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ドキッ! 鉢合わせはラッキーとはいかなくて(後編)



「きゃあああああ――わぷっ!!」


「あー、うるさい。とりあえずそれを羽織って黙れ、あまり騒ぐと余計に人が集まって来るだろうが」


「……」


 俺を聖石で殴った後も叫んでいたオペラに、アークはシーツを投げつけて被せた。ナイス判断である。裸は良くない。


「何でルーカス様がこの部屋の、しかも同じタイミングで同じように風呂を借りに来ているのよ!!!」


 シーツで身体を巻いたまま倒れる俺に詰め寄るオペラ。

 それについては本当申し訳ないというか、こっちもまさか同じ行動してるとは思わないじゃん……いや、本当にゴメン。


「こっちもこっちでずぶ濡れに汚れる仕事というか、大変だったんだよ。というかそもそも、オペラと陛下がいつまでもお互い隠し事をしているのが元凶というか……それ、もしかして陛下に隠れてウルティアビアに行くのってそれが原因か……?」


「え……」


 俺の指差す先、オペラの身体を覆っているシーツの隙間から見えた首の少し下。いつもは服の下で見えない部分、オペラの白い肌に食い込む噛み傷を中心に竜が伸びるような模様がうっすらと広がっていた。

 まだ完成はしていなくとも、その模様に見覚えがある。何度も見たから……


「闇の刻い――へぶっ!!」


 胸元のシーツをきゅっと締めたオペラの平手打ちが俺に炸裂し、俺はまたベッドの方に吹っ飛んだ。俺は別にオペラの胸を見ていた訳……ではちょっとあるけど、ひどい。


「だから落ち着け。どうせウルティアビアに着けばどうやっても知られてしまうし、こうなっては協力を仰ぐしかないだろ」


「それは……」


 アークが血だらけで床に沈んでいた陛下をベッドに運ぶ。多分大丈夫だとは思うけど……陛下の頭を割るとか、聖石とんでもない凶器だな……

 布団をかけ寝かされた陛下は起きる気配が無かった。目を閉じる陛下の様子を眉を寄せて伺うオペラは息を吐いて話し始めた。


「……以前、わたくしが不覚にもナーガに操られ、帝国を襲ったことがあったでしょう……?」


「帝国を……ああー、えーっと」


 オペラが帝国を襲ったことといえば……実は沢山あるのでどれだと一瞬考えた。インパクトが強すぎたのはスライムが空から沢山降ってきた大規模な魔法だったが。多分あれだな、オペラが直接乗り込んできて攻撃してきたあの時。


「あー、陛下がオペラとキスをして正気に――へぶっ!!!」


「だから、一々余計なのよ! というかあれも貴方のせいでしょうが!!!」


 俺の脳天に落ちるかかと落とし。辛うじて何も見えなかったが、今はシーツ一枚なのだから攻撃方法は考えて欲しい……


「いてて、で、それがどうしたんだ……結構前の話だよな?」


「……結構前の話だから忘れていたのよ。まさか、あの時ナーガの放った小さな黒い竜の噛み傷が、今更になってこんな事になるなんて思わないじゃない……」


 シーツを少し捲って見せてくれたオペラの首の下には、やはり作りかけの闇の刻印が伸びていた。


「先日東国に行った際、東国の王ルオの放ったナーガの闇に触れたのが原因だろう。その時こいつは羽を全て切られていたからな」


「何を思ってわたくしの羽を全部切ったのかは分からないけれど、ここまで仕込まれていたならば大した男よねあの変態。ルーカス様の許しが出れば一度殴りに行かせていただくわ。それはともかく、あれから聖気が身体に溜まらないのも、羽が1枚も生えてこないのも……この刻印が、噛まれた時に恐らく流れてきたであろうナーガの血が原因なんじゃないかって」


 オペラがアークの方を向くと、アークもこくりと頷いた。


「以前、ナーガの血を飲むと闇の竜の呪いにかかり精神が操られるというのを見たよな」


「ああ……思い出したくも無いが、俺も大量に飲まされそうになったからな」


 ナーガと対峙した時に直飲みさせられそうになった時を思い出す……すんででシルバーが助けてくれたけど、あれはマジで怖かった……


「ナーガの思いのままに操るには分身の竜が牙毒でナーガの血を流し込むのが一番だ。厄介な事に、その血は何年も潜伏して残っている。まぁ、これは他の病原体と一緒で、通常はその者の持つ気力であったり聖気などで押さえ込まれているものだろう。こいつのそれもそうだ。だが、先の東国の時にように聖気が無くなり普通の人間以下の状態になって、しかもルオやロストの持つ闇の渦中に居たからな。潜伏していたナーガの血が活性化したのかもしれない」


「それで……原因となるナーガを探しているのか?」


「そうだ。これまで、何度も復活を試みようと手出ししてきたナーガが、地縛霊でもなく場所も定まらず、ここ最近は魂の核の所在さえ分からない状態で一体、何処にナーガの魂の本体が居るのかと……不思議でならなかったのだ。もしかすると、本来導かれるはずであろうウルティアビアで生死に関する取引をしているのか、最悪……ウルティアビアを乗っ取っている可能性だってあると思った」


「なるほど……」


 ナーガの存在をちゃんと確かめたのはスノーマンでノエルたんの身体を乗っ取った時が最後だった。東国ではルオの身体がナーガの竜体のようになっては居たが、ナーガそのものが居た訳では無い。

 夢の中で倒したナーガ……だが、その魂がどこへ行ったのかは分からなかった。だが、その後も暗躍は終わらない所を見れば、やはり生きているのだろう。この闇の竜の刻印が活性化しそうになっているのからもそれは分かる。いつまでも現世に未練を残してないで来世を頑張れよ……


「手がかりは少ないが、いつまでも羽が生えない状態ではいられないわ。この身体だって、いつナーガに乗っ取られるか分からないし……それで、ルーカス様に黙って何とかしようとしたのだけれど」


「内緒にする必要はあるのか? 普通に陛下に強力をお願いすれば良かったのでは……」


 と、声をかけるも、オペラは暗い顔で刻印をきゅっと押さえた。


「……言える訳無いでしょ……こんなの。貴方、女性が本当に好きな人に自分のこんな姿……見せられると思ってるの」


「それは……」


 オペラは俺の返事も聞かず、無言で浴室に入って服を着替え、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 追いかけるべきかとアークを見るも、放っておけと首を振ったので俺も諦めた。


「まぁ、女子の気持ちはお前には一生分からんから安心しろ。どうせ船の中なのだから何処に行ける訳でもない。少し風に当たれば落ち着くだろう」


 ……俺に女子の気持ちが分からないというのは心外だが、本当にそうだから何も言えない。

 だが、陛下に言えず秘密裏に何とかしようとしたのは何となく分かった。アークもそれに手を貸してあげる優しさがあった……


「……」


 だけじゃないのも、目を逸らす素振りから何となく分かった。みんなしてそういう事するから、こういう悲劇が起きて、結果俺が余分に殴られるのですがそれは……


 俺が不審な目でアークを責めていると、ベッドから陛下がむくりと起き上がった。


「そう、だったんだ……」


「陛下……もしかして、ずっと起きていたのですか」


「……いや、流石にあれで倒れるようなヤワな身体はしてないよ。私を誰だと思っているんだ……すっごく痛かったけど」


 確かに、流石にあのくらいでやられているようでは最強の名がすたるよな。陛下がすっごく痛かったって言う位だから聖石は結構な凶器だったのだろうけど……何でそんな物騒なもの持っているんだろう。

 ちらりと床に落ちていた聖石を見ると、通信用に使っている魔術具だった。聖国人は聖石で聖国との通信が出来るとアッシュに聞いたことがある。羽の無いままの弱い聖気でも使えるとか。凶器兼通信具。


「それならばそうと言ってくれれば良かったのに、と言いたい所だけど……オペラが言いたくないなら、私は聞かなかった事にするよ」


 そう言うと、陛下も自身の服を取り、長い髪を付けた。そう、話を聞かなかった事にするって事は……女装を続行するしかないのだ。ややこしい……


「私は、無理に彼女の心を開く事はしないし、状況を利用して彼女と2人になろうとするような男が長年の友人だとしても、何も負ける要素は無いからね」


 と、余裕の表情でアークを煽っていた。陛下が煽っている。珍しい。


「ふっ、そうだな……俺は俺の勝手にさせて貰うさ」


 と、こちらも余裕の表情でベッドに横になるアーク。……いや、余裕の表情じゃないな全然。絶賛船酔いが戻ってきてるな。限界だったのね……


 服を着なおし、女装姿を前より完璧にした陛下は部屋を出ていった。



 ★★★



 辺りが暗くなり、大河の流れも見えない。辛うじて遠くに見えているウルティアビアの明かりは、幻想的よりもすこし怖く感じた。


 船のデッキで風を感じながらオペラは不安な気持ちを抑えるように胸を押さえた。

 ウルティアビアに行ってナーガを見つけてもこの刻印が消えなかったら……そもそも羽すら生えていない自分がどうにか出来る問題なのか。

 東国でも一切聖国人としての力が使えず、ただ人に頼るだけの情けない自分。

 そんな自分が不安で仕方なかった。聖国の女王としての力も無い自分に価値はあるのか……


 コツリ――と、デッキを歩き近付く足音が風に乗って聞こえたので振り向いた。

 そこに居たのは未だ女装姿のルーカス。遠くに見えるウルティアビアの光と違い、月に照らされ反射するる太陽の色の髪がオペラの心を安心させた。


「……外は冷えますので、部屋に戻ってお休みになった方が良いでしょう。オペラ様?」


 と、やはり未だルー子として誤魔化すルーカス。先程浴室でルーカスとしてオペラを見た記憶は無かったのだろうかと、それとも無かった事にしようとしているのかと、オペラはルーカスの考えが分からなかった。ただ、ルーカスに知られたくない事があるのも事実だ。


「そう……ね、ルーコ、さん」


 優しく微笑む()()の手を取り、オペラはデッキを後にした。

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