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ダークエルフは救えるの……?(前編)

 


「ほれ、あの先や」


 ドートンに連れられ歩く獣道の先……少し開けた場所に大きめの屋敷がひっそりと建っていた。

 どうやらここはダークエルフの集落の一部であり、中心部から少し外れた場所に建つこの屋敷がダークエルフの長の住処らしい。


「よくこんな場所に辿り着いたな……探し出すのも大変ならばもう1度来れるかどうかも怪しい位には道が無かったが」


 道なき道を迷い無く歩くドートンに感心していると、得意気にふふんと鼻を鳴らして先程の板を見せてくれた。


「ま、どちらかっちゅうとコレのおかげやけどな」


 板に映し出されていたのは世界樹を中心とした簡易的な地図だった。世界樹の裏側辺り、ピコピコと幾つもの光が点滅する辺りを指で広げると映し出された地図も拡大され、森の中に点在する建物が見える。

 その1つが赤と青の光で点滅していた。


「こっちが今いる場所を表していて、こっちの赤いのが目標のエルフっちゅーこっちゃ。ダークエルフを捕まえるのが目的のゲームやし、ある程度の位置は分かるようになっとんねん」


「ほー……」


 それは便利だ。俺も過去散々色んな奴を追いかけたり探したりしながら彷徨ったのだが……こういう便利なものがあるといいなぁ。


「……所で――」


 俺が口を開きかけると、ドートンは慌てて板を鞄に仕舞った。


「あー、あかんでジェドやん! これについても俺の事も詮索せんっちゅー条件で手を貸したんやろ? 約束やぶるようなら話は終わりや」


「あ、いや、そうではなくて。この際色々気になる事は置いておいて、ドートンは何しに来たのかなって。もし困っている事があるなら手伝おうかなんて……あー、それも詮索か。済まないな」


 俺が頭を掻きながら話を終わらせようと歩き出すと、ドートンは後ろを着いて歩きながらおずおずと呟いた。


「……人を、探してるんや」


「人を……?」


「ああ。ソイツの手がかりが、これしか無くてな……だから、同じ道を辿れば何か分かるんちゃうかって……」


 深刻そうな顔をするドートンに、俺は向き直って頷いた。


「まぁ、余り深く立ち入るつもりは無いが……俺で何か助けになる事があればいつでも言ってくれ。こう見えて顔は広い方だからな」


「恩に着るわぁ。実は、連れとも逸れて心細かってん。最初に仲間になったヤツは自分の事ばかりで信用出来へんし、今の連れはそんな事あらへんと思いたいんやけどなぁ」


「そう言えば連れが居るって言っていたな。そろそろそちらも心配しているだろう、付き合わせてしまって済まないな……」


「ええてええて。ダークエルフの長に話つける位は付き合ったるわ。ちょっと面白そうやし」


 と、ニコニコ笑うドートン。なんていいヤツなんだろうか……

 俺で何かの力になれるかは分からないが、この恩は必ず返そうと心に留めた。


 ダークエルフの住処らしき屋敷の前に来ると、ドートンは何を思ったか呼び鈴をガランガランと鳴らし始めた。


「……おい、そんな堂々と入る感じでいいのか?」


「ん? そんなん言うたって、ダークエルフの長に会わなあかんのやろ? 堂々と入ってもコッソリ入っても一緒や」


「まぁ……それはそうなんだが」


 確かに、どんな入り方をした所で結局は対峙しなくてはいけないのだ。俺達戦闘民族はいつも戦う事ばかり考えていて、対峙する前に如何に有利に持っていくかばかりを気にしがちである。一般人から得られる天啓……尚、今までどんなに準備して挑んでも何かを有利に持っていけた試しは無いんだが。


「ん……? 返事がない。ごめんくださいー」


 呼び鈴をドートンが何度も鳴らすも、一向に中からの反応は無かった。


「……留守か?」


「いや、そんな訳あらへんやろ。ここが光っとったのやし、絶対におるはずや」


「そうなのか……」


 居留守を使われているのだろうか……勝手に入るのもなぁ。

 と、気が引けている俺を他所に、ドートンはふっふっふと不適な笑みを浮かべた。


「こういう場合はこうやでジェドやん」


 咳払いを1つ取ったドートンは


「ごめんください」

「どなたですか?」

「ジェドやんに頼まれてダークエルフさんに会いに来たどう……ドートンくんです」

「おはいりください」

「ありがとう」


 と、1人で2役をやって勝手に入ってしまった。

 俺が状況を飲み込めず真顔で見ていると、ドートンも驚愕の顔を浮かべた。


「いや、何なんだよそれは。1つも流れが分からなかったんだからそんな顔されても困るんだが……」


「かー、これだからこっちの奴らは……あのなぁ、これはワイの地元じゃ大爆笑のギャグなんやで」


「ええ……」


 今の何処に爆笑ポイントがあったのか分からない。そんな俺にドートンは丁寧に教えてくれる。


「だからぁ、そういう空気になってまうやろ?! アレは、そういうボケやの。そこで大げさにずっこけなギャグが死んでまうやろがい」


「ギャグが……死ぬ……?」


 ちょっと何言っているのか分からない。


「そやから、ありがとうなったらこうすんねや」


 と、ドートンはダークエルフさん家の玄関らしき所に積み上げられていた木材に思いっきり頭を突っ込んで派手に転げた。いや急に何、怖い。


「見たか、この大阪魂」


「いや……血が出ているが大丈夫なのか?」


「これ位、ボケの為ならかまへん! ジェドやんもやってみいや!」


「ええ……」


 何の流れなのかは全然分からないが、こちとら身体だけは頑丈な騎士団長。家主には申し訳ないと思いつつも思いっきり音を立てて壁にめり込んだ。


「……これで合っているのか……?」


「ぎゃははは、やるやん自分!!」


 俺の勢いにドートンは大喜びである。正直何が良かったのかは全然分からない……


「そ、そこで何をしているの?!」


 怯えたような声、振り向くとそこにはやはり屈強なダークエルフの女性が居た。俺が崖から落ちる前に見た通りのガタイのいいダークエルフである。


「いや、誰やねん!!!」


 ダークエルフを見たドートンが頭を抱えながら叫んだ。だから、ダークエルフだろ……? 何か、違うの……?


「貴方達……私をあのゲームのように襲いに来たのね……あのゲームのように」


「襲うかい!!!」


 切れるドートンの突っ込み。なるほど、これがギャグが死なない、という事なのか……いや、それはギャグなのか??


「折角、こんな姿になってまで運命を回避しようとしたのに……あの破滅の運命には、逆らえないというの……」


「ん? 運命……」


 ダークエルフが気になる事を口走ったので、俺は怯えるその肩に手を置いた。


「誤解しないで欲しい。俺は別に君を取って食おうとしている訳では無い。何か強そうだし……それよりも、その理由……君の話を聞かせてはくれないだろうか」


 はっと俺を見るダークエルフ。眼光鋭いその顔は、襲っても勝てる自信が無い位には強面であった。

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