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展望所へ至るゲートも昇らない(中編)

 


「げ、ゲームだと?! 一体お主は何なのだ……何の目的で!」


『フッフッフ、そう不安にならなくても大丈夫。貴方達はただ、私のゲームに付き合ってもらえばそれで、手荒な真似は致しませんよ、クックック』


 目を瞑りながら不安がるフェイを楽しむかのように煽るアナウンスの声。ガタガタと震えるフェイは状況が怖い、というよりは空中で止められたのが単純に怖いのだろう。

 どうしたものかと考えていると、他の乗客がアナウンスに呼びかけた。


「……おい、お前、ドワーフの受付だよな?」


『えっ?! な、なんの事かな??? 私はそんな女とは一切関係ないぞ』


「ドワーフとしか言ってないのに女って言っている時点でバレバレだろうが! というかアトラクションイベントでもないのに唐突にやるのは流石に駄目だろ!」


「こっちは急いでいるんだよ!」


 以前、悪の女幹部に憧れて唐突にエレベーターゲートを乗っ取りデスゲームを始めたのがこの受付嬢のドワーフである。あの一件は陛下によりそういうイベントにしてはどうかと提案され、名物アトラクションとして観光客で賑わっていたはずだった。だが、俺達が乗ったゲートは普通の展望所直通のものだったはず。

 急いでいそうな商人、トイレを我慢していそうな観光客、そして高所恐怖症で早く着いてほしいフェイくん。口々に文句を言う客達に、ついにドワーフ女幹部は泣き出した。


『くっ……だって、だって……確かにイベントゲートとして賑わっていたのだけど……うわああああああん』


「ど、どうしたのだ急に。何かあるのならば申してみろ」


 と、急に泣き出したアナウンスに困惑した客たちの中でフェイが心配そうに声をかけた。イケメンの子供、フェイくん。


『……確かに、イベントゲートとして賑わうデスゲーム風のゲートは盛り上がりました。怖がりつつもここぞとばかりにくっつくきっかけを探すカップル。女幹部の私を揶揄するウェーイ系若者。RTAを目指す勢、ナメプ勢……でも、でもそうじゃないんです、デスゲームって、悪の女幹部って「いよっ! 待ってました!」って言われて出てくるもんじゃないでしょう!!!』


「た……確かにまぁ……」


『急に突拍子も予兆も無く始まるからこそのゲーム、みんなを困らせるからこその悪の女幹部じゃありませんかー! だからこの先の仕掛けも、上司に隠れてコソコソと前世で流行ったゲームを元に手間隙かけて作り……やっとお披露目の時だったんです!』


「そ、そう言われてもなぁ……」


 と、他の乗客達も困惑顔で見合わせる中、もう1つのアナウンスが割り込んできた。


『やはり……また勝手にゲートを乗っ取って……』


『え?! な、何故バレたの?!』


 割って入ってきたのは前回この女幹部ドワーフを止めていたゲート管理の上司らしい人物である。


『隠れてって言ってたけどね、流石にこんな大掛かりなしかけを作っていたらバレない訳ないでしょう。今日の格好もいつもより尖ってたし、絶対に何か仕出かすと思っていたのだよね……』


『うっ……』


 はぁ、とため息を吐く上司。でしょうね、コソコソとやるには規模がでかすぎる。それに初犯ならばまだしも前科がありますからね……

 これは事が起きる前にスピード解決か――と思っていたのだが、上司の男は俺達に向かって神妙に思わぬ事を言い始めた。


『済まない、お客さん方……今回だけは、彼女のゲームに付き合ってくれはしないでしょうか』


『え?!』


 乗客皆も「え?!」と声の方を見上げる。


『ど、どうして……』


『実は……今日は彼女が初めてこのゲートで働き始めた記念の日なんだ』


『そ、そんな……覚えて……』


『当たり前だろう。勝手な事を仕出かす時もあるけれども、デスゲームへの情熱と同じ位に真剣に仕事に打ち込む君の事はいつもちゃんと見ているさ。だからこそ、そんな君がコソコソと何かを作っているのを止める事は出来なかった。どういう風にあっと驚かせてやろうかと、情熱を注ぐ方向性は間違っているかもしれないけれど、君なりに真剣だったのだから。頼みます、皆さん、どうか彼女の願いに付き合ってはくれないでしょうか……』


 アナウンスの向こうで頭を下げる上司の男。そこまで言われてしまうと、俺達も駄目です、とは言えずに遠慮がちに顔を見合わせるしかなかった。


「我の事ならば気にするな……その女人の願いを叶えてやるといいだろう」


 と、男前のフェイくんは勿論、他の乗客達も「まぁ、ちょっとだけだったら」「早くクリアしてしまえばいいだけの話だし……」と誰も否定的な言葉を口に出す事は出来なかった。

 シアンを見るも


「フェイ様が良いなら良いんじゃないでしょうか。幸い、我々の用事も急ぎの事では無いですから」


 シアンは状況をワクワクと楽しんでいるようだった。どうやらこいつは真面目そうに見えて予想外の出来事が好きらしい。


『みなさん……先輩……ありがとうございます!!! 私……頑張ります!』


 女幹部ドワーフも涙混じりに嬉しそう。この気を使って参加する感じはデスゲーム主催者の女幹部的には良いのだろうか……?

 元々の不満と趣旨が感動で書き換えられたようではあるが、気を取り直した女幹部ドワーフは声色を立て直して俺達に言い放った。


『では改めて、【異変を見つけないと脱出する事の出来ないエレベーターゲート~ちょっぴり危険もあるでよ】の開幕よ……くっくっく』


 ドワーフ受付嬢は意気揚々とゲームの開幕を宣言した。デスゲームでは無いらしいが、ちょっぴり危険もあるでよって何だよちょっぴりって。


「ええー!」

「お、俺達をここから出せ!」


 と気を使って恥ずかしがりながらもちゃんと反応を返してあげる乗客達。悪の女幹部を演じる茶番に付き合ってあげているのでこれぞ本当に()()。はいはい悪役令嬢悪役令嬢。


「ちょっぴり危険とは何だ、わ、我は別に高い所が怖い、という訳では別に無いのだが、どういうルールか、どんな危険があるのか位は説明してもよ、よかろう!」


 怖くてプルプルと震えているフェイくん。今更強がってももう遅いと思うのだけど……


『このゲームは、私の前世の世界で流行っていたゲームから着想を得て作ったものよ。これから各階にゲートが止まって降りる事が出来るのだけれど、そこには各階層のドワーフの協力のもと様々な異変を散りばめて来たわ。その違和感を確認して、数えた数字をこのゲートで答えて貰う、そんな簡単なゲームよ』


「なるほど……さっきやったな」


 本当にね、ついさっきゲート都市でやってきたのと系統が同じである。頭がおかしくなるかと思う位隅々まで変化を探してやっと開放された所なのに……またやるの……?


「まぁ、ゲート都市では1つ間違えれば違う世界に飛ばされ、そのまま永遠にさ迷うかと焦らされましたが、こちらは女幹部さんの作った人工的なものですし。ちなみにですが、いくつ正解すれば展望所へとたどり着けるのでしょうか?」


『くっくっく、たった10回連続で正解を導き出せばいいだけよ。たった10回ね。くっくっく……』


 一々不気味な笑い声を入れてくるのが癇に障る。だが、先ほどは30回だったが、こちらはたった10回でいいならば楽勝だろう。


『それでは、健闘を祈るわ……くっくっく……』


 含み笑いと共にゲートが開いた。展望所までの中間、アテナキバの近くである。


「ここに違和感が?」


「とは言っても、正解が分からないからなぁ」


 他の乗客達も周りを注視した。

 降りた扉の先は然程広くは無い。世界樹の枝の間に作られた空間に通路が設けられ、ちょっと歩くとすぐに行き止まりになるのでゲート都市に比べると本当に楽だ。

 そこには協力してくれるであろうドワーフが幾つか店を構えていて、不審な点は見当たらなかった。俺達は訳も分からずに一旦戻ると、ゲートの扉が閉じてまたアナウンスの声が聞こえてくる。


『さぁ、どうだったかしら』


 他の乗客達もザワザワと考えを出せずにいる中、シアンだけは平然と答えた。


「順当に考えて、最初は0、ではありませんかね? まぁ、間違ったとしてもまたここからスタートになるだけでしょうから」


『ふっ、ご名答よ。中々頭の切れる者も混じっているようね』


 シアンの答えに他の人たちもおおーと声を上げた。流石、魔塔の魔法使いは頭の出来が違う……


『安心するのはまだ早いわ。ゲームはここからよ。さぁ、先ほど止まった所と何が違うか、細かく見ると良いわ』


 そうアナウンスが終わると、違う階層へと上昇していき扉が開いた。

 開いた先は確かに、先ほどと同じ位の空間が広がっていたのだが……


「あー、なるほど。これは、もしかしたらゲート都市より厄介かもしれませんよ」


 とシアンが頷く通り、そこに見えた景色はもう枝の色も違えば出店している店も違うし、なんならドワーフもエルフに変わっているてし……


「ああ、なるほど。ゲート都市では違う世界か元の世界かを見極めるだけで済んでいたのがこのゲームでは違う所を全部探さなくてはいけない、という事なのか……」


 げんなりとするフェイの言葉に他の乗客達も早くも後悔し始めていた。これは……時間がかかるぞ……後編へ、続く。

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