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ドキッ! ウルティアビアの河岸に流されて(中編)

 


「何ですの、この方……貴方の知り合いですの?」


「ああ……なんと説明したら良いものか」


 訝しむオペラと状況が飲み込めず焦るドートン。恐らく……口ぶりからして船の乗組員にでも混ざって乗船していたのだろうか……いつの間に。

 これまでちょいちょい一緒に居たドートンなのだが、オペラはこの状態の彼を初めて見たのだろう。そして……彼の詳細は絶対に伝えるべきでは無い……


「って――おわっ!! そこに居るのはオペ――むぐっ!!」


 焦るドートンの口をおれは全力で塞いだ。


(おい……余計な事は喋るな)


 耳打ちする俺の言葉に青い顔でこくこくと頷くドートン。

 オペラはアークやナイトメアと一緒に彼と行動していたくらいだからいきなり殴りかかったりはしないだろうけど……用がすんだらボコられるかもしれない。

 それは当然の報いだろうから覚悟しとけとは思うけど、今はその時では無いだろう……先ほどのオペラの様子を思うと下手に刺激しない方が良いとも思うし……


「彼には以前助けてもらった事があってな、ちょっとした知り合いだ。この先に何用があったのかは知らないが、偶然だな」


「せ、せやな」


「ふぅん……魂とわたくし達以外でウルティアビアに用があるなんて、てっきりあの変な占い師もどきだけかと思ったのですけど、案外足を踏み入れる方も居るのですね」


 オペラが鋭くほぼ正解を突いてくる。だが、海賊達に襲われた後だからだろうか、妙に納得してドートンをしげしげと見た。


「わたくしは聖国の……方から来たただの一般人のオペラよ。こんな身なりの王族なんて居るわけはありませんものね……」


 全身びしょ濡れ、羽の無いオペラはただでさえ聖国人としては可哀想なフォルムをしているのにここの所酷い扱いばかりである。ボロボロの姿ももう何回と見たことか……

 初対面の人に女王と名乗ることも憚られたのかただのオペラになっていた。ちなみに何割かはこの男のせいである。勿論俺も何割か加担している。ごめんね。


「あ……ええと……ドートン言います」


「そう、不思議な喋り方をするのね」


「え、ははは……ちょっと、遠くの方から来てまして、はははは」


「それにしても……ここ、ウルティアビアで間違いはなさそうだけれども……一体何処なのかしら」


 大分落ち着きを取り戻したオペラは辺りをきょろきょろと見回す。

 砂利の川岸、相変わらず大きな川の景色はまるで海のように対岸が見えない。それどころか乗ってきた船や海賊船さえも見当たらず、完全にはぐれてしまった様だ。

 細い川が幾つも森の先へと延びている。その木々の先に薄っすらと光が見える……船の上からは紫の街灯が幾つも導くように連なる先に街と大きな建物が見えた。恐らくこの光を頼りに歩いていけばウルティアビアの中心部へと行く事が出来るのだろうが……


 なんだろうか。俺は言いようの無い寒気を感じた。見れば、オペラも腕を寄せて小刻みに震えている……やはり、あの場所には――


「へっくし。あー……まだ夜も明けきってないからなぁ。ここでびしょ濡れはきついなぁ」


 ……いや、そうだ。寒いのは単純に川に流されてきたからだろう。3人とも濡れ鼠である。


「……貴方、乾燥魔法とか使えないの?」


「残念ながら、俺はいつしからか魔法が使えなくなってしまったんだ」


「何でよ」


 何100話も前の話を覚えている人が居るかどうかは分からないが、俺は呪いを受けてから魔法が使えない。収納系は魔術具のお陰で辛うじて使えるものの、乾燥魔法や小さな火を起こすような初級魔法も使えない。別に剣士だから関係無いし不便でも無いから放っておいていたのだが、ちょいちょい寒い時、暑い時に不便である。今更説明して申し訳ないが、無駄に暖めあったりするようなイベントが定期的に発生しそうになるのもそのせいである。


「……貴方が肝心な時に役に立たないのは今に始まった事じゃないし、もういいわ。早く民家でも見つけて温まれる場所を探さないと」


「ああ、そうだな。早いとこ陛下達と合流しないと心配しているだろうし」


「……そう、ね」


 オペラは浮かない顔をしていた。合流したい気持ちと、距離を置きたい気持ちが混在しているのだろう……そういう姿を見ると恋愛は大変そうなので俺にはマトモに出来る気がしない。

 仕方なく歩き出すと、俯き考え事をしながら歩くオペラに聞こえないようにドートンが耳打ちしてきた。


(なぁジェドやん、一体どういうつもりなん。俺の事見限ったんとちゃうんか)


(ん? 見限った覚えは無いが……)


(だってあの競馬場で――)


(ああ……)


 訳の分からない顔をこちらに向けるドートン。俺はどう伝えたらよいものかと少し考え、小声で返した。


(アレは単純に訳の分からない力に頼りたくなかっただけだし。それとお前の事情は別だろう……全部を聞いた訳ではないにしろお前にだって何か事情があったのだろうし、俺はどんな相手の事だって話を聞かずに見捨てた事は無いぞ……話を聞いた末に捨てたやつは居るけど)


 ロマゾのオッサン剣のような生理的に無理な存在はともかく……あと、ナーガみたいに何度も懲りずに迷惑を撒き散らす存在もともかく……あと、腐女子の令嬢達みたいに何度やめろと言っても懲りずに薄い本を撒き散らすやつらも……いや、結構見捨ててるな。

 誰かを犠牲にしてでも成し遂げたい事情があるのであれば、それは皆同じ事なんじゃないかなと思う。そう考えると、ナーガだって成し遂げたい事情があるのだろうか……話を聞く気にはなれないけど。

 少なくともドートンは話せば分かりそうな奴だし、頭ごなしに否定するのはまだ早いと思ったから。


(まぁ、アレだ。お互い目的地は一緒なのだし、今は無理に争う必要も無いだろう。ああ、オペラにはこれ以上害をなさないでくれよ……それに関しては帝国の騎士として何とかせざるを得なくなるからな)


 これ以上何の害をオペラに課する事が出来るのかは謎で手遅れかもしれないが、一応ほら、陛下の大事な人だから。今は無力だし守らないとね……オペラが俺に守って欲しいのかは分からないけど。


(……俺かて別に、見境無く変な風にするつもりは――)


「きゃああ!!!」


 オペラの叫びに振り返ると、黒いローブを着た者達がオペラを拘束し取り囲んでいた。

 いつの間に囲まれたのか、気付かなかったが辺りはローブの者達だらけになっている……その服の隙間からは青い肌。


「ウルティアビア人か……おい、その女性を放せ」


 拘束されているオペラは拘束している人たちに右ストレートやボディブローなどを浴びせていた。無力なはずなのに結構抵抗している。対するウルティアビア人は何とかオペラを取り押さえようと数で対抗している……


「大人しくしてください。我々にあなた方を害する意思はありません」


「だったらどうして無理やり拘束しようとするんだ!」


「……あなた方、何処から来ました?」


「え……川から」


 俺達は流れ着いた川岸を指差した。


「……普通に不正入国です。すぐに入国手続きを済ませてください」



 ……と、いう事があり、俺達は檻付きの荷台に入れられ揺られていた。もう、親の顔より見慣れた投獄である。

 ウルティアビア人の接近に気付かなかったのも、殺気が無かったからだろう……問答無用で暴れていたオペラはちょっと縛られていた。手を先に出すのはそういう事になるからやめようね。


「ま、まぁ……場所も分からんかったし、親切に案内してくれるんならええんちゃう」


「普通に案内されれば良かったんだけどなぁ……」


 どうしてこう、毎度毎度捕まってしまうのかは謎である。こんな騎士居るだろうか。こんな女王も居ないと思う。


「こちらも手荒な真似はしたくないんですけどもね~、ついさっきサンズ川運行を毎度妨げる海賊団が一斉捕縛されたばかりなので、霊体じゃないあなた方は関係無いと思いますが一応その海賊団の仲間かも含めて警戒しておりますのでハイ」


 あいつら捕まったのか。まぁ、陛下達がみすみす逃がす訳は無いと思うけど……俺達も間が悪い感じに流されちゃったものですわ。


 親切にも暖房代わりの赤スライムを差し入れてくれたウルティアビア人。暖房代わりがスライムって何って思ったのだが、赤スライムはほんのり暖かく触っているとじわじわ身体が温まる。お金にも使えるし暖房代わりにもなるってスライム万能すぎない……

 そんな感じで手厚いんだか手厚くないんだか分からない様子の俺達は檻に揺られてウルティアビアの関門所へとゴトゴト運ばれていった。

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