悪役令息なんて知りません!(後編)
漆黒の女騎士ジェラ・クランバルは変な男に絡まれやすい体質である。
その変な男の大概が、前世の記憶だことの断罪だことのギャルゲーだことの……と抜かすのだが、先程の公子のように直接結婚を申し込むようなパターンはまだいい方である。
「げっ! またアイツらいますよぉ」
レイの指差す方の奴らには私も気付いていた。気付いていてあえて見ないようにしてるんだから指差さないでよレイのバカッ!
柱の影から2人の男がこちらを盗み見ている。
「デュフフフ、レイザー殿。やはり漆黒の女騎士ジェラ様はお美しいですな。ありがたやありがたや」
「ルイ氏、今度の新刊はルーク陛下×ジェラ公女の百合本で間違いないですぞ!」
「レイザー殿、何を仰るウサギさん! ジェラ様×ルーク陛下ではないのでござるか?? まぁ、マジレスすると百合はリバでもどちらでも尊いものですからな……」
「オウフwww禿同!」
……気持ち悪すぎる。何だアレは。
確か占術師のレイザー・トパーズとルイ・トピアスとかいう2人組だが……この間から影でコソコソ見ては私と陛下で妄想小説を執筆しているらしい。おーい不敬罪が過ぎるぞ??? マジで1回しばかれた方がいいと思う。
絶対に目を合わせちゃいけないような気がして足早に通り過ぎた。
「何か最近、異世界から来たヤツをよく見ますけど、ああいうヤバイ男多いですよね。外身がイケメンなら大丈夫とでも思ってるんですかね? 中身が溢れ出て怖いから自重して欲しい」
こらこらレイちゃん? 中には良識のある異世界の男もいるはずだから口が過ぎるよ?? 尚、そんな人には会った事無いんだけど……
そんな奴らの前を足早に走り去り中庭に出ると、少年とお茶を飲んでいるルーク陛下の姿が見えた。
「ジェラ様、レイ様」
「シエル様、今日も陛下に仔犬を見せに来られたのですか?」
「はい!」
嬉しそうに仔犬を抱える少年シエル・フォルティスは、その黒い仔犬をルーク陛下に見せていた。
ああ……なんてかわいいのだろう。シエルきゅんがもう10年早く生まれていたらなぁ……いや、10年でもマズいか。
こういうかわいい男の子が大人になって凄く逞しく強く守ってくれるようになったらキュンキュンするんだけどなぁ。
生憎その頃にはきっともう私は見向きもされないいい歳……平たく言うとBBAなのである。ど畜生ー。
ルーク陛下はシエルきゅんを太陽のような色の瞳で優しく見つめていたが、私に気付いて心配そうに声をかけてきた。
「どうしたのジェラ? 何だか疲れているように見えるけど……何かあったの?」
「まぁ、色々と……ふぁぁ……何というか夢見が悪くて寝不足というか……」
そうだ、執務室でウトウトしていた所を起こされたのだっけ。お茶席に座るとまた眠くなってしまった。
「夢か。どんな夢なのか覚えているの?」
「ええ。その夢の中では私は女騎士ではなく男の騎士で……陛下も美しい男性で……レイも男でした。毎日のように悪役令嬢に絡まれて……ん? 悪役令嬢って何だっけ……」
ダメだ、何だか瞼が重い……これは寝るかも。
「ふふ、それは変な夢だな。ところでジェラ、こんな話を知っている? ある男が夢の中で蝶となり、生まれながらの蝶として楽しく飛んでいたそうだ。けど、男は目が覚めた時に自身が蝶になる夢を見たのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのかどちらなのだろう……と考えた。まぁ、これは等しくどちらも己であるという意味もあるのだけれど……時にジェラ、その夢は本当に君が見た夢だと思う? それとも――――」
…………
「はっ!」
気がつくとマッサージ室で寝ていた。ああ、そうだ……俺は魔獣君のマッサージが気持ち良すぎて寝ていたのだ。
「ん? どうしたの?? ジェド、何か凄くうなされていたけど……」
ルーカス陛下が隣で心配そうに見ていた。
「夢の中で俺……漆黒の女騎士になっていました」
「ははは! 僕、団長の女装見たことありますがビックリする位似合わなかったのですよね。団長はそのままで大丈夫です」
良かった、陛下もロイも男だ……てかロイお前、しばくぞ。
しかし変な夢だったがやけにリアルだった……もしあっちが現実でこっちが夢だったらどうしよう。
悪役令息よりは悪役令嬢の方がマシかな……うーん。




