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激闘のクロッケー大会! 白い花は誰の手に(前編)

 


「へー、世界樹の花ッスかー」


「はい。何でも、数年に1回咲くという珍しい花で、誰でも持ち帰っていいのでその時期になると国外から花目当てに商人が押し寄せるんですよ。今年が丁度その年で」


 1人置いてけぼりにされた三つ子の騎士ガトーは勝手に立ち上がっていた世界樹の茶葉加工品開発部門で聖国人達と試食をしながら談笑していた。幾年か前までは聖国は危険な国だと警戒されていたはずだったのだが、皆のほほんと穏やかな性格で、実際に見てみない事にはやはり分からないものだと実感した。世界樹の茶葉がこんなに美味しい事も、来てみるまでは分からなかったし、女ダークエルフがムキムキなことも、オペラの兄が根は面倒見が良い事もだ。女寄りなのか男よりなのかは未だに未知ではあったが。


「商人が押し寄せるってことはそんなに綺麗な花なんスか?」


「ええ、白い花はオペラ様のように美しく……まぁ、商人の目的は花が売れる事かとは思いますが」


「と、言うと?」


「何でも、数年に1度しかお目にかかれないその花を意中の相手に捧げると必ず添い遂げられるとか、花言葉は『永遠の愛と誓い』だとか広まっているみたいで」


「あー、花言葉とかってイメージとかで決められるって言いますもんねー」


 実しやかか何なのか、花言葉なんてものは貴族女子の間でいつからか流行っているものの男のガトーにはあまりピンと来ないものではあったのだが、実は野菜にも花言葉があるらしく一時期ブームになった時にはショコラティエ領もかなりしわ寄せを受けたのでほんのり知ってはいるのだ。

 セロリに『真実の愛』だとか花言葉ならぬ野菜言葉がついていると聞かされた日には、真実なんて要らないからセロリも飯に入れないでくれとセロリ嫌いのガトーは切に思ったものである。


「にしてもロストさん、オペラ様を呼びに言ったまま帰って来ないけどどうしたんスかね……」


「おーい、大変だ、オペラ様が……決闘を申し込まれたらしいぞ」


「え……?! 魔族か???」


 突然開け放たれた扉、その知らせに空気が張り詰める。魔族は悪い奴らでは無いと分かってはいても、幼い頃から染み付いた恐怖心や猜疑心がそう簡単に消える訳も無く、口をついて出てしまう。

 だが、幸いにも相手は魔族ではなく――


「……帝国の、皇室騎士団長ジェド・クランバル様らしい……」


「――は?」


 それを聞いて聖国人皆が一斉にガトーを振り返る。そう言われてもガトーには寝耳に水で


「ええ……」


 と困惑する事しか出来なかった。



 ――――――――――――――――――――――――



「――って、聞いたんスけど……ダンチョー、全然戻ってこないと思ったら何してんスか」


「戻って来ないという感想はお前にも言いたいが……本当、何なんだろうな」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは聖国に数年に一度咲くと言われる世界樹の花を貰いに来ただけなのだが、なんやかんやでオペラと決闘をする羽目になっていた。

 何の運命が重なってしまったのか、数年に一度しか咲かないはずの世界樹の花が不吉な赤に染まってしまい、花言葉は『別れ』や『浮気』。

 そんなタイミングにピッタリハマちゃう事ある? とお思いでしょうが、ここまで付き合ってくれた読者の皆なら分かるように俺の運が壊滅的に悪いのでしょうがない。今更そんな事を気にする奴なんていねえょなぁ?!

 ……と、それはさておき、そんなこんなでオペラにその花を見せる訳にはいかないと聖国人の庭師達に頼られ、シアンの機転で花自体はどうにかなりそうだったのだが、オペラを足止めすべくクロッケーとかいう競技での決闘を申し込んだのが前回のハイライトである。

 そして、競技をするならとやってきたのがここ、展望所にあるコロシアム。そう……あの、オペラの恋人になるべく皆が集まり戦った場所。懐かしい。

 あの時の為に作られた建物はまだ真っ白な壁に汚れが一切付かないほど綺麗だ。真っ白な壁……聖国人の髪や羽のように綺麗な白ではあるのだが、材質の半分はホワイトスライムである。

 かつては魔物への嫌悪感が強くて中々受け入れて貰えなかったこのホワイトスライム建材も、その表面強度や汚れへの耐久性、果てはリフォームのし易さからも重宝されており広く浸透している。流石に住居には使われないが、公共施設等には多く取り入れられているのだとか……てか、スライムって本当なんなの……怖いんだけど。


 会場は既にクロッケーとやらのコースが出来ていて万全体制な他、何故か観客席も多くの人で埋まっていた。


「オペラ様の勇士が見られるって、持ち切りッスよ。聖国人の人達、みんなオペラ様の事大好きッスからねー」


 観客を見れば、オペラを応援する横断幕や内輪、応援歌まで歌っている者までいる。アイドルだ……


「それで、クロッケーとは、どういう競技なのかしら?」


「ああ。クロッケーとは、芝の上に設置された6つの門にこの青・赤・黒・黄のボールを通す競技だ。この色は我の国のそれぞれの領地を表している。2対2に分かれ、それぞれが2回ずつ正しい順に門を潜らせ、最後に中央のペグに当てれば勝ちというゲームだ」


 会場には短い芝がビッシリと生え揃っていた。……このコロシアムの仕組みを知らなければ。

「ふむ、中々にいい競技場だな、芝生の質も良い」とフェイくんが芝の感触を確かめ頷いていたが、前回の水もスライムだったから、多分この芝もスライムが変質したものなのだと思う。いや本当スライムって何……


「細かいルールとしては、正しいゲートを抜ければもう1回打つことが出来る。そして他の奴のボールに当てた時ももう1回打てるのだ」


「なるほど……そう難しくはないのね」


「いや、ここからが本題だ。ボールを打つ道具は何を使ってもよい。古くは鳥の頭を木槌に見立ててボールを打っていたという記述もあるくらいだからな。それよりも問題はお互いへの物理攻撃は一切禁止、という事だ。我の国ではこれを禁止にしないとプレイヤー同士でのただの決闘と化してしまってな……」


 げんなりと思い出すフェイ。確かに、東国の女子達は血の気が多そうだから普通に喧嘩に発展しそう……


「あーなるほど、ゲートボールみたいなもんスね」


「知っているのか?」


「まぁ微妙にルールは違いますけど。ショコラティエ領のジジババの間で流行ってんスよね。閑散期は暇だからって体を動かすのに結構いいみたいで」


「ああ、ガトー様はこういった競技をご存知でしたか、それは良かった」


「ん?」


 と、聖国人に連れて行かれたガトーはアナウンス席に座らされた。


『え……えー……あー、さぁ始まりました第1回聖国杯クロッケー大会! 実況は俺、ガトー・ショコラティエが持ち前のノリの良さとやけくそでお送りいたします』


 コロシアム内に響き渡る声に観客達がワーー!!! と盛り上がる。流石皇室騎士団の精鋭。安請け合いとノリの良さに定評あり。


『対決するのは我らが聖国の女王、心の支え、シンボルアイドル、オペラ・ヴァルキュリア様と最近帰ってきたオペラ様の兄ロスト様ー!』


 読まされているのか何なのか、オペラを讃えるアナウンスに沸きあがりは頂点に達する。オペラは顔を赤くして苦悶の表情を浮かべていた。やめて差し上げて。


『対するのは東国の王弟フェイ・ロン様と、魔族でもないのに聖国をぶっ壊す事で有名な帝国の騎士団長、あの憎き皇帝ルーカスの回し者ジェド・クランバルー! うわー、団長嫌われてッスねー』


 俺の紹介を聞くや否や会場はブーイングの嵐。これは俺が嫌われているのか陛下が嫌われているのか、どうしてこうなった。


『ええーと、ボールが通貨する門はスタッフが担当するんスね。で、先攻はコインで決めます』


 芝生のコートの各場所には聖国人のスタッフが番号を持って仁王立ちしていた。なるほど、その股の間がゲート代わり、と……? 手元が狂ったらボールがボールに当たってしまう危険性がありそうだけど大丈夫?


 そうこうしている間にロストがコインを投げる。フェイくんが表、オペラが裏、と言うと開かれた手の上には羽のようなマークが描かれていた。これって表裏どっちなんだ……


「裏、ね。ま、順番なんて関係無いわ」


 と、オペラは自身が選んだ赤いボールを手に乗せた。ちなみにフェイくんは青龍の青で俺は勿論黒、オペラは目と同じ色の赤で余った黄色をしぶしぶロストが受け取っていた。


「ボールを打つ武器は何でもいいって言いましたよね……」


 オペラはボールの乗ってない手にメキメキと聖気を込め始めた。拳が……?


「おい……アレっていいのか?」


『まぁ、ルール上は問題無いッスね。プレイヤー同士で攻撃しなければ』


「ハアアアアア!!!!!」


 と気合を入れて拳をねじ込んだボールは魔球とでも名がつきそうな位に勢いを増し、芝生を削りながら1と書かれた札を持ったスタッフの股の間を通り抜けた。聖国人スタッフも観客の半分も俺も何かがヒュンとなり息を呑む。


「ゲートを潜ったから次はまたわたくしの番ね」


 と殺気を放ってボールに近づくオペラの形相に2番のスタッフもブルブルと首を振っていた。


「ううむ……普通はもっと勢いの弱いものなのだが、あんなショットに当たったら何がとは言えない何が一溜まりもないな……」


「ああ、何とか妨害しなくては……」


「ジェド、妨害はルール違反だが――」


()()()()じゃなきゃいいんだろう?」


「ま、まぁ……精神を揺さぶるというのも作戦に無い訳ではないが……」


 ニヤリと笑った俺は今正にボールを殴ろうとしたオペラに近づいてボソっと耳打ちした。


「素手を武器にするのはいいが、指輪が壊れるぞ……」


「――?!!!!」


 それを聞いたオペラはすかっとボールを外し下に落とす。コロコロと転がるボール。オペラは真っ赤な顔でプルプルと震えてこちらを振り向いた。


「あなたね……」


「ん? 俺はただ心配しただけだぞ? 女王が素手でボールを殴るなんて、指が心配だなー」


『おーっとオペラ様が騎士団長の精神攻撃による卑劣な揺さぶりでボールを落としたー、交代ッス』


 ブーブーと観客からブーイングが飛ぶ中、2番のスタッフだけは俺に向かって震えながら笑いかけた。怖かったよね。うん。


「わ、わたくしも同じことをし返して差し上げますわ」


「おーっと、それは怖い怖い、残念ながらこちとら精神を揺さぶられるような出来事が悲しいかな無くてな……」


「ジェド……お主、自分で言って自分で悲しむのはどうなんだ」


 オペラと違って俺には揺さぶられる程の弱みが無い。関係を茶化されるような彼女がいればね……いいんですけどね。いた事は無い。


『さぁ、波乱の幕開けとなった(主に俺達男子の心がヒュンとする)クロッケー大会! 最早既に何でもありになりそうなルール! 果たして、勝つのはどちらか! 次回へ続く!』

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