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魔剣な乙女は所望する(前編)



「なるほど……恋人向けのアトラクション洞窟ね」


 俺達は肩を落としながららカップルすごろく洞窟の件を陛下とエースに報告しに皇城へと帰った。

 聞いた陛下もげんなり顔である。陛下も帝国1のイケメンだが彼女いない歴=年齢だったはず。


「……ジェド。その顔は失礼な事を考えてる時のものだね。はぁ……恋人向けのアトラクション自体は別に構わないが、許可無く勝手に作らないでほしい」


「届け出が出てないので、こうして可哀想な彼女無し男子達が立ち入り調査するような悲劇が生じてしまうのですよね」


 つまり、俺達がこんなに悲しい思いをする羽目になるのも全てゲーム大好き令嬢達が悪いのだ。あと秘密スポットとか言ってコソコソいちゃいちゃしてるカップル達も悪い。全員曝発してほしい。


「それはそれとして、アークが君に頼みがあるらしいよ。街中のカフェにいるから聞いてやってくれない?」


 えー? またですかー……



 ―――――――――――――――――――



 陛下から聞いていた通り、魔王アークは街中のお洒落なカフェにいた。このカフェ何というか、女子人気が高そうな……絵に描いたら映えそうな? 映えーみたいな?

 しかし、コイツは結界に阻まれずに皇城に入れるはずなのに何で城じゃなくこんな所にいるんだ?


「まぁ、それについても今回の話と関連しているから。まずは座れ」


 アークは人の心が読めるので、俺がナウ考えていることが丸わかりなのである。最初は抵抗があったのだが、慣れた今となっては口に出す前に疑問に答えてくれるので楽ちんだ。……口数が大幅に減ってしまうのが難点であるが。あー、このフラペ……何? とかいうヤツ美味しそう。


「口数を増やしてその余分な考えを半分以下にしろ。こっちはお前が喋ろうが喋るまいが全部聞こえてきて煩いんだぞ。全く。あ、すまない店員、このフラペなんたらを2つ」


 魔王も甘いもの食べるんだ……



「それで、頼みというのはこれなんだが……」


 そう言うと、アークは黒い剣を取り出しテーブルの上に置いた。


「これはまた禍々しいものを出してきたな」


「ああ……見たまんま、魔剣だ」


 その剣はどす黒いオーラを放ち、見た目も呪われてそうなデザインで全体的に血の乾いたような赤黒さだった。頼んでいたフラペなんちゃらが魔剣の横に置かれたのだが、映えどころか可愛いとどす黒いが融合して余計禍々しくなった。


「なるほど、確かにこんなモン皇城には入れられないな……というかそもそも、何でこんなヤバそうな物をこんな所にわざわざ持って来ているんだ?」


『さっきから黙って聞いてれば、禍々しいだのヤバいだの、失礼にも程があるんですが???』


 急に、俺でもアークでもない、聞いた事の無い女性の声が会話に入り込んできた。

 声のする方を見ると、テーブルには魔剣とフラペなんたら……


「まさか……お前なのか? フラペなんたら――」


『んな訳ないでしょーが!!! どう見たって魔剣が喋ってるの分かるでしょ???』


 ああ……フラペなんたらが喋ってるだったら「超かわいー!」って思うところだが、実際に喋っているのは超可愛くない魔剣である。


「アーク、魔剣が喋ってるんだが?」


「ああ。魔剣が喋るんだよ」


「……何で?」


「【聖剣の薔薇乙女戦記】というものを知っているか?」


 は? 急に何?? 知りませんが???


「俺も知らん」


 何なんだお前は。

 すると魔剣が口を開いた。いや口どこだよ。


『【聖剣の薔薇乙女戦記】は、アタシが前世でプレイしたゲームよ。主人公は乙女の魂が宿るという聖剣・薔薇の乙女を手にし、同じように魂が宿る聖剣を手にする者達と戦う物語なの』


 そこまで聞いて嫌な予感がした。いつも聞いているフレーズなので聞きたくない。どうせラスボスだの悪役令嬢が持つ剣とかなのだろう。


『アタシはその中で最も邪悪な力と呪いを持つ魔剣・常闇の骸に転生してしまったの。この魔剣の力を手にした者は、その大いなる力と引き換えに常闇に堕ちる骸骨となり、死の世界を彷徨うと言われているわ。ゲームではラスボスとして乙女達と戦い、朽ち果てたのよね』


 想像より酷かった……誰がそんな力を手にしたがるんだよ。そのラスボスの悪役令嬢は余程切羽詰まってるのかな? 決死の覚悟で親の仇でも討つの?


「なるほど。で、その聖剣と戦って朽ち果てる前に何とかして生き延びたい、という事か?」


 俺の言葉に魔剣がプルプルと震え出した。何……こわい。


『そーゆー事を言ってんじゃないのよー!』


 え? 違うの???


『折角ファンタジーゲームの世界に転生したのに、何で剣なのって話よ!!??? 百歩譲ってラスボスなのは全然いいのよ……何で人じゃないの、って感じよ!! 剣に心が宿ったって剣は剣じゃない??!! スチルも立ち絵も何も無い剣て……酷すぎる!!』


 魔剣さんが勢いよく説明し始めた。鍔の部分でぺしぺしと器用にテーブルを叩く。


『その上、聖剣と戦って朽ち果てるとか……踏んだり蹴ったりだと思わない? なので、そんな悲惨な最期を迎える前に魔王様にお願いしたのよ』


 そう言われてアークをじっと見る。アークはすでに明後日の方向を向いている。……何?


『折角ファンタジー世界に来たんだから、アタシも素敵な殿方と素敵なデートを満喫したい! と』


 ???? え?? どゆこと???


 一頻り考えて、俺は腰に下げていた剣をテーブルの上に乗せた。


「これが雄なのかは分からんが……オリハルコン製で強いから多分イケてるはず。思う存分お見合いしてくれ」


『だからそういう事じゃ無いって言ってんでしょーがーー!!! 素敵な殿方っつったら人間のイケメンに決まってるでしょうがーー!! こちとら転生前は人間だったんだけど??!!』


 何……なんなの?? 魔剣さんの言わんとしていることが全然分からないよー……アーク見てないで助けて。


「つまり魔剣・常闇の骸は、1度でいいからイケメンとデートがしたいそうだ。だから漆黒の騎士のジェドが適任かと思ってな」


「何で俺なんだよ。お前がデートすれば良いだろ! 魔王なんだから適任だろ」


「俺は……ほら、爪がこんな感じの猫科だから剣は装備が出来ないんだ」


 と、長い爪を見せてきたが、お前さっき持って来てただろ。俺だってそんな物騒な剣は装備したくないわ!


「……まぁ装備する必要は無いが、騎士がいいらしいのでな。俺も付き添いでいるから頼む、魔剣とデートをしてやってくれ」


 魔剣を見ると嬉しそうにクネクネしていた。

 アーク……お前何言ってるの……? 剣とデートって何??? 一体何すんの??


「だから、こういうオシャレなカフェに来たんだろ?」


 だからこんな場違いなお洒落カフェに来たのかー。そっかー……

 お洒落カフェで魔剣とデートって……正気なの?

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