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騎士団長と誓い合った約束の……(後編)



「忘れたとは言わせないわよ……私は、貴方の言葉を信じてずっと待っていたんだから……」


 涙目で怒りをぶつけるハイエルフの女性……俺は身に覚えがなさ過ぎるというか、全然彼女の事を思い出せずに首を傾げて脳みそを絞っていた。


「団長、ハイエルフの女性を弄んでいたんスか……? 知らん振りして逃げようとか、シュパースの遊び人より始末に置けないッスよ」


「お前……俺がそんな事するように見えるか……? そんなに女性の扱いに慣れているようならば彼女居ない暦と歳が合致しないんだが……」


「まぁ、そうッスね。言ってて俺も、そんな訳は無いよなーと思いましたよ」


 失礼でもなんでも、あらぬ疑いや汚名をつけられるよりはマシである。

 しかもハイエルフって顔が整いすぎていて見分けがつかないんだよな……ただでさえ外国人ってみんな一緒に見えるのに……

 ドワーフや精霊もまぁまぁそう。魔族だって結構みんな似たような顔なので一度会っただけでは余程特徴が無い限りなかなか覚えられない。人間の女子とはだいぶ違うのだよ……人間の令嬢だって似たような髪形とか顔とかしていると全然覚えられないけど。


「ほ、本当に忘れていたなんて……貴方、ジェド・クランバル様が帝国のイケメン騎士を紹介してくれるっていうから、ずっと待っていたのに……酷すぎる!!!!」


 と、彼女は恐ろしい形相で蔦を出して俺の首を絞め始めた。

 この恐ろしい形相といい、帝国のイケメン騎士を紹介する下りといい……どこかで……


「はうあっ!!!!」


 俺は急激に記憶が呼び起こされて来た。


「そうか……き、君はもしや、エレベーターゲートで俺を襲ってきたハイエルフの……確か……し……シンシア……?」


「やっと思い出したかーー!!!」


 シンシアは怒りが収まらず、更に俺の首を絞める蔦に力を入れた。ギブ! ギブ!!



 という訳で、全てを思い出した漆黒の騎士団長ジェド・クランバルであるが……

 だいぶ前の話すぎて覚えていないだろう方に説明すると、彼女はハイエルフのシンシア。俺が陛下と一緒に最初に聖国に行った帰りに絡まれた悪役令嬢である。

 実はエルフの悪役令嬢には行きのゲート都市でも絡まれていた。その事件に登場していたエルフの王子フィアというのがこのシンシアの恋のお相手になるべき相手だったらしい。

 物語の人物が世界に照らし合わされる事が多いこの世界……登場人物が被る、というのもよくある話で……

 最初に登場したエルフの件も彼女も自分の運命を悲観して諦めていたフィア王子との恋の話だったのだが、自身と同じような状況の別の女が運命を押してまで王子と結ばれてしまったものだからシンシアの怒りは相当だった。

 あの時も相当俺に怒りが向いていた。なんでや。

 そもそも、フィア王子はハーフエルフのサラの事がその変な運命を抜きにしても好きだった訳だし……俺は全然関係無いというか被害者だったんだが。

 で、収まりきらなかったシンシアの怒りを何とかなだめて解決しようとしたのだが、危うくシンシアが帝国一のイケメンの陛下に目を付けそうになったので阻止すべく騎士を紹介するから待っていてくれとその場を収めたのが前のあらましである。

 ああ、そうだ……すっかり忘れていたわ。彼女とそんな約束してたっけ……


「ええと、話を総省すると団長が男を紹介するって言ったのに今の今までこのハイエルフさんの存在ごと忘れていたって事ッスね」


「そう……なんだがしょうがないだろう! 俺もなんか知らんけど相当色々忙しかったんだから……」


「言い訳見苦しいッスよ……あと、団長はもう1つ忘れてんスからね。プレリ大陸の密林でもでかい鳥にも男を紹介するって言ったっきり忘れてましたよね? あれ、ロック副団長が代わりに合コン開いて何とかしてやったんスからね」


「え……? そうなの?」


 確かに全っ然忘れていたのだがそんな話もあった気がする。俺の知らん間にロックが解決してくれてたの……? アイツ有能すぎない? もう実質アイツが騎士団長でいいじゃん。悪役令嬢さん達もロックの所行ってくれよ……何か皇城内の女子達にも人気あるし……


「まぁ、それはそれとして、済まなかった。今からでも間に合うならばここにいい物件が居るのだが。領地持ちの貴族の騎士で性格もまぁまぁ優しいし、剣の腕も保障する。領地を継ぐ奴と一緒になりたくないのならば大丈夫だ、あと2人継げそうな兄弟がいるからその辺も心配無いし……」


「……ちょっと待ってください団長、今サラッと手短に俺を差し出して収めようとしてんスよね」


「え? 別にいいだろ、お前確か彼女居なかったよな」


「それは団長も一緒ッスよね?! 生憎、俺は恋愛結婚志望でザッハやトルテじゃなくて俺を愛してくれる可愛い子と付き合いたいんスからね!! 差し出すならまず自分が行ったらどうッスか?!」


「ああ奇遇だな、実は俺も家柄とか諸々関係無くちゃんと見てくれる可愛い彼女が希望なんだ。こういう取ってつけたような感じで彼女を作りたいとは思わないタイプでな」


「自分が嫌な事を人に押し付けるのって団長としても騎士としてもどうかと思うんスけど……」


 ガトーが呆れた目で俺を見る。これ以上やると人望無くしそう……


「あんたらねぇ……まぁ、いいのよもう。忘れられていた事については怒ったけど、そのお陰で新しい事業を始められたから」


「新しい事業……?」


 シンシアがため息を吐きながら店をくいくいと指差した。


「そう言えばここって何の店なんだ……?」


「……あの後、待てど暮らせど約束の騎士様は現れないし……いよいよ待てないと思った私は待つだけじゃなく自力で恋人を探そうと決意したわ。長年フィア様に恋い焦がれて生活してきた恋多き女ですもの……フィア様が他の女のものになってしまった以上、新たな張り合いを探さないと生きていけないというか……ハイエルフって無駄に長生きだから」


「面倒なんだか面倒じゃないんだかよくわからない性格してるッスね」


「それで、エルフもドワーフも案外フリーの奴らが多いから恋人探しを大々的にする事にしたのだけど、いかんせん1対1でお見合いみたいな事しても何かこう気まずいというか……話が続かないというか」


「あー、俺も一回お見合いしたことあるんスけど、そういうのって何か緊張して余程どっちかが話慣れてないと上手くいかないッスよねー」


「お前、お見合いした事あるのか……?」


「え? 団長は無いんスか? まぁ、その時は相手も三つ子の誰でもいいみたいな感じだったから何か冷めたっつーか感じ悪かったんで断ったんスけど……」


「そう、そうなのよ……」


 ガトーのお見合い話にシンシアが神妙に頷いた。やっぱ2人、気が合うのでは……?


「それで、1対1って所が良くないって思ってね。もっとこう、フランクにというか……結婚する訳でも無いんだけどそれなりにこう軽く恋人を作れるような環境が作れないかなと思って、男女共に人数を集めてパーティを開いた訳ね」


「いわゆる、婚活パーティってヤツッスね」


「そうなのよ。で、それはそれなりに上手く行ってね……所が今度は逆に、そういうフランクな感じのパーティだと上手く話をしたりアピールが出来ないだのブーブー言う奴が現れてね……じゃあ逆にどんな奴がいいのって事細かく聞いて、それに合った相手を見つけ出す事にしたのね」


「……案外親切なんだな」


「ハイエルフは誇り高き人種な上に責任感も強いから。何か頼られると完遂しないといけないような使命感にかられてね……」


「そういう頼られるとつい手を貸しちゃう辺り、団長と気が合うんじゃないッスかね?」


 いやお前……夫婦共々、頼まれると断れない性格だと大変すぎるだろ。俺は俺の事をちゃんと管理してくれてしっかり突っ込みを入れてくれそうな頼りがいがある女性がいい……


「それで、結局最初のお見合いの斡旋のようなものは上手く行ったのか?」


「ああ。上手く行き過ぎたわ。1対1じゃ恥ずかしい者達は大人数で、好みに合いそうな奴を探して欲しい場合はそれなりに紹介していった結果……噂が噂を呼び、この店になったのよ」


「……なるほど、ここはそういう店だったのか」


 俺達は案内された店の中を見渡した。そう、ここはつまり、恋人斡旋所……ここにコソコソと入っていった者たちは恋人を求めて駆け込んだ哀れな子羊だったのである。そりゃあ看板も何も出ていない訳だ……堂々と入れる奴なんて居ないだろう。


「というか、何で斡旋する側になっているんだよ。お前の恋人探しはどうした……」


「ううん……なんというか……何かこう、男女共に話を聞いていると色々好みが面倒というか。中には高身長、高収入で優しくて自分の浮気にも言及しない大らかな相手が欲しいだの、永遠に若い種族がいいだの、美人でつんでれな聖国の女王のような女が良いだことの……話を聞いているうちに疲れてしまって……私も好みに合う者が居れば自身を売り込もうと思ったのだけど、長寿のハイエルフは何か……人気が無いし……」


 ずーんと落ち込むシンシア。人の幸せを多く結んできたにも関わらずアレから未だフィア王子以上の男子を見つけられていないらしい。気の毒に……


「まぁ、ここ最近は聖国の人気が出たお陰で、自身も聖国に行きたいと望む結婚願望の者も増えてね……忙しすぎて自分の恋人を探すどころじゃなくなって来てしまったのだけれど」


「そう言えば出店のエルフもそんなような事を言っていたな……ん? 聖国に行きたいのと結婚願望って、何の関係があるだ……?」


 今、何か妙な事を聞いた気がしたのでシンシアに聞き返す。シンシアはきょとんとした顔で眉を寄せた。


「え? 知らないのですか? というかそれが目的で来たんじゃなかったのですね……」


「目的……いや、俺達は聖国の女王に助けを求められて来ただけなんだが……」


「まぁ、今忙しすぎて助けを求めたくもなりますよね。何せ、聖地として世界中から人が集まっているのですから」


「聖地……? それは前々からそうだったのでは……なぜ今更……?」


「いいえ、行ってみれば分かりますよ。はぁ……私もフィア様みたいな好みの男性を見つけて早く聖国に行きたい……」


 色んな種族の男達の資料をパラパラと捲りながら、シンシアは深いため息を吐いた。

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