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オペラの疑問は増すばかり……



 ウルティアビアを目指すどんよりとした森の中……

 崖から落ち、大変な騒ぎとなっているジェド達とは対照的に、こちらは気まずい雰囲気を貫いていた。


 聖国の女王オペラ・ヴァルキュリアは状況が飲み込めず、ただ困惑するしかなかった。


(――一体……なんなの……この状況)


 赤い月を追いかけるように歩く馬たち。その後を更に追いかけるのはオペラと、魔王アーク……そして、太陽の色と見まごう程の美しい髪と目――女性のような格好をしているのだが、それはオペラの目にはどこからどう見ても愛しきその人、帝国の皇帝ルーカスにしか見えなかった。


(なんで……ルーカス様がここに???)


 アークに連れられ黙ってウルティアビアを目指していたのにはオペラもオペラで訳があった。それは、ルーカスには知らせてはいない。出来れば……内密に解決したかったから。

 オペラはギュッと首筋の辺りを握った。



 ★★★



 それは、ジェド達がダークエルフの里に旅立ってから数日のこと。

 イライラとしながら男子たちの帰りを待ち仕事を進めるオペラの前に……突然現れた魔王アーク。


「答えてやるって……あなた……」


 モヤモヤと悩むオペラの心を知ってか知らずか……いや、知らない事なんて無いだろう。

 今のオペラには聖国人としての証である羽が一枚も無い。いつもならば少しずつ生えてくる羽も、何故か治りが遅いような気がしていた。同じタイミング……いや、少し後に羽を失ったロストでさえ小さな羽が生え変わってきているのに、だ。

 今のオペラは魔法が使えない。人の心が読めるアークの前ではいつも障壁魔法を張っているのだが、そんな力もなく……


「――っ?!」


 何を考えているのか、あちらには分かってもオペラには分からない。そんなアークが真剣な顔で近づいて来たので反射的にぎゅっと目を瞑るも、その手はオペラの首筋にとんと置かれた。


「え……」


「お前、首筋の傷……治ってないんだろ」


「な、何で――」


 咄嗟に距離を取りその場所を押さえるオペラ。何故、いつアークがそれを知ったのかは分からないが、確かにオペラには指された場所に何時までも治らない傷があった。

 それは……前に聖国で小さな竜に噛まれ、ナーガの手先となって帝国へと意思と反して攻撃を仕掛けに行った時のもの。

 羽が生えていた時は目立たぬ小さな傷で、オペラの首筋をすっぽりと隠す服では分からないものだった。……だが、東国から帰ってきてから……聖気を無くしたオペラの身体を少しずつ侵食するかのように、青黒い模様が傷口を中心に現れ始めたのだ。


「……俺が何時その傷を知ったのかはどうでもいいだろう……それは、ナーガの刻印だ。大方、力の薄れたお前の身体を乗っ取ろうとチャンスを伺っていたのだろう。羽がいつまでも生えないのは、そのせいだ」


「……やっぱり……そうなの」


 オペラも薄々感づいてはいた。色々とあり過ぎてそれどころでは無かったのだが、特に傷口が酷く痛んだのは青龍の領地でルオが暴れだした時。

 あの時、闇の力を近くで浴びた事で更に酷くなったのかもしれない……そう思いながらも、聖国のこと、それにアークのこと、モヤモヤが募るばかりで解決策は一向に見つからず……かと言ってルーカスにも相談出来ず。

 聖国が落ち着けば秘密裏にジェドを頼ろうかとも思っていたのだが、顔を見ればイライラが勝ってなかなか切り出せずにいた。


「何時から知って――」


 オペラがアークに問いただそうとした時、その口元に指を立てられた。


「黙ってついて来い……何処で()()()が聞いているか、分からないからな」


「あいつって……?」


 更に問いかけようとしたオペラをぎゅっと抱きしめるアーク。


「――ぎ、ぎえっ?!!!」


 突然の事に大混乱したオペラの耳元でアークは小さく囁いた。


(あの男……ナーガの居場所の手がかりを持っている)


(え……あの男って……)


 訳も分からぬオペラだったが、ナーガの名前を出された時にオペラには1つ心当たりが浮上していた。


(もしかして……)


(……皇城で、見つけた。占い師と名乗っているが……恐らく占いでは無い。東国での出来事も、ここ最近に起きている不可解なことも……あいつが原因だろう)


(なんで……)


 それは、オペラに成り代わりあろうことかルーカスに別れを告げた偽オペラであり、東国で散々引っ掻き回してくれたその人物だ。

 オペラに地獄を見せたハオと共犯であり、絶対に許せないとふつふつ怒りが沸いてきた。


(――あなた、もしかしてその犯人を匿ってたの?!)


(……そうだ)


(なん――)


 オペラははっと気がついた。皇城で最後にアークが取った行動。あの時既にその事を知っていたとしたら……


(あなた……何を考えて……)


 それは、オペラが聞きたかった事。アークが本当に何を考えているのか、ずっと分からないから。

 仮に、オペラの為にそんな行動に出たのだとすれば益々分からないのだ……


(……とにかくついて来い。今は騙されたふりをしろ)


「えっ……」


 ぐいっと捕まれた手。そのままアークはすたすたと歩き始めた。

 その横を、すれ違い様にオペラに似た物が通り過ぎたような気がした。

 また暫く歩くとオペラの忠臣であるアッシュが資料を沢山抱えて執務室へ戻ろうとしていた。スタスタと出口へ歩くオペラにぎょっと声をかける。


「あの、オペラ様、どちらへ?」


「あ……えっと、その……」


「ウルティアビアへ行ってくる」


「え?! あ、ちょっと――」


 大方、あのオペラではバレてしまうだろうとアークは行き先を告げた。

 それに、そもすればジェド達だって直ぐに帰ってくるのだ……


「ねえ! ちょっと、私は仕事が……それに――」


 今の聖国を放っておくことも出来ない。だが、引き返そうとしたオペラの手を、アークは放さなかった。


「心配するな。恐らくあの偽者が解決する……それに、ジェドも動いているんだろう。何とかなる……あと」


 ぐっと息を飲み込んでアークは答えた。


「……お前の疑問に答えるのは()()が解決した後だ。行くぞ」


 と、足早に聖国を後にした。



 ★★★



 そんな事があってから、いつの間にか合流したベルとナイトメア。そして……崖に落ちたベル達と入れ替わるような形で何故か一緒にいるルーカス。いや、ルー子。


 疑問が晴れないまま、突如現れたルーカスの様相に……オペラは益々混乱するばかりだった。

 どうしてそのバレバレな変装でバレないとでも思ったのか?

 そこまで来ると逆に本当にルーカスの親戚にルーコという人物が居るのかもしれない……とさえ思うくらいだった。

 いや……オペラがルーカスを見間違う訳が無いのだ。小さい頃から見つめてきた憧れの存在。

 ルーカスほど眩しく輝く人は居ない……もし仮に偽者がルーカスの変装をしようとも、オペラには見抜く自信さえあった。

 ……いや、実はシャドウと入れ替わっていた時に彼と気付かずに一緒に過ごしていた事もあるので実はちょっと自信が無かったりもした。

 自分が思っているよりも、ルーカスという男は甘い男であり、絶対に見向きもされないと思っていたのに熱く追いかけてくるような人だった。そんなルーカスは想像もしていなかったのだ。


(だったら……女装をしてでも……)


 いや、それは全然分からない。確かにルーカスの女装は似合ってはいるが、何でそんな格好なのかは本当に分からない。

 アークの事も分からないしルーカスの事も分からない。

 オペラはもう頭が破裂しそうだった……


「見えてきたぞ」


「あれが……ウルティアビアへの入国口なのか」


「え……」


 ボーっと考えている間に景色が鬱蒼とした森とは違う場所へとワープしていた。

 それは、楕円形のコースを見下ろすように建物の観覧席があり、そこにはおびただしい量の人魂。


「ウルティアビアへ行くには渡し賃を稼がないといけないと聞いたことがあるのだけれども……もしかしてこれって……」


 うーんうーんと唸りながら真剣に考える人魂の先には馬が幾頭も歩いていた。

 聖国でも鳥レースという空を翔る鳥の順位を競い合い勝敗を決める競技があるのだが、ここでは馬のレースが繰り広げられ、そしてそれに渡し賃を賭けて稼いでいるようだ。


「ナイトメア曰く、馬には古くからウルティアビアでの導きになるという言い伝えがあり、こうして引き寄せられては競技に参加させられるのだとか……そして、ウルティアビアの通貨さえあれば俺達常人でも入国は可能となるらしい」


「なる……ほど?」


 オペラにはよく理解がし難い話であるが、あんなに何頭も馬が居たのはそういう事だったのかと無理やり納得した。これ以上小さな疑問を重ねる訳にはいかないのだ……もう頭は限界である。


「そうか……ですの。アーク――様、私と、勝負してくださいませんか」


「え……」


 ルーカス改めルー子(ルーコ?)が突然アークに向かって勝負を挑み始めた。

 アークはというと、当然心が読めていたのか


「いいぜ。お前が勝ったら、疑問に全て答えて貰うって事だろう」


「あぁ……ええ」


 女性の言葉に直そうとしても、どうみても男と男の勝負が勃発していた。突然の展開に「ええ……」と呟くオペラであったが、見ていられずに目を逸らした先に捉えた黒い影。

 馬に混じってコースを歩くその人の姿が……どう見ても漆黒の騎士団長にしか見えなくて


「ええ……」


 とまた口から疑問を漏らすしかなかったオペラであった……

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