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託された希望、闇深き悪女は誰が救うの……

 


 ナーガの視界は一瞬にして真っ暗な闇の中に変わった。


「――?!」


 先ほどまでは確かに魔塔の上で魔法使いや剣士達と戦っていたはずなのに。

 どういう事だと剣を握っていたはずの手を見れば、それは見覚えのあるいつもの自身の身体だった。


「な……なぜ……」


 カン――と木を叩く音が静寂の中に響き、振り返るとそこには真っ暗な中にぼやっと見える人影。

 人間とは少し色の違う肌に角、何の感情も無くこちらをじっと見つめていたその表情の口元がニヤリと歪む。


「……これより、裁判を行う。被告人はラヴィーンの元女王、ナーガ・ニーズヘッグ。保留にしていた審議の再開だ」


「な――」


 暗闇にぼんやりと見えたのはウルティアビアの裁判官、ヤマ。

 まるで、最初に対峙した時からの出来事は一瞬の夢でも見せられていたかのよう。ヤマはあの時の続きをつらつらと語り出す。


「ナーガ、お前は確かに言ったな。身体を取り戻せば、更に楽しい話で満たしてくれる……と。確かに面白かったよ、ナーガ・ニーズヘッグという()()が死後、足掻きに足掻き続け、俺を説得してまでも生き残り、闇を振りまいて1人でも多く道連れにしようと、はたまた餌にしようと働きかける。そうして返り咲いて自身の願いを叶えようと頑張った。そう、お前はよく頑張ったよ。だが、どうだ? お前の野望は叶ったか?」


「っ!」


 ナーガがここに戻された事……それでもう答えは出ていた。上手く行っているはずだった、1度は絶望の顔で場を埋め尽くしていたのに。


「お前の望みが叶わなかったのは何故だと思う? それはな、お前が選択を間違えたからだ」


「私が……?」


 選択を間違えた? 一体いつから、とナーガは思い起こす。

 いつだって、望みを叶える為に、その手に掴むために闇を振り撒いて力を溜め込み、邪魔な者は排除し、持てる全ての力で足掻いて来たはずだった。

 望みを――と、本当に欲しいものを思い出した時、愛しい男の姿が過ぎる。

 もうナーガの思い出の中でしか存在していない魔王ベリル。

 どうしてもっと早く、沢山一緒に過ごそうとしなかったのか、どうして無理矢理奪おうとしたのか。

 憎悪に任せて闇に陥れ手に入れようとしなければ、亡くす事など無かったのかもしれない。

 だが、それは無理な話だ。何故ならナーガは闇の竜だから。そういう選択しか出来ないのだ。

 ベリルが助ける前、数々の者達がナーガを討伐に来た。生きていてはいけなかったのだ。だから愛する人も死に、失敗し、足掻き……それでも闇に頼り人を堕とす事しか出来ない。

 ナーガの存在自体が、生まれてきた事が、間違いなのだ。


「お前という悪女は十分過ぎる程楽しませてくれた。十分に足掻いて生き続けた。だが、もうそろそろ終わりでいいだろう。判決は、ナーガという存在の終わりだ」


 ヤマがガベルを鳴らすと、ナーガの足元が薄いガラスの様に割れ落ちていく。手を伸ばしたその先から自身の力だけでは無く記憶も何もかもが抜けていくように感じた。

 嫌だ、と必至で掴む。ナーガは怖かった。自分が、ベリルを愛していたという記憶を、無くしたくは無かったから、だからずっと足掻き続けてきたのに。


「――っ?!」


 落ち行く身体を掴み止める伸ばされた手。必死で何かを掴もうと足掻いていたナーガは思わずそれを掴んでしまった。


「お前は……」


 手の先を辿ると、自身を止めているのは憎き敵であるジェド・クランバルだった。


「はぁ……はぁ……いきなり現れたと思ったら何で落ちていくんだよ」


 言っている事はよく分からなかった。が、もっと分からないのは何故落ち行く自分を掴み止めているのか。


「何をして……」


「いや、だから落ちていくから……」


「……」


 ナーガにはジェドという男が分からなかった。

 やっと理解しその心の隙をついて闇に落とし、身体を手に入れた。

 そんな相手を、身に降りかかる厄災を、普通ならば絶対に助けない。


「この手は何? 助ける? お前が? まさか私が今まで何をしてきたか忘れる程馬鹿だったという訳ではないでしょう?」


「いや、いくら俺だってこんなに迷惑かけられて、しかも身体まで乗って来たヤツを流石に忘れるかよ」


「……じゃあ本当に何? まさかどんな者にでも善を振り撒く愚か者? お前が?」


「んな訳あるか。ただ、俺は……」


 ジェドは一瞬目を閉じて考えた。ジェド自身にだって、分からない。分からないけども、毎回結局こうなってしまうから。


「……結局俺は、何も考えずに手を取っちゃうんだよな。巻き込まれ体質とか思っていたけど、こういう俺の性格が悪かったのかな」


「……」


 ナーガはその時何故か過去を思い出した。傷つき弱っていた自分を人間から救い出してくれたベリルとの大切な美しい思い出を。

 似ても似つかない人間の男。大切な美しい思い出を重ねるのは腹が立ったが、ナーガはフッと笑みを溢す。


「……()があったら、今度は破滅の未来が来る前に何とかする事ね。悪役令嬢救いの騎士……」


 足掻き掴み続けていたその手を放し、ナーガは遠く遥か下の方へと消えて見えなくなっていった。



 ★★★



「いや、変な2つ名をつけるなよ」


「ジェド様!」


 気がつくと元の夢と同じように腕の中にはシルバーとノエルたんがいた。

 先程と変わらず俺を心配そうに見つめるノエルたんの顔。


「……お帰り、という事で良かったのかねぇ」


 と苦笑いするシルバー。

 ハッと下を確認すると俺を縛り付けていた黒い手や蔦は無くなっていた。身軽、と言えば身軽過ぎる位で腰に上着を巻きつけているだけなのが心許ないが。

 遥か下にはアークやオペラだけじゃなく先程何回も見たクレストやマリリン、オネエ軍団にロックやブレイド、フェイに大輔に……あと何か全然見覚えの無い女達も居た。

 ただ、俺をずっと元気付けてくれていたルビーの姿だけが見当たらない。


「……そうか、夢から覚めたのか」


「ジェド様……よかった……」


 嬉しそうにギュッと俺の胸に顔を埋めるノエルたん。それと交互に俺を見て嬉しそうに頷いたシルバーは足元の魔法陣をゆっくりと降下させて地面へと降り立った。


「ジェド!」


 俺に駆け寄ってくるブレイド達の心配そうな顔。


「……本当にジェド、お前に戻ったのか?」


「……ああ、迷惑をかけたな。みんな」


 いつもの様に話しかけると、安堵の表情を浮かべたブレイドやロックはふっと笑うとそのまま俺に殴りかかってきた。え……いたい。


「お前のせいでどんだけ思ってもいないセリフを吐かされたと思っているんだ!」


「はた迷惑な奴だ、全く!」


「ええ……」


 俺も好きで乗っ取られた訳じゃないんだが……その後からいも弟のジュエリーちゃんこと大輔も聖剣薔薇の乙女で殴ってきた。えっ、だ、大輔……?


「……馬鹿、心配かけさせんなよ。戻ってきてくれて、よかった……」


 ぐしぐし、と泣く大輔の頭に手を置き、


「ああ、心配してくれてありがとう」


 と呟くと、それを見たオネエ軍団やクレストのオッサンもわっ! と俺の元へと押し寄せた。


「やーーーん、心配したのよーーー!!!!」

「ジェドちゃんがいないと寂しいわーーー!!!」

「俺はやはりジェドくん、君の腰元で眠りたいぞーーーー!!!」


 と押しつぶされて埋まってしまった。夢と変わんねえじゃねえか!


 夢の中で見たルビーの

『良かったですね、ジェド様にだってちゃんと愛されたい人がいたんですね』という声が空耳のようにどこかで聞こえたような気がした。

 いや、少なくともオネエと変なおじさんには愛されたくないのですが???

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