茶をそんな風に……ああ、まぁ、今更威厳とか気にしても遅いけど。


「あの、世界樹の花にはそんな意味は無いですし、聖国人にもそんな文化は無いって言ってるでしょ!!! 全く、誰がそんなデマを……」


「まぁ、でも、オペラは陛下の事も、アークの事も受け入れたんだよな?」


「ブフッツ!!! ゲホッ!!! ゲホッ!!!」


 心を落ち着かせようとお茶を飲んだオペラがまた噴出して変な所に入ったのか咽ている。お茶を飲んだタイミングで済まんね。


「ゲホッ……わたくし……まだ……それに、結婚なんて、聖国もあるし……」


「はー、うじうじとしつこいわね! さっきまでその聖国を放っておいてボーっとしていたのは誰よ! アンタなんか居なくても大丈夫なんだからとっとと一妻多夫でもなんでも娶ればいいじゃないの!!」


「な?! 居なくてもって何よ!! わたくしがどんな思いで聖国を――」


「だー! こっちはアンタが早いとこ何人も娶ってくれた方が話が――」


「――あの」


 突然勃発した兄妹喧嘩。ロストの本音が何か漏れそうになった売り言葉に買い言葉を止めたのは、遠慮気味に手を上げたフェイだった。


「話が拗れそうな所申し訳ないのだが……我はその、オペラ殿にその話を聞きにきたのだ」


「その……どの?」


 結婚? 聖国の? 兄妹喧嘩? 一妻多夫? どれの事を聞きたいのかと考えている間に、フェイはおずおずと話し始めた。


「……その、オペラ殿は幼い身で、聖国を背負って立ち、女王として君臨して来たのであろうが……何故、如何にしてその心を養い、大人になったのだ?」


「如何にしてって言われても……」


 うーん、とどう答えたものか迷っているオペラの代わりに口を開いたのはロストだった。


「アンタの聞きたい事がどういう質問だか分からないし、東国がどういう国なのかも全然理解出来ない身で言わせて貰うけど、この子が女王になったのは生まれる前から決まっていた事だし、自分の意思じゃないのよ。半分滅んだ聖国を立て直すのだって、聖国の為に尽くしたのだって、この子の意思じゃなくて、そうせざるを得なかったから」


「ろ、ロスト貴方……」


「この子は子供よ……今もぜーんぜん自分の事すら考えられないくらいにね。でも……悔しいけど、子供のくせに女王として立っていたのよ。アタシだって、適わないって思わせる程にね」


「え……」


「最初は、どうしてこんなに生まれながらにして完璧で、人を見下すような奴がいるのって、嫉妬したわよ。でも、アタシが知らなかっただけで、そんなに人を見下してもいなかったし、完璧でもなかったから……アンタが大人に見えてるやつらだって、アンタが思ってる程大人じゃないって事よ」


「……そう、なのか」


「他人がそうだって分かると、気が楽なものよ。ま、子供のアンタには余計に迷う言葉になっちゃうかもしれないけれどね」


「う……気が楽に、ならないのは、我がやはりまだ子供、だからなのか……」


 ロストの言葉に余計に悩むことになったフェイだが、コホンと照れたように咳払いをするオペラ。


「わたくしも、貴方の質問の意図は分かりかねるけれど、わたくしは目の前の事に向き合って来ただけですのよ。貴方も、ゆっくり考えて、相応に目の前に訪れる出来事と向き合ってみれば宜しいのではないかしら」


「オペラ殿……」


 優しく諭すオペラに、フェイはお辞儀をしその手を取った。


「助言、ありがたく思う。やはり、正直我にはオペラ殿の言う事もロスト殿の言う事も、半分くらいしか理解出来ぬが……それが、そういう事だったのかと理解出来る頃には大人になっているはずであろう」


 話し始めた時は深刻そうで元気の無かったフェイに少しでも元気が戻った事にほっとしたオペラだが


「オペラ殿も、目の前の婚姻に頑張って向き合って下され」


 と、悪気の無い純粋な激励に、オペラは固まった。

 自分でフェイに言ったからには、オペラも実行しないとな。



 ★★★



 聖国を出発し、エレベーターゲートの景色をゆっくりと見ながら下る帰路。俺達3人は世界樹を降りて次の目的地へと向かう事にした。

 来たときは色々あったエレベーターゲートであるが、色々あったせいかフェイくんもおっかなびっくりと外の景色を堪能している。ちょっと震え気味であったが、高い所には少し慣れたようだ。大人レベルがちょっとだけ上がったかね。


「オペラ様、陛下が目覚めるまでに心は決まりますかね」


「さぁな。オペラにしても陛下にしてもいい歳になるまで恋愛話の無かった身だからな……いきなり展開を進めるっていうのも中々難しいんじゃないか」


「……まるでお主は恋愛経験があるような言い方だな」


「……無いですけどね」


 恋愛経験は無いが、いっちょ前に言うだけはタダである。俺も恋したい。


「フェイも、いい歳になる前に彼女の1人や2人作った方がいいぞ……俺みたいになるなよ」


「うん? 我には、ノエル殿以前にも婚約者がおったし、今も何人も花嫁候補がおるぞ。東国は女人の圧が強くてな……幼い頃からそういう話は死ぬほど来るのだが……我は今は女人より東国の未来の方が需要でな。女人はもういい」


 と、嫌そうに東国の方向を見つめるフェイだった。……フェイ、さん?

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