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託された希望、騎士団長は誰が救うの(5)

 


 ――一体なぜ……どうしてこんな状況に?


 公爵家子息、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルの身体を完全に乗っ取り、勝利を確信していたナーガはめまぐるしく変わる状況に困惑していた。


 何度も邪魔をしてくる存在、ジェド。その男を手に入れた時の絶望感はとても美味しかった。いい気分だった。

 だが……今はどうだ。

 目の前に居る者たちは、ジェドを取り戻さんとナーガに攻撃を仕掛けてくる。

 その目には絶望では無く、光が宿っていた。ナーガの忌み嫌う光……そして、愛。


「ジェドちゃんを返しなさいー!」

「「「そうよそうよー!」」」


 ジェドの身体能力をもってしても梃子摺らせる剣士。いや、それ以上に面倒なのが剣の腕は無くとも腕力と愛でごり押ししてくるむさ苦しい女のような男たち。


「ジェドくん!! 今助けるぞーー!」


 光の剣士はその剣に愛を込めて攻撃してきた。その度にナーガは息が苦しくなる。


(くっ――)


 ぜえぜえと息を上げながら何とかそれらをいなしていた。


(やはり……あの男も始末しておくべきだった。だが……)


 それでもナーガにはまだ心に余裕がある。何故なら


「ほーっほほほほ、あなた達がどう足掻こうとも無駄よ! この男は私の中の闇に捕まって深いところで眠っているわ。いくら訴えても聞こえやしない!」


「さぁ、それはどうだろうね」


 ナーガの高笑いを割って入ったのはシルバーだった。そう、ジェドと共に幾度も邪魔をしてきた男である。


「ふふふ……焦りが見えているようだけれど、本当に無駄なのかねぇ」


「ふっ、そう煽ろうったって無駄よ。好きなだけ攻撃でもするがいいわ」


「ふーむ、魔法式を斬る剣術には興味があるけれども、魔法使いじゃない者を攻撃する趣味はあまり無くてねぇ。それで、君はいい加減心を決めてくれないと私が斬られてしまうんだけれども、どうだい?」


「……?」


 シルバーの腕の中、ノエルは2人の会話も聞こえずに言葉を発しようとぷるぷると震えていた。


「ちょ、ちょっと待ってください、やっぱり、改めて言うとなると考えを整理しないといけなくて――」


「ほうほう、時間を稼いで欲しいと……この状況で君も中々大物だねぇ」


 恥ずかしがって躊躇うノエルに首を傾げるシルバー。そこに容赦なく攻撃を仕掛けるナーガであったが――

 落ちかけた金棒を止めたのはピンク色の光で作られた鎖だった。驚き振り払うと切れた鎖の向こうから先ほどの魔法使い達の猛攻撃よりも更に多くの魔法が次々とナーガに襲い掛かる。


「なに?!」


 ジェドの身体能力で必死に交わし新たな刺客の居場所を探るも、それは目の前の1人の魔法使いから放たれていた。

 シルバーは、少しずつ装飾を外しながらニコニコと笑ってノエルに問いかけた。


「仕方ないから、足止めはしておくけどねぇ……どれ位の時間が必要、かな? そんなに持たないよ? 主に私の身体の方が、ね」


 ノエルの目の前でカッと光り輝くシルバーの髪の毛は、今にも爆発しそうな程の魔力が溢れていた。



 ★★★



 ――暗い……一体、ここは何処だ。

 ん? ああ、そうか。寝てたのか。


 俺は、ぼんやりと目を開いた。しかし、まだ夜だったのか辺りを見回しても真っ暗だ。

 あー……夜ならもうちょっと寝ていてもいいか。今の俺には全然起きる気力が沸いてない。

 そもそも、今何日だったか……寝る前に何をしていたのか……それすらも全然記憶が無い。

 思い出す気にもなれない。何か……すごく大事な事があったような気がする。


『愛している! だから目を覚ましてくれ!!』


 ビクゥ?!!

 一瞬、もの凄い悪寒と鳥肌の止まらない声が遠くの何処からか聞こえてきて、俺は深い眠りに落ちる寸前で留まった。いや、寝かせてほしいんだ……誰なんだ、俺の邪魔をするのは。

 だが、嫌悪感が物凄い声がいつまでも頭にガンガンと響いて俺を眠りを邪魔する。いつまでも寝ていると、大変な事になるような……そんな、そんな気が。


 ……というか、そもそもあれは誰の声なんだ。

 何か、思い出さないといけないような……いや、思い出さなくていいような。

 そんな声が気になって仕方が無く、俺は目を開けた。


「あ、ジェド様、やっと起きてくれたのですね。いや、起きてませんが……」


「え……」


 俺は、真っ黒な大樹から伸びる蔦でがんじがらめになっていた。いや、蔦だけじゃない……地面から生える無数の手や触手、気持ち悪いものが俺を掴みほぼ埋まっているような状態。イヤアア、ナニコレ?!


「もう起きないかと思っていました。よかった……」


「君は……ルビー!」


 俺は寝ぼけ眼の稼動が遅い頭を振り絞って思い出し、警戒した。

 そうだ……俺は、夢の中でルビーの姿をしたナーガに取り込まれて……という事は、こいつはナーガなのか……?


「え、そんな顔しないでください! 私です、ルビーですよ?? あんなに何度も一緒にイケメンをガチャしたりイケメンを倒したり、イケメンで遊んだりした仲じゃないですかー」


「……イケメンで遊んだ仲、というのは語弊がありすぎるのだが……どうやら本当にルビーのようだな」


 繋がった記憶、闇に取り込まれる前に見たルビーの記憶を話すと、ルビーはうんうんと頷いた。


「ああ、知ってますよそのゲーム。データ同期系スマホアプリ『貴方の夢に恋してる~写真の中の素敵な恋』といえば、バグなのか何なのか問題がありすぎて大炎上したやつですよね。しかも、プレイすると必ず呪いがふりかかるとか何とか言われたいわく付きのゲームでして……ゲーム画面にありもしない女が映ったり、スマホの写真データが真っ黒になったりするとか。すぐにサ終になったので私が出ていたのかどうかは知りませんでしたが……」


「そうか……俺が見たそのゲームのルビーはナーガが成り代わっていたから、もしかしたらルビーではなかったのかもしれないな……ところで」


 俺は、例によって気になる事が1つあった。

 ほぼ埋まっていて身動きの取れない俺を尻目に、ルビーが一身不乱に回しているもの……それは――


「……何のガチャだ?」


「え、ですから、ジェド様を救う為のガチャです」


「……ガチャで、俺を?」


 今までの夢を考えると、ルビーが回していたガチャで救われた事はあんまり無い気がする……が、埋まっていて本当に身動きの取れない俺は、ルビーを信じるしか選択肢は無かった。


「……わかった。何でもいいから助けてくれ」


「ですが、今丁度ガチャ券が終わってしまいまして……」


 と、残念そうに俺を見つめるルビーの手元には、数枚のカードが収まっていた。


「……それで俺を救えるのか……?」


「たぶん」


「たぶん……? とりあえず、そのガチャで回したやつを見せて貰っていいか?」


「え、あ、はい」


 と、ルビーがカードを1枚俺に見せると、そのカードが光り出し見覚えのあるオッサンが俺の目の前に現れた。


『ジェドくん、愛している! だから目を覚ましてくれ!!!』


「うわあああああああ!!!!!!」


 それは、光る剣を振りかぶり頬を紅潮させている光のオッサンことクレストだった。そのセリフはさっき聞いたやつじゃないか。やっぱりお前だったのか!

 クレストのおっさんは俺に、いや、俺の周りに纏わりつく蔦に剣をぶっ刺すとそのまま消えていった。


「……2重の意味で怖かったんだが……」


「だからちょっと遠慮していたのに」


「……これは、結局何のゲームなんだ……」


「ええと……たぶんなんですけど、ガチャで引き当てたアイテムでジェド様を助けるやつです。多分……」


「さっきから多分って、どういう事だ」


 ルビーの曖昧な返答に俺は憤慨してじたばたするが、絶賛身動きは取れない。

 そんな俺に申し訳なさそうな顔をしてルビーは話を続けた。


「いえ、実は……こういうゲームって一時期結構多くて、一体どのゲームなのかは分からないんですよね。でも、悪役令嬢のルビーが居たならば、恐らくあれです。悪役令嬢ルビーが様々な問題をふっかけ、それをどんどん解決していくという『ルビー・ザ・パズル★』です。このゲームは、パズルを解いていくとコインが溜まり、それでガチャが出来てそれのアイテムを引くと問題を解決出来るものが集められるというもので……」


「……ちょっと待て、つまり、俺を助ける為にはランダムのガチャを引かなくてはいけなくて、そのガチャを引くためにはコインが必要で、そのコインを集める為にパズルをしなくちゃいけない……って、コト?!」


「そういう事ですね」


「いや、面倒過ぎるだろ!!!!」


「はい。面倒過ぎるというか、広告とゲームの趣旨が全然違いすぎてクレームが殺到したゲームでもあります。結局このゲームは何のゲームなんだと……なので、私も広告でしか見たことがなかったもので。だから、多分、なのです」


 やりがいを追求した結果、あまりにも趣旨が遠回りしすぎて結局何のゲームだか分からなくなってしまった『ルビー・ザ・パズル★』は、一部試しに突っ込みも兼ねてやるようなハイシンシャ達に人気があったくらいで、やはり売れずに早期サ終になったとか。ハイシンシャって何……? 冒険者みたいなものなのだろうか……こんな面倒そうなゲームを試しにやってみるなんて奇特すぎるだろ。


「とは言え、もう既に何枚か引いているみたいだな」


「ええ。気がついたらジェド様がそんな事になっていたので、眠っている間にパズルを試していました。パズル自体はそんなに難しいものではないので……」


「ならば、その手元にあるカードで何とかしてくれ」


「え、あ……ハイ」


 と、ルビーの持っているカードが光りだすと見覚えのあるオカ……オネエ集団が現れ俺に向かって突進してきた。


『アタシ達の愛ー、ジェドちゃんに届けるわーーー!!!』

『うおおおおおおおお』


 俺に突進してきたオネエ軍団は、俺の周りに絡まるものを毟り取っていく。キャアアアアアアア!


 ひとしきり毟ったあと、オネエ軍団は消えていった。


「ハァ……ハァ……服が毟り取られたかと思った……」


「言うて、軽装っぽく見えますけどね、ジェド様」


 蔦の間からは俺の肌が見え隠れしていた。そう言えば思い出してきたが、寝る前にあんまり服を着てなかったかもしれない。


「……というか、どういうガチャの引きなんださっきから……いや、そもそもどういうラインナップなんだよ」


「……私にもよく分かりませんが、ジェド様を助けたくて尽力してるっぽいのは伝わりましたので、並々ならぬ想いでジェド様を助けようとしている方が、ここに現れているのではありませんか……?」


「俺を……?」


 ふと、遠くのどこかで色んな人の声が聞こえたような気がした。俺を呼ぶ声……もしかして――


「……もしかして、俺が寝ている間に、俺を助けようとしてくれている、とかあるんだろうか」


 そう呟くと、ルビーはニコリと笑った。


「きっと、そうですよ。ジェド様がピンチなら、皆さん助けてくれるでしょう。だって……みんな、ジェド様に助けられているんですから」


「いや……そんな助けた覚えは……」


「ジェド様に覚えがなくても、ジェド様を大切に思っている人は、きっと沢山いますよ。このカードの山のように」


 ルビーが振り返る目の前のガチャの箱には、沢山のカードが入っていた。中身は見えない。


「だと……いいんだがな」


「ですから、ジェド様だっていつまでも寝ている訳にはいきませんって。一緒に頑張りましょう」


「ああ。まぁ、俺は何も出来ないので君に託すしかないんだがな」


「頑張ります。あ、もう1枚引いてはいますが……」


 と、遠慮がちに裏返したルビーの手元のカードには、オカ……オネエのマリリンが写っていた。

 いや、お前、さっきとほぼ被ってんじゃねえか! 引き悪すぎだろ!!!



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