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ウルティアビアの裁判――三角関係の行方

 


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと聖国の女王オペラ・ヴァルキュリア、謎の男(異世界人らしい)ドートンはウルティアビアの裁判官ヤマに捕えられ、裁判を受けていた。

 邪竜ナーガの魂を追っていたはずが、まんまとおびき寄せられてしまった。ヤマは既にナーガの術中にハマっていたのだ……

 オペラは、だいぶ前にナーガの分体に噛まれた毒が闇の刻印に進化しそうで限界。あわやの危機――と思っていた所へ助けに来たのは魔王アークと女装したままのルーカス陛下もといルー子である。

 こっちはこっちでオペラとの三角関係が非常にややこしい事になっていて、今までの旅史上1番複雑化しているので説明する俺もしんどいし、見てる方も皆困惑している事だろう。


「オペラ、大丈夫か! 今助けに――ヴァッ」


 陛下が走り出そうとした瞬間、アークが黒い獅子の姿になって陛下を踏みつけ飛び越えた。


「君……」


「もう隠し事はしていないからな。遠慮なく――ぶへっ!」


「君ねえ! 私と争いたく無い風だったよね!? あの和解ムードは何だったの??」


「俺はそんな事一言も言ってない」


「目と心で会話したよね??」


 ……と、どちらがオペラを助けるか助けないかでギャーギャーと喧嘩が始まってしまった。船から落ちた時と何も変わってない。オペラの拒絶が全然響いてない。


「……」


 その様子を見たオペラも無言で苦しんでいた。いや、ちょっと呆れているのかもしれない。助けに来たふりして状況を悪化させてくるのやめてくんない……


「な、なぁ、ジェドやん、ルー子さんは何であんな……」


「え、何でって言われても……」


 ドートンの疑問もよく分からないが、それよりもヒートアップしていく陛下とアークの喧嘩。一緒に現れたのに、来るまでに仲直りした訳では無いのだろうか……

 あまりの剣幕にナーガの魂を手にしたヤマも困惑気味……というか無言で成り行きを観察している。


「大体、そんな格好で助けに来たとか俺の前でイチャイチャしようとしても説得力が無いんだよ」


「なっ……」


「聖国の民に遠慮してそんな格好してコソコソとゲートを設置したり会いに行こうとしているから俺みたいな奴に付け入る隙が生まれるんだろ」


「わ……私だって、好きでこんな格好している訳では無い!」


 と、陛下はアークに煽られて付け髪を取った。取れた髪は黒く変色し、短い髪のいつもの陛下が現れる。ちょっと女子のメイクはしているけれども。

 だが、その姿を見てもオペラは動揺しなかった。うん、知っているもんね。

 代わりに動揺したのはドートンだった。だからお前は何で?

 更に陛下は女性もののローブを脱ぎ捨てる。下は辛うじてズボンを履いているが、バッキバキの上半身が現れ更にドートンが目を丸くし震えだした。だからどしたん……


「君もシャドウも、ロストも……みんな勝手な事を言うけどねぇ! 私だって、簡単に捨てられるならば国を捨てて今すぐオペラを迎えに行きたいよ!」


「じゃあ行けばいいじゃねえか……」


「っ……」


 その時、言い争う2人をふむふむと観察していたヤマが面白そうに手を叩いた。


「はっはっは、こりゃあ、裁判だな。裁判官は、2人の男を手玉に取ってる悪女って訳だ」


「はぁ??」


 ヤマの言葉に急に正気に戻るオペラ。オペラは手玉に取っている訳では無いのだけれど……結果として手玉に取ってる風になってしまって可哀想。あんなに陛下一筋なのに……


「悪女じゃないというならどちらかちゃんと選んであげるべきだろう。面白いからな、決着が着くまで待っていてやろう」


 と、ヤマはナーガの魂らしきものをテーブルに置いて成り行きを見守った。部屋中に満ち溢れていたナーガの闇も薄らいでいる。いや、ナーガは別に諦めた訳じゃない……こういう男女のドロドロがあいつの好物なのだ。口を開けて、不幸になる誰かを待っているのだ……


「陛下、あの男の言う事は聞かない方がいいですよ」


「ルーカス様……」


 オペラがどんな選択をしたとしても、今のままでもどう足掻いても闇が生まれてしまうだろう。現に、今もナーガでは無くこちらの檻の中から底の深い闇のオーラが……何でドートンはそんなオーラを出しているんだ???


「ジェド……いや、私は」


 ぐっと何かを決意した陛下。後から見守るアークを振り向かず、俺達の檻……いや、オペラへと近付いた。

 ガシャン、と目の前にある檻に手をかけ、オペラを真っ向から見つめた。久々に見た陛下の上半身は無駄にバッキバキである。女装は似合っていたが、ローブの下にこんなバッキバキの身体を有していたとは思えない位の仕上がりである。また鍛えました……?


「オペラ。私が君にこうやって話をするのは何度目か分からないね」


「……」


 優しい陛下の声。2人の間に何かある度に陛下はオペラに気持ちを伝えてきたのだ。何であんなに頑張っている陛下の愛はいつも報われないのだろうか……


「……ルーカス様、そう、ですわね。貴方はいつも、わたくしに優しく言葉を与えてくださいました。でも……そうなのかもしれない。わたくしのせいで、いつもいつも不幸を生んでしまったり、上手く行かないのであれば……あの男の言うように、悪いのはわたくしなのですわ」


「オペラ、聞いてほしい」


 オペラの言葉を遮るような陛下の声。その声を聞いてか、いつの間にか立ち去ろうとしていたアークが目を見開いて振り向いた。いや、お前何処行こうと――


「私は、君と一緒になりたい。でも、そこには私と君だけでは無く、他の者達も居て欲しいと思っている。アークにだって」


 と、陛下に手を引かれ引き戻されオペラの前に差し出されるアーク。


「はぁ?! お前、だからそういう――」


「オペラも、アークの事は嫌いじゃないんだろう? 好きだから、悩んでいるんだろう?? 私も好きだよ!」


「は……」


 その言葉にその場に居た全員が唖然とした。アークも困惑している。いや、陛下、それは……


「お前、今の流れでそれを言うのは違うだろう……」


「違わない。オペラ、悩む必要は無い。私は、君が……いや、君達が一切悩まない世界を作る。アークがどれだけオペラを好きでも、君は悩まなくてもいいし私達も仲違いしない」


「そんなの……良くない……お、おかしいですわよ」


「おかしくない。善い結果を、私は模索していく! 一妻多夫制が必要ならば作る! これで、問題は無い。聖国に君が必要で離れられないのならば、離れなくても夫婦になれるような世を作る。その為に聖国を帝国に取り入れなくてはいけないのであれば、1つの国にする。私は……君の為なら何でもする」


「ええ……」


 陛下、いくらなんでもそれは無茶苦茶ですって……

 だが、幼い頃の陛下の行動を考えると、本気でやりかねん……いや、やるかも。


「いや……俺は何も結婚するとは……」


「いいや、してもらう。君だって、オペラと、私と、選べなくて悩んでいたんだろう。選ばなくていい。もう、全てが面倒だ。このままずっと悩むならばそうするべきだ」


 ああ……面倒臭いとか本音出ちゃってる。何10話も悩みすぎて陛下も切れたのだろう……

 陛下の言葉に唖然としているオペラの手を檻の隙間から掴み、もう片方の手でアークの手を掴む陛下。


「さぁ、オペラ。どうする。私を選んでアークと決別するか。この男は割り切れる程器用でも無いし、ずっとずるずる拗らせ続けるだろう……それほど、君の事が好きなのだから」


「なっ、お、おま――」


 勝手にアークの言葉を代弁する陛下。それは酷いと思う。

 真っ赤になるアークの手を……オペラは握り返した。ぎょっとするアーク。


「……わたくしも、嫌いになんて……」


 と、陛下の言葉に圧されてかオペラが呟く……と、同時にオペラの指に嵌る指輪の1つが光りだした。


「え……」

「え……」

「は……」


 オペラの指には2つの指輪が嵌っていた。1つは陛下からの贈り物。そして、もう1つはアークの両親の形見だ。緑と紫の宝石が埋め込まれていた指輪……それが、一瞬光ったと思ったらオペラの指には紫の宝石、そして、何故か陛下の指にも緑の宝石が分離した指輪が嵌っていたのだ。

 その指を見つめて呆気に取られる3人。


「……よし、これは、アークが認めた、という事だろう、多分! つまり、そうだね、オペラ」


「え……ええ……?」


 状況を無理やり納得しようとする陛下に困惑するオペラ。ポカンと言葉を失っていたアークも一瞬置いて正気を取り戻した。


「い、いや、俺は認めた訳じゃない!! な、何かの間違いだ!!」


「見苦しいよアーク、君も、本当は私の結論に賛同しているんだろう?? だから、指輪が反応したんだろう!」


「そ……それは……」


 たじたじと語気を弱めるアーク。いいのか、その結末で。確かに、いや、誰も不幸にはなっていない気もするけど……え、これって何て表現したらいいの。


「……そ、そんな……初恋の女が男で、ハーレムエンドで……え……頭が、追いつかん、バグる……」


「ああ、なるほど、ハーレムエンドな。……え、ドートン、お前、もしかして陛下に初恋……?」


「んあああああああ!!!」


 余程ショックだったのだろう。ドートンは頭を抱えて跪き項垂れた。哀れ過ぎる……


「あーあ、だってさナーガ。興味深くはあるけど、悪女は生まれなかったなぁ。どうする?」


 椅子にもたれ掛かりナーガらしきものに話しかけるヤマ。


「悪いが、お前の思い通りには行かない。もうオペラを悩ます問題は解決したからな。ナーガに取り込まれる事は無いだろう……」


「え……」


 オペラが首元を擦ると、服の外にまで侵食していたナーガの呪いの刻印は薄くなっていた。苦しそうだった様子も無く回復している。やっぱり、悩みに連動されていたからあんな状態だったのか……あの複雑な問題を力技で解決に導くとは、さす帝……いや、そもそも原因も陛下だったな。

 陛下はやはり力技で檻を壊し、俺達を出してくれた。流石である。


「さぁ、大人しくその女の魂を渡して貰おう」


 オペラをアークの後ろに隠し、ヤマに詰め寄る陛下。その凄みにも動じず、淡々と調書を書き記すヤマ。その余裕はなんだ……


「帝国の皇帝ルーカスと魔王アークが巡る聖国の女王オペラ・ヴァルキュリアの恋路は、誰も闇に堕ちる事無く解決……かぁ。人の問題は一筋では計り知れないという事だな」


「何故そんな余裕を……――?! ナーガを何処にやった?」


 ヤマを見据えていた陛下だったが、椅子の傍らに置かれたテーブルの上にあったはずのナーガの魂がいつの間にか消えているのか声を荒げた。


「え……」


「次の議題は、転移してきた異世界人の罪か? ナーガ」


「――ひっ!」


 ヤマの言葉と同時に小さな悲鳴が後ろの方から聞こえて振り向くと、ドートンが水溜りのような影を見て青ざめていた。

 まさか……狙いはオペラじゃなくドートン?!


「危ない!!」


 何かに身構えるドートンを突き飛ばそうとした瞬間、ドートンの姿は一瞬で消えた。その足元には開かれた本……あれ、それってワンダーの……

 なんだ、居たのか――と安心した次の瞬間……俺の身体に何かが体当たりするような、いや、それ程の衝撃ではない妙な不快感と共に俺の耳元に聞き覚えのある声が囁かれた。


『やっと……この時を、ずっと待っていた。ずっと。貴方に、復讐出来る、この時を』


「ジェド?!」


 倒れかけてはらりと落ちる俺の腰に巻かれた上着。俺の太ももの辺りには……邪竜の闇の刻印が、蠢いていた。


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