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覚えていますか……あの悪魔のような令嬢のこと(後編)

 


「なーんだ、悪魔っつっても大した事無いんだなー」


「契約したら楽して卒業出来ると思って召喚したのになー、時間の無駄だったわー」


 一部始終を見ていた黒ローブ集団が呆れ声を上げる。


「お前ら……何の為に魔法学園に来てるんだよ」


「えー? 俺達だって別に来たくて来てるわけじゃないし」


「俺ら長男とかじゃないから家継げないしなぁ。魔法学園を卒業すればその後の人生安泰なんだろ? 召喚士ならそんなに魔力要らないし楽出来るって思ったんだけどなぁー、勉強しなくちゃいけないとか聞いてねえよ」


「魔術具で野生の魔獣捕まえて使役する方がよっぽど楽だよなぁ。俺、この間レア魔獣捕まえてさー」


 と、好き勝手言い始めた黒ローブ達。てか今、サラッと魔獣を魔術具で捕まえて使役とか言ってなかった? 魔獣や魔族は帝国法で保護されてるから完全に犯罪だぞソレ……


「フゥン?」


 隣に居たシルバーの雰囲気に違和感を感じて振り向くと、いつもの笑顔を貼り付けて怒っている。青筋、というかピンク筋の怒りマークがアチコチに浮かび上がって……って、ソレ怒っているの魔力さんか……?


「ねぇ、君達面白い子だねぇ」


「そう? 俺らもそう思ってんだよなー」


「やっぱこれからの時代は俺達若者が背負っていくからさぁ、時代遅れのオッサンは引っ込んでろって感じー?」


 皮肉も通じずに調子に乗る黒ローブ達……その肩をぽんと叩き、シルバーが優しげに笑った。優しげな顔なんて初めて見たから余計に怖い。


「ねぇ、我々魔塔内で君達のようなZ世代とよばれる子達がね、凄く歓迎されているらしいんだよ。何でか分かるかい?」


「イテッ、ちょ、力つよ……え、何?」


「魔法も使えない、魔力も無いふZけたZぁコの君達をね、魔法学園から頼まれてね。Zたボロになるまで分からせてZマァするのがね、すごく楽しくって楽しくって仕方無いらしいんだよ」


「――っ?!!」


 そんな無理やりZにかけなくても良いのでは……

 シルバーが描いた魔法陣から鎖が幾重にも現れ黒ローブ達に巻き付いていくと、舐めたガキどもから余裕のヘラヘラ声は消え阿鼻叫喚の叫びに変わる。


「ちょ、俺達にこんな事してただで済むと思ってんのか?!」


「絶対に後悔させてやっからな!」


「ほほう、後悔? それは面白いねぇ。私はねぇ、特に貴族でもなければ家族も家も無いのだけれど、1つだけ誰よりも持っているものがあってねぇ。私は、一応このアンデヴェロプト一円を管理している身でねぇ。君達がどの位の貴族かは分からないのだけれど、私には一切関係無いんだよねぇ。ふふふ、それってとっても愉快じゃないかい?」


 Zマァされてしまった貴族のボンボンこと新世代黒ローブ達は、魔法学園の先生達が二つ返事で頷き魔塔矯正プログラムへと送られていった。尚、後日戻ってきた黒ローブ達は本当に中身が同じだったのか怪しむ位には人が変わり過ぎていたとかなんとか……魔塔主に舐めた態度は、ダメZったい。


「あ、あのぅ……」


 強制連行されていった黒ローブ達を見送りながらおずおずと言葉を発する悪魔令嬢レヴィア。


「よ、呼び出した奴らが居なくなった私は一体どうしたら……」


 確かに。悪魔令嬢の狙う契約者がそれどころじゃ無くなってしまったからな……


「ふふふ、今ならば彼らも悪魔と契約してでも助けて欲しいんじゃないかねぇ」


「ま、またまたぁ、ご冗談をー、私が魔塔主様様大先生の不利益になる事なんてする訳ないじゃないですかー」


 遠慮がちにこのこのと肘でつつく真似をするレヴィア。怖くて関わりたくないしもう早く帰りたいのだろう。


「私は全然、契約完了した悪魔と前面交戦も悪くないと思っているのだけれどねぇ。君は早く帰りたいようだから手っ取り早く直ぐに帰れる方法を教えてあげようか?」


「い、いや、私はゆっくりと帰……」


「痛い方とひと思いに帰る方法どちらが良いんだい?」


 ふふふと笑うシルバーの笑顔は悪意に満ちていた。何だよひと思いに帰るって、初めて聞くわ。


 拒否できる雰囲気でもなく、いっそひと思いに帰らせてくれと願ったレヴィアの前に差し出されてたイモリ。それを見た瞬間にレヴィアの目の前にあった契約書に『契約無効!』とデカく文字が浮かび上がり契約書が風化した様にボロボロになって崩れた。


「ギャアアアアア!!!!!」


 レヴィアは石化して契約書と同じ様に崩れた。前回と全く同じ最後……完全に再放送である。何で黒ローブは毎回毎回イモリとヤモリを間違えるの……?



 ★★★



「ふふ、なかなか楽しかったねぇ」


「……言うほど楽しかったか……?」


 可哀想な悪魔とこれから可哀想な事になるであろう哀れなクソガキ達を見ただけだったような気がする。


「君ともう少し話をしていたいような気もするのだけど、残念ながらこれ以上魔塔を放っておくとそろそろヤバそうだからねぇ。まぁでも、興味深いものを沢山見せてくれたお礼にコレをあげるよ」


 またストーカーまがいの指輪でも手渡されるのかと思いきや、その手にあったのは古めかしい懐中時計だった。何かの魔術具なのだろうか?


「何だコレ?」


「それはねぇ、先代魔塔主から貰った玩具だねぇ」


「……それって形見とかじゃないのか? そんなもの貰っていいのかよ」


「ははは、先代は無駄な事に魔法を使うのが大好きでねぇ、そういう玩具を沢山持っていたんだよ。特に深い意味は無いから記念に貰ってくれたまえ」


「……それじゃあ、まぁ……」


 魔術具の指輪の時は心配だからと理由があった。何でも無い玩具を貰うというのも意味が分からなくて気が引けるが、俺の事を忘れたシルバーが何かをくれるなんて、もしかしたら何か失ってしまった記憶を少しでも取り戻すきっかけになるのではないかと、そう思い素直に受け取った。


「それじゃぁ私は魔塔に戻るけど、魔法で帝国まで送ってあげた方がいいかい?」


「いや、ゲートを無視する程の距離の移動魔法は手続きが面倒だから自力で帰るさ。それに、ちょっと魔法学園や魔法都市も見て行きたいしな」


「そうかい? まぁ、ゆっくりとしていってくれたまえよ」


 にこやかに笑い手を振るシルバーは、移動魔法を使い姿を消してしまった。記憶を失う前の反応と違いアッサリとしているのにもだいぶ慣れてきた。


「……ま、それでも他人から知り合い位にはなれたか?」


 玩具だという懐中時計を開く。確かにこれはシルバーが前々から身につけているものではあった。何で急にコレをくれる気になったのかは分からないが、思えば最初から何か色々くれてたっけ。魔術具をくれる事にあんま深い意味は無いのだろうか。


 パカリと開けると古い時計は針を進めていた。何の魔術具なのかはよく分からないが、いつも時間とか気にしてないし時計は欲しかったからな。そういやああいう感じでも意外と時間には几帳面だったシルバーってかシオンが都度うるさく突っ込んでくれたりしていたからな……


「何か便利な魔法だけじゃなくて生活面でも普通にジワジワ頼っていた気がする……いかんいかん。陛下にも無意識に人に頼って駄目になりがちだから気をつけろって言われてたんだよな。すっかり忘れてたわ……ま、これからはこういう小さな事から気をつけて行くか」


『あの子もなぁ。今でこそ随分と立派になったが、最初は時間の概念すら無くてのぅ』


「そうなのか? そういや小さい頃はウィルダーネスを彷徨う孤児だったって言ってたな。そうか……普通に貴族に生まれても色々勉強するのは億劫なのに、相当頑張って――」


 流れるように自然に会話してきた声。俺も普通に応じてしまったが、この部屋にはもう黒ローブもレヴィアもシルバーも居ないはずなのだが……?

 辺りをキョロキョロと見回しても、やはり誰も居ない。……え?? めっちゃこわい。


『こっちじゃ、こっち』


 声がしたのは手元の懐中時計。文字盤の裏の模様が爺さんの顔になってこちらに喋りかけてきた。


「ギャァ!!? いや、誰?! え? いや、この時計、どういう趣味??」


 何で爺さんの絵姿が喋っているのかも、何で爺さんの絵姿が入った時計を渡されたのかも全然分からないんだが……何コレどういう、何???

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