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追われたダークエルフは堕ちるのか(前編)

 


「それで、結局アンタはあの崖の上に居た女達……? の仲間なの?」


 湖から上がったダークエルフの男子。ちゃんと服は着ている。

 ダークエルフの男子を正座させながらロストは腕を組んで尋問した。


「いや、そんな言い方しなくても……」


「あのねぇ、アタシらはダークエルフの女……? 達に崖から落とされてんのよ? 訳の分からないうちに捕まった上で。急に現れたコイツに気使う事ある?」


「まぁ……それはそうなんだけど……」


 ロストの言い分はもっともであるが、ガトーはチラリとダークエルフの男を見た。

 見た目が……こう、普通なのだ。何なら崖の上に居たいかついダークエルフ女子達を先に見たせいか、ちょっと可愛いとさえ思える位には見た目が普通である。

 平和な帝国に住んでいるガトーの身としては、頭ごなしに疑ったり怒ったりする事は気が引けるのだった。


「ロストさん言ってたじゃないッスか、分からないから助けるって。もしかしたら理由があるかもしれないし……さっきみたいに油断して拘束されたり、騙されちゃったらまぁ……その時はその時ッスよ」


「ぐっ……」


 こと自分の事については自信の無さを醸し出してしまうガトーであるが、従来のモブ根性か事なかれ主義か、人の間に立って取り持つ性格であり、困ったように眉を寄せているダークエルフをついつい庇ってしまう。


「はぁ……帝国民って、そういう所あんのね。聞いてみたら? アタシは知らないけど」


 そう言って、ロストは知らん振りしながら木陰に腰掛けた。それ以上何も言わない様子に、ガトーはほっとしてダークエルフの男子に向き直る。


「あのー、何かすみません」


「いやーいいんスよ。困ってそうな人の話を聞くのが俺らの仕事っつーか、うちの騎士団長の教えでして。いや、教えてるっつーかそういうつもりは無いとは思いますが……」


 いつもいつも有無を言わさず相談事を押し付けられているジェドの姿を思い出し、ガトーは苦笑いした。それでも、ジェドが不本意ながら親身(?)に聞いて行動するからこそ解決する事もある。

 ジェドの行方も分からなければ、ダークエルフ達の事情も全然分からない以上、目の前の話の通じそうな男性から情報を聞き出すしかなかった。


「実は……」



 ―――――――――――――――――――



「なんでや……なんでや……」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと何か親切な人ドートンは、ダークエルフの女達(?)が住む集落を離れ、ガトー達が降りたであろう場所へと向かっていた。

 集落から少し外れた先、俺が落ちて流された川の上流に湖があり、その湖はかなり綺麗で新たに生活するには環境が良いらしい。

 集落を追われたダークエルフの男達は寄り集まって暮らしているそうだ。

 人見知りなのかはたまた森が好きなのか……里を追放されたならばされたで他の国にでも行けば良いと思うのは俺達が旅慣れているからか。

 まぁ、俺も育ちや環境が違えばそんな考えになっていたのだろう。


「ウーン……」


 それはそれとして、あれかずっとウンウン唸り頭を抱えているドートン。

 板の事は詮索するなと言われたから何も突っ込まないようにしていたが、何か悩みがあるならば聞いた方が良いのだろうか。

 ……いや、いかんいかん。いつも俺の事情を無視して勝手に喋り始める奴らばかりで慣れてしまっているから、ついつい1人で抱え込む奴にまで首を突っ込んで行きそうになる。いつから俺はそんなに親切な人間になったのだろうか。

 けどなぁ、何だろう……ドートンを見ていると誰かを思い出すんだよなぁ。思い出せてないけど。


「大丈夫かドートン」


「へ? あ、ああ、いやぁ、なん、何も、何もあらへんで」


「いや心配しなくても何がそんなに、とか色々気になる事は多々あるが敢えて触れないさ。俺はそういう面ではちゃんと気の使える男。ただ……何かが大変なようならば無理して付き合わなくても大丈夫だが。こうしてドートンのおかげでダークエルフ達の里には辿り着けたし、はぐれた仲間の居場所も凡そ聞いたからな。その追放されたダークエルフの男達の住処であろう湖周辺だって見当はついているし……ああ、お礼はいずれ――」


「はっ!? 追放、追放もののダークエルフ……!」


 ドートンは急に何かを思い出したようで、慌てて先程の板をまた取り出して指で擦り始めた。

 どういう仕組みなのかは分からないが、魔力も使わずに動いている謎の板。その表面には先程のダークエルフ(現実に存在してない美女)達ではなく、違う者達が映し出されていた。


「……これか……? いや……うん、間違いないな……湖やし」


「何だそれ?」


 聞いてもいいものなのだろうか? と思ったが、ドートンは上機嫌にニコニコと話し始めた。何だかわからないが機嫌が直ったみたいで良かった。


「ジェドやん聞いてくれるか! これは『世界樹の終わりを黒いエルフと』っちゅーノベルゲームで、里を追われたダークエルフの男達が世界の滅亡を企み、それを主人公が阻止するんや」


「……滅亡とは、急に物騒だな……人違いではなく?」


 女達に里を追われた位でどうしてそうなった……? むしろあんな屈強な女達ならばこちらから裸足で逃げ出すレベルだが。新天地で可愛い女の子を見つける方が絶対いいし……


「仲間のダークエルフ達に凶弾され絶望のうちに湖に逃げ込んだダークエルフの男達が~って下りがあるから間違い無いやろ。主人公の騎士が世界の終わりを救うべくダークエルフ達を討伐していくうちに愛に目覚めていくというBLゲームで……」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はドートンの手にチョップをかました。


「どわっ! 何すんねんで!!!」


 板を落としそうになったドートンだが、脅威の反射神経で地面に落ちる寸前にキャッチした。ちぃ……


「これ、こう見えて落としたら画面すぐ逝ってまうんやからな!!」


「済まない……つい条件反射で」


「どういう条件や?!」


 BL、というワードについつい反応してしまった。文脈として俺が思っているBLで合っているのだろう……俺は踵を返して反対方向に向かおうとした。


「待て待て待てや! どこ行くん」


「済まない……俺は絶対にボーイズがラブするような場所には行きたく無いんだ。あと、何か主人公が騎士とかいう不穏なワードも入ってるし……」


「せやかて、仲間がそっちに行ったんちゃうんか?」


「仲間……」


 俺は、ハッと思い出した。


「そうだ、あちらにはロストと……ガトーが居る!!!」


「あ、ちょ、ジェドやん!!」


 俺はドートンを置いて全力で走った。

 忘れていた……俺も騎士だが、騎士はもう1人居たじゃないか!!


 頼む、ガトー……俺が駆けつけるまで、BLにの魔の手に落ちるなよ……!!

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