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激闘のクロッケー大会! 白い花は誰の手に(後編)

 


『なっ、何か降って――え……花?』


 コロシアムに突然落ちる影、皆が咄嗟に上を見上げるとそこには開放型の天井を覆いつくす程の白い花がゆっくりと降り注いで来ていた。


「綺麗……」


 観客達も息を呑むほどの美しい花は太陽の光を反射して白く輝いていた。その中に混じって1人、黒い制服をひらひらと揺らし降りてくる魔法使いの姿があった。


「騎士団長、何とか、間に合いましたかね」


 ニコリと笑うシアンは結構焦っていたのか急いで取り掛かってくれていたのか、息を切らしていた。

 カンッと音がして振り返ると、オペラの白いボールは最後のペグに当たっていた。だが、オペラもロストもボールの行く末を見てはいなかった。空から降ってくる花を見上げ、ゆっくりと降りてくるその1つに手を伸ばす。


「これって……」


 ロストが花を手に乗せてまじまじと見ていると、オペラも1つを取って目を細めた。


「この白くて美しい輝き……世界樹の花を見れたのは本当に何年ぶりかしら。よかった、こんなにも綺麗に咲いていたのね……ひた隠しするようだったから、心配してしまったわ」


「これが……そう。なぁんだ……ちゃんと白いじゃない」


「白に決まっているでしょう、世界樹の花が赤や黒だなんて誰から聞いたのよ」


 ロストがチラリと俺達を見る。いや、確かにさっきまでは赤かったので……いやー本当、間に合って良かった。流石魔搭の魔法使い。


「それよりも、どう? 綺麗でしょう?」


 どや顔をして自慢するようにロストに詰め寄るオペラ。


「まぁ、それなりにじゃない?」


「何よそれ! わたくしは貴方に聖国が綺麗だって事をもっと――」


「はいはい、知ってるわよ。綺麗綺麗」


 ロストは持っていた白い花をオペラの髪に挿した。


「……?」


「……この花を、贈りたかったんでしょ。あの男に」


「え……え、ええ、まぁ、そうね」


「だったら、とっとと渡して永遠でも何でも誓って来なさいよ」


 オペラの背中を叩いてくるっと振り返るロスト。今まで散々邪魔してきたロストだが、聖国にも受け入れられ始め、兄としてオペラを応援する気にでもなったのだろうか……


「……??? 永遠って、何?」


「――え?」


 歩き出そうとしたロストはピタリと足を止めた。


「ん? だから、その花の意味であろう?」


 思わず疑問を漏らすフェイくんに対し、オペラは更に首を傾げた。


「??? 意味??」


「いや、アンタ、その花をルーカスに見てもらいたいって、言ってたわよね」


「ええ。だから、疲れているルーカス様に綺麗な花を見てもらおうと思って、摘みに来たのだけれどそこの男達に邪魔されて変な決闘までさせられて……」


「……ええと、時にオペラ殿、世界樹の花言葉というのをご存知か?」


「花言葉……?」


 フェイの疑問にうーんと考えた末答えるが


「世界樹に、稀に不吉な赤い花が咲くとか咲かないとかって話は聞いたことがあるけれど、花言葉ていうのは初耳なのだけど。そう言えば、商人達の間で母の日に花を贈るだのこの時期はこれだのと商業戦線として花を扱っているって話は聞いた気もするけれど……そういうものが、あるのね」


 と、完全に知らない感じだった。

 まぁ……確かに、花言葉だとか意味がどうのこうの、というのもブラッディレインや×マスのように最近聞くようになったと言えばそうかもしれない。


「……言われてみれば、聖国人の求婚に定番の花って情報も、図鑑から得たものであって聖国人に聞いたわけじゃありませんでしたからね」


「そうね、前の聖国には咲いていなかったものだし、一体何の情報よ」


「きゅ――求婚?!」


 驚愕の表情を浮かべたオペラは真っ赤な顔で世界樹の花を頭から外した。


「そ、そんな話聞いたことないに決まっているでしょ!!! どこの商人が広めたのよそれは!!! 第一、聖国人は――」


「力の強さで相手を選んでいたのだものね……特に以前の聖国は。恋愛で、ましてや花を贈る文化なんて、最近でしょ。いいじゃない、花を育ててた奴らだって、世界樹だって、そういう風に使われたほ方が幸せなんじゃないの? プッ……」


「ロスト……あなた、何笑っているのよ……」


「だって……フフ、アンタは全然知らないのに、みんな必死になって……変なオッサンまで……」


 思い出して可笑しくなったのか、ロストはツボに入って暫く笑っていた。そうね、オペラが赤い世界樹の花の花言葉も知らなかったなら、何の為に俺達は……

 まぁ、不吉な赤い花よりもこうして綺麗な白い花を見たほうがいいだろう。みんな喜んでいるし。


『えーと、とりあえず……勝者は、オペラ様とロストさんという事で!』


 ガトーのアナウンスが響き渡るコロシアム内は、白い花と共に祝福するような歓声が木霊した。

 オペラが勝ったら俺が気のすむまでぶん殴られる、という条件はこの幸せそうな雰囲気にかこつけて忘れていて欲しい。


「やー、ナイスな試合、だったかどうかは分かりませんけど、お疲れ様ッスー」


「うむ……半分くらい本来の競技から外れておったからな……我は2度とジェドとはこの競技はせぬぞ」


「何でだよ」


 俺はオッサンを収納魔法に押し込めながらフェイに遺憾の意を示した。俺なりに全力で頑張っていたのだけれど……確かに俺はあまり役には立っていなかった気もする。心なしかゲート役の聖国人の目も厳しい。


「それにしても、世界樹の葉も色んな料理に使えてましたからね、この花も香りがいいしお菓子とかサラダとかに使ったら良さそうッスね」


「ガトーさんは世界樹の葉で加工した食品を聖国に提案していたのでしたっけ。あ、でも、それは止めておいたほうがいいと思いますよ」


「え……」


「ん……?」


 ニコニコとシアンが指差すガトーの持っている世界樹の花。それが一瞬動いて見えた。

 気のせいかと目を擦る俺に、フェイが青い顔で服を引いて声をかける。


「ジェ……ジェド……」


 フェイが見る方、コロシアムの芝生の上に綺麗に散らばる世界樹の花が心なしか――動いているのだ。


「ひっ――!!! こ、これは、一体何ですの??!!!!」


 オペラも慌てて持っていた花を放り投げる。と、その花が空中を1回転して、着地した。花が。


「……これは、もしかして」


「ええ。世界樹の花の細胞に侵食したホワイトスライムですね。本来、花の色は花弁に色素が蓄積することによって発現するのですが、本当は土の近辺にスライムを埋めて土の性質を変えてあげた方が影響なく綺麗に染まるのですけど、元が赤いものを急ピッチで白くする為には花が水を吸い上げる力以上にスライム側から花に浸食していって細かな細胞ひとつひとつを組み替えてもらいそして――」


 興奮気味に喋る様子は、魔搭の魔法使いらしき怖さがある。何かハァハァしててこわい。


「ホワイトスライム側も協力的でして、ついにこの短時間で白い花に戻すことに成功――したのはいいのですが、細胞に入り込んでいるので世界樹の花50:ホワイトスライム50といった花でしょうか」


「ほ、ほう……つまりこれらは半分くらいホワイトスライム、という事なのか」


「ええ、でも半分は花です。ちゃんと、木に戻って花みたいになりますし、枯れませんのでこれからは数年に1度と言わず毎日見られますよ」


「いや……それ、もう花か?」


 うぞうぞと動く世界樹の花は会場のところどころにも見える世界樹の枝に花として擬態していた。心なしか世界樹も嫌そうだ。


「……綺麗ではあるのだが、話を聞いてしまうと……もうスライムにしか見えんな」


 満開に降り注いだ世界樹の花があちこちでうぞうぞ動いている様子に聖国人観客達もドン引きである。見た目は綺麗なのだが、ちょっとずつ動いているのがなんとも怖い。


「……ジェド・クランバル……」


 後から怒りの声が聞こえ、振り向くと鬼の形相のオペラが居た。間違いなく怒っている……


「いや、これは俺がやった訳じゃ……」


「じゃあ、どういう訳なのか説明してもらおうかしら……」


 どういう事、と言われても、オペラに不吉な赤い花を見せたくないと困っていた聖国人達を助けるべく俺達が何とかしようと奮闘して、結果こうなったので……結局悪いのは俺達なのだろうか。

 赤い世界樹の花言葉だけは聖国人庭師達の為にもオペラの為にも言う訳にもいかず、俺は覚悟してオペラの拳を受け入れる事にした。

 オペラの気の済むまで拳骨を食らわされた俺は、痛みのあまり首がもげるかと思った。

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