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呪いの橋の次は通れないトンネル……で、結局何……?(前編)

 


「何かこうして団長と出歩くの久しぶりッスねー。前は部隊で行動したりもしてましたけど、団長の身の回りでどんどんと事が大きくなってって全然帝国にすら居ないんスもん」


「……俺が好きで事を大きくしている訳でも、自ら解決に乗り出そうと頑張ってる訳でも無いんだけどな……」


「そんなん分かってんスよー、でも俺達、団長の事大好きだからたまには城に居てくれないと、副団長も寂しがってますよ」


「……俺は全然帝国に居たいんですけど」


 馬車に乗って移動する帝国の街道、足早に過ぎる景色をボーっと眺めながら他愛ない会話を続ける騎士2人。

 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと三つ子の騎士の1人ガトー(多分)はゲート都市に向かっていた。


 目的地はゲート都市で大陸を移動した先の聖国。いつもポンポンと移動しているように見えるから近そうだが全然近く無い。遠い。

 陛下が違法に簡易ゲートを設定しようとするのも頷ける。最初に聖国に行ったときは魔法使いでも無いのによくあんな距離を移動魔法で帰って来たものだ……数日間寝込んでいたけど。


「いやぁ、前にショコラティエ領へ旅した時みたいに他の2人も一緒に来られたら良かったんスけど、流石に3人いっぺんに数日間抜けるなんて無理ッスからねー。しかも団長話が長いし……」


「その言い方だと俺が長話をしているせいで業務が滞ってるみたいだが、全然俺のせいじゃないし、それもそうなんだがお前ら前回3人じゃなかったよな」


「話の長い悪役令嬢が団長の所に来るのは不可避なんスから実質団長の話が長い事っしょ――あれ? 何で団長知ってんすかソレ」


「お前らの事は全部まるっとお見通し――」


 ガタン!!


 ガトーと無駄話が盛り上がっていたその時、乗っていた馬車が大きく揺れて止まった。その衝撃で向かいの席に座っていたガトーが吹っ飛んでくる。あぶなっ……


「いってて……何スか?」


「わからん」


 俺にぶつかった所が痛かったのか体を摩りながら起き上がるガトー。ごめんね、無駄に頑丈で……

 馬車の窓から御者台覗くと御者のオッサンが困った顔をしていた。


「どうしたんだ?」


「いや……ええと……何か急に渋滞しておりまして」


「渋滞……?」


 言われて先を見ると確かに旅の馬車や人々が列を成して止まっている。それに加えて俺達の後から来た馬車も急停止し、馬を止めていた。


「どういう事だ? 何でこんなに停滞しているんだよ……」


 俺とガトーはひょいと馬車の窓から降りて、人混みをかき分け渋滞の先を目指す。

 急に止まり始めたのだから原因がそんなに先にあるはずはないと見込んだ通り、原因は直ぐ近くに見つかった。


「どうやら原因はそこみたいですけど……なんなんスかね」


「さぁ……」


 列の先頭、旅行く人々や馬車の者たちが神妙に見つめる先……そこにあったのは大きな岩山をくりぬいた長いトンネルだった。


「どうしたんスか? 俺達、帝国の騎士団ッスけど」


「ああ……皇室騎士団の騎士様……いや、あの、何か通れないんです、ここ」


「へ?」


 困ったような旅人達。

 俺達は顔を見合わせて中を覗いてみるも、結構先の方に明かりが見えるので、出口まで障害物があったり賊が塞いでるなどの問題がある訳でもなさそうだった。


「何か異変があるようにも見えませんが……」


「まぁ、見た目はそうなんですけど、入ってみればわかります」


「はぁ……」


 意味が分からず半信半疑の俺達は、ザワザワと皆が動揺し見守る中のトンネルを潜り中へと歩き出した。


「全然、何かが出るような気配ありませんよねー」


「ああ。幽霊とかでも無さそうだな……出ても見えないから分からんが」


「あ、先が見えて来ましたよ」


 灯りが転々と設置された薄暗いトンネルは、徒歩だと結構時間がかかるが途中で俺達は面倒になり走り出した。

 別に何の異変も無いままゴールである出口へと差し掛かると、そちらもやはり渋滞して人だかりが出来ていた。


「なんだ……何も異変は無いじゃないか――」


「ね、変でしょう?」


「え……」


 トンネルの出口を出た先で俺達に声をかけたのは、見覚えのある旅人達だった。

 モブとは言え、作画がハンコなのはいかがなものかと……思ったが、そうでは無い。俺たちに声をかけてきたのは……紛れも無くさっきトンネルの入り口で見送った者達なのだ。

 何を言っているのかと思うだろう……遠くの方に見える俺達が乗ってきた馬車、それよりも更に遠くにうっすらと見える帝国の首都……

 つまりは、完全にこっちが入ってきた方なのだ。


 ……え? どゆこと……?



 ――――――――――――――――――――――――



「実際に体験していただいた通り、何度入って通り抜けようとしても元の入り口に戻り、反対側まで抜けられないのです……」


 困惑顔の俺達に、商人の集団が御座を引き茶を用意しながら話をしてくれた。

 周りの旅人達を見ると、先頭の方から話が伝わり引き返して遠回りをしようとする者、飛竜便に切り替えようと帝国に戻る者……は、ほんの一握りの、金に余裕があって急いでいる者たちだ。

 大半の旅人達は諦めて食事を取り始めたり、酒盛りをし始めたり……そしてそれらの旅人向けに商売を始める商人達も現れ始めた。


「うわぁ……何かこの景色、デジャヴッスね」


「やめろ……思い出したくも無い」


 そう、この光景……覚えているかどうかは分からないが、以前ショコラティエ領に行った時に通行止めとなって散々苦労させられたあの怨念の橋子の時と全く一緒なのだ。いや、あちらは西側でありゲート都市はやや北なので方向が全く違うし橋とトンネルで全く関連も無いから別人……いや、別……何? 別名所? 別現場? なのだろう。

 同じなのは暢気な旅人達の様子だけである。いくら平和だからといって暢気すぎやしないか君たち……


「あの橋の怨念子と関係があるかどうかは全然分かんないんスけど、いずれにせよ何らかの妨害ッスよね。自然現象でこんなん発生するとは思えないし……」


「こんな現象は聞いたことが無いなぁ……我々も度々ここを通ってゲート都市を利用しておりますが、こんな事1度もありませんし」


「俺も各地を割と旅しているけど、こんな現象聞いたことがないな」


「迷宮が出来たとか魔法が掛かってるとか……?」


 まれに、ダンジョンが自然発生するという話を聞いたことがあるし、以前に世界中を階段で地道に登ろうとした際に意思を持った階段に永延と階段を登らされた事はあった……それも全然意味不明だったが。


「何にしても、どれも理由としては不確定だな……」


「どうせまた団長のお得意な悪役令嬢関連なんじゃないッスか~?」


「トンネルと悪役令嬢に何の関係があるってんだよ。何でもかんでも結び付けようとするなし」


 みんな、事件と見るや俺の体質に結び付けようとする……確かに、いつもいつも何がどうアレで悪役令嬢なのか、そもそも概念も怪しいような事件も多々あるものの、大体悪女っぽい奴が関係していたりする……勘弁してほしい。こちとら忙しいんだが。


「そういや俺……こんな話を聞いたことがあるんだが……」


 一緒にお茶を飲んでいた旅の冒険者の1人が青ざめた顔でポツリと語り始めた。

 ……そういう語り口調で言い始める話、いい話だった事が無いからやめてほしい……


「……参考までに聞くが、何だ?」


「俺の婆さんから聞かされた話なんだが……死者の国とこちらを結ぶトンネルがあり、番人として老婆が居るらしいんだ。で、その婆さんに通り抜け賃を渡して死者の国に行く事が出来るらしいのだが……そのトンネルを潜る際には絶対に振り向いちゃいけない、とか……」


「……? それがこのトンネルとどう関係が……?」


 微妙にかみ合っているかどうか分からない話に困惑していると、ガトーが閃いたように手を叩いた。


「じゃあ、逆に途中で入り口に引き返したら何か解決の糸口が見つかるんじゃないッスかね?」


「確かに……それは誰も試しませんでしたなぁ」


 旅人達も顔を見合わせて頷き始めた。なるほど……伝承の通りに何かすれば解決方法に繋がる、というのはよくある話だな。


「そんな訳なんで団長、たのんます」


「……何で当たり前のように俺が行く流れになるんだよ」


「いや、だって団長百戦錬磨だし、それに何かやべえ事起きても団長なら何とかしてくれそうというか……」


 後輩で部下の癖にお前、団長扱い荒くない……? まぁ、確かに一般市民を危険に晒す訳にもいかんしな……


 俺は嫌々ながらも重い腰を上げて再び薄暗いトンネルへと入った。


 トンネル内部は先ほどと変わらず特有のジメジメ感があるが……そんな話を聞いてしまうと余計不気味に感じる。……いや、幽霊とか死者とか多分見えないけど……


「この辺りか」


 俺は振り返って元の場所を目指した。

 反対側を振り向いてしばらく歩いた先……そこに現れたのは――やはりさっきと同じ心配そうにみまもる旅人と、ガトーの姿だった。


「……何も起きないけど」


「あー、やっぱ俺の故郷全然違う大陸だし、なんなら途中からトンネルじゃなくて川のような気もしてきたしやっぱ違いましたかねー」


 冒険者が申し訳無さそうに頭を掻き、他の旅人も何だよーと笑っていた。いや、あんなに意味深に口に出しておいて違うとか、そんな事……ある?

 まぁ、そもそもここに死者の国の入り口とか出来たら怖いよな。ゲート都市への幹線道路だし……


「ん? これ、何スかね?」


 用を足したくなり草むらに入ったガトーが、トンネル入り口端の草生い茂る場所に何かを見つけた。

 それは……腐り果てて朽ちた看板だった。


「ええと……呪いの……トンネルの伝承……?」


「呪いのトンネル……?」


 だったの……? やっぱり……?

 まぁ、そうだろうとは思ったけど……結局このトンネル、何……?

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