表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/648

満を持して奴が温泉に現れる……えっと、誰?(後編)



「勇者だと? ジェド、お前達を知っているみたいだが……知り合いか?」


 温泉に突然現れたその男は俺たちを知っているようだった。だが――


「……?」


「……???」


 えーと……誰だっけ???

 何か最近もう悪役令嬢事件がマジで多すぎて、人の顔と名前が全然覚えられないのだ。

 だが陛下を見ても、こんな奴いたっけ顔をしているので間違いない。相手の勘違いだろう。


「ん??? 本当にコイツの事を知らないのかよお前ら」


「ああ」


「全く」


 他の騎士団員も全然知らないみたいだ。


「失礼ながら……誰かとお間違いでは?」


「お前なぁ!!! 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルだろ!!??!! 他の騎士の奴らやそこの皇帝はともかくとして、お前はがっつり話をしただろうが!!! 勇者・十六夜白夜だよ!!!」


 いざよ……何?

 ヤバイ、マジで思い出せない。他の騎士達に助けを求めるが、皆首を振っている。

 すると陛下が何かを思い出すように頭を押さえた。


「何だろう……十六夜……ここまで思い出しかけているんだが。あと何故か分からないが『タカハシ』という名前が出てくるんだけど何か関係があるのだろうか……」


「ほとんど思い出してんじゃねーか!!! そうだよ!! 高橋だよ!! 何でみんな忘れてるの???」


 何でと言われても……悪役令嬢が多すぎるからとしか言いようがない。全て悪役令嬢が悪いのだ、すまんな見ず知らずのタカハシ。


「へくちっ! あのー、早く温泉入りません?? 僕もう寒くて……」


 空気を読まない事に定評のあるロイが珍しく良い事を言った。そうなのだ、俺たちは温泉に入りに来たのだ。


「そうだな。こうしていても風邪を引いてしまいそうだし。さ、陛下、温泉に入りましょう」


「そうだね。申し訳ない、見ず知らずの方」


「イエーイ!!」


「あっ、待て、かけ湯をせずに入るのはギルティだ!」


 みんなもう数々の事件に巻き込まれ慣れているので、この切り替えの速さである。


「これは凄い温泉だな。実は俺はこういう健康に良さそうな物が大好きでな、ちょっと詳しいんだ。いいお湯だぞ」


 隠れ健康マニアの副団長ロックのお墨付きである。アークも嬉しそうだ。


「温泉の後は食事とかマッサージとかもあるからな。あと、遊戯施設もあるし、観光地もあるから心ゆくまでゆっくりしてほしい」


「ヤバイッスね魔王領、こりゃあ人気出ますよー」


 和気藹々としてる中、呆然としていたタカハシが急に正気に戻り叫ぶ。


「こらーーーー!!!! 無視するなーー!!!!」


 急に怒り出したので皆ビクッとする。

 まだやるの……もういいじゃん。思い出せないし……


 しかし諦めないタカハシはロイを思いっきり突き飛ばし走って来た。


「記憶力の無い騎士や皇帝はこの際どうでもいい!!! 魔王アーク!! 俺はお前を倒しに来たんだよ!!! いざ、勝負だ!!」


 タカハシがそのまま飛び込んで来ようとしたので、慌ててアークが止めた。


「待て待て待て待て! 温泉に服のまま入る奴がいるか!! ちゃんと脱いでこい!!!」


「……」


 魔王の真っ当な意見にタカハシは黙り込む。まぁ、勇者とか言ってたけどこんな真っ当な事を言う魔王がいるとは思わないよな。

 タカハシは大人しく装備を脱衣所で脱ぎ、タオル1枚で戻って来た。こう言っちゃ何だがタカハシよ、魔王に言われて装備を脱いでくる勇者もそれはそれでどうかと思うぞ?

 タカハシは大人しくかけ湯をして湯船に浸かった。もちろんタオルはつけないように配慮している。根はいいヤツそうだなタカハシ。


「それで、お前はどうしたいんだ?」


 アークは意外と優しいのでタカハシの相手をちゃんとしてあげている。


「勝負が……したいです……ぐすっ」


 タカハシはもう半泣きである。まぁ、魔王を倒すとかって意気込んで来たようだけど、まさかこんな風にみんなで仲良く温泉に入るとは思ってもみなかったよなぁ。気持ちは分からんでもない。


「泣くな泣くな。分かった分かった。卓球でいいか? こいつらは結構薄情な所があるからな、気にしなくていい。俺はちゃんと相手してやるから、いつでも魔王領に来てもいいんだぞ? そうだ、ふわふわモフモフの動物は好きか? 小魔獣カフェがあるんだが今度連れて行ってやろう」


「ま……魔王……優しくしないで」


 タカハシの気持ち分かるわー。俺も最初に魔王領来た時にはギャップがあり過ぎてビックリしたもんなぁ。


「そうか、お前は多分その女王とやらに騙されたんじゃないのか? 俺は別に人間を襲おうだなんて思っていないし、帝国とだって友好関係にある」


「え、何で……」


「ああ、すまん。俺は人の考えてる事が入って来るんだ。読んでも喋らないようにはしていたが、お前が余りにも思いつめていたからな。綺麗な女だからといって全て鵜呑みにするのは危険だぞ? ちゃんと見てから考えろ。ちゃんとした判断が出来てこその勇者だろ?」


「そうですね……アニキ」


 もう懐いとる。アニキ呼びしとりますがな。


 それより今、何かサラッと女王とか聞こえたような……ま、気のせいだろう。慰安旅行に来てまで悪女の事は考えたくない。


 陛下を見ると騎士団員達と酒盛りしていた。風呂桶に酒の瓶が入っている。え? 何始めてるの?? ずるい。


「ん? あれ? 1人足りなくね?」


 よく見るとロイがのぼせて溺れていた。ロイーーー!!!


 お風呂の入り過ぎは良くないが、俺たちと陛下は心ゆくまで温泉での慰安旅行を満喫した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=620535292&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ