ファーゼストへ至るゲートは通れない……?(中編)
不思議そうにこちらを見るゲート職員。俺達は確かにファーゼスト大陸へ渡るゲートを通ったはずなのだが、対角にあるゲートからゲート都市へと戻され、更にそのアンデヴェロプト大陸へ渡るであろうゲートを戻ると元のファーゼストへのゲートへと戻されていた。
「これは一体……」
シアンがゲートの魔石を調べ始める。
「あ、ちょ、お客さん、そのゲートには悪戯とか出来ないように職員権限のロック解除が――」
ゲート職員の男が言い終わる前にシアンが解除して魔石の中に手を突っ込んだ。
「――って、あれ?」
「ああ、シアンは皇室魔法士団の制服を着ているが、魔塔の魔法使いなんだ」
「なるほど……?」
魔石に手を突っ込んでぶつぶつと言うシアンだが、難しそうな顔をして手を抜いた。
「何か分かったのか?」
「……故障では無いみたいですが……ただ」
「ただ?」
「ゲートを動かす人工精霊が……何かがおかしいと感じたらすぐに帰れ、と言っています」
「おかしいって言われてもなぁ……」
おかしいと言われれば、もうすでにこの状況自体がおかしい。
「そもそも帰れ、というのは都市の外を指しているのか? それともファーゼストやアンデヴェロプトのゲートの事か?」
「まぁ……今の状況だとこのゲート間しか行き来出来ないように見えるが……」
と、ゲートの不具合を職員に説明し、検査の為にと試しに他のゲートに入ってみたが……やはり抜けた先はファーゼストのゲートだった。
「あ、あれ?? 違うゲートに行ったのになんで……」
と、ゲートを抜けるとやはり先ほどの職員が食べかけのお菓子を落として俺達を指差した。
「やはり……間違いじゃなく、ゲート都市内でループしているな」
「だが、ゲートの不具合ではないのであろう? 一体何故……」
疑問を投げかけるフェイに、シアンも辺りを見渡しながらブツブツと考えている。
だがふと、俺は違う事が気になってしまった。
「なぁ、お前……お菓子食いすぎでは?」
「え? そうですか?」
職員が食べていたお菓子の袋。それが3つに突入していた。いや、流石に食べすぎだろそれは……
食いすぎたお菓子を隠す為の賄賂のように俺に1つ渡してくる職員。フッ、お前、騎士団長ジェド・クランバル様を舐めてもらっちゃ困るぞ……俺はフェイ達に気付かれないようにお菓子を懐に仕舞い込んだ。何でもかんでも厳しく取り締まるのはよくないからな。俺は時には寛容になる男。
――と、その時だった。
突然の破裂音と共に人々の騒がしい声が響く。音の方を振り返ると、ゲートの1つから津波のように水が溢れ押し出されていた。
「あれは、シュパースへのゲート?!」
「何だ?! 嵐でも起きたか!」
一瞬で波に飲まれるゲート都市、シアンがそこら中に魔法陣を描き波を逆流させる大規模魔法を発動したスゲェェ!
「あんなに水が溢れるとはゲートの先の国は一体、あっ――」
「お、おい!」
「――?!」
徐々に引いてきた水であるが、フェイが濡れた床に滑って転んだ拍子にゲートの方へと倒れ込んでしまった。
咄嗟に手を伸ばした俺であるが、フェイが半分ゲートに入っていたせいか空間に引っ張られて身体が持っていかれ、その拍子にシアンを引っ張ってしまい3人でずっこけてゲートへと転がる形になってしまった。ご、ゴメン……
「ててて……済まぬ」
「気にするな、それよりゲート都市は――」
顔を上げるとシアンが驚愕の表情で固まっていた。俺も振り向いて辺りを見渡すがそこには……一切水が押し寄せた気配が無いのだ。
「濡れた後さえ無い……一体どうなっているんだ……? あのっ、さっきあちらのゲートから水が溢れ出て来たよな??」
「え……? 何の話ですか??」
道行く人や職員に聞いても皆「???」と訳の通じぬ反応。慌てたりはたまた騙している様子など全く無い。
俺達は顔を見合わせ街中を進んだが、やはり何処もかしこも平和そのものでなんの異常もないのだ。
「もしや先ほどの……幻覚を見せる魔法、か?」
「いえ……確かにあの水は本物でした。幻覚であればあの魔法で防げるはずがありませんし……」
そうこうしているうちに元のゲート職員の場所、ファーゼストへのゲート近くへと戻る。
「あれ? 今度はこっちから戻ってきた」
と、職員の男は呑気に4個目の菓子を開けていた。おま……
「なぁ、本当にこれはゲートの故障ではないのか?」
「確かにさっき調べた時はゲートの故障ではなかったのですが……それに、ゲートの故障にしてもこの現象はおかし過ぎます」
「だったら一体……そうだ、先程調べたのはこのゲートだけであろう? 他のゲートも調べてみてはどうだ?」
「他のゲートもそれぞれ同じ種類の魔石で人工精霊が管理しているはずですから。ここを調べてその結果なら他に何かの違いがあるとは余り考えられませんが……」
「人工精霊……そうだ、アンデヴェロプト」
「え?」
人工精霊の話を聞いて俺は1つ思い出した。
「確かに他の魔石の中に居る人工精霊は同じなんだが、微妙に個体差があって、特に魔力の高い奴らが頻繁に行き来するアンデヴェロプトのゲートは一際大きな力を持った人工精霊が居るんだ」
「騎士団長……何故そんな事を?」
「何故もなにも……」
目を見開き驚くシアン。いや、前に巻き込まれたじゃん! と、言える相手がここに居ないのが寂しい……
「とにかく、原因が分からない以上少しでも手がかりになりそうならばそちらに向かおう」
アンデヴェロプト側のゲートに向かって走り出そうとするフェイを制し、シアンはファーゼストのゲートを指差した。
「……恐らく、アンデヴェロプトへ行くならばこちらから行った方が近い、かと……」
「ん? あ、ああ、確かに。先程もここを抜けると反対に続いていたな」
シアンの言うようにゲートを抜けると、そこは確かにアンデヴェロプトのゲートであった。
そちらを管理する職員に説明をし、シアンが魔石に手を入れると人工精霊と話をし始める。
「何か、分かったか?」
「……確かに、騎士団長の言う通り、ここの魔石を管理している人工精霊が話をしたい、と言っています。こちらへ」
シアンに招かれるままゲートに入ると、そこは見覚えのある白い空間だった。初めてアンデヴェロプトに行く時に迷い込んだ先、ノエルたんを攫った人工精霊の黒い手が手招きをしていた。薬指にノエルたんのリボンを可愛く結んでいるから間違いない。
よく見ると隣にも人工精霊の手が寄り添い、その間に小さい手が何人もいた。
「おま……えら、その小さな手はどうした」
もじもじと照れる仕草をする黒い手。そういう事なのか……???
「お主、何を憤慨しておる。それよりこの者達は何と?」
俺は人工精霊を見た。黒い手達もコクリと頷く仕草をした。そう……コイツらと俺達は一度やり取りをしているのだ。
と、黒い手達はやはりジェスチャーをし始めた。それも凄いぞ! 今度は家族になっているから手が増えてジェスチャーで表現出来る幅が増えているのだ。複雑な形も思うがままだ!
「……スライド……2? 同じ幅……?」
「……並行、と言いたいのではないか?」
「なるほど! 並行のなんだ? それは『せ』なのか? ん? 『い』?? 『せ』なのか『い』なのか……?」
「『せ』か『い』か……せかいか? 世界と言いたいのか?」
それだ! なるほど、人数増えても分からんし、何なら全部フェイが解いてるじゃねえか!!
「……これ」
と、シアンが差し出したのは紙とペン。デジャヴ……
「……こ奴ら、字が書けるのか?」
「ええ。何なら先程も違う人工精霊と魔法文字を通じてやり取りしましたから」
当たり前の様にジェスチャーをする流れになったから俺も疑わなかったが、言われてみれば前も同じ流れで意思疎通を図った気がする。
悲しいかな前回居たシルバーもノエルたんも居ないので突っ込む人が不在である。
恨めしそうに黒い手を見ると、皆で嬉しそうに「ウェーイ」と俺を指差していた。お前ら……分かっててやったな……時間を返して。
「おちゃらけはともかく、それで本当に何と申しているのだ?」
「ええと……『もし、貴方達が違和感を感じているのだとすれば、並行世界に迷い込んだのかもしれない』と……」
「並行世界、とは何だ?」
「並行世界とは……つまり今生きている世界と同じ時間の分岐から少しずつ違う世界が存在するかもしれない、という考えです。本来、世界には『理』があり、どんなに魔法が発達しても過去や未来に時間を行き来出来たりする魔法は現実的に使えないとされていますが……近年は異世界から私達の常識を超える存在が現れ、その理を飛び越えて力を使ってしまう事がある。過去を変えるとどうなると思います?」
「過去を変えると……その先の未来は変わるな」
「そうです。でも、だとしたらその先に進行していた未来は完全に消えたのか? もしかしたらその時の行動によって2つの世界が存在し、それは私達が見ている世界とすぐ隣り合わせになっているかもしれない、というのが並行世界なのです」
「ううむ、難しいな……だが、そんな世界が本当に存在するのか?」
「……ある。俺は何度も見た事があるし、何なら魔王領の湖から行ける世界は男女逆転していて俺が女になっている」
「え……」
その言葉にフェイは驚愕の表示で俺を見る。心配するな、そっちの俺は酸っぱい女装の俺とは違ってまともな女子だから……
「なるほど……分からないが一旦その並行世界の話を信じるとして、つまりは今迷い込んでいるのが違う世界、だと言いたい訳か?」
フェイの疑問に黒い手はウーンと腕組みをした。
「……違うのか?」
「もしかして……別の世界と元の世界と、また別の世界を複雑に行き来している、という事ですか?」
ウンウンと頷く素振りをした黒い手は、ペンを走らせ続きを話し始めた。
「『最近、ゲート都市で都市伝説として実しやかに囁かれている噂がある。それは最近になって東国のゲートが封鎖されてからかゲート同士の均衡が崩れ、違う世界へと迷い込んでしまう人が続出しているとか。それがゲートを司る人工精霊の悪女が悪戯をしているとか派生した噂が流れ始めているので憤慨しています』」
黒い手が遺憾の意を手で表した。そうだね、何でもかんでも悪女に繋げようとするのは良くないね。
「『なので、もし仮に迷い込んだ被害者が居たら困ると思い、一応都市伝説に言われている脱出方法を伝達しています』」
「脱出方法があるのか?」
「それがおかしいと思ったら帰れ、という事か。つまりはそれで元の世界に戻れるのか?」
「いえ、そうではないでしょう……それだけで戻れるのならばとっくに脱出出来ているはずです」
シアンの言葉に人工精霊も頷き、続きを書き連ねる。
「『今、一度迷い込んだこの状態が不安定な世界を行き来する様に出来てしまっている。元の世界に戻るには必ずゲートと同じ数の世界を正しく通り通り抜け、最後の世界で迷い込んだ最初のゲートに戻らなくてはいけない、と噂話では囁かれています』」
「なるほど……だが、手順を間違えればどうなるのだ?」
「恐らく……やり直しになるのでしょうね。ですが、先程は何の違和感もなく正しいゲートを通ったはずですが正しく手順を踏んでいるかどうかを示すものは見あたりませんでしたが……」
シアンの疑問に答えるようにまた黒い手がつらつらとペンを走らせた。お前、さっきそこまで見てたの……俺はもうどっちから来てどっちに行ったのか覚えてないんですが……
「なになに、『都市伝説の通りだとすると、必ずおかしな部分とは別に、それを示す数になっているはず。それがゲートと同じ数である30を示した時、元のゲートに戻れば……』と……いや、30個もあるのか。意外と多いな……」
「四の五の言っていられないだろう。解決の手がかりがそれしか無い以上はそれを試してみるしか無いからな」
俺の経験上、大体こういう時に出る話は信じた方が良い。……何にも関係無かった時もたまにあるけど……
ゲートの人工精霊に礼を言うと、サムズアップして家族で見送ってくれた。ちくしょう、ここが元の世界なのかどの世界かは知らんがお前らも幸せにな……
ゲートを出ると、その景色はやはりファーゼストへ至るゲートだった。
「あ、そうか。アンデヴェロプトへのゲートへと入って行ったからな……」
「先程は何も確認せずにゲートに入ってしまったのですが……結局、正しい手順を示す物、とは何だったのでしょうね?」
「あれ? ジェドさん達まだ居たのですか??」
と、やはり変わらず声をかけてくるゲート職員の男。またしてもお菓子をモグモグと食べている。食いしん坊か……
だが、その前にある菓子の包み紙は片付けられたのか綺麗になっていた。
「おかしな……お菓子、なんてな」
そんな駄洒落みたいな事、あるわけ無いだろう。と、俺は鼻で笑い、街中を見に行くフェイとシアンの後に続いた。




