表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

593/649

聖国の女王には赤い花は見せられぬ(後編)

 


「つーか、何処まで行くのよ」


 ふらふらと空中庭園をさ迷うように歩くオペラの後をついていくロスト。綺麗な花を見る位であれば茶畑にも幾つかの品種の花は咲いているし、聖国民の民家にも少なからず飾られているものは沢山ある。が、お茶を飲んでいた場所からはかなり離れた所へと歩いていくオペラに耐えかねて声をかける。


「……以前に聖国が壊滅状態になった時にも壊れなかった花園があるの」


 ピクリ、とロストが眉を寄せる。

 自分が手を貸した事とは言え聖国をぶっ壊したのは事実であるが、以前の聖国をそんな状態にした事についての罪悪感は無かった。だからこそ、前から有難がられている花畑が残っているのだとすればロストにとってもあまりいい気がするものではない。


「……と、言っても貴方が聖国に居た頃には咲いていなかったんじゃないかしら。だって、世界樹の花は数年に1度しか咲かない上に、厳しい管理をし、余分な花や枝を剪定し、聖気の通りをよくしてかつ日当たり、温度、愛情……全ての環境が整って咲く花なのですもの。最後の愛情、なんて持っている人は居たのかしら」


「世界樹の花……」


 言われてみれば、幼い頃にそんな話を聞いた事があったような気もした。世界樹に奇跡の花が咲く事がある、と。だが、何度何をどうやっても咲かないので伝説、とまで言われていたのでロストはそんな花は見たことがなかった。


「……聖国を立て直そうと皆で少しずつ頑張っていた時にね、子供達が花が咲いているのを見つけたのよ。わたくしも初めて見た……今はちゃんと育てているから、何年かに1度は見れるようになったの。今がその時よ」


「そう……」


「その花が咲いたら、誰でも摘んで持っていっていいのよ。世界樹はドワーフやエルフが住んでいる通り誰のものでも無いからね。だから、貴方も見てもいいし、持ち帰っても良いわよ」


 振り向かずどんどん進んでいくオペラがボソリと呟いた。

 ロストが居た頃の聖国にはロストの手に入るものは1つも無かったのだが、今はその頃とは違う。それが少しむず痒くて、何だか直ぐには受け入れられず、ロストはやはり「そう……」と呟いたまま黙り込んでオペラの後を歩くだけだった。


「見えたわ、そこよ。ほら……花の良い香りが香って――」


 オペラが顔を上げて庭園の方を見ると、緑豊かな花園に似つかわしくない全身真っ黒な、漆黒の騎士が仁王立ちして待ち構えていた。


「……? 何で貴方がここに」


 唐突に現れた漆黒の騎士団長の存在に、オペラは眉を寄せ怪訝な顔を見せた。そう言えば、と執務室に居た帝国の騎士の存在をぼんやり思い出す。顔もよく覚えていないが、ロストと共に仕事を手伝っていたような気もした。


「――はっ、仕事! そう、済まないわね、貴方、あの騎士を迎えに来たのでしょう。だったら執務室に……」


「いや、用があるのはオペラ、お前だ」


「……?」


 用がある、と言われてもオペラには用事は特段無い。確かに前回はルーカスにはとても言えぬ事を幾つも抱えていてジェドを呼びつけたが、そうでなければ顔を見たい存在では無かった。思い出していけば、ジェドのせいで散々な目に遭った。オペラを助けた、と言えばそうかもしれないが、今回もそれ以上にイライラとする事が多かったのだ。思い出しては段々ムカムカとしてきた。


「……用事が迎えでないのであれば手短に話してもらえるかしら」


「オペラ、君を通す訳にはいかない。ここを通りたければ俺を倒してからにしろ!」


「…………は?」



 ★★★



 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは花園の前でオペラと対峙していた。花園のシアンからはとりあえず時間を稼いで貰えれば何とかする、という無茶を振られ入り口で待ち構えていたところ早々にオペラとロストがやってきたので正直焦っている。

 もう、オペラを魔法でも何でも遠くに飛ばしてしまえばいいのではとも思ったのだが、そんな事をしてしまっては明らかに何かあると言っているようなものだ。聖国人の家臣達の立場的にも穏便に済ませた方がいいだろうと俺が時間を稼ぐ事になったんだけど……俺に任せて大丈夫だと本気で思っているのだろうか。


(のう、オペラ殿の言っているように部下を迎えに来た事にして執務室に連れて行って貰った方が時間を稼げていたのでは……?)


 フェイくんが耳打ちをしてきた。確かに……


(いや、それだと確実にオペラがここに入らない保障は無いだろう)


(確かにそうだが……オペラ殿はやる気満々であるが大丈夫なのか?)


 フェイが指差すオペラの様子を見ると、指をゴキゴキとさせて殴る準備をしているオペラがそこに居た。オペラの背中には立派な羽が7本とまではいかなくても既に半分以上回復していて、強そうだ。オペラはああ見えて陛下に怪我を負わせる程のパンチ力を持っている。絶対に痛い。


「貴方の許可があるから合法的に殴って良い、という事よね? ジェド・クランバル、わたくし貴方には言いたい事と恨みが山ほどあって、全部覚えているのだけれど」


 オペラから恨みを買った覚えは……最初から沢山あるような気もしたけど、何で全部覚えてるの? 陛下との事は結構忘れているのに……


「待て待て、確かに倒してから、と言ったがそういう、暴力で解決するというのは良くないだろう! ここの花はアレなのだろう、ここの花は愛情を持って育てるとか何とか申していたではないか」


 フェイの助け舟に俺の胸倉を掴んで殴ろうとしたオペラの拳がピタリと止まる。ナイスぅ!


「……何でその事を知っているの?」


「いやぁ……まぁ、それは置いておいて。それより、我らはその、そう、その花を求めて来たのだ。我らと勝負して、我らが買ったらその花、摘ませて貰おう」


「え……それは別に、構わないけれど……というか世界樹の花は誰の物でもないし。……まさか、貴方たち、世界樹の花を独り占めしようとしているんじゃ」


 ぎょっとしたフェイくんだったが、聖国人達の名誉の為なのか、腹を括った様にくっくっくと笑い出した。


「そ、そうだ! 数年に1度咲く美しい花というのが見たくなってな! 全部東国に持って帰り姉上への手土産にするつもりだ! はっはっはっは!」


 と悪役令息っぷりを披露し始めた。フェイくん、聖国人の為に悪役になろうとするその姿……大人だ、大人だよ。


「だ、だが、我も争いごとを好まぬ。ここは東国式の勝負法で負ければ大人しく引き下がろうじゃないか」


「……その勝負に私に何の得があるのかしら」


「うっ……」


 そこまで考えてなかったのか、フェイくんは涙目で俺に助けを求めてきた。そこで俺にパスされても何かいい答えが出てくると思ってるの……?


「ふっ……まぁ、いいじゃない。付き合ってあげれば。どうせアンタも黙っていればモヤモヤ考えてウジウジしているだけだったんだから」


「う……」


「アンタが勝ったらそこの男を気の済むまで好きなだけぶん殴ればいいでしょ。で、その勝負ってのは何なの?」


 見かねたロストが助け舟を出してくれた。サラッと物騒な一言もあったような気もするが、そのお陰で上手く足止めが出来ているようだ。

 フェイくんは咳払いをして話し始めた。


「東国では昔から争いが多くてな。物理的な形ではなく平和的に解決出来る勝負法は無いかと最近好まれているのが『くろっけー』という競技でな」


「クロッケー……? あまり聞いたことはないのだけれど……」


「異国から伝わってきた球技でな、今東国で大流行しているのだ。本来は木槌とボールを使って指定の門を潜り抜ける、というルールなのだが、ボールや木槌は無ければ何でも良い。どうだ?」


「なるほど……それなら、闘技場に行けばあるんじゃないかしら」


「え……わざわざ闘技場まで行きますの??」


 渋るオペラをロストがくるりと回して背中を押す。


「いいじゃない。あんただってああいう子が頼んでくるのを断れる性格じゃないんでしょ」


 宥めるロストの視線の先にはフェイが居た。嫌そうに見るオペラの機嫌を取ろうとニコリと笑うフェイに、オペラはため息を吐いた。


「はぁ……」


 とオペラはスタスタと庭園の出口のゲートへと歩き出す。やっぱり子供のままの方が何かと便利なのでは……?

 オペラの後ろを追いかける俺達、俺は隣にいるロストにコソっと聞いてみた。


「なぁ……何で手助けしてくれるんだ?」


「何でも何も、アンタらがそこまで必死に止めるって事は花園に何か見られちゃいけないものでもあるんでしょ? アンタら、下手過ぎでしょ」


「……済まぬ」


「それ位、オペラだって分かってるし、聖国人達の頼みならあの子だって素直に聞くけど……それでも見られたくないものって何よ」


「それが……かくかくしかじかで……」


 俺は世界樹の花の件をロストに正直に話した。とてもじゃないが『別れ』だの『浮気』だのと言われるような不吉な花は見せられないだろう……


「ふーん。まぁ、そういう事なら仕方ないわね。せいぜい時間を稼いだら」


 が、興味なさげにオペラを追いかけて歩き出す。


「……そもすると、オペラに見せるよう働きかけるかとも思ったのだが、興味は無いんだな」


 その言葉に、ロストはふっと笑う。


「あの子の想ってる奴を諦めさせるような事はアタシだけじゃなくて聖国人ならみんな願ったり適ったりだけど、みんなそうしないじゃない。みんなルーカスの事は嫌いだけど、オペラが残念がったり悲しむのは見たくないからでしょ。そういう事、よ」


 今頃シアンと一緒に必死になって花を白く出来ないか奮闘しているであろう聖国人達。彼らは純粋にオペラが楽しみにしていた白くて綺麗な世界樹の花を見せてあげたかっただけなのだろう……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=620535292&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ