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世界樹に戻ればぶち当たる(前編)

 


「はー……なるほどなぁ」


 色鮮やかな花で彩られた湖の集落……ここには花で出来たモニュメントや憩いのスペース、絵になりそうなスポットがそこかしこに作られていた。なんというか、ば、映え~?

 世界樹の西側であるこちらの森はとにかく日当たりが悪いので1日鬱蒼と薄暗い……はずなのだが、何故かこの湖近辺は木漏れ日が光り輝いている。

 どういう仕組みなのかと見上げれば、丁度世界樹の大きな枝の分かれ目がここに日を差し込めている。そんな場所なのだ。

 唯一の陽を求めて近辺の動物たちが集まり、どんなに汚そうとしてもすぐに水草が浄化してしまう湖は逆にちょっと恐ろしくなるくらいだ。

 そんな環境の狂ったような場所だからなのか、他で見たことの無いような花が咲き乱れている。


「この近くに花畑があるのですが、大体何を植えてもすくすく育つのですよね。ここの湖が綺麗なのと、世界樹の生命力が相まってなのか」

「ついつい綺麗だから増やしちゃって。こうして何かの役に立てるならば嬉しいです」


 女子力男子軍団、黒い肌に艶々の肌、可愛らしい顔。花を有効活用されて喜んでいる。


 ダークエルフの男達が住んでいた湖の集落は花咲き乱れるフラワーパークへと生まれ変わっていた。今もいそいそと男たちが花を集め、女達が土木作業でゲートや建物を次々と造りだしている。いや、逆逆ゥー!


「どう? これなら新婚旅行場所として何とかやっていけそうでしょ?」


 得意げに胸を張るロスト。そう、あの後考え込んでいたロストの提案により、この湖周辺を観光地として開発していこうとなったのだ。


「いやぁ、凄いッスね。俺、何か色々ありすぎて当初の目的とかすっかり忘れてたんスけど、ロストさんは覚えてたんスねー」


「ふん、当然でしょ。アタシがわざわざあの子の為に……」


 そこまで言ったロストはぐっと言葉を詰まらせてそっぽを向いた。恥ずかしくなったのだろうか……いいじゃん妹想いの兄。

 一時のオペラに対する態度を思うと、よく和解したよなぁ。フェィとルオもそうだが、やはり兄弟姉妹は仲良くありたいよな。うちのように。

 オペラの所が兄妹なのか姉妹なのか、俺の所が何なのかも疑問ではあるが……性別がおかしい奴多すぎない?

 などとニヤニヤしながらロストを見ていたら頭を叩かれた。なんで……


「何にしても無事、なんやかんやで目的を果たせてよかったッス。オーガ……じゃなくてリリアンさん達の集落も運動場として整備されるんスよね」


「ああ、最近は健康志向だからな。ウォーキングコースや、乗馬コース、川下りやボートなどを整備すればそこそこ楽しめるのではなかろうか。そちらは新婚旅行というよりは合宿場な気もするが……だが、結構野営場所とや狩場にカップルがいちゃいちゃラブラブしながら遊びに来ているケースもよく見るし……」


「あー、男の方がいい所見せて『スゴーイ!』ってなってるのねー。アレ見るとテンション下がりまくるどころか一周回って怒りで訓練に打ち込めるんスよね……」


「……案外行けるかもしれないわねソレ」


 西側の森は未開拓地が多く、これから何かを作るにはもって来いの場所であった。東の表側と違って狩場や伐採場として重要な場所でもない。あと、世界樹が太陽を隠しているのでずっと涼しくて暑い時期は過ごしやすいまである。聞いていた時は半信半疑であったが、本当に旅行地には最適だったようだ。


「これで聖国に溢れる鬱陶しい奴らも流れるかしら」


「やったッスねー、わー、オペラ様すんごい困ってたッスもんね。喜んで褒めてくれるかな」


「オペラが……褒めるか?」


「何か良くないッスか? 普段ツンツンしている人が急に優しくなるの。ギャップ萌えっつーんですかね。こんなに苦労したんだからそのくらい求めてもいいと思うんスけど」


「俺達は陛下の命を受けて来ているのであって褒められたくて来ている訳ではないのだが……」


 と、俺はガトーの言うようなオペラを想像した。「ま、まぁ、貴方にしてはマトモな仕事するじゃないの……」と嫌味っぽく褒めてくれるオペラ……うーん、何か確かに、いい。

 などとニヤニヤしていると、ロストに後ろから尻を蹴られた。すみません、妹さんで不埒な想像しました。


「もうここには用が無いでしょ。とっとと帰るわよ。オペラだって待っているだろうし、聖国だっててんやわんやなんだから」


 そう言って踵を返し足早に去ろうとするロストの足取りは心なしか妙に軽そうだった。……さては、お前も褒められたいのでは……?



 ダークエルフ達に案内され、世界樹の根元へと戻る俺達。

 来た時は事前に見ていた地図を頼りに鬱蒼と木々が生い茂る道なき道を歩いて来たが、聞けば森には森の民しか分からない近道に目印があるらしい。

 要所要所の印象に残る木には殴るように彫られた模様があるが、それを見た男子達が


「やだー、木が可哀想ー」

「それに全然可愛く無いー」


 などと言いながら「こっちじゃダメ?」とリボンやかわいい飾りで木をデコり始めた。

 ダークエルフ男子達の女子化の進行具合にちょっと怖くなる。なんならオネエ言語化してないか……

 そもそも、外部の者達に分からないように目印を付けていたはずなのにそんなに派手で良いのか? と思ったが、ここも直ぐに観光客用に道が整備されるのだとか。

 国外から簡単に来られるようになっては困ると女子達の反対にあわないか心配したが、石を取り上げた後は呪いか憑き物が消え失せたようでアッサリ了承してくれた。やっぱりあの石、百害あって一利なしじゃねえか。


 そんなこんなで来た時よりもだいぶ早めに戻ってくる事が出来たのだ。


「はー、ここからエレベーターゲートで戻るにも時間がかかるんスよね。そういやロストさんって羽生えたんなら頂上まで先に飛んで戻るのかと思いましたが、俺達と一緒にゲートで登るんスね」


 人賑わうゲートの入り口。世界樹の頂上を眩しそうに見上げていたガトーがロストへ素朴に問いかける。

 羽、生えたのか? と見れば、確かにロストの背中には飛べるのか不安なくらい僅かな羽が生えていた。


「……あのねえ、こんな短い羽であの遥か頂上までなんて飛べる訳ないでしょう。飛ぶのだってやっとな上にアンタ抱えてどんだけ苦労したか」


 ぷりぷりと文句を言うロストに対し、ガトーはちょっとじんわりしていた。


「お前……何だ、その反応……」


 俺が嫌そうな目を向けると慌てて手をブンブンと振った。


「いや、いやいや! 何考えてんスか!! ロストさんてオペラ様の事しか考えてないのかなーと思ったら無理してまで俺の事助けてくれる位には普通にいい人で良かったなーと思ってちょっとじんわりしていただけッスけど?! 団長最近変なことに毒され過ぎッス!!」


「ああ、済まないな。お前達と合流する前にちょっと変な事を聞いたからというか……あと、あんまりロストを褒めるのはやめてさしあげた方が良いぞ」


 ロストは自分の行動が急に恥ずかしくなったのか、プルプルと顔を赤くしていた。この顔、オペラがよくやるやつである……ウーン、そっくりだな。流石兄妹。


「とっとと帰るわよ!!!」


 と照れ隠しのように怒って足早にゲートの方へとずんずん歩き出してしまった。可愛い所もあるんだな。


「ん……そう言えば……」


「団長ー、どしたんスか? 置いていかれますよ!」


「ああ――」


 俺はふと、森に置いて来てしまったドートンの事を思い出しかけた。まぁ、あの森には来た事があるようだから大丈夫だろうが……


 ドンッ


 一瞬思い出しかけたそれを直ぐに忘れさせるかのように、ボーっとしていた俺にぶつかった何か。


「――ぐえっ!! ったた……」


 それは、鉛か鉄か……はたまた世界一硬い鉱石である聖石で出来たゴーレムか。

 とにかく、この実力で騎士団長やらせていただいてる屈強男子の俺を軽々しく吹き飛ばす何かだった。


「済まない、よそ見をしていた」


 一体何の兵器か、と見上げれば……手を差し出したのは意外にも優しそうな、それでいて聴き覚えのある声だった。

 ……が、その容姿……

 長い髪がローブからたれ、その色は太陽を思わせる黄金色。

 隠し気味の目の色も同じ……って、そんな色は帝国の皇族だけなんだなぁ。

 長い髪に女物の様相は、どちらかというと湖の向こうに居た男女逆転した世界の陛下だった。

 けれど、声は紛れも無く陛下だなぁ……


「ヴ……じ、ジェド……何でまだここに」


「ええと……」


「団長ー、何やってんスか!! 置いて……って、アレ? 陛下?? 何で女子みたいな格好してんスか???」


 ガトーにバッサリと突っ込まれてまたしても「ヴ」っと声を詰まらせる陛下。ガトーお前……俺が気を使ってどう尋ねようか考えていた所なんだからやめてさしあげろし。

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