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ダークエルフは救えるの……?(後編)★

暫く挿絵付けてませんでしたが久々に。ドートンくんのビジュアルつけました

他の挿絵も隙を見て随時描きたいなとは思っています

挿絵(By みてみん) 


 世界樹の葉の匂いがいっそう強い森の中。

 俺達は新婚旅行地を求めて世界樹の裏側の森の奥深く、ダークエルフの領地に来ていた。

 ……そうだ、新婚旅行地だ。爽やかで静かで2人きりの旅行に最適。別荘地や新居を構えるにも良い環境があればなおよし。

 増えすぎた結婚ほやほやのカップル達を聖国から追い出し……ゲフン、速やかに移動して貰う為にそんな地を求めて来たはずなのだが……相も変わらず訳の分からない事態に巻き込まれている。

 目の前にはオーガ……いや、ダークエルフ。

 声だけは可愛いのが何か微妙な気持ちになるデカめの女性が神妙な面持ちで座っていた。


「それで、君が言う『運命』とは一体何の話か……聞かせては頂けないだろうか。俺達は君に危害を加えるつもりは無い」


 正直体格だけは俺よりひと回りもふた回りもでかいダークエルフさんに何の危害を加えられるのかは疑問だが。俺はともかくドートンくんなんてワンパンで吹っ飛びそうな太い二の腕をお持ちである。


「そもそも、自分ほんまにダークエルフの長か? いくら何でもゴツすぎやろ。オーガやゴブリンキングかてもう少し小柄やで」


 ドートンが首を傾げながら疑いの目を向ける。いくら何でも言い過ぎだろう……確かにオーガやゴブリンって思ってるよりも小柄だし、個体によっては意外と愛嬌のある顔してたりするけどさ。


「……私はリリアン。ダークエルフの長です」


 鈴のような可愛らしい声から出た名前。全然顔に似合っていない。


「……いやリリアンなんて可愛い名前の顔ちゃうやん。どっちかっちゅーとブルドーザーやろ。確かにダークエルフの長はリリアンやけど、ジェドやん、リリアンちゅーたらこんな女やで」


 と、ドートンがコソコソ見せてきた板には見目麗しいダークエルフが映し出されていた。


「……誰だ?」


「だからダークエルフのリリアンやろ」


「!? 確かに、そこに映し出されているのは私です」


 俺達の後ろから板を覗き込むリリアンが驚愕の表情を浮かべた。俺達も驚愕の表情を浮かべた。


「いや、全然ちゃうやんけ! 鏡見るか???!」


「いえ……合ってるのです。そして、そのダークエルフのリリアン、私の……いえ、ダークエルフの女達の恐ろしい運命を、回避する為にこうなりました」


「……何で??」


 何故か狼狽えるドートンは板とリリアンを交互に見比べ焦っていた。


「いや、そういう場合……普通こう破滅の運命を逃れる為に主人公を攻略したりとか排除したりとか……ど、どうしてそうなってん……」


「順を追って説明しますと……あれは数日前の事。ダークエルフエルフの村に占い師が訪れました。その占い師は、私達ダークエルフがこのままではとても口に出して言えないような目に遭うから何とかした方が良いと……その運命は異世界のゲームという物だと、そう告げて行きました」


「やはり……ここにも占い師の魔の手が」


 この所各所に頻繁に現れる占い師。東国にも、そしてその魔の手は帝国各所にも少しずつ名が見え隠れしてきた……


「その占い師とは、どんな奴なんだ?」


「ええと……高齢のドワーフの女性でしたが?」


「ドワーフか……」


 うーむ……ならば人違いなのだろうか。前に聞いた占い師は老人だったような気がするし……占い師ってそんなに沢山居るのだろうか。帝国では腐女子のレイジーしか名が知られていないが……


「その占い師が言うような運命にさせる訳にはいかない……私はダークエルフの長として民の運命を背負っていかなくてはいけないから……そう思った時に突然思い出したのです」


「……前世の記憶を……か?」


「いえ、違います」


「違うのか……」


 俺は当たり前のように前世の記憶を持つ異世界転生人を沢山見てきたからてっきりその流れかと思っていたのだが、どうやらダークエルフのリリアンはそっちの人ではないらしい。


「いやちゃうんかい! ほなら、何でそないけったいな感じになってん!」


「けったいな……というのですか。けったいな感じになってしまった訳は、数ヶ月前に遡ります」



 ★★★



 私は、ダークエルフの里を度々出ては人目につかぬよう各地を回り何とか里の為になる物は無いかと視察に赴いておりました。

 人の沢山集まる場所に出るのは怖かった……けれど、どんどんと人が少なくなるダークエルフ達の現状に、未来を見据えるには一歩踏み出さなくてはいけないと思い立ったのです。

 けれども、どの地を探そうともダークエルフが安泰として生きていく為の方法は見つかりませんでした。

 何せ昔から人と関わるのが苦手で不器用。イメージが悪いから接客も向いておらずそもそも需要が無い。長年人との関わりを断じた我々は陰キャ中の陰キャであり、陽キャのハイエルフ達のようにドワーフや聖国人となんてまともな交流を持てるとは到底思いませんでした。

 今でこそ普通に話しているとお思いでしょうが、これにも深い訳というか、それこそ最大の理由の末にやっとマシになったのですから。


 旅の末に訪れたのは獣人の国でした。人の居る国や聖国は恐ろしい所と聞いていましたが、獣人の国は人嫌いな者が多い分エルフに寛容かと思いましたので。

 そして、そこで見かけたのは……年に一度行われるという筋肉自慢の祭典『美ボディ大会』

 私は……衝撃を受けました。

 だって、そこに居る筋骨隆々の者は男子……ではなく女性だったから。

 女性の身でありながら男顔負けの筋肉量……そう、女子の身でありながらと受け身に捉え、誰かが助けてくれるという時代はもうとうに終わっていたのです。



 ★★★



「※381話参照……と言ったところか……」


「ん? ジェドやんなんて……」


「いや、こちらの話だ」


 不思議を通り越して遥か空の彼方を見ているようなドートンを置き去りにリリアンは思い出を辿るように話をどんどん進めていく。


「ダークエルフの女達に魔の手が迫っていると知った時に……ピンと来ました。これは……我々が、今こそ変わる時だ、と」


「……そして、そんな姿になってしまった……と?」


「はい」


「いや、いくら何でも変わるの早すぎんか?! 占い師が現れたのかて数日前やろ?!」


 まるでいつ頃占い師が訪れたのか知っているかの様なドートンの突っ込み。まぁ、知っているはずは無いのだろうが……


「いやまぁ、確かにドートンの言う様にいくら何でもそれは早すぎるだろう。筋肉は1日にして成らず……俺達騎士団員も過酷なトレーニングをする時もあるが、流石にそんな数日でパンプアップはしないだろう」


「……それが、するんです」


 と、リリアンは外を指差した。窓から見えるのは切り立った断崖絶壁……あれは俺が落ちた崖だな。それに流れの早目な川に勾配キツそうな山道……


「あの過酷そうな景色がどうしたんだ」


「そう……過酷。つまり、世界樹の裏側、ダークエルフの住むこの地一帯は、我々も住みづらいとしか思わず全く気付かなかったのですが、筋力を養うにはうってつけの場所だったのです」


「言われてみれば……確か……に?」


 よくよく崖や川を見てみると、確かにオーガのようないかつい女達が崖の岩場に手をかけて登っていたり、激流をザバザバと泳いでいた。ついでにアップダウン激しい山道にも逞しい脚のオーガ……じゃなかったダークエルフが沢山いる。


「いや、だからといって……」


「極めつけはコレです」


 と、リリアンが俺達の前に差し出したのは、見覚えのありすぎる黒い石だった。


「なっ?!」


 リリアンの手のひらで青黒い煙をプンプン放っているのは、どう考えてもナーガが撒き散らしたあの不安や怒り、憎しみを増殖させる闇の石。


「そ、それは危険な物だから危険ゴミの日に捨てるんだ」


 俺は収納魔法から魔法陣の描かれた帝国用のゴミ袋を取り出そうとしたが、リリアンはぶんぶんと首を振りその手を止めた。


「いえ、これは悪い物ではないのです」


「え?!」

「え?!」


「え……」


「あ、いや……」


 俺と同時に驚きの声を上げたのはドートンだった。ちらりとそちらを見るも何故か目を合わせてくれない。何だ?


「だがしかし……それは負の感情を煽り皆を不安や争いへと導く物だ。それのせいで各地が大変な事になりかけたんだ」


「そう……不安や憤り、焦燥……色んな感情を刺激された我々は焦る様に寝食を忘れてトレーニング筋力を養い……気がつくとこんな素晴らしい身体を手に入れてました」


「な……なるほど??」


 ダークエルフの浅黒い肌のせいで全然気づかなかったが、確かによく見てみればリリアンの目はクマで荒れていた。

 美ボディ大会の時の令嬢も短期間で筋力を養うメソッドみたいなものを延々と語っていたような気もする。俺は実用派で単純な筋肉量にはあまり興味が無いから聞き流していたが……


「極限状態の身体によりストレスと苦渋を重ねることで筋肥大を引き起こす……これこそ肉体改造の真髄……何かやってるうちに楽しくなってきました、アハ、アハ……」


 お……おお……完全にアチラの世界に行ってしまっている。


「長! すみません!! アイツら川に落とせずに逃げちゃいました!!」

「どうしよう、私達に報復する気かも……!」


 そうこう話をしている間に雪崩れ込む様に入って来たのは他のダークエルフ(?)達だった。

 ぜえぜえと焦って走って来たにだけにしては尋常じゃない汗の量。それに各々手にしている重石……中には腰にロープをつけて岩盤を引きずる者もいた。……してきたのか? トレーニングを……


「あっ?! アンタは最初に落としたはずの男!!!」

「まさか、やっぱりあの最悪の結末のように私達を襲う気なのね?!」

「いやらしい事をするんでしょ!!!」


「するか!!!」


 俺はプンプン闇を放つ石を長から取り上げゴミ袋に入れた。


「な、何を……」


「もうトレーニングは充分だろ! 今の君達を襲える男子は居ないわ!」


「ええー……でも私なんて結構胸も大きいしぃ」

「私もよー。鍛えると何か大きくなっちゃうのよね」


「……それは筋肉だ。君達はこの石で不安を煽られているだけで、そんな人達はもう君達の筋肉量の前には立ちはだかる事すら出来ないから安心しろ。というかそもそも、奴隷や多種族への侵害は帝国は元より、帝国と友好国である聖国以下狩国や匠国でも同じ様に庇護管理にある。そんな奴が居たら我々帝国の騎士が応援に来るから普通に安心して暮らしてくれ……」


「え?! 聖国って帝国といつの間にそんなに仲良くなっていたのですか……」


「……君達が思っているよりも森の外は平和なのだから、もう少しちゃんと調べてくれよ……」


 皆から石を取り上げると、ビックリする位マトモに話が通じる様になった。やっぱり結局、黒い石のせいで話が通じなかっただけじゃないか……やっぱ百害あって一利無しだろ。

 いや、まぁ一利位はあったのかもしれんが……


「そんな病的なやり方で筋肉量を手に入れても見せかけだけで武力にはならないから。仮にいざ戦いがあった時に倒れるぞ……ここは確かにトレーニングに最適な地なんだから。トレーニング……」


 うーむ、確かにいい所だ。最近は健康嗜好の者も多いから、新婚旅行地というよりはむしろ遠征合宿地に最適だな。


「まぁ、とにかく、そういうのはもっとゆっくりやりなさい」


「はい……」


 広い肩を狭くして縮こまるダークエルフ達。本当に分かって貰えたのかは謎だが……


「な……何でや……」


 と、隣ではドートンもブツブツ言っている。お前はどうしたんだ。悩みがあるなら聞くっつってんだろうが。


「それはそれとして、俺の仲間が2人居たはずなんだが……逃げたって言ってたな」


「ええ、何か崖から落とそうとしたらフラフラと飛んで行っちゃって」


 ロストか……? アイツは羽が生えてなかったはずなのだが、新しく生え変わったのだろうか。


「どっちの方に飛んで行ったか分かるか?」


「あれは、追放したダークエルフの男達の集落の方ね」


 ダークエルフ男子……居ないと思ったら、追放されていたのか。

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