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呪いの橋の次は通れないトンネル……で、結局何……?(後編)

 


「どうした? 迷子か?」


 どこから現れたのか、いつの間にか俺の背後を取った少女。漆黒の騎士団長である俺の背後を取るとは……


 冗談はともかく、俺の問いかけに少女は首をふるふると振って否定し、暗いトンネルの中を指差した。


「トンネルの中に何かあるのか?」


 こくり、と頷き俺の手を取って歩き出す少女。俺は仕方なく引かれるがままにトンネルの中へと進んだ。


 先ほど反対側に入った時と同様、やはり薄暗くてジメジメとし、不気味なトンネル内部は俺を嗤う様にひんやりと涼しい風が吹いていた。


「何処まで行くんだ? 確かそろそろ真ん中辺りなのだが……」


 反対側でも、半分位歩いた辺りから出口が見えてきて、かと思えば入り口だった訳なんだが……

 さっきの悪役令嬢(?)の様子からするとこちらも同じように戻されるはず……

 が、真ん中と思しき所に差し掛かった辺りで少女は立ち止まり、床を指差した。


「これ……」


「ん?」


 薄暗くてハッキリと見えないが、そこには小さな花が幾つも咲いているようだった。


「何だ? 雑草……ではないようだが、この花が何かあるのか……?」


「ん? 花ッスか? 俺結構詳しいッスけど……」


「ん?」


「え?」


 少女に話しかけたつもりだったのだが、返事をしたのはガトーだった。ついでに俺が握っていた少女の手もガトーだった。……え?


「うわああああああ!!!」


「うわっ! 何スか?! いきなり叫ばないで下さいよ、怖いんですけど?!」


「怖いのは俺の方だ!! え?? さっきまで手を握っていた女の子は??? 確かにこれくらいの小さな少女がトンネルを指差して俺を引っ張って……」


「……いや、何言ってんスか。俺の手を引っ張ってトンネルの中に入っていったのは団長で、何かずっとぶつぶつ言いながらここまで来たんですけど……」


「なにそれこわい……え? 幽霊って……コト?!」


「団長幽霊見えないじゃないッスか」


「そう……だよな……だとしたら何……?」


 いや……思い起こせば幽霊は見えないが、凡そ悪役と名がつきそうな女子達の摩訶不思議現象霊障には散々遭ってきた気がする……

 だが、幽霊やゴーストの仕業だって分かっているものは別に良いのだが、こういう理由の分からないヤツが一番ビックリするから本当にやめて欲しい……


「まぁ、団長が変なのはいつもの事だから置いといて、俺の領地って農村ばかりだから雑草とかの知識はまかせて下さいよー。一見きれいな花に見えても外来種とか、猛威を奮う雑草とかいましてねー。商人とかが運ぶ物資に種を付けて撒き散らされて育っちゃうヤツとか居るんスよね。そういうのは育てたい品種を食っちゃいますから危険なんで殲滅させてますが」


「雑草に詳しい騎士ってのもどうなんだ……で、そいつは何かの花か?」


「あー、雑草ッスねー。これ。それも結構やべえやつ……というか、もしかしなくてもコレが原因かも」


 苦笑いをしたガトーはポリポリと頭をかき、そのまま外に出て鑑定に詳しそうな商人達をゾロゾロと集め連れてきた。



「なるほど、これは『幻魔草』ですなぁ」


「幻魔草?」


「ええ、その名の通り幻を見せる効果がある魔草で、一昔前は幻覚を見せるような効果を発揮するので冒険者向けに売られていたものですがねー。今はとんと需要が無くなってしまって。まぁ、元々手に入れるのも大変だった代物ですからねー」


「なるほど……ん? てことは、このトンネルを抜けられなかったのって……」


「そうッス。これに幻を見せられて元の入り口に戻されていただけッスねー。この草が群生している所とかは迷いの森とか言われて、出口にたどり着けずに永遠さ迷わせられたりするんスよ」


 こわ……つまり、トンネル内部の異変というかあっちからもこっちからも通り抜けできなかったのは、この草が邪魔していたせいだったのか……


「幻魔草の生息は魔王領周辺の森なので、そう種が他に移る事もなかったのだけれど……ここ最近は魔王領も観光地として商人の出入りが増えましたから、恐らくゲート都市を行き来する積荷か何かに種が混ざって落ちて行ったのですかなぁ。いやはや、呪いのトンネルなんて噂されていた場所ですから、皆てっきりこのトンネル自体に何か異変や呪いがあったのかと思いましたわい」


 ははは、と笑いながら冒険者達も含め、手の空いている人総出でトンネル内の幻魔草を草むしりして集めて行った。

 草むしりをしていると出てくるのは小さなゴミから大きなゴミまで……不法投棄されていることったら。


「ひゃあー、暗いから全然気付かなかったっスけど、かなり荒れてますねー」


「トンネルって大体暗いからな……こういう場所にゴミを残して行くモラルが無いヤツの気持ちは分からんな。ギルドにクズ拾いを依頼したりしているんだが……危険魔術具や危険武器まで捨てられているからタチが悪いな」


 呪いの魔術具や武具などは捨てたり呪いを解いたりするのも手間だし、買い手も少ない。爆弾系や毒のあるものだって道端に勝手に捨てては危険なのでちゃんとしかるべき所に届けなくてはいけないのだが……面倒なのかこうして人気の無いトンネルに勝手に置いて行ったり、森の中に放置して行くのは結構良くある話だ。

 こっちの呪いの盾なんて、うめき声を上げてるし……こんなん暗闇で見たら腰抜かすわ。


「あー、でしたら最近魔塔で研究されている常夜灯をおススメしますなぁ。従来の夜間照明魔石ですと日中に日の光を溜めるか、ある程度魔力を蓄積しないと光らなくてメンテナンスが大変だったらしいのですが、近年は少ない魔力でかなり明るい魔術具ライトが開発されておりますから」


「なるほど……陛下に相談してみるか。トンネル内部が明るければこういう事態にもならんだろうし」


 という訳で、外で酒盛りをしてサボっていた竜騎士達を呼んで皇城に居る陛下に伝言を頼んだ。

 幻魔草は引っこ抜くまでに幻を見せてきたりと結構大変だったのだが、それらを全て片付け終わるとやっとトンネルも正常通りの通行が出来るようになり問題は解決した――


 ――かに見えたのだが……


「待ってくれオリヴィア!! これらの茶番は、本当は君の気を引くためのブラフだったんだ! こんな女なんて愛していない!! 捨てないでくれ!」


「はぁ? 今更何言ってますの? 後悔したってもう遅いですわ」


 と、放っておいた断罪シーン奴は何故か立場が逆転していた。元婚約者を足蹴にしてさっさとトンネルを通り帝国へと向かう悪役令嬢さん。

 草むしり&ゴミ拾いに夢中になっていてその過程を良く見てなかったのだが……まぁ、大した話でもないのだろう。


「まぁ、ここは前々から暗くて不気味なんで色んな噂が立ってましたからねー、悪役令嬢ならぬ()()()()()()の汚名は返上したって事ッスかね」


「何でもかんでも悪役令嬢に結びつけるのは良くないだろ……んな訳――」


 ふと、俺の右手をぎゅっと握る感触がしたのでそちらを見た。トンネルの暗さと同じ色の髪色……その隙間から少女の可愛らしい顔がニコリと微笑んだ。


(もうこれで……呪いだとか怖いとか言われないね……ありがとう、騎士様……)


「ん……?」


 少女がぼんやりとして見えるので俺は目を擦った。きつく擦ってもう一度繋がれた手の先を見ると、そこにはガトーが居た。


「……団長……だから何で手を繋いで来るんスか……怖いんスけど」


「いや、それはこっちのセリフだ!!! 感謝しているなら勝手に手を繋がせるなよ!!!」


 商人達が応急処置にと置いた光る魔石。その明るさにほんのり照らされて賑わうトンネルの中に、俺の叫びが木霊した。

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