ファーゼストへ至るゲートは通れない……?(前編)★
「ふむ、やっとゲート都市へたどり着いたが……ここは相変わらず賑やかだの」
湖で足止めを食らった俺達であるが、その後は変な邪魔も妨害も無く無事にゲート都市へとたどり着いた。
いくつものゲートが並び、遠くからでも人が賑わうのが目に付く。
乗ってきた魔術具車を降りると、シアンが車を魔石へと戻し仕舞う。なるほど、駐車場所に止めたり預けたりする必要もないので便利だな。馬車ごとゲートを越える事も出来るのだが、一時置き場に預けたりするのが非常に面倒くさいのだ。
「その魔術具の技術もそうだが、この都市に幾つも建てられている巨大なゲートも凄いな。我も初めて見た時には驚いたぞ」
「そう言っていただけて、魔塔の魔法使い達も鼻が高いと思いますよ。このゲートは先代の魔塔主様の代から様々な分野の発展を願って作られていた一大計画でしたからね」
「ほう、前の魔塔主というのも中々に視野の広い。この都市があったからこそ、助かった者も多かろう」
「……まぁ、それも平和な世の中になったからこそ、ですけどね。ルーカス陛下以前の帝国であれば協力していたかどうかは分かりませんが」
今でこそ、厳しい入国審査の元に管理統制されて使われているゲート都市であるが、一歩間違えれば悪用しかねない。並の魔法使いでは使用困難な移動魔法は戦乱の世では重宝され悪用されていたのだが、そんな使われ方をせずに純粋に旅行や商業の発展に使用されているのはゲート都市の職員が厳しい管理のもと通行を見守っているからだ。
その人物がどんな目的を持って通行するのかだけではない。国によっては持込が禁止されているものもあるし、下手に持ち込んで各地の生態系に影響の出るような植物だとか、危険な薬品や食品だとか……
そうでなくとも国によってルールが違うので非常に面倒なのだ。
毎度毎度、ゲート都市の職員さんはお疲れ様である。
ところで、シアンは先代の魔塔主時代の事情に詳しいようだが、中身は若い新人の魔法使いとかではないのだろうか……
「なるほどな。それで、我はここは2度目であるが、恥ずかしながら前回は通って早々に捕まってしまったというか、ちゃんとした手順を踏んだ事が無いので分からぬのだが……」
「ああ、大丈夫だ。エースに作ってもらった書類があるから各地への入国許可は取れているはずだし、シルバーの召還魔法で無理やり呼び寄せられてた移動手続きもちゃんと連絡されているはずだから」
「お主、意外にもルールをちゃんと把握しているのだな」
フェイくんが意外そうに感心して頷く。俺は得意げに頷き返した。
「あれ、ジェドさんじゃないですかー?!」
長い行列に並ぶ俺を見つけて手を振り自身のカウンターへと案内する気安い男……いつもの見知った受付である。まぁ、ここの受付は大体見知った奴らばかりなので、「久しぶりっすー!」「ちゅえーい!」などと気安く挨拶を交わしていく奴らが多い。うん、俺公爵家子息なんだけどね? 別にいいけど。
「あれ? そういえばこの間は聖国に入国する為にファーゼストに渡ったばかりですよね……て事は、また何かに巻き込まれて魔法とかで不正に戻りましたかー??」
わくわくと地下牢の鍵を出そうとする職員の前に、俺は首を振ってどや顔で書面を幾つも出した。
「実家のような居心地のいい地下牢に行きたいのは山々だが、今回はやんごとない身分の者と一緒だからな。残念だがちゃんとエースに手続きをして貰って何の滞りも無く無事に通りたいんだ。あー、地下牢に行けなくて残念だなー」
俺の出した書類に目を丸くした職員は残念そうにため息を吐いて書類を点検し始めた。
「なんだ……ジェドさんを地下牢に送る時が何か1番仕事したなーって感じなんですけどね。はぁ……はい、確かに、流石にエース様が作った書類には探しても粗はありませんよ、騎士団長ジェド・クランバル様」
「済まんな、またゆっくりと地下牢に入りに来るさ」
チラッと俺を見て、隠し持っていたお菓子を渡してくる職員。これは来る度に毎回用意してくれている俺の好きなお菓子である。
「……いや、お主、毎回地下牢に送られているって、どこから突っ込んでいいのか分からんわ」
「東国で俺と旅をして分かっただろう? 俺は地下牢に送られることには長けているから、どんな状況だと駄目なのかにやたら詳しいんだ」
「それは自慢気に言う話か?」
失敗から教訓を得られるのも大事な事だ。幾度と無く失敗しているからこそ、やたらに書類の書き方に詳しくなったしな。
なんて事をぼんやりと考えていると、横からシアンが顔を覗かせた。
「ここ、記入漏れしてますよ」
「ああ、済まんな……」
魔法士のローブのような制服から伸ばしてた手、俺はそれを見て一瞬止まった。
「……」
「? どうかしましたか?」
「いや……」
指摘された所を見て慌てて直す。あんなにドヤ顔で説明しておいて不備があったら恥ずかしい。センキュー、シアン。
「はい、では問題無いので進んでいただいて大丈夫ですよ」
ようやく全ての検査が終わり、俺達はファーゼストへ至るゲートへと進むことになった。
何度も通っている巨大ゲート。ファーゼストへ抜けるのは何度目か……
ゲートは入る前に先の景色が見えており、1枚の額縁に収まる景色の絵のような美しさの世界樹はさーっと風に乗って爽やかな香りまで運んできていた。
ゲートを抜ける時は薄い水の膜を潜るようになるのだが、ここは移動魔法に似ている。
ちゃぽんと水に飛び込んだかのような感触……その先にはいつものファーゼストの高台――
――ではなく、ゲート都市の景色であった。
「え……?」
「これは――」
シアンも驚きゲートを振り返る。それは、ファーゼストへ至るゲートの対角にあったアンデヴェロプトへのゲートだった。
「おい、今ファーゼストへ渡るゲートに入ったはずだよな……」
「ゲートの……不具合……?」
と、シアンがアンデヴェロプトへのゲートへと入っていった。
「お、おい!」
俺達も慌ててシアンの後を追う……が、やはりゲートの先はアンデヴェロプトではなく、ゲート都市であった。それは、先ほど潜り抜けたファーゼストへのゲート。
「あれ??? どうしたんですか? 何か忘れ物ですか?」
と、俺達に声をかける職員もさっき見たばかりの奴だ。これは……一体何?
というか、やっぱりマトモに通る事は出来ないのかよぉ!?




