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帰還した帝国と新たな依頼(後編)

 


「……やっぱ、聖国……ですか?」


「……そうだって答えるのも癪なんだけど……そうだよ」


 がくりと肩を落とす陛下。後ろで見ていたエースも首を横に振った。


 陛下は他国、とりわけオペラの国である聖国にはかなり尽くしている。国としては。

 だが、何故か異様に聖国人に嫌われている。理由は勿論単純……陛下にオペラを渡したくないからである。

 オペラは神聖な女王を通り越して、もはや聖国のアイドルだ。陛下としては、兄であるロストが見つかり仲直りしたのだから大手を振ってオペラを后に迎えられると思いたかったのだが……そう現実は甘くない。

 ロストが聖国民に許される許されないを抜きにしても、オペラが連れて行かれるのは話が別である。そもそもロストだって許さないだろう……元祖オペラのストーカーだから。

 俺だって聖国人達の気持ちはわかる……いも弟の大輔が男を連れてきたら絶対に張っ倒す自信はある。……いや、そもそも連れて来るのが男かどうかは分からんけど……


「本当は私が自ら行きたい所なのだけどね。私はほら……身バレした瞬間に聖国人総出で排除されるからね……」


「いや、どこまで嫌われているんですか。というか、そこまでします……?」


「それがね、するんだよ。先日、秘密裏に聖国近くに作った小規模ゲートを通って会いに行こうと思ったんだけどね……速攻でバレてゲートも叩き壊されたから。以来、警備も強化されて作れなくなっちゃうし、移動魔法で行くとそれこそ体力がそれだけで尽きてフルボッコにされたからね……」


「……いや、何してんですか」


 思い出すようにため息を吐く陛下。色々突っ込みたいけど、いつの間にそんな事してたのマジで……

 エースを見るとやはり首を振っていた。その顔からも察する事が出来る……別にサボっている訳では無いのだろう。仕事をちゃんとこなした上で軽くストーカーみたいな事をしているのだ。一国の皇帝だろうとプライベートは個人の自由なのだ。自由にしていいのか……?

 まぁ、そこに関しては先に陛下を付け回していたのはオペラの方なのでどっちもどっちである。良かったね、両想いだこれ。


「それで、その聖国というか……オペラなんだが、そもそも助けて欲しいという依頼が不本意ながら私ではなく君に宛てたものなんだよ」


「俺に……ですか?」


「ああ。出来れば私が直接彼女の手助けをしたかったんだけどね……」


 陛下が俺をキッと睨むも、直ぐにその時のオペラとのやり取りを思い出して顔を緩ませる。


「通信魔術具でのやり取りをしたときにね……口ごもって困っているようだったから、ジェドではなく私が行っちゃいけないのかい? と尋ねたんだが『る、ルーカス様は絶対に来ないで下さいまし!』と焦る様が妙に可愛くてね……何なのかはだいぶ気にはなるけど、女性が秘密にしたいものを無理やり暴く趣味は無いからね」


 陛下は思い出し笑いを隠しきれず、顔の前で組んだ手の裏でニヤニヤと笑っていた。暴いても良さそうなものならばオペラの困り顔を堪能しながら暴きそうなSっ気を感じる。ああ……いいなぁ。

 俺も可愛い女の子をイケ面で困らせてからかいたい。


「と、いう訳なので私の代わりに聖国に行って話を聞いてきて貰いたいんだ」


「……まぁ、話を聞くだけで良いならば」


「……それ以上の事をしたら、どうなるか分かっているよね」


「いや、何想像してんですか」


 これがあの陛下である。嫉妬に狂った男の怖さたるや……幼馴染で自身の騎士である俺にさえそんな事を言っちゃうんだよ??

 下手な事をしたら陛下にゲンコツ以上のものを落とされるかもしれない……俺は絶対に無礼は働かないと心に誓った。


「それで、明日にでも出発して聖国まで行って貰いたいのだけど、いかんせん君1人じゃ心配だから……」


「ああ、じゃあシャドウを連れて行きますか?」


 陛下が俺の事を全く信用していないのはいつもの事である。何故ならゲート都市に行く度に投獄されるような男である。

 こういう時はいつもシルバーがついて来てくれていたが、シルバーの代わりに派遣されている魔法使いは俺に慣れていないだろうからツッコミ力も期待出来ないだろう。

 そうなれば聖国に行った事があるシャドウが適任かなと思ったのだが、陛下は眉を寄せて厳しい顔をした。


「シャドウは絶対駄目……」


「何でですか」


「……何でもくそも無い。連れて行くならば三つ子の誰かにしてくれ」


 完全に嫉妬心を隠しきれていない男の発言である。シャドウは陛下とオペラを応援しているはずだから何も心配する必要は無いと思うのだけどなぁ。




「あー、何か分かるなぁ」


「シャドウ、舞踏会の日にオペラ様に会って以来ボーっとしちゃってッスからねー」


「よっぽど綺麗だったんだろうなぁ」


 執務室を出て三つ子の下へ行き一連の話をすると、3人揃ってうんうんと頷いた。

 陛下は舞踏会の日からずっとボーっとしているシャドウの様子に不信感を抱いているのだとかなんとか……いやそんな、シャドウも陛下なんだから自分をもっと信じ――いや、自分の事だからよく分かるのだろう。


「あの舞踏会以来っちゃー、魔法士団長のストーンさんもだいぶッスけどね」


「ああ……」


 ストーンだけでは無い。城に戻った時に騎士のほとんどが葬式状態だったのは、どうも舞踏会で女装したロストに惚れ込んだ騎士達がその痕跡も見つからずに落ち込んでいるかららしい……

 訳を知っている三つ子やエースは、それでも諦めきれない騎士達に気を使ってついぞ本当の事を言えてないのだとか。

 そんな様子じゃあ、三つ子以外は俺に付いて行かせる訳にもいかんよなぁ……

 ブレイドは地下で拘束されているハオの見張りに付いているし、ロイは皇室図書館の本が盗まれた事もあって在庫確認に駆り出されているらしい。アイツはいつの間に図書管理になったんだよ……

 すっかり影の騎士団長として俺の代わりに騎士達の管理や業務を行っているロックやエースを連れて行く訳にもいかないし……みんな忙しそうだな。そんな中、俺ってなんなの……


「まぁ、いいッスけど。んじゃぁ俺が行こうかな」


 そう言って三つ子の1人が名のりを上げた。


「……お前は誰なんだよ」


「へへっ、誰だと思います?」


「……そういう女子みたいなやりとりは良いんだよ……」


 という訳で、俺と多分ガトーであろう三つ子の1人は、オペラに呼ばれて聖国へと向かったのであった。



 ★★★



 ジェドに任務を言い渡した皇帝ルーカスであったが、彼の心配事は理由をひた隠しにする聖国の事、だけではなかった……

 いや、もしかしたら隠している理由がルーカスの心配に関連しているのかもとさえ思いを過ぎらせてしまうが、そんな事は絶対にある訳が無いと首を振って疑念を払った。


 前々から、友人である魔王のアークが……もしかしたら同じ女性を想っているのではないかと、そう考えていたのだ。

 だが、それがどうした――というのがルーカスの答えだった。

 人の気持ちが止められないのは分かっている。シャドウもそうだし、ロストだって……例え人の者だろうと焦がれてしまったナーガの気持ちも、今のルーカスには分かる程に。

 その人並みの感情だけはナーガを哀れとすら思っていたが、だからといって関係の無い者達を巻き込むのは間違っている。


 あの日……皇城に居たはずの占い師。

 もし、その者の脱走にアークが関わっているとするならば……

 未だそうと断言は出来ないが、それでも過ぎった考えは簡単に消すことが出来なかった。


(もしそうしてまでも君が私と戦いたいならば……)


 ぐるぐると考え事をしながら執務室を出て、廊下の先のトイレの扉を開けると、そこには白い従者服に身を包んで掃除をするハオと、それを見張るブレイドの姿があった。


「何故……ワタシがこんな事を……」


「いいから黙って働け。真っ白にしろ。穢れた心を見直すには掃除が1番だ。貴様の腐った性癖や根性、ナーガのようなその真っ黒な心……掃除という禊で洗い流してくれよう」


 拘束具を手に嵌め、涙を流しながら掃除をするハオ。

 ブレイドの時もそうだった。処刑等の存在しない帝国では罰らしい罰は無い……ので、拘束されている囚人に与えられるとすればこのような掃除位である。

 そうでもしないと働かずしてのうのうと地下牢に篭りたい怠け者の犯罪者が続出するのだ……

 怠け者の犯罪者は職業訓練をし、適材適所として様々な人手不足の場所へと送れば良いのだがハオに至ってはそうも出来ない。

 ブレイドに任せておけば大丈夫かと思っていたのだが、ブレイドの白への拘りはハオの手を休める事さえ許さず、ある意味拷問にすら感じられた。


「……君達は、悩みとか無さそうだね」


「え?! そう見えるのです??? ワタシは今存分に悩んで苦しんでますけどネ??!!!」


 と、泣き叫ぶハオの声がひんやりとしたトイレに木霊した

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