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謎の親切な男とダークエルフの謎(中編)

 


「ねー、次に落とすの誰がいいと思うー?」


 一方その頃、崖の上で宙ぶらりんとなっているロストとガトーは成す術も無くただブラブラと風に揺られてダークエルフ達の会話を聞いているだけだった。


「……何か、楽しそうッスね」


「……そうね」


「あー、団長無事かなぁ。まぁ、頑丈だけが取り柄みたいなモンっすからあれ位じゃ死なないでしょうけど」


「……」


「あー……」


 正直、ガトーは困惑していた。今までは騎士団長であるジェドが一緒に居たから会話も続いていたが、ロストとはそんなに話をした事もなかったし、そもそもどんな人かも話で聞いた位でしか分からない。

 知っているのは邪竜ナーガの下で悪事に加担していたことと、聖国を壊滅に追いやる手助けをした事。

 いずれも妹であるオペラを憎んでの行動だった事や、それについては既に和解していると聞いてはいた。だが、詳しい経緯を直接見た訳でもなく、どんな性格なのかすらよく分からない上に性別とかそういう色々と分からない感じな部分も多いので下手な事も話せず……急に2人きりにさせられても色々と気を使ってしまい会話は弾まなかった。

 三つ子達は根っからのモブ性質であり、周りに合わせて波風立てぬように生きてきた反面、性格がパッと分かりづらい人は苦手なのだ。

 騎士団長のジェドしかり、獣王のアンバーしかり。魔塔主のシルバーでさえ変人ではあるが性格や感情は割と分かり易く。城にいる騎士団員達も皆、裏表の無い体育会系ばかりであった。


(ひょえー……落とすならまず俺から落としてほしかったな……間に立つ団長が真っ先に落ちるって、気まずすぎっスよー……)


 とは言うものの、ジェドが先に落ちる事はガトーには予想出来ていた。こういう時に真っ先に犠牲になるのは騎士団長のジェドなのだ……


「どう思うー?」

「ええー、私、結構中性的な男子って好きなのよねー」

「私は結婚するなら普通な方がいいわぁ。イケメン過ぎるとずっと一緒にいるのとか辛くない? ちょっと付き合うなら綺麗な人もいいけどさぁ」


 その間にもダークエルフ達が好き勝手ほざいている。よくよく聞けば褒められているのか貶されているのか……


(悪かったな、普通で。これでも団長や陛下クラスの男が居ない辺境の地元じゃ顔はいい方なんだよ)


 と、心の中でしかつけない悪態。隣を見れば確かに、美女と知れ渡る聖国の女王オペラと似た美形。こんな人と比べられるのは反則である。彼女達に気に入られた所で下に落ちるのが早まるだけなのだが……


「ちょっとアンタら」


 モヤモヤと考えているガトーの心を無視して、不機嫌そうなロストが崖の上のダークエルフ達に問いかけた。


「さっき言っていた『予言』って何なの。どうせ落とすなら、それくらい聞かせなさいよ」


「え?」


 ロストの言葉に崖の上のダークエルフ達がざわついた。「言っていいのかな……」「でも長も居ないし……」など、お互い顔を見合わせて困っている。


「何でそんなに聞きたいの?」


「何でもクソも……急にこんな風に捕まえられて、溜まったもんじゃないわ。どうせ死ぬならせめて理由くらい冥土の土産に聞いてスッキリしてから逝きたいってもんでしょ」


「ちょっ……」


 ダークエルフ達を煽り、落とす時間を早めようとするロストの発言に焦ったのはガトーだった。聞けば聖国人の証の羽を失っているロストは神聖魔法が使えないどころか飛ぶことすら出来ないという。頑丈な騎士団員のガトーならば助かるかもしれないが、無力なロストは怪我だけでは済まないかもしれない。


「どうするー?」

「うーん、話して直ぐに切っちゃえば良くない」

「話する必要そもそもある?」


 と、ダークエルフ達の意見も整ってないようだった。その間にガトーは何とか脱出の手立ては無いかと方法を探る。

 ロープで全身ぐるぐる巻きにされているジェドやガトーと違ってロストのロープは胴と後手に縛られたものだけだった。今吊り下げられているロープをちりちりと切っている彼女らのナイフを奪うことが出来れば、ロストのロープくらいならば何とかできるかもしれない。

 ロープが切れた所でこの高さから落ちればどうなるか……だが、生き延びる可能性が無いよりはあったほうがいいだろう。

 ガトーは身の回りで何か使えそうなものは無いかとごそごそ探した……が、役に立ちそうなものはあまり無かった。ポケットの中に小銭が若干あるかもしれない。


(……届くか……)


 がんじがらめの後手から人知れず体を捻って何とかポケットに手が届かないかと苦戦するガトー。途中で手がつり悲鳴を上げそうになったが、渋い顔をしながら何とか堪えた。


「別に、切るなら好きにすればいいじゃないの。ただ、死ぬ前の可哀想なアタシらの願いくらい聞いてもいいんじゃない?」


「まぁ……そこまで言うなら」


 ダークエルフはしぶしぶ……と言った様子では無く、むしろ誰かに聞いて欲しい素振りすらあるように話しはじめた。


「あれは……つい数日前のことなんだけど、私達の前に占い師が現れたのね。こんな世界樹の裏の果てに用がある人間なんて中々居ないじゃない? だから私達もどう対応したらいいか分からなくて動揺したのだけど……でも、悪い人じゃ無さそうだからって長は快く迎え入れた訳ね」


「また占い師……」


 皇城でジェドからちらっと聞いた東国の話や聖国に来る道のりまでにもその存在はちらついていた。まるで自分達の行く先を回るかのような怪しい存在に、ガトーは身震いする。


「で、その人……一晩の宿代の代わりに私達の未来を占ってくれるって、変わった水晶を用いて見せてくれたの。そこには……」


「何か、こういやらしい服装やあられもない格好の私達が人間の男に使えてハーレムを形成していたって訳」


「へぇ……いやらしい格好……」


 ガトーはちらりと崖の上を見た。覗き込むダークエルフ達は、どうみても屈強そのもの。確かにエルフにしては露出度は多いような気もしなくも無いが、普通の女戦士だってとんでもない露出度のビキニアーマーを着ていたりもするので、一体どこからがいやらしくて、何があられもない格好なのか、そもそもどの層が喜ぶのかが疑問ではあった。


「で、その中でも特に悪い存在として描かれていた長がね、とっ捕まってよりあられもない格好にさせられてしまうんだけど……そんな破廉恥な未来にはさせないって、その日以来この森に来る人間を排除するよう命令が下されたのね」


「ほほう……よりあられもない格好……」


 あられもないレベルが一体何なのか、既にガトーには分からなくなっていた。正直な所、こちらの屈強なダークエルフ達ならば、隣のロストの方がまだ女子に見える位には綺麗なので、一体どの層の人間達がダークエルフの領地に踏み入ってそんな未来を作っていこうとしているのか、ガトーには疑問でならなかった。


「……あんらた、そんなくだらない予言、何で信じてんの?」


「え……? だって占い師が……」


「そもそも、そいつだって人間でしょ? 何でそいつの言葉は信じて、他の人間は排除するワケ?」


「だって……ええと……アレは信じられる……あの人の姿で……」

「いや……ダークエルフの……」

「そういえば……何でだっけ……」


 動揺する彼女達の周りからは、モヤモヤと青黒い煙が立ち込めているようだった。その色合いにはガトーもロストも見覚えがある……

 黒い宝石や、もしくはロストの羽から出ていたそれ。不安を煽る闇の力だった……


「あ、あれって……やっぱそういうやつ……」


「やっぱりアイツ関連じゃないの……」


 ボソッとロストが呟いた直後、不安を振り払うかのようにダークエルフの1人が叫んだ。


「う、うるさい! 聞くことは聞けたんだから、とっとと始末するわよ!!」


 一際青く光る目には不安の表情とは似つかわしくその奥に闇の光が見えた。突如、置いてあったナイフを掴んでロストのロープから勢いよく切り離す。


「っ!!!」


 ロストが落ちるのと同時に、ガトーはやっとの思いで掴んだ小銭を指弾でナイフを持つ手に放つ。


「イタッ!!!」


 落下したナイフを何とか口でキャッチしたガトーは、自らの体重を支えるロープを切って崖を蹴り、落下するロストの方へと追いついた。


「あら……アンタ、案外やるじゃない。そんな事も出来るの」


「にょんきにいっへるばあひは!!!」


 落ちどころが悪ければ2人して……いや、ガトーは辛うじて助かるかもしれないが、ロストは分からない。

 それでも何とかロストの手の拘束だけは自由にしてやろうと落下中にもがくも、中々上手くそこに到達することは出来なかった。


「はぁ、分かった分かった。そんなに頑張らなくても、止まってやるわよ」


「へ?」


 途端、空気抵抗が急に止んでロストの体がピタリと止まり、ガトーの口に咥えられていたナイフがロストの拘束を切って解いた。

 訳も分からず落下に備え身を強張らせるガトーの体も、先ほどまでかかっていた空気圧は何処へ行ったのか、空中にぶら下げられたかのようにピタリと止まる。

 いや、ロストがガトーの服を掴んでいたのだ。何が起きたのかと見上げるガトーの目に入ってきたのは、背中に生えたばかりの小さな羽で一生懸命飛んでいるロストの、苦悶の表情だった。


「ぐっ……アンタ、重い……この羽の量で人1人支えて飛ぶのは……キツイんだけど……」


 そう言いつつも放さないでちゃんと耐えてくれているロストの姿。こんなモブみたいな自分を放り捨てずにいてくれる位には仲間意識はあるのかと、ちょっとだけ安堵したガトーであった。

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